陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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柊 ―――ベルセルク・バース

推奨BGM:Ewige Wiederkunft


「トウカ!」

 一撃を受けて吹き飛ぶトウカの体を捕まえ、転がりながらも抱き寄せる。直ぐに抱き寄せたトウカのライフバーを見る。それは止る事無く減少を続けている。

「クソ!」

 悪態を吐きながら回復結晶をトウカに使う。が、

「無駄だよ」


 回復結晶の発動光の変わりに、儚い笑顔が見れる。違う。嘘だ。こんなの絶対おかしい。何で、何でだ。何でこんなことになるんだ。おかしい。こんなのは絶対おかしい。おい、どうしたんだ。早くデジャヴれよ。既知感はどうしたんだ。ほら、早く来いよ。既知感がなきゃ死んじまうじゃねぇか。

 早くこなきゃトウカが死ぬんだよ!

 こんな結末許せるかよ!

「あぁ、待ってろ、トウカ、絶対に、絶対に救って―――」

「いいの、もう手遅れだって解ってるし。それよりも―――」

 トウカの顔が近づいて―――唇と唇が触れる。柔らかくて、少しだけ汗の匂いがする。そんなファーストキスだった。それで力尽きたのかトウカの体が一気にポリゴンとなって分解されていく。

「―――愛している。貴方の勝利を信じてるわサイアス」

 そう言ってトウカは死んだ。武器と防具と、そして愛用のリボンを残して何も残らない。トウカは死んだ。どうしようもなく、覆せない事実として死んでしまった。永遠に、失われてしまった。腕に抱く防具にはもうトウカの温かみはない。死んだ時に所有権は消え、ただのドロップのアイテムとして放置されている。十分もすれば消えるだろう。

 あぁ、そうしたらトウカという女の存在は完全にアインクラッドから消えるのだろう。

 ―――アス! ……サイアス!

 ―――さっさと逃げろ!

 ―――ダメだ、アイツ聞こえてない!

 ―――クソったれぇ!!

 ―――トウカちゃん……!

 駄目だ。何かが聞こえるような気もするが、言葉が音の羅列としか認識が出来ない。それが正しく言葉として、自分が認識できる言語として聞こえてこない。ただただ振り回される武器の音と巨人の咆哮が聞こえてくる。

 ―――愛している。

 トウカにしてはあまりにあっけなく、そしてシンプルな言い方だった。馬鹿みたいな話だ。いつもはふざけた様な様子をばかり見せて、最後の最後でしおらしい姿を見せて……今更ギャップでも狙ってるのかと言いたくなる。

「ははは……」

 アインクラッドでの消滅は現実での死。

 トウカはこの仮想世界でも現実世界でも永遠に失われてしまった。

 何故だ。

 その理由は明快。自分でも解っている。俺が殺したんだ。一瞬の隙を突かれ、それを埋めるために死んだ。

 俺のせいで、永遠に奪われた。

 口には出さなかったけど確実に好きだった。いや、その言葉では足りない。彼女の存在を愛していた。このアインクラッドと言う楽園で、初めてプレイヤーが死ぬ所を、≪コペル≫が死ぬのを見て、その時俺は確かに決めた。戦って戦って戦って、強くなって、そしてこの世界で絶対に生き抜いてやると。既知感になんて負けない。楽しい毎日が送りたい。平和な毎日が過ごしたい。だが、よく考えれば俺は平凡だったんだ。平凡なはずの俺が超常的な現象である既知感に勝てるはずも無い。俺は”アイツ”みたいな何でもできるスーパーマンじゃないのだ。結局は少しエキセントリックな浪人生というだけだったのかもしれない。

 だから、このアインクラッドが俺の自滅因子(アポトーシス)だったのかもしれない。

 生まれてから死ぬまでを決められた、プログラミングされた細胞の死。ただそれが、自分の魂にも存在しただけ。人生に飽きたという事は生きる気力さえないということだ。つまり、アインクラッドの最前線、その迷宮区でひたすら孤独にソロプレイヤーとしてモンスターと戦っていた俺は確かに自滅を求めていたのかもしれない。

