陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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黄金 ―――ホープレス

推奨BGM:Noli me Tangere


『Je veux le sang, sang, sang, et sang』

 ―――眠れない。

 ここ数日は一睡もしていない。とてもだが眠れる気がしない。眠る気もない。どうしようもなくイラついているのが解る。

『Donnons le sang de guillotine』

「うるさい黙れ。許さない。絶対に許さない。待っていろ。何時かお前も殺してやる。茅場晶彦もお前もあの詐欺師も絶対に殺してやる。首を洗って待っていろ。あぁ、絶対にだ」

 口に出して言うが、それを聞く人間は周りにはいない。常に暗闇で覆われている二十七層、その迷宮区の一角で何を言おうが誰にも言葉は通じないし届かない。迷宮区にいる以上鬱陶しいフレンドメッセージが届く事もない。


 この静寂は良い。

「見つけたぞ、サイアスさんよぉ」

「……」

 塵屑共が誘蛾灯に群がるようにやってくるから。

 座っていた体を持ち上げる。赤い衣のフードを深く被る。立ち上がり、手に入れたばかりの得物を鞘から抜いて握る。追跡スキルによって拡大される感覚により今、自分が十を超えるプレイヤーに囲まれているのが解る。どいつもこいつも頭の上にオレンジ色のマーカーを浮かべるプレイヤー―――つまりは犯罪者プレイヤーだ。グリーンマーカーのプレイヤーが混ざっているのを見ると、小規模の犯罪者ギルドが総出で来ているのが解る。

『Pour guerir la secheresse de la guillotine』

 うるさい。いい加減黙れ魔女。許さない。お前だけは許さない。よくも俺の女の居場所を奪ったな。そこはお前の居場所じゃない。

「ま、無駄だと思うけどよ。その≪魔剣≫を置いていくんだったら命だけは助けてやるぜ」

 視線は右手の得物に注がれている。≪魔剣≫と呼ばれる部類に入るこの得物は大太刀の姿をしており、カタナのスキルを上げている人間でも完全に扱いきれる者は極少数に限られるだろう。おそらくアインクラッドで一本しか出現しない、レア度で言えば最高峰の武器。

 ≪羅刹≫。

 今の自分にこれ以上なく相応しい名前の武器だ。

 鉄色の刃がランタンの光を吸収して煌く。

「……忠告はしておく」

 足元に転がっている防具を蹴る。フルプレートアーマーと呼ばれる防御力の高い、タンクビルド御用達の防具だ。高いVIT値、そしてある程度のSTR値が必要とされる防具であり、簡単に装備できるわけではない。ボス攻略のレイドパーティーに参加した事のある人間ならその頼もしさを知っている。

 そして、転がっているプレートメイルは一つではない。

 十を超えるプレートメイル、大盾、革鎧、様々な武器や防具が散乱している。どんなにモンスターを狩ろうが、ここまで武器防具はドロップされない。これらは全てプレイヤーが死んだ時に残されるものだ。

「お前らもこいつらの仲間入りしたくなかったらとっとと尻尾巻いて逃げろ」

 あぁ、でも、

「俺としては襲い掛かってきた方が嬉しい」

 武器を取り出した事を敵対行動と判断する。石の床を蹴り疾走する。一瞬で話しかけてきた、ボスらしきグリーンマーカーのプレイヤーに接近し、

『Je veux le sang, sang, sang, et sang』

 頭を刎ね飛ばす。

 襲撃者は死なない。部位欠損で頭を切り落としただけだからだ。狙っても中々発生しない部位欠損だが、何故だか最近妙によく発生する気がする。

『Je veux le sang, sang, sang, et sang』

 二ループ目に入ったリフレインを聞いて理解する。

「あぁ、そうか」

 そういえば首を欲しがる魔女がいたのだ、と今更になって思い出す。

「あ、あは、え、おい」

 刎ね飛ばされた首は即座に拾って繋げれでもすれば助かるだろう。だがそこまで頭が回る人間はいないし、頭部の欠損から発生する継続ダメージによる消滅の前に回復できる様な器用さを持つ人間を俺はまだ知らない。だから、

 地に落ちた頭を踏み潰して止めを刺す。醜い悲鳴に興味などない。

『Donnons le sang de guillotine』

 自分の頭上のマーカーは最初からオレンジだ。グリーンを殺す事を躊躇する理由はない。街に行く必要性も感じない。だから容赦なく殺そう。敵は全員殺す。禍根を残さないように一人残らず殺す。

「あー、なんだっけ? 滅尽滅相だったか? あぁ、つまりそんな訳だ。お前ら全員一人も生かして返すつもりなんてない。だからここがお前らの墓標だと理解しろ。ここが死地だ」

