陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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柊 ―――ミート・イン・ドリーム

開始から最初の◆までの推奨BGM:AHIH ASHR AHIH
*1からの推奨BGM:Unus Mundus

アインクラッド第二十五層
二〇二三年六月


 自分の前世について、はっきりと覚えていることは年を重ねるにつれて少なくなっていると自覚している。だがそれも仕方がないと思う。大学生になって、小学校でのクラスメイトの声を覚えているか? と問われて"いいえ"と答えるのと一緒だ。毎年やってくる新たな記憶によって古い記憶が上書きされているのだ。そのため、印象の薄い記憶は残りにくい。ちなみに科学的に言えば悲しい記憶などのマイナスなイメージほど強烈な印象として残りやすい。幸せな記憶よりもだ。つまり、自分が何を言いたいかというと、前世の大学時代に外国語を軽く習っておいてよかった、という事だ。

 といってもその知識も長い間使ってなくて大分錆付いてしまった。だけど、それでも目の前の、この光景は、昔に見た覚えがある。SAOデスゲームの事件以外にはまったくもって変哲のない人生を送っていたつもりだが、どうやら神様はそこまで優しくない様子だった。


「―――Je veux le sang, sang, sang, et sang」

 頭の奥にまで響くような異国の歌がひたすらリフレインされ響き続ける。これを聞くのは初めてではない。だからといってその吐き気がするような内容に慣れるほど自分の人間性は擦れてはいない。だから純粋に不愉快な物は不愉快と感じる。そしてこれは間違いなく"不愉快"といっていい部類に入る状況だ。何せ、今の自分は拘束されている。罪人の如く。

 両手と首が断頭台に拘束されているのだ。

 最近はいつもこうだ。何故だか解らないが気づけばこうなっている。おかげで起床後の気分が非常に悪い。起きてまず最初にライフバーを確認するのがもはや日課と化してきている。

「……なあ、そこらへんどうなのよ」

 自分の首が固定されている断頭台から眼下、見物に来ていると思わしき人間の一団に話しかける。だがその言葉に対する返答は一切なく、その代わりにと、

「Donnons le sang de guillotine」

「ギロチンに注ぎましょう飲み物を、だっけ? キャー、超、物騒」

 一切の理性を感じさせない返答が帰ってきて、大合唱でリフレインの続きが歌われる。聞き飽きるほどに聞かされたこの歌が止まることはなく、そしてここに来るたびに聞かされるのだろうと、もはや諦めの境地に至っていた。現在の目的はここからの脱出ではなくコミュニケーションを確立することだったが……それも無駄らしい。

「Pour guerir la secheresse de la guillotine」

「おう、もうすぐ終わりですかそーですか」

 既知だ。既知感。それこそここ数日からではなくずっと前から経験している気すらする。自分の奥の何かが懐かしさを感じ喜んでいる。が、何回も聞いたことから処刑の歌がもうすぐ終わりを迎えようとしていることが理解できた。そして歌が終わったところで……断頭の刃は振り落とされ俺の首は体から切り落とされる。激しく憂鬱だ。毎晩毎晩この悪夢を経験する人間の事を考えて欲しい。なあ、

「お前もそう思うだろ?」

 前ではなく、首を動かせる範囲で横に回すと、そこには少女がいた。黄昏に染まった海辺の街。ボロ布で作ったような白いドレスは胸元を大きく晒しながらも決して卑しい印象を与えず、こっちの存在を視認する目からは純粋さしか感じない。そう、それしか感じられないのだ。出会ってからも聞いた言葉はこのリフレインだけだ。今まで彼女に質問してきたが全く返事をせず、ただただ歌い続けている。諦めずコンタクトを続けるが、その返答は冷たい刃の感触。本格的に心が折れそう。

 そこで、ふと思い出す。SAOについて、茅場晶彦がとある雑誌のインタビューで小さくもらした言葉を。SAOのゲーム内でのクエストは、カーディナルというシステムが自動生成しているらしい。ネット上で伝承や小説、話を検索し、そしてそこからクエストを生成するのだとか。この少女のモデルとなったのはとある小説にある、≪罰当たりっ子≫という話だ。ならばこの子もまたカーディナルが生成したクエスト用のNPCなのだろうか。だとしたら傍迷惑なクエストだ。夢とは体が眠っているが、脳が活動している時に見るものだ。そして脳神経に干渉できるナーヴギアなら意図的に睡眠に介入して夢を見せることも出来るだろう。他の可能性としては寝た瞬間にクエスト専用エリアへの強制転送などが挙げられるが、それらを考えてても仕方がない。