 けど、そんなある日、彼女に逢えた。

 初めて逢った時から馴れ馴れしかった。ゲームのノウハウを知らない。ゲーム自体初心者で生きるための知識もない。金や情報を得ようと彼女が、体を、春を売ろうとしていたところで出会った。最初は多少の金と知識を分けてそのままさよならする予定だったが、そうはならなかった。それからだった、自分が少しずつ変わったのは。

 今までは迷宮区に潜りっぱなしだったが、ちゃんと外に出て定期的に休みを取るようになった。偶に、フレンドを通して知り合いの安否を確認するようになった。クエストで一時的に寄り道を楽しむようにもなった。たぶん、最初の焦るようにひたすらモンスターを殺し続けている自分しか知らなかったヤツからすれば、まるで別人のような変貌をとげていたはずだ。

 そして彼女はそうやって俺を抱きしめてくれた。

 あぁ、抱きしめてくれたんだ。優しく、何でも無いかのように。

 邪険に扱ってごめんなさい。

 無駄に叩いたりしてごめんなさい。

「……灯(あかり)」

 そう、彼女のリアルの名前を、本名を呟くが一切の返事はない。もう彼女はいないのだ。解っているけど名前を呟かずにはいられない。

 目の前にあるのはプレイヤーが死亡した際にドロップされる装備アイテム。目の前には彼女が直前にまで装備していた大鎌と、そして愛用していた黒いリボン。赤い髪に合うからって理由で買ってあげた、防御力の低いヤツ。それを後生大事に死ぬまで装備していた。抱いて、零れ落ちたそれを持ち上げて、優しく、優しく胸に抱きしめる。データ上は既に存在しない彼女の温もりを求めてなるべく優しく抱きしめる。

「……信じてる……」

 彼女の最期の言葉を呟く。

 信じてる。

 何を信じているんだ?

 目の前のあの化け物にか。

 それとも俺が死なない事をか?

 もしくはこのアインクラッドをクリアする事をか?

 勝利。

 そう、勝利する事を信じてくれているのだ。俺の勝利を信じてくれているから。俺を愛していると言ってくれたから。だから俺も、その愛に応えたい。応えなくてはならない。君を殺してしまった俺が君の愛に応えないと、応えられないと、俺がどうしようもない屑になってしまうから。そして、そんな俺を君に見せるのはとても恥ずかしいんだ。

 弱かったら負けてしまうから。また奪われてしまうから。

 そう、奪われたんだ。

 俺の、宝石が。

 このアインクラッドで、彼女のいた場所が俺の安らぎと安寧の場だった。そして彼女と過ごせた時間こそが、俺の最高の刹那だったんだ。俺が自信を持って最高の宝石だと言える、美しい女だ。だが、それも砕けて消えてしまった。あぁ、殺されてしまった何故? 俺が弱いから。誰に? 決まっている、あの鬼に。あの鬼は奪いやがった。あの女は、宝石は、輝きは俺のものだったのに、横から掻っ攫って壊しやがった。

 あぁ、許せない。許せるわけが無い。断じて赦すものか。お前には無間すら生温い。

 自然と涙が流れ続け、滲む視界の中、何時の間にか両膝をついて俯いていた視線を上へと向ける。先ほどからそんなに時間が経っていないのかいまだにプレイヤーは結構な数が残されており、トウカが、灯が死んだ時からは殆ど時間が経っていなかった。何とか体を持ち上げると頭の後ろに片手を伸ばし、もう片手で脇差を握る。

 一閃、お揃いだったポニーテールを斬る。

 革紐で束ねられていた髪を床へ落とすとシステムが自動で髪の長さを揃え、肩に掛かる程度の長さに揃えられる。灯が愛用していた黒いリボンをチョーカーの様に首に巻く。少し苦しく感じるが、逆にそれがリボンの存在を思い出させて―――戒めとしてはちょうど良い。

