陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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赤鼻のトナカイ ―――フレンドシップ

推奨BGM:Einsatz


「キリト! サイアス! 止まれ! 仲間内で切りあう必要はねぇだろぉよ!」

「キリト、その夢想を捨てなきゃ―――死ぬぞ」

 あぁ、切りあう必要はないだろうが、それでもやらなきゃいけないんだよ。解らないのかクライン?

 キリトと俺は全く同じ状況に陥ってるんだよ。俺も、お前も、惚れた女を失ったんだ。そして、それに対するリアクションや考えが違っただけだ。俺は死者が戻らないと言った。だからその復讐を成すために、殺すためだけに進み始めた。お前は死者が返ってくる事に期待した。システムとして死んだだけだと願った。その結果お前は蘇生アイテムに全てをかける。

 同じ道を進んでいたのが別方向に分かれただけだ。よくある話だ。


 だからこそ、許せない。

 キリトが剣を下に向けて、構えとも取れない構えを取るのに対して、此方は刃を地面に突き刺したまま対峙する。PvPにおいて相手のソードスキルの出方を窺い、それを打ち破って一撃を入れるのが基本だ。野良の戦闘となるとさらになんでもアリになるが、それでも基本形は変わらない。

 だからこそ、

「来いよ、俺はソードスキルに頼らないぞ」

「……」

 ”読む”事に関して異常な反射神経と洞察力を持つキリトの動きを封じる。光を見せないキリトの表情、そこから感情を読む事は此方にもできない。だが―――踏み出す。

 前に跳ぶように一気に踏み込む。前に進むのと同時に柄を頂点とする刃が前方へと向かって倒れる。その柄を握り、刃を後ろへ延ばすようにキリトとの間にあった百メートルほどの距離を一瞬で縮める。

 キリトが高速の動きに一瞬で反応する。接近する体に対して体を後ろへスウェーさせながら、剣を持ち上げることで右から切り上げる。軽いが、素早い動作で初撃を飾るには正しい選択だろう高速の動きの中では変化はし辛く、故に対応が遅れる。

 が、そんな安易な事態が発生するわけがない。

 キリトの剣の範囲半歩外で体を完全に停止させ、袈裟切りを回避するのと同時に、体を回転させて速度を殺さず大太刀を横薙ぎに振るう。速度の乗った素早い反応からの一撃は人外へと踏み出した体にこそできる所業であり、魔人の業といっても遜色のない動き。なぜならば、人間に完全な急停止は不可能だからだ。筋力と技術によって前進から回転へと運動を変えられた一撃はキリトを横から断とうと迫る。

「ッ!」

 それをキリトは短い息と共に弾く。持ち上げた右切り上げを捨てず、そのままの動きで大太刀と体の間に刃を挟むことで防御とし、さらに切り上げることで大太刀を弾く。それこそ自然にでてきた動きだった。何十、何百、何千と繰り返されてきた動きだ。だが、

 得物は振り下ろされる。

 弾かれた大太刀を振り下ろす。その程度だったら何度も経験している。それこそ千人切りで。黒円卓相手にプライドを捨てて頼んだ稽古で。殺してきた数千を超えるモンスター相手に。完全に反射ともいえる領域の動きで弾かれた瞬間に兜割を、頭上からの斬撃を片手で繰り出す。

「砕け散れ」

「死ねるか……!」

 キリトの選択肢は横への最小限の動きだった。大太刀が振り下ろされるのと同時に必要最低限の動きだけで回避したキリトの横を大太刀が振り下ろされ、その余波でキリトの体力がわずかに削られる。それこそ戦闘回復のスキルであっさりと回復してしまう量だが、頭上のカーソルはグリーンプレイヤーに危害を与えた事からオレンジ色に変わっている。

「本気でキリトを……」

「言ったはず―――死ぬって」

「まだ掠っただけで俺を殺したつもりか」

 振り下ろされた刃をキリトが踏む。そしてそのままキリトが刃を振るう。その狙いは首、確実に殺すという明確な殺意の込められた斬撃。キリトはもう躊躇していない。それこそクラインが話し続ければまだキリトがこんな凶行に走ることもなかっただろうが―――俺と関わってしまった事が、この場でのキリトを完全に変えていた。信仰の拒否をされたキリトは、その否定をする存在を消さなければ自分のアイデンティティーを失う危機にあった。

 だからこそ、人一倍に集中し―――敏感過ぎた。

 刃を振るう手が完全に止まり、後ろへ飛ぶ。踏んでいた刃を開放し、下がったキリトを襲ったのは圧倒的殺意だった。殺す、消えろ、失せろ、死んでしまえ。憎しみと殺意の混じった殺気は攻略組プレイヤーが戦闘において信頼する一つの要素だ。誰よりもこの場でそれに敏感なキリトは反応せざるを得ない。

「首飛ばしの風―――」

 それは脳を刺激する明確な死のイメージだった。地獄の底で喜んで踊るからこそ覚えられた芸当。殺意の風。木を隠すのなら森の中という言葉がある。故に殺意は殺意で隠せばいい。

 キリトの第六感ががここで死んだ。

 反射的に逃れてしまったキリトが前に出るのと同時に大太刀を下から掬い上げる様に振るう。軽い剣の動きで大太刀と体の間に隙間を作ると、刃と刃をひっかけあいながらキリトが走り接近してくる。それは大太刀、そしてキリトの握る片手剣の間合いの内側、互いに得物を使えない場所。攻撃が最も通りにくいとも言える空間で、

「ハァッ!」

「ッハ!」

 互いに拳を突き出す。顔面目掛けて放った拳をキリトは首の動きだけで回避し、心臓目掛けて繰り出された貫き手を体を半身そらすだけで回避する。

『アス、どうして戦うの? 話し合えたはずだよ?』

 解らないのか?