「Je veux le sang, sang, sang, et sang」

 見物に来たNPCと、純粋無垢な少女が歌を終える。これで今晩の悪夢が終わると思うとほっとする。だが同時に一つだけ疑問が残る。SAOの中にいるNPCやPCは例外なく集中して見れば、頭の上にカーソルが現れる。実際、見物客らしき連中は集中すればカーソルが現れる。

だが、少女にはそのカーソルが現れない。これは、一体どういうことなのだろう、とそう思い、

「なあ、どうなんだ? ―――サン・マロの宝石、マルグリ―――」

 言い終わる前に断頭の刃が首を切断する。変わらない痛みとつめたい鉄の感触が首を切る。痛い。また痛い。SAOには痛みなんて要素は存在しないはずなのに、痛い。激痛がする。死んだとすら錯覚するが死なない。死ねない。何かが、自分の中の何かがこの程度では死なないから安心しろと囁きかけてくる。そして―――既知感に襲われる。

 今夜もまた、刎ねられた首は宙を舞う。

 お馴染みとなった光景、景色、首のない自分の死体。液体描写が苦手なSAOであるはずなのに、何故か血を勢いよく刃の下から流す自分の死体。何でだ。酷く不気味で吐き気がする光景なのにこれで良いと思えてしまうのは。そう思えてしまうことが何よりも気持ちが悪い。

 そして、首が地面に落ちる。


                           ◆


「っがぁあ!!!」

 跳ね上がるように飛び起きて自分の首を押さえる。そこに自分の首は体と繋がるように存在し、確かな温かみを感じる。視線を頭上に向けるとそこには緑色のライフバーが完全であることを証明し、そして周りを見渡せば昨夜泊まった宿に居ることを証明していた。俺は帰ってきた。この宿に。目覚める前に感じた肉を断つ断頭の刃はもうない。肉を裂き、神経と骨を断つあの冷たい刃はもうない。SAOの痛みの再現としては行き過ぎたあの痛みが忘れられず首を擦るが進展のない事を考えても仕方がない。

 ≪攻略組≫であるサイアスは今日、やるべきことがあるのだ。

 ベッドから体を起き上がらせるとインベントリを出現させる。寝る前にはズボン以外は脱いでるので、上半身にインナースーツを纏い今度はその上からフードのついた、赤色の着流しを着る。手と足をオキサトに作ってもらった和風の軽い金属装備で整えると着替えが完了する。

 腰掛けていたベッドから立ち上がりインベントリから武器である≪脇差+6≫を取り出し腰に差す。刀グループの武器としては若干短めのこの武器は連撃よりは居合いを主体としたスタイルで真価を発揮する。カグヤに昨日メンテナンスと強化をしてもらったばかりであるため、軽く抜いた刀身は輝いていた。

 さて、今日は万全を期すためにあまり派手な行動は取れないな、と思ったところで部屋の扉がノックがされる。

「おはよー。サイアスもう起きてる?」

「開いてる。入っていいぞ」

「おっはー!」

「返事する前に入ってきやがったよこいつ……」

「とか言いつつも鍵は先に開けておいてくれるからサイアスって素敵よね」

「うっせぇ」

 部屋の入り口から姿を覗かせるのは赤毛の長いポニーテールをした既に結構の付き合いになっている女、トウカ。今デスゲームと化して人が人を騙し、そしてそれが死につながる世界で自分が信用できる相手。ただ、その性格さえ治ってくれれば……。

「今なんか私の事考えた!?」

「あぁ……ソフトに言うけど頭の病院がSAOにはないのが残念だなぁって」

「直球!?」

 馬鹿を押し出すように部屋から出る。何時も通りくねくねしているのは無視して廊下から窓の外を見る。自分の部屋の窓からも見えたが太陽の光がさし、明るい町並みが見えていた。だが街の中に見える人間がまったく居ないことからまだ朝早い時間だということがわかる。軽い欠伸を出しながら視界の隅に出ている時間を確認すると、時刻はまだ朝の八時を回ったところだった。普段ならもう少しベッドの中でまどろんでいるような時間だが今日はそうもいかない。不測の事態を考慮し早く起きて準備はしておきたい。