「……奪われた」

 予想以上に酷い声が出た。まるで地獄の底から這い上がった鬼のような声だった。いや、実際に今の俺は鬼の様な姿をしているのかもしれない。もし怒りと悲しみが人を修羅道に叩き落すのだったら、間違いなく今の俺は修羅だ。止まる事は出来ないし止まる気もない。

「―――死んだ人間は帰ってこない」

 低い、唸るような声で自分に呟き脇差を納刀する。立ち上がった自分に気づきプレイヤーの一人が声をかける。だがやはりその言葉を言葉として認識できない。理解できない。する必要すらない。今必要なのは殺意と力だ。あの塵屑が俺から奪ったものはもう取り返せない。だって、

「死んだ人間は帰ってこないし帰ってくるべきではない」

 常識だ。幻想なんて無い。ここは現実なんだ

「トウカは死んで―――」

 帰ってこない。もう二度と。帰ってくるべきでもない。死人は死んで、生者は生きる。常識だが、実際に知っている人間が死んだとなると話は大分変わる。だけどこれだけは変わらないし幼馴染が太鼓判を押してくれている。

 死人は死んでいるからこそ死人なのだ。

 蘇る事はない。

 改めて自覚し、涙が止らない。

 そして構える。今までよりも深く、深く、踏み込みを意識した構え。左手で腰から抜いた鞘を掴み、右手は脇差の柄を握る。最初から最期まで全てに全力をつぎ込み目の前の存在を殺す。もうそれしか残されていない。こうやって暴走して殺すしか思いつけない。何時の話になるか解らないけど俺もたぶんそっちへ行く。何時になるかは解らないけど、確実に自壊して俺は死ぬ。だからあと少しだけ待ってて欲しい。そっちへ行ったら馬鹿なヤツだって笑ってくれたって構わない。今はこの最悪な気分を一秒でもアイツにぶつけたいんだ。

 だからさ、

 踏み込みと同時に叫ぶ。

「塵屑が俺の女殺して笑ってるんじゃねぇえええ―――!! ぶっ殺すぞてめぇ―――!!」

 誰かが何かを叫ぶ。が、それよりも早く疾走する。


                           ◆


 その動きに一番最初に反応したのは双頭の巨人だった。真っ直ぐ疾走してくる侍の姿に、一切のヘイトが存在しない相手に、斧の薙ぎ払いで近くのプレイヤーに距離を取らせると真っ直ぐ斧を叩きつけてくる。だが、それをサイアスは避けた。

「それはもう見た」

 恐ろしく冷静で冷酷な声。ただ淡々と事実を述べるような声でそう告げると斧の一撃を更なる加速で避ける。斧が床と衝突し発生する衝撃波も加速をもって前へと突き出された体には届かず、ただ体を前へと押し出す追い風にしかならない。そのまま体を前に出すとソードスキルのエフェクトを出さずに一閃。

「!?」

 居合いという、多くの修練が必要な高等技術をシステムのサポートを一切なしで、つまりはソードスキルを発動させずに、高速で納刀、そして抜刀し巨人の腹部に放つ。もちろんその一撃はソードスキルで放つ居合いに比べれば断然威力は下がるだろうが、その代わりにディレイが無い。ディレイが、硬直時間が無いということはそれは純粋な技量から放たれた普通の斬撃であり、ソードスキルでない限り硬直のない連続した攻撃が可能である。

 更なる居合い、ニ閃。

 すれ違いざまに放たれた合計三閃の居合いは見ているものからすれば技巧と言う概念を超えて、もはや狂気としか呼べないレベルの連撃だった。未だ≪カタナ≫を習得している人間が少ない状態で、その上で純粋な技量のみで居合いを連続して放てる人間がいたとしたら、それはもはや人間ではなく、

「……誰だよブシドーなんて言ったのは」

 すれ違った瞬間に体を回転させ、遠心力をつけながら脇差の抜き打ちで巨人の背中を斬り付け、カウンター代わりに放ってくる斧の薙ぎ払いを体に飛びつくことで回避する。そのまま巨人の肩を足場に鞘を口で噛んで持ち、脇差の柄を両手で持って何度も巨人の首へと突き刺す。