 互いに武器に力を通して弾きあう。ここ数か月、キリトは異常なレベリングを見せている。おそらくアインクラッドを探してもキリトを超えるレベルの持ち主はいない。それでも、エイヴィヒカイトを活動位階まで駆けあがった体はその身体ステータスを超越する。キリトは強い。強くなっている。それでも、純粋な力であればこっちの方に分がある。

 キリトの剣が少し強めに弾かれる。それが戻される前に、

「―――本気で死者が蘇るとでも思ってるのか」

 大太刀を振るう。

「ック! 信じて何が悪い!」

 それに対してキリトは体を捩じらせる事で回避とし、失敗する。完全な回避ができずにキリトの体に浅くだが斬痕が刻まれる。赤い、鉄を熱で焼き切ったような痕がキリトの体に刻まれる。

「キリト!」

 震える声でクラインが叫ぶ。クラインは本当によくやっている。自分では介入できないとわかっている。だから見るしかないと、それをよく理解している。

 斬撃を食らったキリトが一歩後ろに下がり、剣を構え直す。

 見下すように、キリトに語りかける。

「で、何だ。死者が本気で蘇るって信じてるのか。滑稽だなぁ、キリト。あぁ、マジで同情するよ。お前死姦趣味なのか? 蘇生アイテム使って蘇らせてア・ラブ・ユー! イッツ・ワンダフル・エンディング! お前はハッピーエンドを信じられるほどに頭がお目出度かったか? 現実を見ろよキリト―――本当に殺されなきゃ俺たち今頃全員脱出してんだよ」

 あぁ、答えがほしいだろ魔女? 無理なんだよ。否定しかできないんだよ。俺はキリトの存在を脅かして、キリトの姿は俺の存在を脅かしているんだよ。どちらかが折れるか消えるかまでは絶対終わらないんだよ、こういうのは。
ほら、よく見ろよ。

「サイ、アァァァァァス!!!」

「図星だからってキレてんじゃねぇよクソガキがァ!」

 今まで以上の速度、鋭さ、そして殺意をもってキリトが前へ出る。その姿は俺と同じく剣鬼の類に入るものだ。一つの目的の為、自分の欲を満たすためだけに剣を振るう鬼。今、その刹那は目の前の敵しか見えない。キリトには聞こえない。この世界には今、俺とキリトしかいない―――クラインの声はもう絶対に届かない。

 だからこそ、集中力は研ぎ澄まされていく。失ってゆく代わりに強くなる。それこそが人の本質だ。大切な何かが欠けるごとに人は軽くなって、欠けた部分を別のもので埋める。俺もキリトも愛を失って、それを修羅で埋めた。それができない人間には俺たちの領域には踏み込めない。だが、ここで俺とキリトの違いを告げるとしたら、

「―――生憎こっちは人間捨てたんだよ」

 音よりも早く突き出された剣にそれより早い斬撃を繰り出すことをカウンターとする。いや、それは攻撃を受ける前に攻撃を繰り出しているだけであって、カウンターですらない。だがデタラメな補正を受けた刃は後出しという事実を無視して斬撃をキリトに届かせる。

「があ!?」

「歯ァ食いしばれ!」

「お前がなあ!」

 攻撃を受けたキリトは剣を戻さず、零距離からソードスキルを発動させる。一瞬の発光と共に放たれたソードスキルは≪ヴォーパルストライク≫、片手剣の上位スキルに入るものだ。それを避けることはなく、顔面に刃が突き刺さる。

 キリト、そして俺の体力が大幅に削られる。もちろん、一撃一撃に全力を繰り出している。異常なレベルとエイヴィヒカイトの第一段階の身体能力、それが生み出す攻撃は生半可なものではなく、キリトのライフが一気に三割切り、俺の体力が五割を切る。それでも、一歩下がりながら、

「まだ、まだだよなぁ。そうだよな。そうなんだよな!? 否定されたもんな、俺に否定されたからなあ、許してはおけないよな生かしておけないよな見たくないよな聞きたくないよな消し去りてぇよなぁ!」

「うるせぇんだよ!」

「うるせぇのはてめぇだよ! てめぇのその考えは存在するだけで彼女への冒涜なんだよ! とっとと幻想を抱いて死ね!」

「知るか! お前が死ね! 俺はサチを生き返らせないといけないんだ!」

 このクソが……!

