陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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黄金 ―――チャペル

 久しぶりに昔の夢を見た気がする。

 既知感があっても笑っていた日々。既知感のない展開を探していた日々。

 既知の攻略法を探していた日々。

 ばかばかしく、美しい日々だった。

 今はもう既知感が来ない。それはトウカのおかげか、それとも詐欺師が取り除いたか、もしくは魔女が宿ったからか。それを判別する方法はない。だが久しぶりに見た昔の夢のおかげで、不思議と心は落ち着いている。ささくれ立った心が癒された気がする。だからだろうか、特に警戒する事もなく、起きてしまったのは。


「っ……」

 顔にかかる光が眩しい。光が当たるという事はここは二十七層以外の階層という事なのだろう。最低でも二層下のフロアに連れてこられた―――最悪の場合で≪黒鉄宮≫だろう。軍服を着ていたことだし≪アインクラッド解放軍≫に売られたとしても何の不思議もない。冗談だ。流石にあの連中が≪アインクラッド解放軍≫なんて軍隊ごっこの集団と組むわけがない。

「……お、おい」

「……お前が起こせよ」

「え、いや、だって……」

 なにやら声がする。意識を落とされる前に聞いた声ではなく、もっと幼い、子供の声だ。なにやら起こしに来た様子だが……魔女が静かで久しぶりに調子がいい。しばらくぶりに眠れた事が幸いしているのかもしれない。衣のフードを被り、顔を隠しながら体を起き上がらせる。そして漸く自分が居る場所を理解した。

 教会だ。

 顔に当たる光はステンドグラスを通しての光で、若干硬く感じられた背中の存在はベンチだった。つまり教会の中のベンチに寝かされていたのだ。せめてもう少し柔らかいベッドで眠りたかったが、そこまで高望みするべきではないのだろう。自分の状況を確認する。

 拘束されていないところを見ると捕虜のようでもないし、防具を持っているのを見る限り何も―――

「……ッチ」

 得物がない。流石に武器だけは取られたか。それもそうだろう。

「ひ、え、あ」

 そこで、声の主達の存在を忘れていた事を思い出し、顔をそっちへ向ける。そこにいたのは可愛らしい服装に身を包む小学年ぐらいの男女の三人だった。舌打ちをする此方の姿に若干怯えている。流石に子供まで威嚇する趣味はない。被ったばかりのフードを下ろす。

「おはよう」

 たぶん朝だ。軽く挨拶したら三人が背中を向けて逃げ出した。

「ああああ!!!」

「うわあああああん!!」

「助けて―――!!」

 悲鳴を上げて逃げる子供達の姿を見て、自分の顔を押さえる。

「……そんなに酷い顔をしてるのか」

 子供は純粋だ。まるで透き通った水のような存在だ。濁りがない。だからこそ、綺麗に相手を映す。鏡のように。本質が見えてしまう。だから、子供に怯えられる今の俺は酷い顔をしているのだろう。指の動きでインベントリを開くように操作し、その中から手鏡を取り出す。はじまりの日に茅場晶彦が配ったものとは違う。迷宮攻略用に持ち歩くものの一つだ。それに映る自分の顔を確認する。

「はは……こりゃあ酷ぇ」

 鏡に映る顔は能面のように感情を映さない殺人者の顔だった。目からは光が消えていたりと、見かけたら迷わず警察に通報するレベルの顔だ。あぁ、これは逃げられても仕方がない。改善する為にも少し笑みを浮かべようとして……出来上がった不自然すぎる笑みに呆れる。

 笑みの浮かべ方すら忘れたのか。

 夢の中では笑えていたはずなのに。

 夢とは変わりすぎた。あの頃には戻れるはずもない。

 鏡をインベントリに戻しながら再びベンチに倒れる。武器がないのでは他にする事はない。あの子供達はおそらくどこかへ案内する役割だったのだろうが……怖がらせてしまった今では過ぎた話だ。せめて今度は怖がらせないようにと、フードを被って顔を隠す。

 しかし、

「遠くへ来たもんだ」

 アインクラッド内の移動ではなく、自分の人生における旅路だとか、そういう感じの話だ。最初は少し特異な学生だっただけだ。駄目だ。嘘ついた。どう考えても少し特異な程度では済まない。思いっきり異常な少年だった。もうそこらへんは譲歩して諦めよう。だから、まあ、

「まだ続くのだろう」

 この旅。

 まだ死ねる気がしない。

「ふぅ……」

 軽く吐き出した息と共に、ベンチの上で寝返りを打つ。

 そうやって思い出すのはやはり、教会での光景だ。片手で顔を覆い、目を閉じればあの頃やっていた馬鹿な行動が幻視できる。教会とはそれなりの付き合いだ。といっても、別に信心深い訳じゃない。前エリーが十字架に祈るというのは変態行為だと言っていたが、それには全面的に同意する。だから信仰とか、そんな理由から行ってたわけじゃない。一学年上の先輩がしきりに送れ送れと言うから家へと送ったらそれが教会だったってオチだ。