「おい」

「はいはーい。今行くわよ」

 二階建ての宿の廊下を抜けて階段を下りる。予想通り、まだ朝早い時間のため一人もプレイヤーが居らず、広い酒場を一人で独占したような気分になる。入り口から見て奥にあるカウンターには無愛想な店主と、そしてウェイトレスが待機してる。手ごろなテーブルに座ると即座にウェイトレスがやってくる。

「メニューで御座います」

「あ、メニューはいらないわよ」

「おい」

 そうやってトウカがウェイトレスを追い返すとインベントリを表示させそこからアイテムを出現させる。メニューの代わりに出現したのはベーコンやトースト、スクランブルエッグといった朝の定番メニューだ。こういう場所ではメニューから食事を頼まなくても≪料理≫スキルで作成した物を持ち込めるのだ。とは言え、基本的に料理は攻略にまったく関係がないスキルなためにそれを選んで上げるプレイヤーは少ない。

「じゃんじゃじゃーん。家庭的な女っていいと思うのよね!」

「残念。リアルだけど俺、料理できるから」

「えぇー。じゃああたし料理マスしてサイアスの舌を唸らせるわぁ」

「おーい、この世界は攻略が目的だぞー?」

 まだ静かな酒場で朝食に手を出す。SAOでは、全てのアイテムに耐久値が設定されている。そして料理スキルで作られた物は作成した物を実体化させたままにするとすぐに耐久値が減るために、出したら何時までもぐだぐだしててはいけないのだ。

 トーストの上にベーコンとスクランブルエッグを乗せてそれを口に運ぶ。塩と胡椒でしか味付けされていないが、素材の味が引き立てられていて美味しい。が、それを面と向かって言うと調子づくのは目に見えている。だからそんな事を言わずにただ食べる。

「あ、はいこれ」

 そう言って差し出されたのは紅茶だった。それを受け取りながらも顔を見てみると、

「あたしは朝ごはん作った時に済ませてるから気にしなくてもいいわよ。いいわよね! 旦那の朝ごはんを作ってそれを渡したら前からそれを眺める朝!」

「寝言が言えるとはどうやらまだ目が覚めてないようだな」

 返事をしながらも朝食を食べる手を休めることはない。ニヤニヤとこっちを見つめてくる馬鹿を見つつ、朝食を食べる。


                           ◆


 今日の朝食は早く終えた。そのため他のプレイヤーが朝の食卓に混ざる事無くトウカと二人だけで過ごした。時刻を軽く盗み見ると八時半とでており、朝食に結構な時間を費やしたと思いながら、自分のインベントリを再度チェックする。普段の探索用に用意してあったロープやランタンといったアイテムは外され、ポーションや回復結晶でインベントリが埋められていた。インベントリの中にある共通タブをクリックすると、トウカと共通にしている部分も多くの回復結晶が入れられていた。

「んー、まだ集合まで時間はあるなぁ。こんな時間じゃ露店やってないだろうし、昨日のうちに準備済ませちまったしなぁ……」

「早めに行っても問題はないと思うわよ?」

「そうか?んじゃ一足先に迷宮区へと行くか」

 宿の前から足を動かし、全ての主街区に用意されている転移門広場へと向かう。

 基本的にSAOでのフロアの移動は、各主街区に設置されている転移門を通して行う。転移門自体は五メートルほどの大きさを持った金属性の門で、その中が蜃気楼のように揺らめくデザインとなっている。行きたい場所を言ってからその下を潜ればどこかのプレイヤーがアクティベート化させた転移門であれば、どこへでも転移することが可能という事になっている。基本的に転移門は迷宮区にも存在するため、迷宮区へは徒歩で向かうより転移門で向かった方が断然早い。

 まだ早い朝の街、トウカと二人だけで大通りを転移門広場へとむけて歩く。

「つかさ、お前なんで料理スキルなんて上げてんの?」

 そのまま何も話さず進むのもつまらないと思い、ふとした疑問を口にしてみる。質問を受けたトウカが両手を頬にあて、恥ずかしそうに顔を背ける。

「えー、それはもちろんサイアスに毎日のご飯を提供するためじゃない。言わせんなよ恥ずかしい」

 実際、本当にこいつの飯に世話になっていることを考えると、自分は結構駄目なのかもしれない。実害はないしNPCが作るメシよりも美味い。だから激しく断り辛いのだ。しかもなんだか周りの視線が生暖かい。何だこれ。……まさか、外堀が……埋められている……?