「―――完全な鬼じゃねえか」

 呆然と、吐き出された言葉に一切反応せずにサイアスの体が動く。一方的な蹂躙に怒りを燃やす巨人が、斧を持たない腕でサイアスを掴もうとする。が、それを最後に一回首に脇差を突き刺し、そこに武器を突き刺したまま飛び降りることで回避する。腕が振るわれるのと同時に四肢全てで床に着地すると修羅の形相を向けたまま口から鞘を吐き捨てる。一方的な蹂躙を行うはずだったのは巨人。だが現実は変わり、巨人が一人の鬼に蹂躙されている。その事に更なる怒りを燃やし巨人が部屋全体を咆哮で揺るがす。

「うるせぇ。黙れカス」

 サイアスの指が素早く動き、その手の中に新たな武器が現れる。それはサイアスが先ほどまで使っていた得物とは違い長かった。脇差がその全長六十センチほどならば、コレは優に一.六メートルを超える得物だった。本来は抜くのに苦労するはずの長すぎるその得物を、簡単に鞘から抜くとその鞘を腰裏に水平に差し、そしてその刀、俗に太刀と言われる種類の刀を構える。

 一瞬の静寂。

 その瞬間は、巨人は口から紫の息を吐き出しながらサイアスだけを見つめ、そしてサイアスも左半身を前に出し太刀を肩に担ぎ、僅かに引いた構えで巨人の四つの目、

 その下の二つの首を見ていた。

「死ね」

 駆ける。

 巨人が斧を振り下ろすのとサイアスが前へと飛ぶのは同時だった。

 まるで最初から斧と衝撃波が来るのを予想していたかのような動きで飛び、斧の上に着地して走る。肩に担ぐ太刀を敵の腕に突き刺すと、軽い唸り声を口から漏らしながら刺さった太刀を肩まで引っ張り引き抜き、そこらから片手持ちで太刀を右に大きく引く。その目の前には首に刺さった脇差と、亀裂があった。

「ぶっ散れやぁあ―――!!」

 叫びと共に太刀が振るわれ脇差が突き刺さったままの亀裂へと突き刺さる。巨人に負けず劣らぬ咆哮を叫びだしながら放たれたその一撃が首へと食い込みそのまま首を脇差ごと切り裂く。首が一つ飛ばされて、それと同時にそこから飛び降りる。

 再び構えて見る巨人の姿、その頭上、

 そのHPは完全に黒く、無へと変わっていた。

 首を一つだけ残した巨人、≪The Twin Ogre≫が斧を手から零しポリゴンへと変換されてゆく。

「は、ははは、ははははははは―――!! ふざけるなぁ―――! ふざけるんじゃねぇ―――! なんだよこれ! どういうことだよ! この程度ってどういうことなんだよ! ふざけんじゃねぇぞクソが! トウカを殺しておいてこの程度だって舐めてんのかてめぇ―――!!」

 叫ぶが、その声はただ虚しく響き、巨人は役目は終えたといわんばかりに砕けていく。

 それが赦せず、雄たけびを上げながら太刀を振るい散っていく巨人の、残った首を切り裂く。だが既に散り始めている体。巨人を構成していたポリゴンは一切抵抗する事無くあっさりと刃を通して散る。

「おぉぁあああ―――!!」

 そう叫ぶがポリゴンの拡散は収まらず、逆に先の一撃でさらに速まり、そして完全に消え去る。その倒した証拠としてその場に残った全員に功績分の経験値が与えられ、サイアスをレベルアップのファンファーレと光が包む。同時にインベントリにもアイテムが増えているだろう。

「アスアス!!」

 ―――誰かが心配なのか、様子を見に来てくれた。金髪の女だ。泣いているのか。えーと、誰だっけ。

「おい、サイアス大丈夫か!?」

 ―――この男も心配してくれるのか。山賊みたいな顔をして。生意気なヤツだ。知らん。うるさい。

 どうでもいい。無視し、太刀を引きずるようにして歩き出す。真っ直ぐ、奥へと。本来ならそこでアイテムの分配等を話し合うべきだったのだろうが、誰もサイアスに話しかけるどころか近づこうとさえしない。ゆっくり一歩一歩、歩みを進めるサイアスの姿を、呆然と立ち尽くして見つめるだけだ。

