陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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黄金 ―――ノー・フューチャー

*1推奨BGM:AHIH ASHR AHIH


 マキナの動きを制したのは二つの声だった。

「それ以上は」

 声と共に前に一歩だけ出たのは黒髪の東洋人の男だった。

「殺してしまえばハイドリヒ卿にどう言い訳するんですか」

 優しい物腰の青年だ。言葉でマキナを引き止めようとしている。出会った瞬間暴力を披露してこないあたりはマキナよりも好感が持てる。

「怒られたいならてめぇ一人の時にしろ。テンション勝手に上げて戦った挙句、そのまま殺しちまったごめんなさいなんて冗談じゃねぇぞ」

 白髪の男も一歩だけ前に出る。その言葉は荒々しく、黒髪の男とは真逆の印象を受ける。


 黒髪の男の言葉を受けてマキナが拳をおろす。

「元より試すだけだ。殺す気はない」

「お前がそれを言っても説得力ねぇんだよアホ。気付いとけ」

 軽くマキナを罵倒する男が溜息を吐く。空気から緊張が抜けていくが、

「……」

 静かに得物を構えなおす。素早く確認すると≪羅刹≫の耐久値は四分の三ほど削れている。これでもあと数週間はメンテナンスなしで戦い続ける事ができるだろう。だが、目の前の存在と戦う事を前提で考えるのであれば足りない。先ほどの斬撃―――あの特性を刃に映せばあと数合は打ち合える。何故そんなことが出来ると言えるのか、その理由は知らないし、知りたくもない。知識の源への干渉は否定する。勝手に手伝うな。うるさい。黙れ。

『アス……』

 黙って引きこもってろ。お前の助けはいらない。

 構えたまま、いつでも動けるような体勢で三人を見る。

「あー、本当にすいません。これも職務の一部なんです」

 困った様子で黒髪の男が一歩近づく。その動きと共に一歩後ろへ下がる。それを見た男の動きが停止する。黒髪の青年が白い手袋をした手で軽く頬を掻く。その仕草はどうにも人間臭くて本当に困る。マキナとは違い人間味に溢れ、白髪の男と違って礼儀正しい。

 だが、こういう男こそ警戒しなければならない。

 信じて騙されれば終わりだ。

 だから、もう一歩後ろへ下がる。

「おいカイン。てめぇ信用されてねぇぞ」

「困ったなぁ。危害を加えるつもりはないんだけど……マキナ卿、やりすぎです」

「知らん。俺は仕事をしただけだ」

 どうやら黒髪の優男はカインというらしい。名前が把握できたのはマキナとカイン、おそらくあの詐欺師と何らかの繋がりを持った集団で、システムを完全に超越した化け物。―――勝てるイメージが湧かない。

 駄目だ。情報が足りない。

 意を決して口を開く。

「何のようだ」

 警戒を一秒たりとも解かずに声をかける。

「初めまして、それで自己紹介の前に―――」

 カインと呼ばれた男が頭を下げる。

「まずは、すみません。マキナ卿も決して悪気があったわけではないんです。ただ、上司がなんというか……凄い人でして、少し撫でてこいって命令されていたんです」

 ……なんだこれ。

 そう思っている間にも、

「改めて、初めまして。≪聖槍十三騎士団黒円卓≫に所属している桜井戒といいます」

 名乗られた。しかも本名で。

「おい、カイン、そりゃあ本名だ」

「あ、あはははは」

「……」

 何だこいつら。

 ふざけてるのか……これ?

 思いがけない事態に毒気が抜かれそうになる。解けそうになる警戒心をかき集めて、一瞬たりとも視線を逸らさずにリアルネームをいきなりバラした”桜井戒”に視線を向け続ける。

「うーん、僕はネットゲームとかあんまり得意じゃないからなぁ」

「アホかてめぇ。慣れてる慣れてねぇじゃなくて慣れるんだよ。それが俺達の仕事で、言われたからにはやるんだよ。そこに俺達の意思は関係ねぇんだよアホ」

 なかなかどうして、口が悪いだけのチンピラだと思っていたが、職務に対する誠実さはポイントが高い。相変わらず困った様子の戒を置いて、マキナが言葉を放つ。

「来い。ハイドリヒが貴様を呼んでいる」

「断る」

「おいカイン」

「だから僕が交渉するって言ったんだけど……ヴィ―――」

「ベイだベイ! てめぇもうここに来て何ヶ月経ってると思ってんだよ! いい加減慣れろよ!」

 苦労しているところ悪いが漫才に付き合う程やさしくはない。常に袖の中に隠しているスローイングナイフを一本手に取り、それをランタンへと向けて投擲する。

「あ、やっぱ信用されてないのか」

「むしろ信用されてたら正気を疑うぜ」

 白髪の軍服チンピラ、ベイと名乗った男とはどうやら話が合いそうだ。だが今は逃げる。正面から戦っても勝てない事は理解できるし、魔女の力を使って生き延びるのは嫌だ。傲慢かもしれないが、

