陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

笑う棺 ―――コール・フロム・ザ・グレイブ

アインクラッド第五十層
二〇二四年八月


「ハァァァ―――!」

 音を置いていく速さで振るわれた大上段からの刃は一見隙だらけに見える。が、それを繰り出している時点で隙をあらゆる角度からつぶし、技術を持って避けようのない状況にまで持ち込まれた必殺の剣。故に回避することは無理だ。加えてそれが音を置き去る速さ持つという事が反応する事すら難しくしている。

 が、

「ッラァ!」

 大上段から振り下ろされた大剣は絶妙なタイミングで振るわれた大太刀によってその動きを阻まれる。全ての攻撃に含まれる”瞬”を逃すことなく狙った一撃は成功と同時に相手の攻撃を完全に止め、そして強制的な硬直を体に打ち込む。技術の極致ともいえるそれを成せば近接戦闘において勝てる存在は同じ技量をもった存在か、それを超える存在だけだ。


 だからこそ、

「ッチ!」

「ちょっと焦ったかな」

 目の前の青年は異常極まりない存在だった。確実に瞬を捉えたはずの一撃は青年が意図的に瞬をズラすことによって回避された。それこそ魔技ともいえるほどの事を成した青年は才能で溢れているのが動きの一つ一つから理解できる。今まで対峙してきた存在の中で、剣技というジャンルだけであれば黄金を除いて最高の腕前を誇っている。それほどに目の前の青年―――トバルカインは才気と力で溢れている。それこそ羨ましいほどに。

 だからといって負けるつもりはない。

 弾いた刃を引き戻し超高速の斬撃を繰り出す。トバルカインもそれを完全に見切り、刃を合わせて切り払う。完全に軌道と瞬を把握した、相手を崩す動きだ。だがそれで崩されるわけがなく、両足で強く大地を踏みしめ流れるように大太刀を連続で振るう。それに対応するようにトバルカインが声を漏らさず、全ての軌道に集中して大剣を合わせる。一合一合切り合いが増えるたびに斬撃を生み出す速度は増える。完全に曲芸ともいえる領域の勝負に更なる驚愕をもたらすのがこれが身体能力を駆使した戦いではなく、身体能力を極力封じた、純粋な技量のみでの勝負であることだ。肩、肘、手首、指、関節の動きを使い身体能力に頼らない超加速を生み出すなど、それこそ人間の技量という領域をはるかに超える戦いが繰り広げられていた。

 そこに、殺意が満ちる。

 空間を塗りつぶす圧倒的殺意は戦闘が開始してから常に体内に溜め続けていたものだった。戦闘が膠着した一瞬に放たれた殺意は今まで簡単に見切られていた斬撃の軌道を殺意の海に隠しきる。一瞬、ほんの一瞬だけ殺意に反応して斬撃が読めなくなる。それこそが好機。

 素早く、コンパクトに、そして一撃で倒す。

 大太刀を持てる最速で振った首をはねるための一撃は、

 金属のぶつかり合う音と共に失敗した。

「防がれたか」

 それも完全に瞬を捉えられ、体に硬直を撃ち込まれた状態では反撃も防御もできない。自分の敗北を悟る。目の前で勝者、トバルカインが不快感を与えないようなさわやかな笑みを浮かべる。

「今回は正直色々と焦る事があったよ。凄い速度で成長してるし。だけど殺意から斬撃を読めなくなっても」

 そこでトバルカインはいったん言葉を区切り、

「SAOの世界は筋肉の動きまで再現してくれるから、慣れれば服の上からでも予測できるよ」

 つまりどっか頭のイカレた理論で勝てるという事だ。

『落ち込まないで。アスは頑張ったよ』

 頑張っても勝てなきゃ意味がない。勝者が全てを手に入れて敗者にはクソも残らない。

 それが弱肉強食の世界。

「それじゃ、今日も僕の勝ちだね」

 トバルカインによる一撃を撃ち込まれ、敗北が決定する。


                           ◆


 攻略の最前線はついに五十層を超える。

 アインクラッドの半分が攻略されるのにかかったのは約一年だった。そして、そこまで攻略できたという事実は多くのプレイヤーの心に光を灯した。今、アインクラッドは活性化の道をたどっている。だがそれも短い事だろう。五十層を超えてからモンスターはAIアルゴリズムに少しの乱れが生じ、迷宮区もより凶悪になっている。だから、もう少しすれば百層への到達はより時間のかかるものだという事が理解されるだろう。

 だから、プレイヤーが事実に気づかされる少し前のこの期間、

 ギルド≪聖槍十三騎士団黒円卓≫の拠点は五十層主街区≪アルゲード≫へと移っていた。ギルドの活動は今までと変わらない。レベリングはするが、攻略には参加しない。それだけだ。攻略に参加しない大勢のギルドと方針としては一緒だ。ただその戦闘力が一般的常識を逸脱しているだけだ。その保有戦力は異常と言ってもいいほどに極まっている。財力、戦力、ギルドの規模という要素以外で判断すれば、間違いなくトップギルドだ。