 百七十センチはある大太刀を片手で持ち上げ、構え―――前に出る。

『Pour guerir la secheresse de la guillotine』

 誰一人として生かして帰さない。

『Je veux le sang, sang, sang, et sang』

 ここは地獄だ。


                           ◆


 人間、その芯が存在し続ける限りは前へと進めるものだ。

 一度折れたとしても、それに変わる理由さえあれば薄情ながらも進めてしまうのだ。

 今の俺は―――最低だ。屑だと表現してもいい。もしそこに最低の存在を表現する言葉があるとして、それを黙って受け入れる程度には自覚している。

 ≪魔剣≫を餌にオレンジプレイヤーを引きずりだして殺している。

 始まりは≪魔剣≫の入手イベントの条件だった。対人戦が戦闘経験を積む上では何よりも優秀である事に気がついた。いや、それだけでは足りない。圏内の、決闘システムの、保護のついた勝負では命を奪い、奪われる危機感に直面する事ができない。これでは殺し合いではなくて遊びだ。本当の死に直面し続けることが必要だった。

 だから武器を、≪魔剣≫である≪羅刹≫を狙う犯罪者ギルドの存在は大いに助かった。

 四六時中狙われる危機感と緊張感は圏内では絶対に味わえない感覚だ。オレンジプレイヤーでもグリーンプレイヤーでも殺気を漏らして襲い掛かってくるなら遠慮なく切り殺せる。対人戦、対集団戦の経験が積める上に金になるアイテムを落とし、そして経験値も入る。

 手段を選ばないのであればこれほど効率的な”狩り”は存在しない。

 だが、人を狩るのは外道だ。

 だから、今の俺は最低だ。

 その自覚があっても、止る事はできない。そう、止れないのだ。見てしまった。知ってしまった。失ってしまった。得てしまった。安寧と最愛を犠牲に得たのは呪いだけだった。この世に神がいるとしたらその存在を呪わずにはいられない。何故、何故こんなにも無常で残酷な試練を与えるのだ。

 答えが返ってくるわけがない。

 だから、強くなる。

 勝てる姿が見えない。攻撃が通じるかどうか怪しい。そういう事は正直どうでもいいのだ。強くなって殺す。それ以外のことが何も思考できない。脳がそれしか判断できないようにセットされている。それ以外の全てがどうだってよく思える。

 それこそもしかして知り合いがここまで心配して来てくれたのを理解できず切り殺してしまったかもしれない。それだけ今の自分は壊れている。傍から見れば滑稽なのだろう。自分から自滅の道を全力疾走しているようにしか見えないだろう。そしてそれは間違いではない。

 俺は死にたい。

 だが死ねない。

 だからたぶん、俺に終焉をくれる人間を捜し求めている。噂で聞いた≪Poh≫なんてオレンジプレイヤーは強いらしい。個人的には早く出会えたら嬉しい。殺すにしろ殺されるにしろ悪い結果にはならないはずだ。だが、今のところ、

 この苦行は力にしかなってない。

 まるで星のようだ。

 深い闇の中にあるからこそより強く輝く。降りかかる圧力は輝きを試す一因でしかなく、それを乗り越えて更に光を見せる刹那の閃光。そういうイメージが浮かぶ。だがそんなイメージは意味がない。それが強く輝いたとしても風前の灯、刹那でしかない光なのだ。永遠に輝き続けられるはずがない。

 どうせ、直ぐに消える。

 俺の命なんて、そんなものだ。

『―――サイ、アス……?』

「……ッチ」

 名前を呼ばれた。いや、覚えられた。”中にいる”魔女と会話が成立しない、通じ合わないのには理由がある。その最大の一つが拒絶。絶対に許さない。関わらない。認めたくない。その気持ちで魔女に対する情報の供給の全てを否定している。口に出して喋る情報は必要最低限に留める。

 自分の名前だって一度も口にしてないし、聞かせる事もなかったが、

『名前?』

 襲いに来たオレンジプレイヤーのせいで名前を聞かれてしまった。

『サイアスが名前なの?』

「……」

 答えない。答えたくない。一緒にいるだけで吐き気がする。何でお前がいて彼女がいないんだ。

『サイアス……アス?』

 耳障りだ。一般的には可愛いと感じられる無垢な声すら鬱陶しい。蝿の羽音程度にしか感じられない。酷くうるさくて神経を逆なでする。勝手に人の名前を省略するな。何時お前に名を呼ぶことを許した。何時俺の中に入ってきた。

