陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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笑う棺 ―――アフター・ザ・パーティー

「……う、っぐ……」

 一番最初に感じたものは痛みだった。まるで体の中身を全部砕かれたような痛みだ。しかしそれはありえない痛みだ。ペイン・ジェネレーターはVRゲームには不適切だと判断されて研究も開発もされていない。だからこの痛みは確実にシステム外の仕様であって、そして思い当たる理由は一つしかない。そして、思い当たる理由としても若干おかしい。


 今の俺はシステムの、人間の範疇を超えた肉体を手に入れている。もちろんそれは自然治癒能力にも表れている。今まででさえライフバーが普通よりも早く回復し、隠す事に苦労していたのに、更に強力となった力―――もはや攻略なんてできる体ではないだろう。であるのに、それでも体から抜け切らない痛みとは、

 ……純然たる力の差、ってやつだろうな。

 ナハトとジューダス。圧倒的だった。圧倒的で―――勝てなかった。結果だけが残る。今、こうやって生きている以上、最後に聞いたあの声が正しければ、

「助けられたか……情けねぇなあ……」

 目を開ける。目を開けて真っ先に飛び込んでくるのは朝の陽ざしだった。それを受け、左手で目を覆う。とりあえず今は起き上がる気にはなれない。反省したい気分でもあるが、今はそれもやめておこう。

 なんだか、久しぶりに凄い清々しい気分だ。

「……そう言えば、寝てなかったな」

 あの日、ラインハルトに負けて気絶して以来、一睡もしてない事を思い出す。そうだ、この清々しさの一因は確実にこれにある。多分、数時間ぐらい寝てた。おかげで頭はすっきりするわ、目の疲れがなくなってるわで、大変気持ちのいい事この上ない。

「……いや、解ってんだろうよ、俺」

 一番の理由は違うだろうよ。

 全ては、認めた事にある。

 まあ、それを並べると色々とある。俺が無能だったことや、結局後ろ向きな馬鹿だったとか、少しヒャッハーしすぎてたとか、女を泣かす最低野郎だったこととか、

「……ふぅ、……なぁ、起きてんだろ?」

『……お、おはよう?』

 内側の世界で、浜辺に住まう少女、マルグリットが反応するのを感じる。反応からして若干焦ってる。おそらくは先に起きていたとかそんな辺りだろう。だけど今はその程度のことは正直どうでもいい。ただ今は、

「負けちまったなあ」

『アキは頑張ってたよ! かっこよかったよ! ただ今回は運が悪かっただけだよ……』

 運が悪かった。それは否定しない。確実に俺の運の巡りは悪い。というより最悪だ。立て続けに大凶を引き続けるような運だ。不幸が肩の上でスマイルしてても疑わない。だけど、”不幸”だとか”運だ悪かった”何てかっこの悪い言い訳を口にしたくはない。自分以外の何かを言い訳にするのはかっこ悪い。あぁ、非常にかっこ悪い事なんだ。だから今回は純粋に俺が弱くて、俺の努力が足りなかっただけだと思う。たぶん、たぶんだが、

 俺がマルグリットを完全な形で受け入れたとき、その時は―――

「くくくく、考えててもしゃーねぇわな」

 ともあれ、

「くくくくくく……」

『アキ?』

「くく……はははははは……」

『あ、アキ……?』

「はははははははは! はーははははははははは!」

『あ、頭大丈夫? 強く撃たれたよね?』

 おい、この女結構凄い事言うぞ。

 とにかく、愉快だ。愉快でしょうがない。久しぶりにベッドの柔らかさを再認識したり眠れて頭がすっきりしてる事じゃなくて、また負けてしまったのに、そこまで自分を責めていない事、そして素直に反省している自分が何よりも愉快だ。こんなキャラじゃなかったはずだ。あぁ、こんなキャラじゃない。もっとストイックでハードなジャンルのキャラクターだと自分自身は思っていたが、どうやらそうでもないようだ。

