陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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赤鼻のトナカイ ―――アイ・アム・ザ・バッドガイ

「それじゃあ何時も通りよろしく頼むヨ」

「あぁ」

 二三最後に言葉を交わすとアルゴは路地裏の中へと消えて行く。ああ見えてアルゴはそれなりに実績のある情報屋だ。この次にアポイントメントが入っていても別におかしくはない。どこかへと消えて行くアルゴに別に興味を持つわけでもなく、その気配が遠のいて行くのを姿勢を変えないまま感じる。


 アルゴが言うことが本当なら、今夜、モミの木に≪背教者ニコラス≫というイベントモンスターが現れる筈だ。そして、モミの木の位置は既に分かっている。確実に三十五層の事だろう。あそこには≪迷いの森≫という名のランダム・テレポートダンジョンが存在し、その奥にモミの木があったはずだ。基本的に到着したフィールドやダンジョンはすべて自分の足で赴き、把握しているのが今回は功を奏した。

 しかし、だとしたら―――今しばらく手が空いてしまう。

 イベントの開始時間が零時ちょうどだとしたら今からまだ十五時間以上時間をつぶす必要がある。ダンジョンの中で運良く迷うことを可能性に考慮したとしても、最低で必要な時間は三時間か二時間だ。それまでの十時間以上の時間をどうにかして潰す必要が出てくる。だとしたら、ここで狩場へと出かけるのも悪くはないかもしれない。アルゴを見送ってしまった手前、このまま戻って別のボス情報を聞くのはそう面白くはない。

『アス』

 そうと決まったら狩場へと向かおう。幸いインベントリにはラインハルトが無理やり持たせた食料と、シュピーネが提供してくれたポーションがある。今インベントリにある量であればそれなりの時間は戦っていられる。

『くりすますってなに?』

 進もうと思って、動きを止める。さすがにその発言は予想外すぎた。

 クリスマスはなにって……幾らなんでもそれは卑怯だろ。流石にちょっとだけ哀れに感じたぞ。あぁ、ほんの欠片だけだが。

『皆楽しそう』

 朝食が終わり、攻略プレイヤーであれば十分に活動を開始する時間だ。そしてここは最前線の四十九層。賑わいで言えば今一番賑わいと活気のある街だろう。今日ばかりは攻略を休んで知り合いと遊んだり、プレイヤー主催のイベントに参加したり、攻略する合間の休息日だろう。多分明日も同じく休息日となるだろう。

 ともかく、今日明日、プレイヤーが多く街にいるのは間違いなくクリスマスだからだ。

『くりすますってなぁに?』

 ……少し困り、頭を掻く。

 止めていた体の動きを再開させ、広場中央のクリスマスツリーへと向かう。周りではカップルが手をつないでツリーを見上げていたり、休みを返上してレベリングに励む攻略プレイヤーがツリーを一目見たりしてから去って行っている。

 まぁ、ここでこの魔女を完全に無視してもいいのだが、

「……クリスマスはイエス・キリストの降誕を記念する祭日だ。過去に奇跡やら色々やらかして有名になって偉くなった人の誕生日を祝ってんだよ」

 何故か無視する気になれなかった。どうしたのだろうか。今夜もまた、強敵に挑むために燃料(にくしみ)は必要だというのに、何故かこの瞬間はそこまで憎しみが持てなかった。珍しく何の憎しみのない、穏やかな状況となっている。いや、そう思えば去年もそうだった。SAOが始まったばかりの去年十二月二十四日、二十五日もなんだかすごい穏やかでいられて―――。