『アス! もうやめて、アスの心が痛いよ……』

 黙ってろ魔女が。

 いいか? いい言葉を教えてやる。

 ―――女が男の戦場に、

「でしゃばるんじゃねぇえ―――!!」

「てめぇこそ―――!!」

 十秒の怒鳴りあいから再び剣を手に、前へ踏み込む。互いにその間に回復結晶による回復を済ませ、得物を振るう。防御も回避も最小限に、急所を狙うだけの動き、互いに放った必殺の一撃は芯を捉えることができずに、

「っぐ、ははは……」

「う、っく!」

 互いに体力を削りあう様に損耗させる。一撃一撃の全てをソードスキルに頼らない連撃の、技術による攻撃。普通のPvPが基本的に一撃で終わることを考えると、回復を挟んで必殺の応酬など見られるものではない。それでもそれがこの場で発生していたのは一に俺が魔女に対する憎しみを持っているため同調が完全ではない事、二にキリトの集中力が極限にまで高められていることがある。極限まで高められた洞察力と集中力、そして反射神経。

 第六感が死んでいる中で、それがキリトを支えていた。

「解らないのか? ―――石ころ一個い願って蘇生だぁ? それがお前の女の価値を石ころ一個に下げてんだよ!」

 得物を捨てて、キリトの顔面に拳を突き入れる。のけぞるほどの衝撃にキリトは耐え、前に一歩踏み出す。

「じゃあどうしろってんだよ! これ以外何も解らないんだよ!」

 キリトが二発、顔面と鳩尾に一発ずつ拳を突き入れる。どちらにしろ武器を使わない拳、ソードスキルでもなければほとんどダメージはない―――それでも叫び、咆哮を轟かせながら繰り出す一撃は戦闘回復を上回って命を削る。

「はあ!? 何で俺が教えなきゃならねぇんだよ! 俺は俺の復讐に忙しいんだ! てめぇの頭で考えろ!」

「さんざん煽りやがって自分で考えろとか言うのかよ!」

「あぁ、言うさ! それとも誰かに一から十まで言われなきゃメシくうこともできねぇ痴呆かよてめぇ! 魔女の方がよっぽどましに見えるぜ!」

「言いやがったなこのクソッタレ! てめぇこそ首ばっかり切り落としたりして馬鹿じゃねぇの!? そんなに首が好きだったら自分の首を切り落としてろ―――!!」

 殴り、蹴り、叩き、到底文明的という言葉には似つかわしくない状況の中、

『やめて、もう、やめて、お願い、やめてよお願い……!』

 魔女が此方を思って泣いてくれているのが解る。底抜けに優しい子だ。だがいらない。修羅に優しさは不要だ。剣を鈍らせるだけだ。悪いな、お前を使えるだけ使って捨てるような最低の男だ。構う必要はないからとっとと見捨ててくれ……そう言っても見捨てないんだろうな。

 だからこそ、憎しみが剥がされそうで怖い。

 俺はマルグリット・ブルイユに恐怖している。

 彼女にこの憎しみが溶かされてしまうことを―――だから殴る。

『やめて! お願い、もうやめてよ!』

 止めない。キリトと暴言を吐き合いながらなぐり合い、命を削らせていく。否定しなきゃ自分が危ない。お前はまだ生まれたてで誰よりも女らしいから―――これが、正しいと解らないのだろう。あぁ、間違ったことは一つもない。これでいいんだよ、なあ、キリト?

「女々しいこと言ってんじゃねぇぞガキがァ!」

「お前も、年上ぶってんじゃねぇ!」

 互いにライフバーはレッドゾーン。これ以上殴りあえばどちらも消滅する。怖いのは死ぬことよりも信じることを信じきれなかった事。だから、キリトよりも早く拳を振ろうとしたところで―――

 ―――新たなプレイヤーが現れた。
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| 断頭の剣鬼 | 14:58 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

2話連続ありがとうございます。
ktkr空気読めない人(笑)

| 御神楽 湊 | 2012/08/03 15:50 | URL |

まーさかの連続投稿、流石てんぞー氏(≧ω≦)bアザァース

そしていよいよと始まったサイアスVSキリキリ。
いや、まぁうん。まさに男の戦場でした(笑) てんぞー氏のにくい演出がまぁ、こう、撃ち抜いてくれるというか、なろう時代からの読者にはぐっとくるものがあったんではないでしょうか?
そして次回の断頭は――こんな戦場にお邪魔するとかマジKY(笑) あ、黄金閣下だったらごめんなさい<(_ _)>
原作通りならお前ら全員首おいてこ?な? 今なら修羅道に片足突っ込んでるキリキリもたぶん付いて来ます(`・ω・´)キリッ

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/03 15:56 | URL | ≫ EDIT

二話連続更新ヒャッハー!
こっちに移ってから初めての感想かな。

| 空 | 2012/08/03 17:38 | URL |

誤字ほーこく
首飛ばしの風→首飛ばしの颶風

石ころ一個い願って蘇生だぁ?→石ころ一個に願って蘇生だぁ?

キリキリさんが螢みたく見えてきたのはセリフのせいか。
まさかのキリトさんルートが……?

| DHMO | 2012/08/05 19:43 | URL |















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