 であるのに、このギルドは大きな建物を拠点としない。

 アルゲードの路地裏、迷い込んだら抜け出せないと言われているほどに複雑となっている街の奥には寂れた教会がある。それを買い取り、内装と外装をリフォームしたものが黒円卓の本部となっている。なぜまた教会が拠点となっていて、ちゃんとした建物を購入しないのか、そう聞いたことが一度だけあった。その時の返答は”日本での拠点が教会だったから”という返答だった。現実でも活動していて、それでいて何らかの宗教関係をにおわせている気がした。

 俺は弱い。

 一般的に言えば強いのだろうが、人間から逸脱した存在としては圧倒的に弱い。それは俺が素直じゃないこともあるのだろう。だが意地を捨てれば俺には何も残らない。だけど、妥協する必要はある。

 黄金に負けたあの日から、俺は黒円卓の一員となった。

 序列はなし。誰かの代行でもない。ただ所属している、それだけでいいと言われた。こっちで勝手に支援するから、好きに戦って好きに頼れと。腹立たしい事だったが、黒円卓がくれる支援は素晴らしいもので、剣技を習うための優秀な講師も、アイテムを補給してくれる生産者もいて、精神的な問題以外では利用しない手はなかった。だからプライドを捨て、剣を教えてくれと頼んだ。動きを、剣を、戦場の心得を、それを習う。覚える習得する。言葉はどれでもいい。ただ結果として、化け物に頼んだという結果がそこにある。

 そうやって俺は強くなって、いつか―――。


                           ◆


「少し強く殴ったけど大丈夫かい?」

 アルゲードにあるギルドの拠点、本部の前の空き地で、少し強く殴ってしまった事を気に病んでいるのか、カインが心配してくれている。基本的に面倒見のいい青年だ。頼りになる。誰からも好感をもたれる素晴らしい青年だ。だから、拒絶しなくてはならない。

「問題ない。SAOのシステムに痛みはない」

 あくまでもそれはSAOのシステムの話だ。システムを超越した場合はそうでもない。だが今回はシステムの範疇で行っていたため、問題は何一つない。トバルカインは笑う。

「そうか、サイアス君も強くなったね。最初はあんなことはできなかったしね。凄い速さで強くなるから驚かされるよ。これじゃあ僕もうかうかしてられないなあ」

「冗談、お前を倒せるイメージがまだ湧かないよ」

「あはは、僕も一応男の子だからね。そう簡単に負けるのは嫌だしね」

 まぁ、トバルカインとの付き合い自体は―――そう悪いものではない。トバルカイン自体がそう悪い人間ではないからだ。最初は無条件に全てを憎んでいたりもしていたが、話せばある程度は理解できる。どうやら小さいころに親を亡くして結構苦労したようだった。だからといって完全に信用するわけではないが。

「しかし本当にサイアス君は早く強くなるなあ。僕もベアトリスから剣を習った時は早く覚えたけど、サイアス君の場合はなんか少し違う感じがする」

「違う感じがする?」

 トバルカインが少し考え込むような表情を見せる。

「そう、覚える……って感じじゃない。むしろ既に知っている? いや、感覚としては……思い出している。うん、思い出しているって感じが正しいかな? なんだか初めて知る事なのに思い出しているってのはおかしい話だよね」

 笑うトバルカインとは対照的にこっちは笑うことができなかった。思い出す、という言葉は此方にとって絶望的な響きを持っている。

 ―――既知感。

 もうあの頃の様なフラッシュバックはない。既知感はもうない。あの日、あの時、前に踏み出そうと決めたときから感じなくなった既知感。だがトバルカインが語る”思い出す”という感覚はどこか既知感に通じているようで……まだ脱却できていなかったのか、と軽い恐怖を感じる。それを知ってか知らずか、

「まあ、サイアス君は気にしないで自分らしくやるのがいいと思うよ」

 等と言ってくる。確かに気にしなければいいのだが、それはそれで思考放棄しているようで若干気持ちが悪い。だが考えるとそれはそれで気持ちが悪い。この間のバランスを保つというのは中々に難しい。そんなことを思いつつもインベントリから共に水を取り出し、飲む。数時間続けて戦ってきた結果、水が何よりも美味しく感じられた。

「っぷはあ」

「体を動かした後に飲むと美味しいね」

「そうだな」

 水を飲んで減ったスタミナゲージを回復させながら休んでいると、教会の入り口が開く。そこから出てくるのは白髪軍服姿のベイだった。

「休憩してんのか。ならちょうどいいな」

 教会から出てきたベイが此方を見ている。直感的に何か厄介ごと頼まれるに違いないと理解した。そして、こういう厄介ごとだけは昔から拒否できずに巻き込まれることも理解している。