『イエスさんって凄い人気なんだね』

 たぶんこの世で一二を争う有名人だろうな、等と考えたところで―――。


                           ◆


『イエス様って超有名人だよね。一度でも会えたら、どれだけ有名税があるのか聞いてみたいかも』

『いえ、あの、テレジア? 一応イエス様は……』

『これぐらい個人の自由だと思うの』

『先輩、イエスさん死んでます』

『私の知識じゃどっかのボロアパートでブッダと暮らしてるって事になってるんだけど』

『マジか。おい、聞いたかよ明広。ちょっと神様探しに行こうぜ』

『アンタマジ何を言ってんのよ。司狼バッカじゃないの』

『こういうのって夢とロマンを失ってはいけないと思うの』

『宗教に夢もロマンも求めるべきではないと思うんですがね……』

『これだから駄目神父は……』

『あれ、私の評価ってそんなものなんですか?』

『頑張れよ駄目神父』

『と、トリファさん頑張って!』

『ありがとうございます綾瀬さん……』

『でもトリファさんって結構ヘタレてるよな』

『兄さん何言ってんの!?』

『そのくせ一緒に風呂に入りたがったり……あれ、もしかしてこの駄目神父変態?』

『なんかもう私、立ち直れそうにありません……』

『もう、貴方達一体何をやってるのよ。料理持ってきたわよ―――』


                           ◆


 ……そういえば、冬は毎年教会に集まってクリスマスパーティーをやっていたな、と思い出す。馬鹿な事を喋りながら思いっきり馬鹿な事をやって、次の日の朝まで飲んで食べて騒いで、そしてふざけていたっけ。毎年毎年同じメンバーで飽きもしないでやってた小さなクリスマスパーティー。最後は酒飲んで酔って全員でぶっ倒れるってのが恒例だった。

『それがクリスマスパーティー?』

 ……そうかもな。

 なんだか途中で恥ずかしくなって一方的に切り上げる。魔女と自分の間には道ができてしまった。向こうから流れ込んでくるのもこっちから流れ込むのも止められない。どんなに憎悪で心を覆うとしても、少しずつだが態度が軟化していることに気づいている。そしてそれが何よりも恐ろしいという事にも気づいている。だから今のは明確な隙だ。失態だ。だけども、幸せだった頃の記憶に浸りたいのは決して嘘ではなくて、ツリーから顔を背けて、街の出口へと向かいながら歩き始める。

「O Tannebaum, o tannebaum , wie treu sind denie Bla"tter―――」

 リザがクリスマスにはよく歌っていたもみの木を小さく口ずさみながら歩く。静かに憎悪を胸に燃やしながら、確認する。大丈夫、まだ戦える。憎い。茅場晶彦とあの詐欺師が何よりも憎い。あの頃の幸福は二度と帰ってこない―――と、再び心に鎧を纏おうとしたところで、

「ん?」

 メッセージが届いた。素早い指の動きでウィンドウを操作し、チェックするメッセージはカインからのものだった。ただシンプルに、黒円卓で夜からクリスマスを迎えるパーティーをやるので、参加しないか、と聞いてくるメッセージだった。

「……律儀だな」

『行かないの?』

 パーティーよりもニコラス討伐の方がはるかに重要だ。パーティーに出席したところで得られるものは何もない、幸せも、安らぐ時間も何の得にもならない。逆に幸せになるとそれだけ憎しみが薄れてしまう。それだけは絶対に回避したい。だから、憎しみを胸に燃やし続けるために、今夜はニコラスを討伐して過ごす。

 そうと決まれば早い。時間までモンスターの相手をしていればいいのだ。そうすれば何も考えずにすむ。

 フードをさらに深く被って街の出口へと向かう。流石はVRMMOというべきか、温度の再現性や、それから来る痛みなどまで見事に再現してくれている。今日は昨日よりも、若干寒く感じられる。四十九層へと到着して五日以上が経過している。だからほぼすべての狩場を把握できている。だからここは四十九層の狩場を目指すよりは少し下の≪アリ谷≫に行った方がもっと経験値としてはもっと美味しいのだろうが―――

「―――待て」

 呼び止められる。

「貴様、サイアスだな?」

 だが助かった。おかげで幸せな気分が一気に最悪な気分にまで落ちてくれた。そうだ、こういう展開が好ましい。追跡スキルで追いかけられたか、もしくは情報屋に居場所をバラされたか―――まぁ、間違いなくアルゴだろう。いい趣味をしている。

 背後を振り返る。そこにはいかにも騎士といえる姿のプレイヤーがいた。そして名前を持ち出されたことで周囲の目が集まる―――それも嫌悪感を隠さずに。いい。この視線は悪くないと思う。自分がいかに汚れて不幸な存在か再認識できる。幸福になどなってはならないのだ。

