陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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黄金 ―――スティグマ

 いつ以来だろうか、本気で戦って負けたのは。少なくとも高校に入学してからは一度も負けた記憶はない。だけど、やっぱりアイツ以外に俺が負けることはなくて、そしてアイツも俺以外には負けたことはない。互いにそれが今の誇りになっていて、お互いに”アイツ以外には絶対に自分を殺せない”とどっか妄想めいた、確信のようなものを持っている。馬鹿だ。そんなことはありえない。

 どうしようもない暴力の前ではそんな誇りは無意味だ。


「ふざけろクソがぁ!」

「てめぇこそふざけてんじゃねぇよこのタコがァ!」

 派手に喧嘩したと思う。それこそ一般的な喧嘩というカテゴリに収まらないレベルで暴れたはずだ。殴って血が出るのは基本だ。皮がむけるのも基本だ。腕が折れるのも基本で、そして骨が付き出るまで殴った。痛かった。それこそ死ぬほど痛かった。多分人生で初めて入院した事件かもしれない。

「なめんじゃねぇ! てめぇが俺に勝てるかよ!」

「なめてんのはそっちだろぉが! 可愛い顔が歪んでるぞぉ!」

 一回。たった一回きりの大喧嘩だった。それこそ理由は実にくだらない事から始まった。いうなれば価値観の違いだ。どっちが正しくて、どっちが正しくないか。それで大いに揉めただけだ。

 自滅因子は広がる。

 この世で俺を殺せる存在がいるとして、それは司狼だけだ。そう確信している。だからこそ申し訳なく、そして同時に嬉しい。馬鹿やって毎日笑って、そして既知感が感染してしまった。止まるか進むか。その違いで争った。

「進むってのかよ!」

「あぁ、そうだ! 解ってんだろ!?」

「解ってるさ馬鹿野郎! それでもここをはなれたくねぇんだよ!」

「なら俺とはここまでだ、てめぇだけ腐ってろ!」

「てめぇがいるからここで腐っていられるんだろうがぁ!」

「やめて! お願い! 司狼も明広ももうやめて―――!」

 香純の馬鹿が必死に叫んでいたのも覚えている。止めに入った教員は全員司狼とぶっとばしたから誰も止める人間がいなくて、結局最後にダブルノックアウトするまで二人で叫びながらなぐり合っていたのを思い出す。途中で玲愛も来たが、呆れた様子で楽しそうに殴りあう俺たちを見てたはずだ。

 あんな事が起きても、俺たちは馬鹿をやっている。病院に入院して、エリーにあって、既知感が感染して、それで互いに妥協点を見つけて、更に馬鹿をするようになった。だが、結局、俺も司狼も勝ちも負けもしなかった。完璧な引き分けだ。だけど、この世で俺を殺すことができる相手はアイツしかいないと確信している。何故か解らない。が、俺がどんなに死にたがっても、それを成せるのは絶対にアイツだけで、アイツは絶対に俺を殺してくれるって確信がある。

 癌細胞。

 自滅因子。

 知らない言葉なのに、知っている。

 ―――これもやっぱり”アレ”なんだろうなぁ……。

 ゆっくりとだが司狼と殴り合いをしていた意識から剥がされていく。そうだ。これは過去だ。少し浸っていただけだ。あぁ、だがなんだろう。不思議と心が休まる。なぜだか解らない。ただ昔を思い出しているだけだ。懐かしい。ここ最近、よく昔の事を思い出す。正直やめてほしい。こんな幸せに浸っていたら自分は弱ってしまう。せっかく尖らせた刃が鈍ってしまう。

 いらない。

 幸せはいらない。

 破滅の道を突き進む刹那なんだ。

 悪いな司狼。

 お前に殺されるって約束、守れそうにないや。

『アスは本当にそれが望みなの?』

 意識が浮上する。


                           ◆


 ゆっくりと覚醒する意識が一番最初に感じ取ったのはベッドの柔らかさだ。前に感じたベンチの冷たく、硬い感覚ではなく、ベッドの柔らかいシーツとマットレスの感覚だ。本当に久しぶりに感じる背中の柔らかさには、眠気を覚えそうになる。

「ん、起きたようだね?」

「……」

 眠気を抑えて上半身を起き上がらせると、ベッド横の椅子にカインが座っていた。足を組んで、こちらの様子を窺うように座っていたらしい。その手の中には本があることからそれなりの時間をここで潰していたに違いない。だから、まずは、