「負けない。……負けない……俺は……負けない。……茅場、晶彦の首は……俺が、俺が……」

 そう呟きながら消えていく鬼の姿を、生き残ったプレイヤーは最後まで見つめることしか出来なかった。


                           ◆


 ボス部屋を抜けた先には小さな通路があった。この先を抜ければ第二十六層だということはわかっている。今までもそうだった。ボスを攻略するたびに通路があってそれを抜ければ次の層だ。
ここは、ボスの攻略に参加し、そして打ち勝った者のみが通る通路だ。

 重く、重力に引っ張られる体をゆっくり進めると、見たことのある存在が前にいた。

「素晴らしい活躍だったとしか、私には言いようがないよ。まさに剣鬼の名に恥じない戦いだった。素晴らしい慟哭。素晴らしき魂の輝きかな」

 何も言わずに刃で男の首を跳ね飛ばす。だが影響は何も無い。純粋に影のみで構成されているようなこいつの体に武器は通じない。見れば解る事なのにやらずにはいられなかった。理屈ではないのだ。

 しかし、この男は変わらない。ぼろマントに遠まわしな喋り方。鬱陶しい。思えばコイツは凶兆だ。コイツの存在自体が死神だ。この男は不幸しか与えない。この男とそもそも今朝出会ってしまったのが―――

「―――不幸だと言うのかね? それは間違いであるよシャヘルよ。これは純然として貴殿の活躍なのだよ。そこに私による介入はほんの少ししかなかった。そう、ほんの少しだけだ。それもタダその辺にある小石を投げただけに過ぎない。そう、私はその程度の事しかしないし出来はしない」

 白々しい。吐き気がする。今すぐ殺したい。

「―――なら、灯が俺を庇ったのは俺が原因だと言うのか」

 怒りを抑えきれない。言葉から怒りの色が自分でも見て取れる。だがこの男は、影法師は、その色すら楽しむように微笑を浮かべて答える。

「然り。私と出会った事が不幸ではないのだよ。彼女と出会ってしまった事が不幸の始まりなのだよ。彼女が庇ったのは君に対する確かな愛がそこにあったからだよ。君も彼女も、お互いに対してその愛を持たなければこの様な悲劇は生まれることは無かった」

 その言葉に、我慢出来なかった。

「たとえ全部てめぇの手の上でもか―――メルクリウス!」

 重力の束縛を振り払い一気に加速し、太刀を死神の、メルクリウスの首元で停止させる。自分の名前が呼ばれたことが嬉しかったのか、メルクリウスは愉快そうに然り、と応えている。この男は詐欺師だ。目の前で対峙するだけでわかる。並の人間なら騙されるが、今の俺なら解る。こいつは人生においてかかわってはいけない類の存在だ。

 出会った瞬間から続く既知感が何よりもそれを証明する。

「マルグリットを大事にしているかね? あぁ、そういえばまだ出会ったばかりか」

 何を白々しい。見ていて解るぞ。あの夢も。処刑台もお前の計画通りなんだろ?

「だが、その渇望は実に素晴らしい。最初から最後まで舞台監督として働くつもりではあったが、貴殿のその魂の魅力には抗い辛く、こうやって舞台に身を晒す愚を犯してしまった。しかし、こうやって直に見て私は確信したよ。貴殿以外に相応しい人間はいないだろう。ああ、そうだろうと確信できる」

 その愉快そうな表情に腹が煮え返るが、コイツは倒せない。絶対に。それだけは経験として確信できる。太刀の切っ先をメルクリウスから外し一度振ってから、腰に差してある鞘を抜き、そこに納刀する。

