陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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笑う棺 ―――プレパレーション

 階層は変わらずにアルゲード、しかしラインハルトに出向を言い渡され既に一日が経過している。つまり討伐隊のミーティングの日となっている。打ち合わせにアルゲードの路地裏に存在する酒場が選ばれたのはやはり見つかりにくいという点だろう。道を示すマップを事前にもらっておかなければ到底たどり着くことはできない、そんな入り組んだ場所に存在する酒場に到着したところで、一回踏みとどまってから扉を三回ノックする。

 カチリ、と鍵が外れた軽い音と共に扉が開く。遠慮する事なく扉をくぐって中に入る。

 扉をくぐった先に待っていたのは”シック”な酒場、というよりは雰囲気的にバーに近い店だった。ジャズがBGMとして流れ、そしてカウンターの奥ではNNPCかプレイヤーか判断できない男がグラスを静かに磨いている。司狼が溜り場にしていた不良の巣を思い出す。あそこはもっと汚く、クラブというイメージが強い場所だが。


 周りを見る限り、すでに四十を超すプレイヤーが部屋の中には集まっていた。様々なギルドから、様々なプレイヤーが集まり大きな集団として結成されていた。中に入ってきた新参という事もあって視線が集まる。が、すぐに正体を看破され、一人が声を上げる。

「レッドのお前がここで何をしているサイアス!」

 そう叫んでいるのはどこか知らないギルドの人間だ。服装もエンブレムも見たことがない。ただラフィン・コフィンの討伐に参加しているという事は、それなりの腕前の持ち主なのだろう。

『気にしちゃ駄目だよ』

「呼ばれたから来た。悪いか?」

「悪いも糞もお前も犯罪者だろうが! なんだその恰好は!」

 指を差され、少しだけ言葉に詰まる。

 今の俺の服装は、ドイツ軍の軍服となっている。完全にラインハルトの趣味の産物だ。これをラインハルトが作ったというのでさらに狂っている。正直シュピーネが笑顔で大工やったり、ラインハルトが笑顔で裁縫している姿は吐き気を覚える。そういうキャラじゃない、絶対に。

 ともあれ、拒否権もないために軍服で白いマフラーを首に巻くという、初のファッションスタイルに挑戦している。

『大丈夫、似合ってるよ』

「本日はギルド≪聖槍十三騎士団黒円卓≫首領ラインハルトの名代として来ている。ラインハルトより俺が代わりに参加しろとの事だ」

 その言葉に軽い衝撃が酒場に走る。

 ラインハルトが来なかった事でも名代を出したことでもない。

 俺が誰かに使われ、ギルドに所属し、そしてそれを良しとしている事だ。≪断頭の剣鬼≫サイアスと言えば唯我独尊、傲岸不遜、敵には容赦も慈悲もなく首を跳ね飛ばし、そして群れないことで有名となっている。だから本当に初期からの知り合い以外は絶対に近づこうとさえしない。遭遇してもオレンジじゃなければ生きて帰れる―――そういうレベルでの準犯罪者扱いにされている。

 正直そうみられるのは構わないが、ラインハルトに従っているという姿勢はものすごい屈辱的だ。だが敗北者に語れることはない。いろいろと言いたいことはあるが、そのすべてを飲み込んで屈辱を受け入れる。

「俺を受け入れないことは黒円卓を拒否することと同じ扱いだ―――どうする」

 息巻いて叫んでいたプレイヤーがだまり、部屋全体が黙る。軽く見渡すプレイヤーの集団にはちらほらと見覚えのある顔がある。だが特に興味がわくこともなく、

「異論はないと判断する。……勝手に話を進めてろ、聞いてるから」

 誰も異論がないと判断してカウンター席に座る。店のマスターが何も言わずにグラスを磨き続けている。これでNPCだったら真っ先に反応してメニューでも出してくれるはずだから、この反応からしてこのマスターはプレイヤーだろう。マスターに視線を向けながら、

「梅酒」

 無茶ぶりをしてみたら頷きが返ってくるのでおそらくストックにあるだろう。酒の種類には恐ろしくバリエーションがあるもんだな、と納得していると横に誰かが座ってくる。

「おい、サイアス」

 クラインだった。相変わらず色々と首を突っ込む男だと思う。真剣にやれだとか、そんなことを言われるとでも思いきや、気安く肩に腕を回される。

「おいおい、おめぇ何時の間にギルドなんかに入ったんだよ。もっと早く教えろよ、祝ってやったのに」

 普通に絡んできただけだった。クラインの腕を払い、マスターが運んできたビンとグラスを受け取る。グラスに酒を注ぎながら顎の動きで部屋の中央部、会議用のスペースを示す。