 今までなら負けた事を否定して修羅の如くまた鍛錬に打ち込むのに、負けたことを素直に受け入れてしまっている。

 あぁ、駄目だ。

「ははははは……ひひひひひひ」

 毒だ。

 間違いなくマルグリット・ブルイユは心を侵す毒だ。それも猛毒の類だ。常に自分の心を守る事を考えなくてはマルグリットが侵入してくるのに抗えない。あぁ、正直に言おう。心地良いんだ、マルグリットの存在が。現実の自分を誰も知らないこの孤独の天空上で唯一心に触れて過去を共有できる存在、そして無償の愛で抱擁してくれる女。それだけでも十分なのに、健気ないい女だ。

 こんな女を放っておけるわけがない。

 素晴らしいよ、あの詐欺師。全部わかってる。

 全部計算している。利用も計算も不可能と言われている人の心の動きや流れを全部理解して、それがいつ、どこで変わるかさえも把握している。こと、人を操作し人生を狂わせる事に関してはアレ以上の存在はいないだろう。それだけ的確で、恐ろしい。

 あぁ、駄目だ。俺にはもう、マルグリットの抱擁を跳ね除けるだけの憎悪を生み出せない。

 今までやっていたような、殺意が出せるかどうかすら怪しい。

 これは弱くなったのだろうか。それとも強くなったのだろうか。それは解らないが、

 この状況がとてつもなく愉快で仕方がない。

『アキにとって、私は不要なの?』

「さあ?」

 実際どうなんだろうな。お前がいなきゃこうなることもなかった。だけど、そんな”IF”の話はあんまり意味がないから好きじゃないし、語る必要もない。ただ、一つだけ言えるのは、お前がいるから今の俺がいるって事だ。そしてこれからのことを思えば、マルグリットの存在は必要不可欠で―――やることが増えただけだ。

 ジューダスにナハト。

 今回は負けた。けど、次は絶対に首を―――

「―――おい、いい空気吸ってるようじゃねぇか」

 部屋の扉が開く。そこから見慣れた軍服姿の男が入ってくる。屋内なのにサングラス、そして病的にまで白い髪。全く飾りっけのない男の姿は軍服姿でありながら本来生み出されるはずの整えられた雰囲気が無く、どこか少しチンピラ染みたイメージを作っている。

「ベイ」

「朝から笑いやがってついに頭がトチ狂ったのかと思ったぞ」

 と、ベイが入ってくる後からついてくる様にもう一つの姿が中に入ってくる。此方は全身黒一色の剣士、キリトだ。

「キリトもか」

「昨日ぶりだな」

「という事は朝まで眠ってたか」

 予想外に短い眠りだったみたいだ。とりあえずベイもキリトも入ってきたことだから上半身を持ち上げ、下半身をベッドから降ろす。

「もう動かしてもいいのか?」

 聞いてくるキリトに対して視線を向ける。

「キリトも?」

 困った様子でキリトが頬を掻く。

「その、俺もちょっとだけ」

 まだ痛みを感じるのだろう。俺と比べてキリトが体で攻撃を受け止めた回数は圧倒的に少ないのに、まだ痛むのだ。そして此方は蜂の巣にされる勢いで撃たれて殴られていた―――そりゃあ心配もするだろう。

 立ち上がって体を軽く動かす。指を、膝を、肘を、首を動かし、体の感覚を確かめる。

「めっちゃ痛ぇ」

「座ってろよ……」

 それもそうなのでベッドに腰掛ける。その様子をベイが珍しいものを見たような顔で見る。が、この男には救われた恩がある。まずは、

「すまないベイ。助けられた」

 今度こそ変なものを見る目になる。

「おい、変なもん食ってねぇよな? しっかりハイドリヒ卿の差し入れ食ってるか? もしくは頭強く打ったか? そういやあ撃たれたんだっけな。それが原因か」

「お前の中には俺が更生するって可能性は存在しないのか」

「あぁ、ねぇな」

 断言しやがった。こいつ断言しやがった。俺は更生の可能性がないってチンピラ軍人に言われた。いや、まあ、自分でさえこうなったのが今でも不思議だ。詐欺師に言わせれば当然の結果だろうが、俺からすれば奇跡でしかありえない。

