陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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柊 ―――ビフォー・ザ・レイド

 右足で踏み込む。

 七メートルほど先にいるのは人の形をしてはいるが、豚の顔をしたモンスター、≪オークウォリアー≫。体長一.七メートルほどの大きさを持つそのモンスターはこのフロアでは比較的強い方のモンスターとして分類される。肥満体の様にしか見えないその体は鎧で覆われているうえに、厚い脂肪で守られたその体は刃物系の武器が通りにくく、経験値は良いがやや効率が悪く相手にされにくいモンスタの一つだ。

 だが、それは≪カタナ≫を使う自分には関係ない。


 エクストラスキル≪カタナ≫を大雑把に説明すると、尖った性能を持った武器だといえる。まず刀という武器は攻撃力が高いが、それに反比例するように耐久値が低いのだ。あまりに長い間メンテナンス無しで戦い続ければ簡単に折れる。そのためマメなメンテナンス無しでは使えなく、金が掛かる。武器自体もレア扱いだから生み出したり見つけたりすることにもお金が掛かる。

 次に、≪カタナ≫はスタイルを大きく二つに分けることが出来る。一つが普通に抜刀し、そこからソードスキルを繰り出すことで片手剣のように戦うスタイル。すばやく動き回り、≪カタナ≫の特徴とも言える高いクリティカルを保有するソードスキルで戦う方法だ。片手剣などの派生前に勝る攻撃力をこれだけで示すことが出来る。盾を装備できないのが玉に傷ではあるが、敏捷力が高く、相手の攻撃を避けられるのなら問題ない。

 だが、≪カタナ≫の一番の特徴であり真に問題なのはもう一つの戦闘スタイルだ。

 見る。

 ≪隠蔽≫(ハイディング)によって隠された体はオークに設定された索敵能力ではたとえ正面であろうと此方を見つけることは出来ない。≪追跡≫スキルで周りに他のモンスターがいないことがハッキリしているために遠慮は要らない。踏み出した右足に体重を乗せながら前に倒れるようにして体が傾いたところから一気に疾走する。左手は鞘を、右手は柄を握りしめ、体を加速させる。

 疾走して三メートルが過ぎた所でオークがこちらの動きにやっと気づく。いくら≪隠蔽≫が優秀であっても、高速で武器を持って動けば簡単に解除されてしまう。だがこの距離まで来れば関係ない。すでにオークの醜い顔は見える。その双眸は獲物を見つけたと思って輝いている。だが、遅い。遅すぎる。真っ直ぐ向かったまま、ソードスキルを発動させる。鞘を巻き込み刀がエフェクトの黄色い光りを纏う。やっと右手で武器である無骨な斧を持ち上げようとするオークに対して、次の行動に移られる前に、高速で≪脇差+6≫の刃を放つ。

 ≪カタナ≫の抜刀系ソードスキル≪ライコウ≫。

 文字通り雷光に見間違うようなエフェクトが光り、一瞬で放たれた刃が斧を完全に振り上げる前のオークの首へと突き刺さる。

「プギュッ!?」

 鎧で守られていない首に、加速とスキル自体の威力もあって易々と食い込み、

「っせい!」

 腕が振りぬかれると同時に完全に首を跳ね飛ばす。その一撃でオークのライフバーは見るまでもなく空になり、そしてその体が跳ね飛ばされた首からの悲鳴を迷宮区の壁に反響させながら散っていく。消え去ったオークの体を確認せず脇差に付着してない汚れを払うように振ってから納刀する。

 これが、≪カタナ≫の問題児とも言える系統のスキル、居合いだ。

 ≪カタナ≫での居合いのスキルはまず、納刀されていることが条件だ。鞘に刃が仕舞われている事が発動条件で、そこからスキルの種類によって威力や早さ、角度といった要素が変わってくる。≪カタナ≫が持つほかのソードスキルと比べて、抜刀系のソードスキルは非常に早く、威力が高く、そして硬直が短いと、多くのメリットが揃っている優秀なスキルだ。だが、その代わりにデメリットも酷いとしか言いようのないものが揃っている。第一に、納刀しているということは剣で一番多く使われている防御術である≪パリィ≫も≪ブロッキング≫も使用できない。その上、納刀はオートではなく自分でやる必要があるためシステムに任せた高速での納刀は出来ない。そして鞘を左手で抑える必要があるために両腕が常に塞がれる。つまり防御も、そして回復もかなりやり辛いのだ。というよりも回復にはどうしても片手でインベントリを操作する必要があるため、必ず片手を自由にする必要がある。

「うし、もういいぞ」

「相変わらず綺麗に首を撥ねるなー」

「一番効率いいからな。人型のモンスターは首への攻撃はダメージがでかいし居合いとあわせれば大体一撃だ。納刀にさえ慣れちまえば居合い連発とか可能かもな。まだ連続で出すのは無理だけどさ」

