陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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赤鼻のトナカイ ―――ロンリー・イン・ザ・スノウ

アインクラッド第四十九層
二〇二三年十二月


 駆ける。

「―――グォア!」

 大地が裂けるような咆哮が響く。対峙しただけで戦意を喪失そうな咆哮の持ち主は、ここの”ヌシ”とも言える存在だ。特定の時間に、特定のフィールドに、一定以上のモンスターを倒した場合にだけ出現する超巨大フィールドボス≪Glacier Dragon≫―――グレイシア・ドラゴンだ。その名が示す通りに全身が透き通るような氷でできていて、雪が降るこの階層、この夜と合わせて幻想的な風景を生み出す。しかし、その顔は怒りを示すかのような形相をしている。いや、AIに怒りという感情はない。だからこの感情は確実に偽物だろう。だからといってその迫力が偽りであることはない。


 偽りも、それを貫き通せばいつかは真実になる、それは少しロマンチックじゃないか。

 季節は冬。

 日が沈み夜となって、空からは雪が降っている。正確に言えば天候が雪だ。アインクラッドではその日の天気が決定されており、それを事前に知る方法がある。そしてこの龍は雪が降っている間にしか出現しないことも条件の一つだ。全く持って面倒な条件ばかりだ。一般的にレアネームドモンスターと呼ばれる部類に入る龍は、巨大だ。人間を丸のみできるだけの巨躯をほこっている。

 これも、階層ボスと同じように幾つかのパーティーで討伐すべき存在なのだが―――生憎と、俺とコンビを組もうとする人間はいないし、俺自身誰かと組もうとは思わない。

 だから片手で大太刀を抜き、それを目の前の地面に突き立てる。

「さあ」

 まだだ、まだ食い足りない。てめぇら塵屑共は欠片も残しはしない。全て生贄となって消えろ。茅場晶彦を倒すための贄であれ。

「勝負しようぜ。俺の刀の錆びとなってくれ」

 世間一般ではクリスマス・イヴという日が数時間後にはやってくる。日常であれば家族や恋人と共に笑顔で迎えるのだろうが―――ここでは一人、いや、二人で迎える事になる。目の前の龍はあの暴威と比べれば圧倒的に小さく感じる。大きさではなく、存在が。自分がどれだけ矮小な存在かを認識できていない事に対して失笑さえ零れそうになる。が、とりあえず、

 とりあえず、せっかくのアドベントなのだ。ただ死ぬのは寂しいだろうから、歌を贈るもいいかもしれない。ただ俺が歌える曲は、今のところ一つしかないが。

「―――Je veux le sang, sang, sang, et sang」
           血、血、血、血が欲しい

 頭の中で残響し続けるリフレインにはもう慣れた。首を捧げようギロチンに。昔は忌々しいリフレインだったが、人でなくなることを受け入れ、先へと”落ちる”事を決意すればそれは反転し集中力を高める魔言となった。今はいい。これでいい。いつか俺は破滅するから。

 氷雪の龍が吠える。

『Donnons le sang de guillotine』

 魔女が歌を続ける。

 目標は簡単だ。

 一回も力を引き出さずにあの龍の首を切り落とす。

 無理無茶無謀の三段階で断言できる言葉だろうが、

「―――この程度できなければ」

 茅場晶彦には絶対勝てない。

 確信したところで、巨体が吠え、恐るべき素早さと共に接近してくる。


                           ◆


 地獄の様な現実が開始されてから約一年が経過した。アインクラッドを巡る混乱は初期の色を失い、大まかに三つのグループに分かれた。

 犯罪を行う者。

 救出を待つ者。

 世界を救おうとする者。

 大まかに分けてアインクラッドにいるのはこの三種類の人間だ。そこからさらに細かいカテゴリーに細分化できるが、そうするとキリがないのでこの三つを基本としておく。ともあれ、俺はそのうち三つ目のカテゴリーに属すということだ。