「ギルマスだろ。お前は集中しろ」

「んなの後でキリトから聞けばいいだろ。ここからでも聞こえるし。ほら、あそこ見ろよ」

 クラインに促され視線の先を見ると、全身黒一色の剣士が少し困った様子でこっちに軽く手を振る。

 あぁ、そういえば最後にキリトとあったのはクリスマス―――殴りあって切りあったあの日から一度もあってはいなかったな。ボス攻略の時は俺、意図的に避けてたし。

 そう考えると気まずさは……向こうにはあってもこっちにはない。人間、誰しも意見が合わなければ本気でぶつかり合って殺し合う事だってある。これは既に経験したことだ。

 だがキリトが生きているという事は、あの後、失意のあまり自殺、という行動にはでなかったという事か。

『アス……嬉しそう。キリトの事、心配だった?』

 魔女の戯言を無視して、酒を口に放り込む。俺が最後だったのか会議が背後で開始されていた。

「それでは今回は知ってのとおりレッドギルド≪ラフィン・コフィン≫の討伐が目標だ。情報のリークのおかげで奴らの本拠地が下層の洞窟にあることが解った」

 マップアイテムを使い、会議室の真ん中にその階層を見せる。

「ここだ」

 指でその場所を示す。

「ここは圏内じゃないんだが……クエスト以外では近づく事さえない場所だ。クエストでのみモンスターが出現するように設定されている場所だから隠れるにはうってつけ、というわけだ。多分クエストを進めようとして死んだ人は少なくない」

 その言葉に誰もが強い感情を見せている。

 この犯罪者ギルドを討伐するという話、これはゲームマスターが設定したイベントでもなんでもない。暴挙を許せなくなった攻略組のプレイヤーや大手ギルドが集まり始めたのだ。だから、ここにいるのは基本的に正義感が強い、犯罪を許せないプレイヤー達だ。だからここに俺が来ているのは畑違いなのだが。

「基本的には今夜奇襲をかける予定だ。チームに分かれて、一気に包囲、捕縛する。殺す事は必要に迫られたらやる。だがなるべく彼らは罰せられて欲しい。黒鉄宮には既に彼らの為の部屋が用意されている」

 最後の部分は軽いジョークだ。少しだけ笑いが起きるが、

「認識が甘い」

「え?」

 小さくつぶやいたことをクラインが拾う。仕方がないので口に出す。

「最初から殺す気でやらないと死ぬ」

「おいおい、俺たちは殺すために……」

「それが甘いんだよクライン」

 善人には解り辛い話だ。

「ラフィン・コフィンに限らずレッドの連中は頭のネジが一本や二本じゃなくて、全部抜けているような連中だ。睡眠PKとかシステムの抜け道を見つけ出してまで殺すような連中がまともか? 違うだろうよ。アイツらは変態だよ。殺す事に快感を覚えちまった変態達。キリングジャンキー共だ。殺す事と殺されることにイっちまうどうしようもない連中だ。こっちが殺す気がなくても相手はハナから殺す気でやってくるんだ」

「じゃあどうすればいいってんだよ」

 背後、また別のプレイヤーから声がかかる。最初に叫んできたやつとは違い、純粋に興味がありそうに聞いてくる。だから答える。

 答えはシンプルに、

「殺すつもりでいればいい」

「それじゃあやつらと―――」

「―――死にたければどうぞ? 別に考えも価値観も今のところ押し付けるつもりはない」

 そう、基本的に価値観や考え、渇望を押し付けるつもりはない。それこそ致命的なレベルでアイデンティティーを脅かさない限り、俺はキレないし怒りもしない。だから今の言葉は純粋にアドバイスなだけで、従えないのならここにいる多くのプレイヤーが死ぬだろう。

 別に見下すつもりはない。

 ただ、事実として殺人経験のない連中とある連中とでは死生観が違う。全くと言っていいほどに違うのだ。土壇場で”アイツはモンスター、人間じゃない”とかつぶやいて自己暗示しようたって無駄だ。そう簡単に気持ちを切り替えられるはずがない。だから始まる前からある程度の覚悟をしておかなければいけないのだ。最初から覚悟を決め、殺すという事に関して少しでも用意ができればとっさで人を殺してもそこまでうろたえない。

「っへ! 流石妖怪様のお言葉は違うね!」

『アスは純粋に心配してくれているのに!』

 見下すような発言と共に軽い嘲笑が浴びせられるが、今の奴が最後まで生きていられるか見ものである。ああいう小物に限って最初に死ぬのはもはや定番だ。

 パンパン、と乾いた音が響く。

 リーダー格の男が手を叩いて注目を集める。

「ありがとうサイアス君、君は犯罪者プレイヤーとの戦闘経験が多いんだよね? 殺す覚悟が必要だというのは理解できる話しだけど、犯罪者プレイヤーを捕まえるのに犯罪者になっては意味がないんだよ。一種のアイデンティティーの崩壊なんだ」