「何日だ?」

「君とハイドリヒ卿が戦ってから三日が経過しているよ。ハイドリヒ卿に一矢報いた君はそのまま力を使い果たして泥のように眠ったんだ。おそらく君の進化した魂に、体を合わせるための準備期間だね。おめでとう。これで君は本格的に僕たちの仲間入りだ―――とはいえ、位階で言えばまだまだなんだけどね」

 仲間入り。

 それはつまり、俺はラインハルトに敗北してしまったという事だ。自分が敗北した事実に呆然としていたところ、カインが済まなそうに頭を一度下げる。

「ごめん。君には嬉しくない話だよね。ハイドリヒ卿も珍しく戦ってくれる相手がいて嬉しかったんだ。あの人は強すぎるから本気を出すことができない、少しかわいそうな人なんだ。みんなで少しやりすぎだって怒ったから、もういきなりあんなことにはならないと思うけど……」

 なんだかいろいろと信じられない発言が聞こえてきた気がする。全員でラインハルト相手に怒った? なんだそれは。と、そこで、

「入るぞ」

 自分のいる部屋の扉が開く。扉を潜って入ってくるのは獅子の鬣を思わせる頭髪の持ち主―――ラインハルトだ。存在するだけで周りをすべて押しつぶし、塗り替えるような存在は……

「起きたかサイアス」

「ハイドリヒ……!」

 素早くインベントリを開く。よく見れば装備は全部外されている。余計な事をしてくれたと思う。生き残るためにも素早く武器防具を装備して―――

『大丈夫だよアス』

 黙ってろ。貴様は浜辺で呑気に歌ってろ。

『この人はもう大丈夫だよ』

 魔女の信用ならない言葉に耳を傾けて意識をそらしてしまった間に、ラインハルトの手が素早く動く。指揮者の様な動きでインベントリから何かを取り出している。

「最初に示した通り、卿は私に敗北したことで私の所有物となった」

 そうだ、俺は敗北した。そして約定とは簡単に覆せるものではない。一度破ってしまっては信用も信頼もなくなってしまう。何より敗北して、そしてさらに約束を破ったとなると恥の上塗りだ。自分を惨めな存在にするだけだ。

「故に―――卿を我が黒円卓の一人として面倒を見、管理するのも私の職務だ」

 そう言ってラインハルトはインベントリからグラタンと思わしき料理を実体化させる。料理系のアイテムはインベントリの中にあっても長く保存できるものではない。つまりは少し前に作ってきたというわけだろう。それをベッドサイドのテーブルに置いて、ラインハルトは部屋から去ろうとする。

「卿が私を倒そうとし、一矢報いる姿真に見事であった。卿のその熱には私も驚かされた。故に将来、私を打ち倒す事を期待し―――友と呼ばせてもらうよ。あぁ、あとそれはしっかり食べたまえ。少々レアな素材を使った自信作だ」

 最後の一言で台無しだ。というか何かいろいろとありえないものを見た気がする。ベッドサイドのテーブルにおかれた料理はおいしそうな匂いを放っている。確かに食欲はあるし、腹も空いているが……正直このまま食べていいか悩む。

「信じられないかい?」

 ラインハルトがいた間は黙っていたカインが口を開く。

「ハイドリヒ卿は確かに僕達と異なった価値観の持ち主だよ。破壊を愛だとするし、人類すべてを愛していると言っている。それは確かに狂人の理論で排除されるべき人間なんだ」

 そう、ラインハルトの精神構造は異常だ。破壊を愛だと言ったあの男は総てを愛しているとも言った。つまり人類を皆殺しにして初めてその愛を示すことができるのだ。そして、あの男はそれに対して微塵も抵抗を見せることはないだろう。それこそが自然な愛の形なのだから。

「だけど、ハイドリヒ卿も一児のお父さん、シングルファーザーなんだよね」

「え」

「今の考えにたどり着く前に結婚して、難産の結果、奥さんは亡くなったけど、子供だけは助かったらしいよ。その経験があるから破壊だけが愛とは限らない、と言ってたね。だから週末は息子のイザーク君とキャッチボールしたり、料理裁縫日曜大工を、お手製エプロンで作業をするホームパパなんだよ。アレで」