 この男は毒だ。一秒でも長く付き合えばこの既知感は更に強い呪いとなるのだろう。

 殺したい。

 人生で初めて、殺しても何とも思わない存在に出会った。

 やはり、こいつとだけは一生分かり合えない。

「……」

 肩に太刀を担ぎ歩き出す。コイツに向ける言葉はない。が、すれ違いざまに男は、メルクリウスは呪いを残してゆく。

「精進なされよシャヘル。貴殿の道は修羅の如く険しくありながらも聖者の如く正しいが、そのままであれば守りたくとも守れぬものが出てくるであろう。二十六層主街区へ到着したならば、町外れの民家へと向かうが良いだろう。そこで受けられるクエストは千回ほどPvPで勝利する必要が出てくるが、確実にこの世界の高みまで貴殿と共に在ってくれる≪魔剣≫を手にすることが出来るだろう」

「黙れ」

 ≪魔剣≫、それはプレイヤーが鍛冶等で生み出せる武器の性能をはるかに超えて、手に入れた層を無視して最前線でほぼ永久に使ってゆける超高性能な武器の事だ。基本的にそれは一%にも満たない可能性でのネームドモンスターのドロップや、超高難易度の隠しクエストで取得できる、という噂がある。

 あくまでも噂であり、実際に手にしているのは全体から見ても一人か二人ぐらいだろう。

 それをこの男は強く為に手に入れろという。千人斬って。

 上等。俺は負けない。負けるわけにはいかない。お前の首も茅場の首も俺が貰っていく。

 だから、

 背後に水銀の王を残し、新たな層へと向かって行く。

 今は、力が必要だ。


                           ◆


「さて、行ってしまったか。どうやら歓迎の仕方を間違えてしまったらしい。やれやれ、これでもマルグリットの為、目をかけてやっているのだが。さて、新たにフラクトライトが散った事で更に世界は加速するか」

 まるですぐ傍であった虐殺がなんでもなかったかの様に話すその姿は見るものに怖気を与える。メルクリウスが取り出す手の中には光が存在し、それを軽く握りつぶす。

「剣鬼殿はこのままにしておいてもしばらくは問題なかろう。女神を受け入れる器としても完成してきている。直にあの輝きを見てしまったら成程、確かにそれ以外では納得できないものとして受け入れてしまう。であるならば―――英雄殿の安寧にそろそろ幕を下ろすとしよう。必要のなくなった役者とはいえ、彼は彼で創造主殿が大変お気に召される存在のようだ。ふむ、忙しいのもそう悪くは無いのかもしれない。あぁ、そろそろ獣殿も退屈している頃だろう。これは土産話の一つにでもなろう」

 楽しそうに、一人、自分に向かって語りながら、メルクリウスは闇に溶ける様に消えた。


                           ◆


 数日後、二つの小さな事件が発生する。

 一つ、それは≪千人斬り≫と呼ばれる事件。とあるプレイヤーが膨大なコルを賞金としてPvPでの挑戦者を募り、狂気とも言える数の挑戦者全てに打ち勝ったのだ。そしてもう一つは、最前線より少し下の層。≪月夜の黒猫団≫というギルドが一人の青年を抜いて全滅したことだ。

 現在攻略されている層は二十六層。

 アインクラッド百層、その頂までの道はまだ遠い。
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| 断頭の剣鬼 | 01:55 | comments:9 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

ニートuzeeeeeeeeeeee!

| とろつき | 2012/07/25 08:52 | URL |

ニート、マジUzeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!

| 尚識 | 2012/07/25 09:15 | URL | ≫ EDIT

泣いた・・・

| | 2012/07/25 12:08 | URL |

ニートUZEEEEEEEEEEEEEEE!!!

| 首無し | 2012/07/25 17:17 | URL | ≫ EDIT

ニート、超、UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!

| 藤野祐介 | 2012/07/26 08:48 | URL |

メルクリウス、超ウゼェェェェェ!

| reficul | 2012/07/26 13:12 | URL |

ニートUZEEEEEEEEEEEEE!!

| NONAME | 2012/07/26 17:53 | URL |

最後の最後でサイアスはトウカに会えると信じてる(泣

| zane | 2012/07/28 00:30 | URL |

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです

| | 2016/03/23 16:19 | |















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