 日々を戦いに染め上げ、戦うことで解放への道を進む。

 正確に言えば茅場晶彦を殺すために頂上を目指しているのだ。

 この一年でアインクラッドは落ち着き、ゲームのコンテンツを楽しむ余裕ができるぐらいには人々は落ち着いている。人数限定クエストや、期間限定クエストといったものを精力的に探す人間も増えている。

 季節は冬。

 雪が降り空中城アインクラッドの階層が白く染まるこの季節。この階層では、ほかの層のプレイヤーが冬を現実同様楽しもうと多く集まっていて、軽い人口密集地帯となっている。街も迫るクリスマスに向けて飾り付けがされており、ライトアップされた木やどこかで聞いたことのあるクリスマスソングが≪演奏≫スキル持ちのプレイヤーによって流されている。中世ヨーロッパという姿を持っているアインクラッドではあるが、間近のクリスマス・イヴとクリスマスに街の人々は興奮していた。

 体の所々が青い炎に包まれている馬に乗って街に到着する頃には既に日は登り切っていた。移動用に貸し出されているライディングモンスターは乗り方のコツさえ覚えればそこまで苦労するものじゃない。街の前で馬から降りると契約を完了させるために馬の尻を軽く叩く。その意味を悟った馬は馬小屋へと向かって走って行く。

「結局朝までかかったか」

 ソロで巨大ボスを討伐するとなるとやはりこれぐらいはかかるか、と納得する。もはや新しい装備にはあまり興味はないし、武器を変える必要も一切ない。経験値も位階さえ上ることができればレベリングの必要のない、チートと言ってもいい体になったが、戦闘経験だけは違う。

 何十、何百。何千、何万と繰り返し蓄積される戦闘経験だけは簡単に得る事のできないものだ。同時に戦闘技術も簡単に得る事は出来ないものだ。能力を使用して強引に再現はできても、それを真の完成とは言えない。戦士としての理想形はマキナの姿で見えている。生物としての究極系はあの黄金の獣が。目指すべき場所は高い。そのためには模擬戦等と甘い事は言っていられない。常に自分より上位と思える存在と一対一で戦い続けて、それ食らう様に強くならなければならない。

 塵掃除と経験がつめて一石二鳥というわけだ。

 ともあれ、この一年で自分に対する評判は最悪の状態になっている。

 殺人鬼とかアインクラッドの生んだ戦闘マシーンだとかオレンジ殲滅屋だとか非常に不本意である。中には妖怪とまで呼んでくる存在がいる。躊躇も迷いもしなければ誰にだってこのぐらいはできる。そしてできたとしても届かない存在はいる。

 だが、とりあえずはインベントリからローブを取り出し、頭までをすっぽりと隠す。

 普段着ともなっている装備はフードのついた赤い衣と、かなり特徴的な装備になっている。赤色を好むプレイヤーが少ないというより、アインクラッドでは基本的に黒や茶色などの、若干地味な色の服装が多い。赤色の装備でフードなんて特徴的過ぎてすぐに俺だとバレてしまう。そう自惚れる事が出きる程度には有名人だと理解している。だからこそ、対策として街中では常にローブで体を隠すことにしている。ローブ姿も十分怪しいが、そういう姿をしたプレイヤーは結構いる。そのため、少し後ろ暗い事がある、としか認識されてない。

『綺麗な光景だね』

「……」

 ローブで全身を隠して侵入する街は雪がつもり白く染まっている。朝日を雪と氷が反射し、街全体が輝いて見える。時間でいえばまだまだ早朝と呼べる時間帯だが、クリスマス前日だということもあって既に起きているプレイヤーが多くいる。おそらくだが、ここにいる大半のプレイヤーはこの街で開催されるクリスマスイベントを目的に来ているのだろう。戦闘がかかわらないイベントで、そこそこのアイテムが手に入るため、集まるプレイヤーの期待は高い。

