陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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二話



「マルグリットさん、左手をお願いします」

「はい」

 急いで看護師が医者を文字通り引きずって表れるのにまで五分の時間を要した。若干ぼろぼろの状態でやってきた医者はまず本当に意識があるかどうかのテストをおこなっている。言われたとおりに左手を持ち上げる。

「はい、いいです。では右手の方をお願いします」

「はい」

 声は看護師が持ってきてくれた水を飲んで、のど飴をなめている間によくなってきた。あまり大声を出さないのであれば問題がない程度には声が出るようになった。右手を持ち上げる。持ち上げた右手を手首で握られ、

「それでは指を動かせますか?」

「はい」

 指先を一本一本うごかし、ちゃんと動くことを医者に証明する。満足したところで腕を下すと、ベッドからぶら下げるようにおろす足を片方持ち上げる。

「失礼しますね」

 足を握り、少し強く掴まれる。

「どうですか?」

「少し、鈍い、感じがします」

「そうですか。足の指は?」

 足の指に神経を集中させ、何とか動かしてみるが、足の方は特に頑張りもしなかったので全く動かない。ほんの数ミリ動くだけで足の方は終わった。

「うーん、体の使い方を忘れているわけじゃないけど、長い間眠っていたせいで硬直しちゃっているね……定期的にマッサージとかしてたしそれほどまでは悪くないけど、これはリハビリが少し大変かもしれないよ」

「そう、です、か……」

 体が変わっていろいろと驚いているし考えることもあるが、リハビリまであるとすると……かなり面倒だ。一刻も早く自分の体に戻りたいところだが、ここがどこか知らないし、こんな超常現象を説明したところで信じてくれる人はいない。だから、まずはできることからコツコツはじめよう。

 親の事とかいろいろ心配はあるが、とりあえずは自分の状況を調べることから始める。何やらカルテに書き込んでいる医者に声をかける。

「あの」

「ん、なにかな?」

 優しそうな初老の医者だ。地面を引きずられてきたために結構ボロボロになっているが、それを抜けば元気そうな医者だ。もう一度言うがボロボロだ。ナース外道すぎやしないか。

「ここ、って、どこですか?」

 短く区切りながら話すのは楽だと思いながら、聞いたところで医者が何か困った表情を浮かべる。そして看護師が少しあきれた表情を浮かべる。

「先生―――若い女の子にタッチしたいのは解りますが意識の確認が先です」

「け、決して美少女に手を握られるチャンスとか思ってなかったぞ! 思ってなかったぞ!」

 思わずチェンジと言いたかったのを我慢すると、医者がカルテを一旦置く。そして此方の顔を見る。

「先生、視姦もアウトです」

「してないから! してないから! ―――えーと、それよりもマルグリットさん」

「はい」

「自分の名前が言えますか?」

 ……それは。

「マルグリット」

「いえ、フルネームでお願いします」

 そう言われては黙るほかない。名前を知っているわけがない。少し俯いてどうこたえるか考えたところで、医者があわてて両手を振る。

「あぁ、誤解しないでください。長期の植物状態から復帰した例ってのはかなり珍しいパターンなんですよ。その間にどんな脳障害が起きてるかは把握できませんからね。記憶が欠落していたってパターンはあってもあっても別におかしくないんです。何か思い出せる事はありませんか? 家族の事とか、どこに住んでたとか」

 都合がいい。まるでご都合主義にも感じられる展開だ。これは利用しない手はない。ただあからさまだと怪しいので、俯いたまま顔を上げずに、顔を横に振る。それだけで医者は察した。覚えていることは全くない、とこれで判断してくれるだろう。

「となると……えーと、いったいどういうことを覚えてるんだい?」

 そうと言われても若干困る。女性の体に関しては全くわからないから、何とかそこらへんボカして話せないものだろうか。

 だけどそこで戸惑ったのを色々と怪しいと感じたのか、医者が苦笑する。

「いやいや、一つずつ確認すればいいからね? 焦らずに行こう。時間はあるから」

「はい……」

 少しだけ恥ずかしくなった。

「ここは麻帆良付属大学病院だよ」

 麻帆良? 全く聞いたことのない地名だ。それに大学病院か。病院で植物状態でケア……かなりお金がかかっているんだろうな、とどこか貧乏くさいことを考える。だがここで医者はいったん言葉を区切って、

「君は―――十四の時に家族を失う事件にあって、約六年間眠り続けてきました」

 少しだけ、この体の持ち主の境遇に同情する。そしてこの体の年齢が二十歳であることが判明する。しかし、二十歳にしては若干肌や姿が若々しすぎる気もする。そういえば昔、四十年眠り続けてきた女性がまだ二十代にしか見えない姿をしているってニュースを見た気がする。たぶんそれに似た事が起きていたのだろう。

「だから君の入院費は保護者代わりをしてくれている人が負担してくれています。その人にはもう連絡を入れておきましたから、もうしばらくしたら来るはずですよ」

「はい」

 色々と目まぐるしい変化が起きていて若干混乱もあるが、まあ、何とかなるだろうと思う。

 と、

「ん」

「どうしました?」

 ちょ、ちょっとヤバイ事になったきた。考えてなかったことだけにすっごい困る。あ、ヤバイ。マジでこれどうしよう。最悪の場合そのまま……? いや、それは人間として許されない行動だ。え、ちょ、マジでヤバイ。

「どうかしたんですか? 何か体が?」

 此方が顔を赤くして、我慢するような様子に医者が心配してくるが、

「……です」

「え?」

 声が小さくて聞こえなかったらしい。ヤバイ。めっちゃはずかしい。

「と……です」

「すいません、もう少し大きな声―――」

 バシン、と医者の頭が看護師によって叩かれる。

「先生? 女の子がすごい恥ずかしがってるんですよ? 少しは察してください。じゃなきゃ叩きますよ」

「もう叩いてるじゃないですかぁー! とはいえ、あぁ、なるほど、少しデリカシーが足りませんでしたね。私は外で待ってます」

 そう言って医者が立ち上がり去った。いや、実際問題はまだ残ってる。

「え、えと、あ、あの」

「あぁ、解っています」

 そう言って―――看護師が近くのテーブルから尿瓶を取る。

「先ほど水を飲みましたからね。仕方がありませんよ。足は動かないでしょうからもう少し体を端まで寄せますね」

「は、はい……」

 女性の体になって初めてのチャレンジ。それはお着替えでもお風呂でもない。

 尿瓶を使ったトイレという羞恥プレイだった……!

 今、人生最大の危機が訪れていた。
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