「できたら完全に人間やめてるわよ。それでもかっこよく一撃で倒すサイアス素敵!」

「はいはいいつものネタが終わったら進もうねー」

「あれ? 慣れられた? もう一捻り加えなきゃダメっぽい?」

 少し離れた位置からトウカが隠蔽を解除して現れる。肩に大鎌を乗せてはいるがその威力はまだ発揮されていない。いや、発揮されないのが一番いいのだろうが、こんな生死を賭ける最前線ではそんなことも言ってはいられない。左腰に差してある脇差が使いやすい位置にあることを確認すると再び≪隠蔽≫を発動させる。マップを見る限りは目的地はすぐそこだ。合流地点はモンスターの出ない休憩エリア。そこまでいけば警戒を解いてもいいはずだ。だから、そこまでは警戒し続ける。

「んじゃ、行こうか」

「ゴッゴー!」


                           ◆


 全ての迷宮区には絶対にある二つのものが設置されている。それは休憩エリアと、ボス部屋である。前者はボス部屋少し前に設置されており、後者は階層と階層をを繋ぐ迷宮区の最上層最奥に存在する。ボスを倒してその奥に進めばそこからは次層の主街区と転移門にすぐに行ける。

 そのため基本的にボスのレイドパーティーが結成される場合集合場所は二箇所に別れる。その層での主街区の転移門か、もしくはボス部屋前の休憩エリアだ。基本的に転移門で集まって、大規模パーティーで消耗しないよう協力し合いながらボス部屋まで行くのが普通の行動なのだが、こうやって自分達みたいに先に休憩エリアで待機してレイドパーティーが到着するのを待つというのもある。

 それが、自分とトウカの選択でもあった。

 転移門のある広場を思わせる円形の広場である迷宮区の休憩エリアには朝早くにも拘らず、既に何人かの姿が見える。まず広場奥、出口付近にフルプレートのアーマーで身を包んだ集団がいる。アーマーが統一されている事からして≪アインクラッド解放軍≫の偵察部隊だろう。こちらを一瞥するとすぐに視線を逸らし、自分の任務に戻る。他のプレイヤーを探して視線を回してみると寝袋に入って睡眠をとっているプレイヤーや、自前の鍛冶スキルで武器を研いでるプレイヤーなどもいる。ここにいるのは全部で十四人ほどだ。一回のレイドパーティー、つまりはボス部屋に一度に侵入できる上限人数は四十九人で今回もフルパーティーだったはず、つまり後から三十五人ほど来るだろう。

 軽く周りを見渡してから適当な場所に移動し座ると横にトウカが座ってくる。

「えっと、あとどれくらい時間あったっけ?」

「あと二時間ほどあるわね」

「……やっぱ早すぎないか?」

「いいのいいの。それよりまだ時間に余裕あるんだからハイ、これ」

 隣に座ったトウカがインベントリを開くとそこから魔法瓶とマグカップを取り出す。取り出したマグカップに液体を……匂いからして紅茶を注ぐとこっちにそれを渡してくる。

「もう六月といっても朝は涼しいからね。ここに来るまでに多少スタミナ減ってるし」

「悪ぃ」

「いいのいいの。あたしは好きでサイアスについてるんだし世話してるの」

「相変わらず仲がいいなぁ、おめぇら」

「失礼な。ストーカーの被害にあってるだけだ、お前の目は節穴か」

 壁に寄りかかるようにして座っている体の首だけを持ち上げるとそこには無精髭を生やした、山賊のような顔をした男がいた。本人曰く頭のバンダナがチャームポイントであるらしいがどうみても山賊にしか見えない。積極的にボスの攻略に参加しているプレイヤーやギルドとはそれなりの付き合いがある。ソロプレイヤーだからといって知り合いが少ないわけではなく、今ではコンビだが少数で戦うからこそ、他人との付き合いは大事だ。そういう意味でもコイツとのつながりは大事にしてる。

「いいか? よく見ろよ? 俺のどこが嬉しそうなんだ? ついに脳みそまで山賊並に落ちたんじゃねぇのかクライン」

「えへへへへへへ」

「見ろよ。お前の嫁は既に全力で喜んでるぞ」

「クソ! 世の中馬鹿ばっかか……!」

 最前線を誰一人欠ける事無く戦い抜けるギルド≪風林火山≫のギルドマスタークライン。ギルドメンバーが他のオンラインゲームでもフレンドという間柄で結成されたギルドではあるが、彼との出会いは他の攻略プレイヤー同様迷宮区とボスのレイドパーティーであった。最初は他のプレイヤー同様情報交換する程度だったが、お互いにキリトという一つの共通点を経て、それなりの交流を持つに至った仲だ。といってもネームドMOB討伐や殆ど存在しない暇な日に飲む程度だ。