 ベイが首を軽く動かし、こっちへ来いと言ってくる。

「ハイドリヒ卿がお待ちだ」

 それだけで厄介ごとだと理解した。


                           ◆


 元々はさびれていた教会はシュピーネの≪大工≫スキルによって美しい内装へと変貌している。これが数十万コルしかしなかったボロ教会だとはだれも思いはしないだろう。構造は初期の拠点をイメージしてか、礼拝堂の奥に生活空間があるスタイルとなっている。その一番奥にラインハルトの部屋はある。

 質素な部屋だ。

 無駄に飾ることもないし、必要最低限のものしか置かれていない。マキナの部屋と似たような状態だ。ただ、部屋の壁に掛けられているエプロンが激しく自己主張している。

 エプロンという異分子が紛れ込んでいるラインハルトの部屋、その奥で椅子に座っているラインハルトが部屋に入ってきた此方を見かけると、笑みを浮かべ目の前の椅子に座る様に促してきた、

「あぁ、卿を待っていたよ」

「……」

 黙って椅子に座る。

『……ねぇ、アス。私、まだこの人が怖い』

 ―――多分、こいつを怖がらない人間は本当に稀だろう。

 今、目の前で椅子に座るラインハルトは前、対峙した時の様な威圧感を持っていない。眠れる獅子、という言葉を思い出すほどに穏やかだ。破壊の意志を欠片も見せない。むしろこの状態のラインハルトは料理や裁縫といった生産を楽しむ異常な姿すら見せてくれる。壁の可愛らしいエプロンはその証拠で、見たくない嫌な現実の一部だ。

「サイアス、最近調子はどうかね?」

「いいんじゃないのか?」

 適当に答える。それに対してラインハルトはやれやれ、といった姿を見せる。

「その態度だけで押し通すには最近の世間は厳しいぞ」

「知るか。要件を言え」

 まるで此方を心配するような態度に呆れる。最初に見せていたあの圧倒的な王の姿はいったいどこへ行ったのかと問いたくなる。が、敗者は勝者に従う―――俺はこいつに逆らえない。

「まあ、良い。サイアスよ。卿は≪ラフィン・コフィン≫というギルドを知っているか」

「知らないわけがないだろ」

 ≪ラフィン・コフィン≫、殺人をメインとする≪レッド≫ギルドだ。犯罪者プレイヤーの事を一般的にオレンジというが、このラフィン・コフィンの連中は行き過ぎたPK行為からオレンジをさらに血の色で染めた、レッドと呼ばれるようになった。レッドとは殺人鬼に対しての差別用語なのだ。

「此度その討伐が決定した。どうやら主要ギルドや攻略組プレイヤーに声がかかっているらしいな。明日、討伐会議が開かれる」

 初耳だ。

 いや、全ての人間からの連絡を切っている俺に対して連絡が入るわけがないし、俺の様に犯罪者専門とはいえ、レッドに片足突っ込んでいる人間を呼んだりはしないだろう。だから俺がこの件に関われないのは当然の結果だ。

 だが、

「ここにも声がかかった」

 確か黒円卓は非公開ギルドだ。どこから情報が―――いや、情報を意図的に漏らしたのか。つまり、

「……俺に参加しろと?」

「私は純粋に卿の成長を願っているのだよ」

「ッハ!」

 その言葉を鼻で笑うが、手段を選ばない犯罪者、しかもラフィン・コフィンの様なレッドとの戦闘は得るものが大きい。だとしたら断る理由はない。

 その気配を察知したラインハルトが笑みを浮かべる。

「今回の件、卿は私の名代だ。故に黒円卓の一人として恥のない行動を心掛けてほしい」

 そういうラインハルトがインベントリを開く。その姿に少しだけ嫌な予感がする。

 そそんな予感が過ぎるも時すでに遅く、ラインハルトはあるアイテムをインベントリから実体化させる。

「故に卿は黒円卓の一員として、今回はこれを着てもらう」

 それはどこからどうみても軍服だった。

『大丈夫、似合うよ』

 魔女のフォローが空しい。
スポンサーサイト

| 断頭の剣鬼 | 11:54 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

え、エプロン閣下がお預け……だと……!?

| U太 | 2012/08/05 14:50 | URL |

エプロンはきっと上座に飾られてると思うんだ(笑)

久々の兄貴'sの出番かと思いきやベイのアニキはお預けでした°・(ノД`)・°・
でも、クズ兄さんの剣舞に胸熱でした(〃▽〃)
ベア子は当然出番なしだとして、次回はラフィン・コフィンに妖怪降臨、首狩り祭開催のお知らせでスタ(笑)

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/05 15:02 | URL | ≫ EDIT

エプロンもそうだけど、シュピーネさんが大工・・・(笑)

| 御神楽 湊 | 2012/08/05 23:49 | URL |

シュピーネさんさすがいい仕事をしますね!

| ろくぞー | 2012/08/07 11:18 | URL |















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://tenzodogeza.blog.fc2.com/tb.php/88-a460a189

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。