「俺の扱いが酷ぇ」

「あはははは……」

 そこは少しフォローが欲しかったのだが、笑うだけで一切フォローを入れないという事は同意見かキリト。お前もお前で中々いい性格してるな。

『私はアキの可能性を信じてるよ!』

 結局味方は一人だけなのか。

 溜息を吐き出し、ベッドに仰向けに倒れる。

「あー負けた」

「うん、負けたな」

「悔しいなあ」

「次は負けたくないよな」

「あぁ、次は負けねぇ」

 何度も言っているが、清々しい気分だ。敗北してこんな気持ちになるのは初めてだ。キリトも俺も、惨敗してしまってそれ自体は悔しい。理不尽が圧倒的暴力で襲いかかってくる姿は怒りを覚える。だけど、今はジューダスとナハトを責める気分にはなれない。

 イカレちゃったなあ……。

 復讐に対する認識が、自分の中で音を立てて、何か別のものに変わっていく気がする。今はそれがどんな形に変わるのか解らないが、たぶんそのうち解るだろう。少なくとも、直感的判断によるとそこまで悪くはないものだと……思う。

「んじゃ、俺はここで帰らせてもらうよ」

 キリトが片手を上げる。その様子に驚く。

「聞かないのか?」

 何を、と言う必要はない。必然的に昨夜のシステムを超越した動きに関しての事だ。

 だがキリトは頭を横に振る。

「どうせ聞いても理解できないだろうし、サイアスがそれを好きで使っているわけがないからな」

 キリトの視線がベイへと向く。ベイはその視線を受けても身じろぎもしない。

「聞きたいことはあるし、考えたいこともいっぱいあるけど、まあ―――信じてるからな」

 じゃあな。

 その言葉を残してキリトは部屋を抜ける。本当にそれだけだ。多分、俺の様子を見に来ただけだ。本当にそれだけなんだろう。迷うことなくキリトはここから離れ……最前線へと戻るだろう。

「いいダチじゃねぇか。仲間は一生の宝らしいから大事にしろよ」

「言われなくても」

 解ってる。解っているうえで蔑ろにしていたのが俺だ。よくよく考えるとバチ当たりな事だ。

「くくくくく」

「お前本当に大丈夫か?」

「いや、悪い悪い……くくくく」

 どうしようもなく今がおかしいのだ。意味が解らないけど、何故か笑っておかなきゃいけない気がする。

「意味が解らないけど笑わなきゃいけない気がしてさ」

 サングラスごしでも感じる憐みの視線。

「おい、そんな目で見るな」

「ならトチ狂った事をやめろ」

 ふぅ、と一息ついてから再び上半身を持ち上げる。そろそろ本題に入ろう。

「監視してた?」

「あぁ」

「うん、まぁ、だよな」

 大体そんな気がしてた。流石に登場するタイミングが良すぎる。確実に死ぬ寸前、これ以上は絶対に無理だと判断した瞬間の介入だった。

「一回目にぶっ倒れた時に出ようと思ったんだが、クソのクラフトが”放っておきたまえ”とか言いやがってな。こっちとしては冷や汗もんだったがな」

「誰にでも嫌われているなアレ……」

 俺もアレを嫌っているし。

 トバルカインとベアトリスはアレの邪魔で結婚できないとかほざいてたし。

 マキナも理由は言わないけど嫌っていたようだし。

 シュピーネは怖いとか言ってたし。

 本当、誰にでも嫌われているな。

『カリオストロ不人気? 少し可哀想……』

 ついには同情までされ始める不人気詐欺師。

 あぁ、なんだか俺の頭の中が結構いい感じに愉快になっている。

「あれもこれも全部マルグリットのせいだ」

『え、え、わ、私?』

「あぁン?」

 マルグリット、何て名前を出してもベイは知らない。知っているのは俺と、あの詐欺師と、ラインハルト、そしてマキナ位だ。残りの人員は知らないようだった。意外とマルグリットの存在は機密性が高いのかもしれない。