 解ってさえいれば、絶対にお前を拒絶していたのに。

「クソッ!」

『アス?』

 答えない。悪態をついてもそれは無限に続く闇の広がりに包まれるだけで何の返答も帰ってこない。ただ自分の中に此方へと語りかけてくる穢れのない魔女がいるだけだ。

 出現するモンスターは直ぐに切り殺す。

 現れたプレイヤーも切り殺す。

 結果、ここに残るのは先ほどの戦闘によって増えた戦利品と自分一人だけ。オレンジプレイヤーが街へ行けばNPCであるガードとの戦闘になる。そのため、街へ補給しに戻ることはできない。だが幸い補給が必要な道具はプレイヤーが持っているため、殺す前に脅して奪えばいいし、≪魔剣≫である≪羅刹≫は他の≪魔剣≫の例に漏れず異常な耐久値を持っている。修理をする必要は当面ない。

『どうして私を無視するの?』

「どうして、だと?」

 思わず答えてしまった。あぁ、何も知らない。知らな過ぎる。純粋無垢。穢れがない。宝石として鑑賞するのであれば至高の存在だろう。だがそれは裏返せばつまり、人間味のない無知で白痴の女という事だ。そう、こいつには感情も知識もない。

 苛立つ。

「ふざけるなよこの魔女が。お前のせいでトウカが死んだというのに……!」

 何故無視するかだと? 決まっているだろう。

「吐き気がするんだよ! お前の存在に! 何でお前が生きててあいつが死んだんだ! 何故俺の中に入ってきたんだ! 今すぐお前をぐちゃぐちゃに殺してあの詐欺師の目論見を全て潰したい! ただ単純にお前を嫌ってるんだよ……!」

 殺意とありったけの怨嗟を込める。が、まだまだ白痴の魔女はその全ての意味は理解できず、

『アス、酷い……』

 ”酷い”としか理解できていない。

 あぁ、腹が立つ。

 こいつを今すぐにでも殺したい。

 今、≪羅刹≫の刃で自分を殺せばこの魔女を道連れにする事も可能だろうが―――自殺は駄目だ。それだけは絶対に駄目だ。俺が倒れるのは誰かの手によってでなければならない。自殺なんて恥ずかしい真似をしてみろ―――一生顔向けできなくなってしまう。

「……ッチ」

 が、何時までもこのままでいるわけにもいかない。もう攻略が開始されてから八日が経過している。今までの攻略ペースを考えるのならボス部屋が発見されていてもおかしくはない。今のところ攻略ペースは九日、十日だ。そろそろレイドパーティーの編成が始まっている頃だろう。

 オレンジでもレイドパーティーに参加できるのは既に前の層で実証済みだ。

 街でパーティーに参加をするのは無理だろう。だったらここは迷宮区の外で情報屋か仲介屋に連絡を入れて仲介をしてもらうのが最善だ。だから油断をする事無く立ち上がる。油断も慢心も死亡の原因だ。そんなヘマで死ぬのは耐えられない。

 だからこそ、この現象は何よりの異常として認識できた。

「っがぁ!?」

『アス!』

 殴られたという事実しか認識できなかった。意識の合間を極限の技量をもって殴りこんだとしか表現できない。何時の間にか殴られ、何時の間にか殴り飛ばされていた。そうとしか表現の出来ない異常事態だ。

 常に警戒していたのに認識できなかった事実に動揺を隠せない。

 空中で体を捻って体勢を整え着地する。今の一撃の威力を確かめるべく素早く視線をライフバーに向ける。

「ッ!」

 欠損のなかったライフバーは、その一撃で七割を失っていた。全身から血の気が引くのと同時に、ある種の歓喜が満ち始める。これだ、これを求めていたのだ。この終焉を待っていたのだ。期待を込めて闇の中へ視線を向けると、そこから現れる三つの姿が見える。

「おい、マキナ」

「安心しろ。加減はしていた」

「でしょうね」

 現れたのは三人の軍服姿の男達だった。ドイツ系の白髪の男、日本人と解る優男、そして軍帽を被ったドイツ系の男。その三人だ。三人とも服装の上からでも鍛え抜かれた肉体の持ち主だと解る。そして今の一撃、加減をされたというのであれば―――

「マキナ卿」

「構わん」

 得物を構える俺の前に、マキナと呼ばれた男が進み出る。本能が絶対に勝てないと警告している。だが、そういう問題ではないのだ。断じてそういう問題ではないのだ。

「殺すなよマキナ。そいつは連れて行かなきゃならねぇんだよ」

「殺す……!」

「女の扱いを知らぬ男に礼儀を叩き込むだけだ」

 構えもしないマキナに肉薄する。
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| 断頭の剣鬼 | 19:57 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

これこそ!至高の未知だぁ!!

| さなぎ | 2012/07/26 02:00 | URL | ≫ EDIT

おぉ、以前にはなかった新しい話が…!

| 御前 | 2012/07/26 14:05 | URL | ≫ EDIT

……そしてこの未知である、いいぞもっとやれ

……ところでマキナさん貴方1層攻略時に黒人顔で斧使ってませんでした(笑)

| とある闘う公務員 | 2012/07/31 20:06 | URL |















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