 そんな街中を見ながら向かうのは街の中央広場だ。

 街の中心にはモミの木ではないが、立派な木がデコレーションされて立っている。夜のイベント会場ともなっている場所だ。

 ともあれ、イベントに参加しない俺には関係のない話だ。

 中央広場の隅、裏路地への入り口の横の建物の壁に背中を預けるように寄りかかる。すぐ横の路地裏から誰かがでて、街の中へと消えて行く。ここからは中央広場の様子がよく見える。インベントリから保存性に優れたパンを取り出し、それを割って食べる。作りたての時と比べ味は格段に落ちるが、それでもおいしさが損なわれない辺りが非常に腹が立つ黄金製のパン。エプロンの件が嘘ではないと知った時は固定概念が破壊された気がした。

「おや、中々おいしそうなものを食べてるネ」

 匂いに釣られて≪ネズミ≫がやってきた。半分に割ったパンを路地裏の入り口へ投げると、片手がパンをキャッチし路地裏へと引き込む。

「味わって食え」

『あげていいの?』

「もちろんだヨ。ただより安いものはないしネ」

 路地裏の方からパンを齧る音と、軽い感嘆の声が聞こえる。やはり料理スキルを上げているプレイヤーと、市販で販売されているNPC作の料理では味の質が違う。店売りの料理はスキルの熟練度にして大体五十前後だ。千が熟練上限となっているプレイヤーが作る料理とは格が違う。

「サイアスが料理できるとは知らなかったヨ」

「やらねぇよ」

「へぇ、料理を作ってくれる仲間がいるんだネ」

 これが、情報屋という人種だ。

 おそらくアインクラッドの中でも一番複雑な立場にいる存在だろう。最前線プレイヤー、≪攻略組≫には感謝されていながら、ほかの多くのプレイヤーには嫌われている連中だ。情報の有無が生死を分けるこのアインクラッドで、情報はまさに金にも匹敵する価値を持っている。だからこそ、情報の売買は商売として成り立つ。貴重な情報を独占し、それを使って商売をするこの情報屋は最前線にとってはありがたくとも、同時に情報を知らずに死んだプレイヤーからしてみれば恨みの対象でしかない。

 まぁ、死人に口なしと言う様に、死人がしゃべるわけがないのだが。

「最近の景気はどうだ」

 そっけなく情報屋のアルゴへと語りかけると、男とも女とも区別がつかない声で返事が返ってくる。

「あまりよくないネ。三流ゴシップ誌ならまだいいけど≪アインクラッド通信≫みたいに一流の記事を書くところは非常に困るネ」

 露骨にため息をアルゴが吐く。

「安すぎるね。≪執筆≫スキルの登場で新聞が生まれて情報の共有化が進むのは仕方がないとは感じてたけど、あんな安い値段で情報を共有されるとオレっちとしてはものすごい困るんだがな、これガ。ほんと商売あがったりってやつだヨ。サイアス、ちょちょっと連中の首を落としてきてくれないかナ」

「寝言は寝て言え」

 本気で殺せとは言ってないのだろう。十中八九冗談だ。だが定期新聞の出現で死亡率が抑えられたというのもまた事実だ。情報屋からしてみれば客を取られているようで悔しいのだろう。だが今日は別に雑談するために集まったわけではない。

 しゃべりながらも食べ続けていたパンを食べ終わり、インベントリからビンに入った牛乳を取り出す。蓋を指で弾き飛ばしながら口に運ぶ。

「で、≪グレイシア・ドラゴン≫はどうだったんだイ? こうやって生きているって事は倒したってことだロ?」

「まあな。八時間以上ぶっ通しで戦ったわ」

「ほほウ? これは妖怪伝説が一ページ増えるネ」

「勝手にしろ」

 小さく笑うアルゴだが、今朝倒したばかりのフィールドボスの情報はアルゴが提供したものだ。巨大ボス系は結構攻略されず、放置されることが多い。もっと階層が進み、レベルが上がってからパーティーを組んで倒すというのがメジャーなやり方だ。故に、到着したばかりの階層の巨大ボスは相手にされない。が、アルゴら情報屋からしてみれば未知の情報の塊を放置しておくのは忍びない。