 ともかく、

「ベイ、ラフコフ、どうなった?」

「壊滅だ。二十人ほど死んで幹部で捕まったのはザザだけだ。ジョニーブラックもPohも捕まってねぇ、というよりも最初からいなかった。ラフコフのアジトの情報を流したのは―――」

「―――Poh本人か」

「何だ、知ってたのかよ」

「まぁ、やり方がヤツらしいわ」

 誰かの入れ知恵があっただろうが、盛大に宴の様に盛り上げて、派手にやるのはアイツのスタイルだ。確か殺し合って生き残った方を助ける、そう言って戦闘の後に生き残った方を殺したって話も聞いた。

 あの残虐性を抜けば間違いなくキリトと同じレベルのプレイヤー、いや、あの残虐性があるからこそキリトよりも強いかもしれない。

「攻略組からの死者は十人ほどで、ラフコフは残った数人を豚箱にぶち込んで終了。ちなみにお前を殺しにかかってた二人は俺が介入した瞬間下がりやがった。これが今回の話の全てだ」

「……そっか」

 なんだか嫌にすっきりしない終わり方だ。だがそう終わったとしても、これもまた一つの終わりなんだろう。

 俺がマルグリットの存在を許容し、

 圧倒的力に敗北して、

 俺の中で音を立てて何かが崩れてゆく。

 俺は、進むたびに何らかの変化を受け入れなきゃいけないのだろう。だが今は、

「なぁ、ベイ」

「どうしたんだよ後輩」

「これからどうしよう」

「あァ?」

「形成しちゃったから攻略に参加できないんだけど……」

 もちろんオーバーキルしてしまうという意味で。もうモンスターからダメージを食らうことができるかさえ怪しい。それだけ今の体は超人的だ。

「適当に狩ればいいんじゃねぇのか?」

「駄目だこいつ参考にならねぇ……」

「ッハ! てめぇの事はてめぇで決めろ。言われなきゃ何もできねェ犬やガキじゃねぇんだからよ」

「それもそうだ」

 どうしようもない脱力感と共にベッドに再び倒れる。許容してしまったことで何かが変わってしまった。だから、今はその変化が俺の根幹を揺るがすようなことではない事を祈りつつ、

 目を閉じる。









綺麗なベイ何て見てて気持ちが悪いだけだろ? 誰がターンをやるものか。
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| 断頭の剣鬼 | 11:16 | comments:6 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

知ってたけど普段の中尉いい先輩だなー

| ぜんら | 2012/08/11 11:44 | URL |

チンピラ中尉の活躍だないだなんてそんな。

×海野巡り → ○運の巡り

| | 2012/08/11 11:51 | URL |

中尉ぇ……。
そしてマルグリット可愛い。

| 空 | 2012/08/11 12:20 | URL |

中尉の星の巡りと水銀の呪いパネェ(笑)
屑兄さんとベア子の結婚阻止するとかどんだけw

そして口調は荒くも面倒見のいい先輩マジ兄貴 

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/11 12:45 | URL | ≫ EDIT

ブログ初めての後書きヒデェwwwwww
明広が壊れた…!(

| ろくぞー | 2012/08/11 16:19 | URL |

『 そこは少しフォローが欲しかったのだが、笑うだけで一切フォローを入れないという事は同意喧嘩キリト。』本文抜粋
同意喧嘩× 同意権か〇かと

いつもワクワクしながら読ませてもらってます

| 読専 | 2012/08/11 18:50 | URL |















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