「犯罪者を殺す分には何も文句は言わない」

 話しかけてきた男の姿をよく見る。あぁ、その服装には見覚えがある。

 ≪聖竜連合≫の団員だと納得する。

 そういえば思い出す。

「だがよくも―――」

「仲間を殺したな、か?」

「ああ! 俺たちは攻略を優先しているギルドだ! 少しずつ減っている攻略プレイヤーの事を考えたら暴挙に過ぎないだろ!? 何よりも―――」

 全身を鎧に包まれた男は怒りに包まれていた。

「俺の友をよくも殺してくれたな……!」

 この男も憎悪に包まれていた。だが、俺から言わせてみれば―――

「三十点。言葉がありきたりで寒いな。他人を理由に戦うのはやめろ。戦う理由は自分自身の為じゃなきゃ、どっかの誰かに利用されてぽいされて死ぬぞお前」

「貴様……!」

 どうやら親切心で言った事は挑発としか見られなかったようだ。非常に残念だ。

『アス、ワザと言っている』

 第一、

「お前らが俺に喧嘩を売るのが悪いんだろ? 勝てもしない雑魚が俺にかまうな。っは、死んで当然なんだよ」

 無言で決闘の申請が申し込まれる。これでいい。俺に味方なんていらない。陽だまりはもうないから。ギャラリーが全員俺の敵だ。迷うことなく全損設定で決闘を受け入れる。

 全損設定の決闘、それはつまりフィールドでの戦闘と一切変わりのない殺し合いだ。

「お前だけは許さない、絶対に許さない……死んだ仲間の為にも……!」

「……」

 男は憤怒の表情を見せている。これが、正しい反応なのだろう。友を、知り合いをなくしてここまで愚直に原因と言える存在にぶつかれる事―――それは幸福に違いない。それがひどく羨ましい。俺も殺したい。今すぐ茅場晶彦と戦いたい。なのに居場所すらわからない。だからこの騎士がいきなり勝負を仕掛けてくる事には嫉妬すら覚える。

「羨ましいな」

「何?」

「その姿勢が、だよ」

「ふざけてるのか……!?」

 騎士風の男は≪聖竜連合≫の専守防衛の概念を体現するように、盾を前に出した構えを取る。確実に攻撃を防ぎ、そして一撃を通す戦い方だ。この状況で挑発されていても冷静に戦える分、優秀だと判断できる。決闘の開始の合図が出現し数字が下がっていくと、周りのギャラリーが増える。

 得物を取り出す。

 数回強化された得物―――≪羅刹≫の刀身は血で染まったように紅くなっていた。

 取り出した得物を地面に突き立てる。構えですらない。対人戦で得物を地面に突き刺すという行為は愚の骨頂でしかない。完全な挑発行為だ。だが、それすら無視して盾を構え続ける騎士の男に軽い感嘆を漏らす。

「へぇ」

 そして、カウントがゼロになる。

 決闘が開始される。

 それと同時に、

「感謝するぜ」

 地面を抉る様に踏み込みながら切り上げる。

「なっ―――」

 それだけで大盾は中央から真っ二つに両断された。盾の中でも大盾は防御に特化した防具だ。それが両断されるという現象はボスクラスモンスターぐらいにしかできないことで、男の顔には驚愕しか映らない。

「お前のおかげで糞の様な気分になれる」

 盾をなくしたところで騎士の武器は残っている、素早く得物である片手剣を構えようとする。が、それよりも早く両腕を切り飛ばす。部位欠損のステータスが発生し両腕のなくなった騎士に継続ダメージが発生する。だがそれによって死ぬのを待つ必要はない。

「レッスンワン―――俺の前に立つな。授業料は首を置いていけばそれでいい」

「やめ―――」

 言葉を言い終える前に首を跳ね飛ばす。

 首の部位欠損が発生し、極大のダメージが発生する。既に両腕を失っていたダメージと合わせれば男が耐えられるはずもなく、言葉を残せずに消滅する。目の前に≪YOU WIN!≫と、むなしいだけの勝利表示が現れ、男のアイテムが街の道路にばらまかれる。それに興味はなく、背を向ける。

 ―――全身を覆うローブを纏っていても正体が見抜かれてしまった、しばらくはここには入れない。

「くたばれビーター!」

「死ねレッドもどきが!」

「死ね! 死ね―――!」

「人気だな、俺も」

 保護コードに守られて当たらないとわかっていても、石などを投げてくるプレイヤーがいる。特に気にすることなく、目的地の転移門広場へと向けて歩いて行く。

『アス……』

 この憎まれる気持ちは心地よい、生きていることを実感できる。だからこれでいいのだ。あぁ、何も問題ない。だから、この吐き気のする気分を抱えたまま、今夜のサンタとのパーティー目指し、転移門を潜る。
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| 断頭の剣鬼 | 11:10 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

ナニこの妖怪ヒャッハーしてない(オイ

| とろつき | 2012/08/02 13:16 | URL |

オゥ、確かに、なろう時に比べるとここのサイアスさんは今のところ大分軟化しとりますなぁ(p_-)
否駄菓子菓子! 我等がてんぞー氏が描く妖怪閣下なら今まで以上の"ヒャッハー"を見せてくれるはずッ!
そして金髪■■は今日も今日とてマジ女神  異論は認めない(笑)

| 女神は至高、金髪少女は至高 | 2012/08/02 16:13 | URL | ≫ EDIT

この段階ではサイアスさん恨まれ憎まれる自分に酔ってるな・・・。

| | 2012/08/03 01:56 | URL |















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