「あれ、顔が青いけど大丈夫? いや、ここは私の熱いベーゼで……」

「何時になったら夢から覚めるんだお前は」

 ……まぁ、こういうのも楽しいといえば楽しいから、問題はないだろう。

 互いにくだらない事で盛り上がりながら話を続けると、はじまりの街と比べてそう大きくない二十五層の主街区の端、つまりは転移門のある広場へと到達する。広い円形の広場の中央に重々しく存在感のある転移門が、今日も冒険へと旅立って行く冒険者達を見送るように聳えていた。

 *1

 先へ進み転移門へ入ろうとした時に、門の前に何かがいる事に気がつく。

 軽く風が吹いているはずなのに、その影が纏うぼろマントは物理法則を無視するように不動のままで、何かを待つようにして立っていた。一言で言えば気味が悪い、という思いが一番正しい印象なのだろう。そして次に理解できないという意味での恐怖。

 歩き、近づく度に影は―――いや、男の異常さが目立ってくる。

 それはそこに立っているだけでおかしいのだ。明らかに別の何か、別種の法則でそこに存在していると本能が告げる。そしてぼろマントに隠されていない顔は―――吐き気を催す程に似ている。そう、似ている。”顔は全く違うし似ている所なんて欠片も存在はしていない”が、それでもこいつは俺と間違いなく同じ顔をしている。その事実に生理的嫌悪感を覚えて―――。

「お前は―――」

 言い終わる前に。

「おはよう!」

 能天気に挨拶をするトウカの姿があった。何やってんだよこの馬鹿。気づけこいつの異常さに。感じないのかこの吐き気を、苛立ちを、既知感を。それを伝えようとしてトウカを見るが、全く気にしていない、いや、感じていないのだ。

「おはよう、フロイライン。実に良い朝だ」

 途端、悪寒も吐き気も既知感も全てが消え去る。まるで何事も無かったかのように。一瞬全てが夢ではなかったのかと疑うほどに。目の前のぼろマントの男はどこからどう見ても似てない。何故顔が一緒だと思ったのだろうか。爽やかに挨拶をするトウカの横で軽く頭を抑える。

「ダーリン?」

「誰がダーリンだ! 年中色ボケピンクが……!」

「やだ褒めないでよ」

 溜息を吐き、ぼろマントの男を見る。最初にあった感覚は完全に消え去って思い出すことすらできないが―――コイツの事は一生好きになれそうにない。それだけは理解できるし、一生変わらないだろう。挨拶をする事無くトウカの腕を引っ張りぼろマントの男の横を抜ける。

 と、その時、

「安寧には終わりがあるのだよ、≪シャヘル≫。その宝石を守りたいのであれば、努々業を忘れぬ事だ」

「ッ!」

 振り返った先にはもうぼろマントの男はいない。まるでその対峙自体が夢幻であったかのように消えていた。

「……クソ」

 胸の中に拭い切れぬ不安を残しながらトウカの手を離し、なるべく何時もどおりの自分を装う。

「さて、そろそろ迷宮区へと行くか」

「いやぁ、今日のサイアスさんは元気でしたねぇ……」

 何も言わずに、合わせてくれる彼女の存在が暖かい。

「無意味に合わないネタを使うんじゃねぇよ」

「えー。結構気に入ってるのに」

「お父さんに正直に言ってみなさい? 何処のドチクショウから習ったのかなぁ?」

「パパー! トウカはパパと一緒のベッド寝たいのー! そして大人の抱き合いをしたいのー!」

「ブレねぇ」

「私の体はサイアスへの無限の愛と性欲で出来てるのよ」

「はいはい」

 適当にあしらいつつ転移門を起動させる。行く先は迷宮区。

 とりあえず―――二度とあの影法師と会わないことを祈る。
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| 断頭の剣鬼 | 01:16 | comments:6 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

ニートうぜぇ

| 首無し | 2012/07/24 08:21 | URL |

ニートうぜぇ

| ろくぞー | 2012/07/25 21:42 | URL |

ニートうぜぇ

| NONAME | 2012/07/25 23:23 | URL |

ニートうぜぇ

| zane | 2012/07/27 23:19 | URL |

ニートうぜぇ

| | 2012/07/29 11:53 | URL |

移転してから最初から読み直しているのですが、今思うとトウカのキャラが性ヒロインに目覚めたルサルカに見えてきた。そう思ってからこっちトウカの声が脳内で木村あやかボイスで再生される件について……

……あとニートうぜぇ

| とある闘う公務員 | 2012/07/31 18:46 | URL |















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