 何て事はない、氷室玲愛という少女は教会に預けられた娘だったというだけだ。親代わりの神父とシスターさんの三人で楽しそうに暮らしていた。

「ッチ」

 駄目だ。思い出しては駄目だ。あんな幸せな日々を思い出したら憎悪が薄れてしまう。あの刹那にはもう戻れないんだ。あの綺麗な光とは無縁の生活になったんだ。俺はもう地獄の底で腐りながら血を浴びて生きるしかない。あの幸せは思い出しては……駄目なんだ。

 それだけに俺は罪深いから。

「―――そこまで自分を追い詰める必要性を私は感じませんがね」

 声がした瞬間、体を起き上がらせ、ベンチに寄りかかる。不思議と警戒する気にはなれない。

 気配と共に教会の礼拝堂に一つの影が現れる。子供達が消えていった方角、礼拝堂の奥から現れた男はベイやマキナ、カインと変わらない軍服姿だった。だが鍛え上げられた肉体を持っている彼らとは違い、こっちの男はやせていた。とてもだが軍服の似合う男ではない。細い体に白髪、これで相手がどんな存在か知らなければ体調を気遣う所なのだが。

「申し送れました。私は≪聖槍十三騎士団黒円卓≫の第十位を飾らせて頂いているシュピーネと申します」

 頭を下げてくる男に対して何かリアクションを取るべきかと思ったが、

「時刻は朝の九時三十分。ここは第一層、≪はじまりの街≫の中で、我々が一時的な拠点とさせて頂いている所です。先ほどの子供達とシスターが静かに暮らしているところに、護衛とベビーシッティングを条件に居候させてもらっているのですよ」

「……」

 確かに知りたかった情報だが、余計な情報までついてきた。若干対応に困るが、シュピーネと名乗った男は特に気負う事もなく近づいてくる。

「我々の上司が子供好きでしてね。ちゃんとした食事を取らせないと嫌そうにするのですよ」

 ……一瞬でイメージが壊れた。超人集団の親玉、詐欺師と繋がりのある人間。当初のイメージでは世界の全てをぶっ壊しておきながら、愛しているから壊したと主張する。そんな狂人が出てきてもおかしくないと思っていたが―――

「―――普通すぎて拍子抜けしますか?」

「……」

 また考えている事を当てられた。そのことに関して少し得意そうな表情をシュピーネが浮かべる。

「失礼、人と関わる職業に長い間ついていると段々とですが解ってくるものなのですよ。大体どんな事を考えているのかが」

 ある程度近づいたところで、動きを止める。

「特に貴方は解りやすいタイプですから」

「……顔には出してないはずだ」

 フードで顔を隠しているから解らないはずだが、

「いえ、別に顔で判断しているわけではありませんが……そうですね、これ以上は企業秘密という事で」

 どこか人と会話する事に慣れている人間のように感じられる。おそらくは交渉とか、そんな関係の職業についていた人間なのかもしれない。そういう類の人間とはあまり縁がなかったため若干新鮮に感じられる。と、そこでシュピーネが軽く手を叩く。

「色々言いたい事はありますでしょうが、まずは信頼の証としてこれをお返ししましょう」

 そう言い、シュピーネが手に取ったのは見覚えのある物だった。

「……」

 ≪羅刹≫。今の自分が命を預ける事を許す唯一の得物だ。シュピーネが片手で握り、持ち上げるそれにはマキナによって付けられた傷は残っておらず、綺麗に磨かれていた。磨き上げ、修復された魔剣はステンドガラスから差し込む光を浴びて輝いていた。そこでシュピーネは見た事のないものを取り出す。

 鞘だ。

 黒い鞘だ。おそらくシュピーネが作ったものだと推測するが、恐ろしく頑丈で美しい物だと判断できる。鞘に施された赤い桜の花びらはちょっとしたしゃれっけなのだろうか、中々に趣味がいい。≪羅刹≫を鞘の中にしまうと、

「どうぞ」

 それを近くのベンチに置いて少し離れる。まだ此方が信用していない、警戒している事を考えてこんな回りくどい事をしているのだろう。鞘なんか使ってなかったし、丁度いいといえば丁度いい。

「朝食の方も用意してありますので此方に置かせていただきます」

 そう言ってインベントリから料理オブジェクトを実体化させ、刀の置いてあるベンチの上に並べる。

「食べ終わったら奥の部屋の方までお願いします。一本道ですので迷わないはずです。上司の作ったものですが、かなり美味しいですよ」

 それでは、と最後まで会話のペースを握った男は礼拝堂の奥へ姿を消した。気配が礼拝堂から消えて奥へ行ったのを確認すると素早く鞘に入った得物を回収する。

「……良かった」

 武器ステータスを開いて確認したところ、完全に修復されている以上の事はされていない。鞘も特におかしなところは見当たらない。どうやら本当に鞘をプレゼントしてくれただけのようだ。くれるというのであれば貰っておこう。否定する理由はない。腰に差すには大きすぎるそれを肩からぶら下げる。敵地の中で武装解除はしたくない。そして油断もしたくないが、