 お手上げのサインを両腕を持ち上げて見せ、

「俺は何も言わねぇよ」

 死ぬときは死ぬのだ。ただ願うべくはそれは人間の手によって、とだけだ。

「それでは作戦の説明に移る」

 リーダーの男が話を続ける。


                           ◆


 会議はその後数時間続いた。最後の方は会議というよりは交流会に近いものがあったが、それでも作戦と方針は決まった。やることはやってからの結果だからそこに文句はない。ただ、今回で多くのプレイヤーが死ぬ。それだけは目に見えていた。

 会議が終わって店の中には残らず、真っ先に外へ出る。

 ほかのプレイヤーは先の事を考えて自己紹介やらフレンドの交換をしているだろうが―――自分にそんなことをしてくる酔狂な人間はいない。

「待てよ」

 店を出たところで呼び止められる。聞いたことのある声に反応し振り返ると、

「……キリト」

 キリトがいた。クリスマスで衝突してからすでに八ヶ月が経過している。そのためキリトの装備は全体的に新しいものに変えられていた。相変わらず、趣味の悪い全身黒というスタイルは変わっていない。

『全身黒はチュウガクセイまでだっけ』

「……」

 魔女の言葉に一瞬固まるが、

「その、……サイアス久しぶり」

 あまりに普通すぎる言葉に、

「あぁ、久しぶり。元気そうだな」

「うん、まあ、最近新しい剣を手に入れたりしてまあ、上々って所かな。サイアスは?」

「俺も少しずつ強くなってるよ。まあ、未だに負け続けだけどな」

「サイアスが負けた!?」

「負けたからギルドに入ってるんだよ」

「……どんな化け物だったんだ? ドラゴン? ベヒーモス?」

「俺はどんな怪獣大決戦をしたんだ」

 なんだか普通に答えてしまった。予想外にキリトが元気そうで、生気が溢れていて安心した。こうやって今まで話しかけなかったのはやはり、会うのが少し怖かったのがあるかもしれない。だからこうやってキリトと出会ったことで、少し救われたかもしれない。

「その……」

 若干キリトが言いよどみ、

「……ごめん。あの頃の俺、少し最悪だった」

「少しってか、かなりな」

「うぐっ」

 キリトが言葉に詰まるが、小さく、笑みを浮かべる。

「俺も悪かったなキリト―――いや、まあ。悪く思ってないんだけどさ」

「おい」

「ははは、怒るなって。お前も謝る必要はないんだ。俺たちはお互いに譲れないことがあってぶつかった。それだけだろ?」

 まあ、学生時代に経験したことだ。あのバカと。だから、多分、

「青春ってやつだよ」

「はは、何だそれ……はははは」

 もう二十二の俺は青春って年齢じゃないけど、まだまだ中学高校の年齢であるキリトには十分に青春体験じゃなかったのだろうか。まあ、謝る必要はないのだ。ぶつかり合うこと自体何も悪くない。

「じゃあな」

 背を向けて少し軽い気持ちで歩き出す。と、その前にキリトの声がかかる。

「サイアス!」

 背を向けたまま、歩みを止める。

「んだよ?」

「なんで俺の事をここまで気にしてくれてるんだ? お前ってそういうキャラじゃないだろ?」

 ……そりゃあまあ……。

 確かに他人を心配するキャラじゃないし、理由は色々とある。アインクラッドで初めてフレンド登録したからとか、確実にこいつがあの詐欺師に狙われている事とか。だがそういうことは正直あまり関係なくて、

「あえて言うなら」

「言うなら?」

「弟に似てる? 無駄に思い詰めて暴走する辺りが」

 今度こそ手を振ってキリトを置いて去る。

 ちょっとだけ、心を軽くして。
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| 断頭の剣鬼 | 10:38 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

ちょっ、シュピーネさんが笑顔で大工とか(笑)
イイ汗カイテソウデスネw
いや、お手製軍服とかエプロン閣下も大概にぶれないけどさ。サイアスじゃなくてもつっこむはそりゃ。
そして、キリキリがデレた!!(いや違ry
まあ、サイアスの軟化具合といい、新しい断頭は大分ソフト? かな?
その分パーティータイム(ヒャッハーと読む)状態の妖怪具合との差がオレ得過ぎてご褒美です(笑)

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/06 14:00 | URL | ≫ EDIT















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