「その首は何時か貰う……!」

 魔女に頼らずに殺す方法を見つけ出して全員殺す。その時まで力を鍛える。

 一瞬でランタンを破壊してから逃走行動に入る。予め暗闇の中でも戦えるように迷宮区の内部は暗記し、目を瞑ってでも動けるようにしている。だから即座に三人に背を向けて全力で走る。非常に気に入らない事だが魔女の力を一度使った事で、体は一歩人外へと踏み出してしまった。その身体能力は今までとは比べ物にならない程上がっている。

 前よりも一段と身体能力が上昇している事を認識しながら爆発する様な勢いで迷宮区を駆け抜ける。その逃走に全力を込める。

 が、

「馬鹿が―――」

 ベイが呟く。

「―――逃がすかよ」

 呟いた瞬間には動き出していた。気配を察知した瞬間には遅い。こっちを数段上回る速度で加速を開始するとあっさりと追い越し、回りこむ。まるでなんでもないかのようにこちらの全力を否定されては、流石に心穏やかではいられない。

 こいつらは―――危ない。

 何が危ないかというとその思想や行動ではなく、存在自体が危ない。そこに存在するだけでこのアインクラッドにおけるプレイヤーたちの存在を否定している。だから危ない。俺が理解できている部分だけを話してもこの男達を非難し、力の欠片を欲しがろうとする人間はそれこそ腐るほどいるだろう。そんな彼らを非難するつもりはないし、経緯はどうあれ同じ存在になった俺に何かを言う資格など存在しないだろう。だが、やはり、反則だ。

「悪いな、俺ぁ夜目が利くんだよ」

 一瞬で回りこみ接近したベイの腕が振るわれる。暴風にも等しい一撃は水月に突き刺さり、

「少し寝てろや」

 さらに追撃。痛みで硬直した体の首裏に、意識を奪う一撃が繰り出される。あぁ、悔しい。本当に悔しい。天狗になっていないと言えば嘘になる。だから、手痛いしっぺ返しを喰らう覚悟だってしていた。だけどそれはあくまでも人間に限った話だ。

 こんなチーターの集団にだけは負けたくなかった……。

 落ちていく意識のなか、声が聞こえる。

『アス……アス……!』

「ベイ中尉、できればもう少し穏便に」

「手段は問われていない」

「マキナ卿まで……」

 クソ、クソ、こんなふざけたことを言う様な連中に負けることが何よりも悔しい……!

 完全に意識が途絶える。


                           ◆

*1


「おい明広」

 馬鹿が話しかけてくる。制服なんか似合わないのに形だけ学生って気分を味わいたがっているから学生服を着ている。オレンジ色の髪や刺青、アクセサリーを見ているとどこからどう見てもドロップアウトが仕方なく学校に来ているようにしか見えない。これで全教科満点の天才なのだから本当に困る。神様はもう少しバランスのいいパラメーターの振り方を覚えた方がいい。

「お前先輩や香純の事どう思ってんだよ」

 屋上で授業をサボりながら雑誌を読んでいるとそんな事を聞かれる。

 どう、って聞かれればそりゃあ……。

「馬鹿と電波」

「うお、酷ぇなお前。今頃あの二人泣いてるんじゃねぇの」

「んじゃエリーに関して一言」

「頭のイカレた女」

「お前も人の事言えねぇじゃねぇかよ」

 こんなくだらない会話なのに、何故か愉快で仕方がなかった。何が面白いのかわからないのに笑った。エリーも非常に男を見る目のない女だ。こんなチンピラに捕まってしまうとは。この先の人生、刺激に関しては一生苦労する事はないだろう。

「なぁ、明広」

「んだよ」

 屋上に寝転がりながら空を見上げる。日差しの強い晴天だ。暖かい陽気が眠気を誘ってくる。このまま寝てしまうのも選択肢としては悪くないかもしれない。

「何時になったら終わるんだろうな」

「さあな」

 そう言う司狼が指し示している事は一つしかない。

 ―――既知感だ。

「……悪い」

「謝るんじゃねぇよ」

 既知感は感染する。極僅かな確立で身近な人間に。俺から司狼へ。司狼からエリーへ。そうやって感染した毒は俺達の毎日を退屈に染め上げる。この日常を愛している事に違いはない。だがそこに既知感が来ると―――まるでレイプされている気分になる。