 だからこれは契約だ。アルゴがモンスターの場所と出現条件を提供し、俺が戦って得た情報をアルゴに提供する。アルゴは欲しかった情報が手に入り、俺はより強者との戦闘経験を得ることができる。双方にとって損のない話だ。

 インベントリから紙を数枚取り出す。路地裏に姿を隠すアルゴにトレードを申込み、トレード枠に紙を乗せる。

「それに今回の相手のデータを書いておいた」

 トレードが完了しアルゴがデータを受け取る。

「まいド。いやぁ、サイアスさんとはまだまだ商売を続けたいヨ。よ、不死身のターミネーター」

「勝手に言ってろ」

 こういうのは反応したら負けだ。あまり長く会話しているのも時間がもったいない。

「で?」

「次の情報だネ?」

「ああ」

 街の中を歩く人の数が増えてくるのが見える。もう少しすれば本格的に人の活動時間となる。そうなったら街の中には居づらくなる。あまり幸せな人間を見ると―――。

「ところで、今夜はクリスマス・イヴで、明日はクリスマスだって君は知っているかイ?」

「首、置いていくか?」

「あぁ、いやいや、すまないねネ。別に馬鹿にしているわけじゃないんだヨ」

 アルゴが少し焦ったような声で返してくる。

「実は今夜はもう一つイベントがあるんだヨ。しかも戦闘系のナ」

「……へぇ」

 話に興味が湧いてくる。ジェノサイド系のイベントだったらいつでも大歓迎だ。もちろんボス攻略系のも。そういう話を待っていた。

「で?」

「サンタを殺せって内容だヨ」

 インベントリを操作して得物を持ち出す。

「待て、待つんダ! これは別に冗談でもないんダ! 頼むから落ち着いて話を聞いてほしいヨ」

 握った得物をインベントリにしまう。その様子を見て落ち着いたアルゴが話を続ける。

「―――今夜零時、クリスマスになった時、モミの木に≪背教者ニコラス≫が現れるってナ」

 興味深い話になりそうだ。
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| 断頭の剣鬼 | 10:19 | comments:6 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

八時間ぶっ通しでドラゴン狩るだなんて……よ、さすが不死身の妖怪!
黄金製のパン……まるで黄金でできたパンみたいだな!? 食べてみたいッス。

| ろくぞー | 2012/08/01 11:04 | URL |

更新お疲れ様です。
なるほど、こうして妖怪「首おいてけ」にクラスチェンジしていったわけですね。
相変わらずのエプロン閣下の料理のクオリティの高さに脱帽。
小説家になろうでは描かれなかった部分が古参にとってはありがたいッス。

| 断章の接合者 | 2012/08/01 12:17 | URL | ≫ EDIT

妖怪伝説爆誕、 情報屋とか伝記マジで作ってそう(笑)オレ、あったら絶対買うわ。首差し出しても読むわ……( ̄◇ ̄;)ぇ?
黄金閣下……うん、ブレねぇ。嬉しそうな高笑いが聞こえるようですハイ。
そして、背教者イベントという事は、ヤバイ、キリキリの出番じゃない!
よし、土下座待機しとります! 明日よ早く来い!

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/08/01 15:30 | URL | ≫ EDIT

ちゃくちゃくと妖怪化が進んどりますなぁ。

とりあえず………モンスターニゲテー!妖怪が首取りにイッテルヨー!

| 暇人 | 2012/08/01 22:53 | URL | ≫ EDIT

むわ

更新お疲れ様でs
相変わらず面白いのでそこは置いといて少し身勝手なお願いというか要望

各話の一番したににじふぁんみたいに前の話 目次 次の話 ってつけたらどうですかねぇ
いや本当めんどいんで出来ればですけど

| くじょーさん | 2012/08/02 17:37 | URL |

もうこの頃から妖怪は妖怪だったんだな・・・・・・

| ガリバー | 2012/12/12 21:49 | URL |















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