「アレで?」

「そう、アレで」

 この世でもっとも不思議な事を知ってしまったかもしれない。あの摩神の如き一撃を放った男がエプロンをつけて料理だなんて到底想像のできる光景じゃない。できたとしても気が狂いそうだ。

「ともあれ、僕たちは君の入団を歓迎するよ。半ば強引で拉致に近い形だったし言いたい事はあるだろうけど、仲間となった以上僕たちは君を仲間の一人として扱う予定だから」

 仲間。

 それは、いらない。

 そんなものができたらまた弱くなってしまうから。

「まぁ、思うことはあるだろうけど」

 カインが立ち上がる。

「まずはハイドリヒ卿の差し入れを食べてくれると嬉しいかな? 僕たちは今日は一日中教会にいるから、探せばすぐに会えるよ。食べ終わったら誰かを探して来てくれると助かる、一度自己紹介をしておきたいからね」

 それでは、と最後まで気遣うような姿を見せていたカインが扉を抜けて去って行く。

 結局、残されたのはラインハルトの差し入れだけだ。それに視線を数秒向けるが、

「……食べ物には罪はないもんな」

 料理の耐久値が下がって劣化する前にグラタンと付属の木のスプーンを手に取り、それを口に運ぶ。美味い。かなり美味い。暖かい。かなりレアな素材を使っているのか、ここまで美味い料理は食べたことがない。一口食べた瞬間次の一口がほしくなるような味だ。食べても食べても次がいける。

「……」

 そう、全く初めて食べる味なのに、

「なんでだよ……」

 何故か、トウカの事を思い出す。彼女が作ったように、相手を思いやる気持ちの込められた料理の様な気がする。あの黄金と彼女では技量の差はもちろんのこと、人間として、生物としての格も違う。なのに今食べている料理を通して感じる暖かさは、同じ、相手を思いやる暖かさだ。

「なんでだよ……!」

 スプーンの動きが止まらなく、頬を伝って落ちる涙が止まらない。

 ≪ソードアート・オンライン≫は残酷なゲームだ。涙を我慢しようとしても勝手に涙が流れる。涙を隠しようがない。惨めだ哀れだ。戦って戦って戦って、今まで勝ってきたのにパっと出の奴らに連続で敗北して、その挙句スカウトされて温情をかけられている。惨めだ。

『アス……泣かないで』

 惨めだ。敵だった者に施しを受けて、仲間だと言われている。生き恥を晒している。

『泣かないで、私も悲しくなっちゃう。お願い、泣き止んで』

 静かに流れ続ける涙は止まらない。それが料理と混ざって少し塩辛く感じるが、それでも料理を必死に食べる。食べながら涙を流す。ごめんなさい。信じてると言った君の信に背いた。勝利を約束していたのに負けた。負けたのに生きている。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。敵の施しを受けて一瞬でも喜んでしまった事にごめんなさい。こんなに惨めになっても生き残ってしまった事にごめんなさい。

 それでも、生き恥を晒さなければいけない。

 生き残ったのなら―――まだまだ死ねない。

 ここまで来たのなら人としての尊厳も道徳も全てかなぐり捨てる。もう手段は選ばない。強くなるためだったらすべてを利用する。そう、それしか生き残る方法は存在しないのだ。魔女も、外道の業も、黒円卓も、ラインハルトも、全てを利用して生き残って―――茅場晶彦を殺す。

 それが、俺の人生の終点だ。

「彼女のいなくなったこの幻想で―――生き恥を晒してでも絶対に殺す」

 新たな殺意を胸に、前に進むことを決心する。
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| 断頭の剣鬼 | 08:27 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

更新おつです!
アスアス黒円卓強制入団の巻。
そして閣下のグラタン。俺にもくれ。
負けた、しかしまだ生きている。
アスアスの闘いはこれからだ!

| 影連 | 2012/07/31 09:46 | URL |

今日もエプロン閣下は平常運転(笑)
しかし、団員全員から自重しろと怒られる閣下……うん、想像できねぇ( ̄□ ̄;) そしてそれだけに笑える
今回はサイアスに妖怪化フラグが本気で立ったの巻き。
あぁ、刹那に葛藤するサイアスさんマジヒロイン(笑)

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/07/31 10:28 | URL | ≫ EDIT

閣下のエプロン姿マダー?

| | 2012/08/01 05:43 | URL |















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