「つかよ、肩に寄りかかってるのを容認してる時点でもう色々とアウトだろ。サイアスよぉ、周りは既に結婚してると思ってるぞ。いい加減諦めたらどうなんだよ。既に押しかけ女房みたいな状態なんだから」

「執念の勝利。あとは既成事実のみ……!」

「はいはい、黙りましょうねー?」

 実際一緒にいて嫌な思いはしない。むしろ今更消えてもらっても違和感しかない。隣にこいつがいることが当たり前になっている。多分いなくなってしまったら生活で困るのだろう。だが、激しく恥ずかしい上にムカつくから絶対言わない。言ってやらない。

「そういえばキリトは今回も不参加か?」

「レイドパーティー参加者の名簿には載ってなかったな」

「今まで全攻略に参加してたあいつがねぇ……」

「キリトってあの黒尽くめの男の子だよね?」

 トウカはキリトにボスの攻略でしか会ってなかったな、と思い出す。

「片手剣使い(ソードマン)だな。少し前にギルドに入ったから攻略は休むつってたっけ」

「何? キリトがギルドにだって? マジかよ」

「マジマジ。ちぃと心配になってフレンド見たら生きてるんだがよ、メッセ送ってみればギルドに入ったから休みだってさ。ソロプレイヤーは確かに美味いけど麻痺とか喰らったら即行であの世行きだからな」

「ま、そう考えると嬉しいもんだよな」

 クライン二十四歳。そして俺は二十一歳。既に互いに社会に出ている年齢だ。そしてキリトはまだ学生の年齢。こうやって年下の安全を考えると若干年寄り臭いがこの世界ではそうも言ってられない。命があってこその世界だ。友人の心配をするのは間違ってはいないはず。

「ま、いないやつよりは今の俺達だな。今回のボスはかなりのデカブツらしいし」

「そうなのか? 一応どんな感じのヤツかは教えてもらってるけど、最初のパターンしかしらないんだろう?」

「おう、今回のは巨大な双頭型の巨人のボスだ。やべぇ強いぞ」

「ヤバイ?」

「あぁ、一撃まともに喰らって一気にイエローゾーンだったらしいぞ」

 イエローゾーン、それはつまり半分にまでライフバーが減らされたということだ。

 そして、偵察とは防御力の高いメンバーで行われるのが通例である。

「それ、ヤバくないかしら」

「防御特化でそうなんだから、俺達が喰らえば一撃死もありえる」

 最前線で戦う人間にとって死とは常に隣りあわせで存在する要素。それは避けられないことであり、そして常に考え続けなければいけないことでもある。だからと言って受け入れられることでもない。そのために日々迷宮区に潜り、多くのモンスターを倒して安全マージンである+十レベル以上にレベルを上げる。そしてボス戦闘で必死に戦い、また一歩、アインクラッドの頂へと近づく。

 そうやって戦い続け、生き残り続けるしか俺達に生存の道はないのだ。

 考えたくないことではあるが、俺達はリアルの影響で死ぬ可能性も大きいのだ。大きな地震がリアルで発生すればその影響で接続が切れてそのままプツン、と死ぬ事だってあり、誰かのミスで偶然コードが抜けて脳がボンと、やられる可能性だってある。誰もが考えたくないそんな可能性が、そんな危険性が常にリアルでも潜んでいる。そのため俺達は毎日攻略を進めている。一刻も早くこの世界から脱出するために。

 とはいっても現在は九日か十日に一層進む程度のペースだ。コレで続けるのならばまだ日にちはかかる。

 そんな事を考えているとクラインの腰にささっている得物が目に付く。

「ん? クライン、お前の腰のそれ」

「おう? 解ったか?」

 腰に差してあるのは間違いなく自分が少し前まで使っていた得物と同じものだ。今自分が装備している脇差よりも長く、そして小さく反りの存在する得物は最近一番人気の武器であり、習得条件が比較的簡単なエクストラスキル、≪カタナ≫の得物である刀のそれだった。

「俺も元々曲刀スキルで始めてたから。これでブシドーって呼ばれるのはお前だけじゃないぞ!」

「やめて! へんな名前で呼ばないで!」

「お前が人を集めてちゃんばらするのが悪いんだろ。第一かっこいいじゃねぇか」

「あのサイアスは超かっこよくて素敵だったわ!」

「うんうん。黙ろうねー?」

「大体居合いなんてデメリットの大きいスタイルを選ぶのも原因だと思うぜ」

「効率いいじゃん」

「あ、そういやぁお前は効率厨だったな。……最近はそこまでそうじゃねぇけど」

「うっせ」

「あ、この顔は照れてる。やっば、胸がキュンキュンいった」

「マジ黙れ」

 クラインを交えた長話に興味を持ったのか他にもプレイヤーが集まりだしてくる。二十五層のボス攻略間近ではあるが、誰もがその勝利を疑わずにいた。強敵との相対、その開戦はすぐそこにまで迫っていた。
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| 断頭の剣鬼 | 21:24 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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