「何時も既知ってる訳じゃないんだよな」

「お前そりゃあ四六時中デジャヴってたらもう自殺もんだよ。やる事見る事聞く事全部デジャヴってんのに耐えられるのは相当精神ぶっとんでるやつだけだぜ?」

「んじゃあその欠片だけでも耐えられる俺らってのは―――」

 一体、どこまで壊れているのだろうか。確実に人間としての精神構造の一部は破綻しているだろう。

「めんどくせぇ」

「おう、めんどくせぇな。だけど、楽しいよな。よく考えろよ、普通じゃあこんな毎日ありえねぇぜ。ガッコー行って、授業受けて、彼女作って、結婚して、ガキ作って、仕事して死ぬ。俺はよ、お前に感謝してるんだぜ? コイツのおかげでせめて退屈はしねぇ」

「うわ、お前が感謝してるとかキモッ」

「おいおい、俺はこんなにも愛してるのに明広ちゃんツレねぇなぁ」

 頭の悪い会話だ。

 本当に、頭の悪い会話だ。重要そうで大したことのない、どうでもいい、もうわかっていることを口にしているだけの会話だ。だからといって意味がないわけではない。この一分一秒を大事に過ごしている。確かに既知感は忌々しい。だがたとえそれに似た状況、似た環境、似た状況を経験してやる事に既知感しか感じられなくても、それが楽しい瞬間だとわかっていれば俺は楽しめる。そしてこいつも、そこまでは悪く思ってないだろう。

「今度は何をする?」

「そうだなあ、少し前は何したっけよ」

「チンピラの集団に喧嘩売ったんだよ。お前がな。俺は家帰ってゲームしたかったのに」

「皆可愛い明広ちゃんに逢いたかったんだよ」

「よく言うぜ」

「だけど……限界だな」

「そうだなぁ」

 今の状態で選べる選択肢には限界はある。近場で、合法的に手を出せる事には大方手を出した。馬鹿ばっかりの時間だったが、悪くはない。

「……そうだ」

 司狼が何か思いつき、何かを言おうとしたところで屋上への扉が開く。

「あー! やっと見つけたー!」

 屋上へ続く扉が勢いよく開けられるのと同時に、うるさいのに見つかったと溜息が出る。

「ちょっと司狼も明広も何私の顔を見ていきなり溜息だしてるのよー!」

「いやぁ……なあ?」

「そりゃあまあ、なあ?」

「そこ! 目で通じ合わない! というか、授業に出なさいよ! あんた達の面倒を私が見てるって事になって私が怒られるじゃない!」

 香純が口うるさく注意してくるが、これもまた日常の、刹那の一部なんだ。この瞬間は輝けるだけの力で輝き続けたい。切にそう願う。この時間は永遠には続かない。だからせめて、この瞬間だけは、楽しく過ごせるように力いっぱい輝こうと。

「綾瀬さん怒らない怒らない」

 そう言いながら開けっ放しだった扉を通って、少しだけ背の低い俺達の先輩が現れる。

「玲愛さん! こいつらは甘やかしちゃ駄目なんです! 甘やかすと直ぐ調子に乗っちゃうんだから」

「いや」

「俺達何時も調子に乗ってるし」

「なあ?」

「なあ?」

「そこ! 通じ合わない!」

「遊佐君と最上君って凄い通じ合ってるよね。女としてはどこか悔しく感じるけど、腐ってる部分を刺激してきて少しだけ興奮する」

 顔を赤らめながら言ってくる氷室玲愛の言葉にげんなりする。

「先輩……BLいけるんですね」

「少しだけ。買ったりカップリングするほどじゃないけど女子の話題の為に少しだけ知識を。とりあえず最上君が攻め……」

「はいはいはいはい、そこまでにしましょうねー? これ以上は俺の精神がもたない」

 香純、お前も顔を赤くしてないで止めろよ。お前の幼馴染が脳内で凄い事になってんだぞ。これはアレだ。妄想肖像権侵害とかそんな感じの犯罪じゃないのか。

 あぁ、だけど。

 こんな日常が毎日続けばいいのに―――。

                   『それが、アスの望みなの……?』

 急速に意識は覚醒する。
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| 断頭の剣鬼 | 10:21 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

誤字

「困ったなぁ。別に気概を加えるつもりはないしなかったんだけど……」

気概ではなく危害かと。

| くれいく | 2012/07/27 10:31 | URL |

電波先輩が電波だ…!
そしておめーらヒロイン(笑)の扱い雑いぞ。くれ。主に電波先輩紹介してください。

| ろくぞー | 2012/07/27 10:45 | URL |

感想

ども、お久しぶりです。
にじふぁん時代では描かれなかった「黄金」。いいですね。
読んでてとても楽しいです。

「首おいてけ」になってから、「赤鼻のトナカイ」まででサイアスの雰囲気ががらりと変わったので、結構このあたりの話は知りたかったんですよね。

あぁ、獣殿との対戦シーンが待ち遠しいです。

| 断章の接合者 | 2012/07/27 21:12 | URL | ≫ EDIT















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