「……」

 ベンチの上に置かれたスープやトーストが誘惑してくる。

 覚えている限り、前に食事したのは―――約一週間前だ。

 食事をしなければスタミナの値が下がり、疲労を感じやすくなるのがソードアート・オンラインだ。もちろん空腹も感じる。だから食事というのは案外馬鹿に出来ない要素だ。餓死する事はないが、空腹から集中力の低下は発生する。

 それを超える集中力で耐えれば問題はないのだが、

「……食うか」

 美味しそうな匂いに食欲が抑えられない。恐る恐る手を伸ばし、並べられている食べ物のうち、トーストを手にとって、軽く千切りスープにつけて食べる。

「……」

 片手でスープのボウルを握ってトーストをつけ、それを一心不乱に口へと運ぶ。トーストがなくなったらボウルから直接スープを飲む。スープがなくなったら視線をベンチの上に残ったサラダに向ける。迷う事無くサラダを素手で掴んで食べる。全部口に放り込んで食べ終わったところで動きを止める。

「……美味い」

 久しぶりに食べ物を口にしたせいか、質素な朝食だったが異常に美味しく感じられた。役目を果たした事で食器類が崩壊して消える。誰もいない、料理のなくなった礼拝堂のベンチの上に座り込む。早いところシュピーネに会いに行くべきなのだろうが、

「俺……何やってんだろ」

 そう呟かずにはいられなかった。

 憎んで、斬って斬って斬って、殺して、やっぱり最後は満足して自分の腹掻っ捌いて終わるのだろうか。うん。なんとなくそんな終わり方をする気がする。大体自分みたいな存在が現代社会に戻って馴染める訳がない。あるいは司狼みたいに社会の爪弾き者として生きるのも手段かもしれないが、

「まだ早いか」

 まだまだそういう事を考えるのは早い。今は今を、後の事は後で、頭の片隅で覚えておくくらいがちょうどいい。ここにトリファでもいてくれれば懺悔の一つや二つ聞いてくれるのかもしれないが―――いや、やめておこう。

『ん……』

 今まで眠っていた魔女が静かに意識を覚醒させるのを認識する。この静かな心でいられる時間ももう終わりだ。昔の事は十分に思い出せた。だからまた、憎悪と憤怒を纏って地獄の剣鬼に戻ろう。それが俺みたいなのには相応しいから。

 ベンチから立ち上がる。

 向かうべき場所はひとつしかない。
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| 断頭の剣鬼 | 10:09 | comments:9 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

シュピ虫―もとい、シュピーネさん
キタ――(≧∀≦)――

ヤバイ、てんぞーさんのシュピーネは小物臭がだいぶ緩和されてる(笑)
でも羅刹を置いて離れるのを想像すると笑えるw

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/07/28 10:31 | URL | ≫ EDIT

シュピーネさんってばマジシュピーネさん。
シュピシュピシュピーネさん。

明広…もといサイアス、うん、なんだ。なにが言いたいのか忘れた。アスアスたんアスアス。

| ろくぞー | 2012/07/28 11:23 | URL |

シュピーネサンキター!

しかしこのころのサイアスは一番歪んでいますね。
本当、これが後々同じギルドに所属しマリィと結婚するのが不思議ww

| 裸エプロン閣下 | 2012/07/28 11:26 | URL |

シュピーネさんキターー
ここからどうなったら仲良くなるのか不思議でならない。

| タッツミー | 2012/07/28 11:53 | URL |

キャーシュピーネサーン!
シュピーネさんマジシュピーネさん。
某スレのせいでシュピーネさんが凄く優秀に見える

| とろつき | 2012/07/28 15:58 | URL |

コメントにネタバレだと・・・!?

サイアスたんはこの辺が一番荒れてるのか。
てかシュピさん人気だな。

| | 2012/07/28 20:45 | URL |

ネタバレは移転物だからしかたない部分も…?
だが、ネタバレした奴は首置いてくべき

| | 2012/07/28 20:56 | URL | ≫ EDIT

初感想を書かせてもらいます。
シュピーネさん来た! 小物臭がしないシュピーネさんもいいなぁw
しっかし、これが荒れてた頃のアスアスか~。納得っちゃ納得。そしてこのあれ具合を表現できるてんぞー氏はすごいな~。これからも続き待ってます。

| ossann | 2012/07/28 21:11 | URL | ≫ EDIT

シュピーネさんに小物臭がしない……だと……!?

| 暇人 | 2012/07/28 23:35 | URL | ≫ EDIT















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