陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

刀巡り ―――パーティー・タイム

推奨BGM:Walhall


「―――おーい、全員に飲み物は行き渡ったか? いったか? んじゃ、かんぱ~い!」

「かんぱぁーい!」

 カン、木製のカップがぶつかり合う低い音が酒場中に鳴り響く。現在、≪羽馬亭≫の一階酒場部分、そこは大勢のプレイヤーであふれており様々な料理と飲み物がずらりと並んでいた。その量と見た目から相当のコルがつぎ込まれているのがわかるが、誰もがそれを気にした様子はなく楽しく笑い、乾杯とぶつけ合ったカップを口へと運ぶ。


「……っく、はぁー! あぁ、俺はこの瞬間の為に生きてるようなもんだぁ」

「親父くせぇぞスキヤキ!」

「るせぇ! これぐらい楽しみがあっても悪かぁねぇだろうよ」

「ちげぇねぇ」

 ガハハハと豪気な笑いが酒場に響く。その酒場を見渡しながら俺は思う。結構多く集まったな、と。カグヤを抜いたレイドパーティーのメンバーは全員揃っているし、今朝迷宮区へと向かった面々も居る。その上手当たり次第にフレンドの人間を悪ノリで呼んだから物凄い数にまで膨れ上がってしまっている。特にパシリ……ではなくミナトは物凄い悲惨なことになっている。

「いやぁん! ミナトちゅぅぁんス・テ・キ」

 ヒジリがミナトの背後から肩を掴み、

「ん~、少し疲れが溜まってるんじゃないかしらぁねぇ、ミナトちゃぁん」

 カメリアがサイドからがっちり腕を掴み。

「うふふ、サイアスちゃんの紹介だしやさしくしてあ・げ・る♪」

 コマチが正面から筋肉を披露していた。

「いい筋肉だ……!」

 しかもそれを筋肉愛好家のボブが横から筋肉評価をしていた。この世とは思えないほど濃い空間だった。セッティングした黒幕としては流石に少し可哀想になってきたがそれでも救いの手は出さない。手を出したら自分が巻き込まれるのが目に見えているからだ。さらばパシリ、お前の死を乗り越えて俺は進むよ。

「SAN値! SAN値ィィイイイイ!! あぁ、窓に、窓に! むしろ横にィイイイイイイイイイ!」

 後ろから聞こえる、冒涜的な何かに精神を削られる哀れなパシリの悲鳴を無視して目の前のテーブルの上、その皿の上に置かれている料理をフォークで突き刺し、食べる。酒場で用意してもらえる料理も美味しいが、宿屋や酒場ではプレイヤーによる料理の持ち込みも可能である。料理スキルを上げているプレイヤーによる料理は、NPCが販売するそれよりも自由度が高く、味も保障されている。目の前の一口大に切られた魚のカルパッチョを口へと運び、その味を楽しみながら周りを見る。

 本当にいっぱい集まってきたものだ。

 ちょっとしたお披露目のつもりで適当に呼んだら予想以上に来てしまった。それ自体は問題ないが、全員が全員ハメを外しすぎだ。SAN値直葬の現場は全員が無視してるから放っておくとして、酒場の一角ではスキヤキと、バーテンダー風の服装に身を包んだアルコール信者エックスワイジイ……通称エックスが飲み比べをしていた。何処から取り出したか疑問というほどの量を二人は一気飲みし、次々とボトルを空けていた。

「いい飲みっぷりじゃねぇか……三本目ぇ!」

「ワレぁやるやないかぁ! こちらも三本目や!」

「私も負けないわよぉ~五本目ぇ~イェー!」

 ……ん?狂人が混じってる気がするが気のせいだろう。一人ダントツでリードしてるとか夢だろう。
 気にしてはいけないのだ。そんなわけで視線を移せば割かしまともな連中が集まり情報や、技術交換を行っている。その話題に上がってくるのは先ほどの二組と比べればまともすぎる内容だ。

「ユリウスはSTR優先タンクだよね? そこはやっぱりVITの方が良くない? 自分としてはSTRを優先的に上げている人間の意見が聞きたいんだが」

「そうですね。やはりSTRを上げればソロプレイで戦えるってのが一番の利点でしょうかね。VITを上げてフルタンクにすることも悪くはないですけどやはりパーティーでのレベル上げはソロと比べて、多少自由が利かないことが多いと思うんですよ。生き残ることを優先に考えたらVITですけど、やはりSTRを確保しませんとスイッチでブレイクポイントを作る時に筋力足りなくて他人任せって時が来てしまいますから」

 ユリウスと積極的に意見を交わしているのはジョーと言う私生活でも鎧とフルフェイスヘルムを被るユリウスの同類だ。同じタンク系のビルドをしているプレイヤーが所属するギルド≪城塞騎士団≫に所属する男だ。ジョーとユリウス以外にも数人のプレイヤーが積極的に話に参加し、聞いている。意外にもそこにはトウカの姿もあった。

「あたしも、VITへの振りは、少しねぇ。やっぱりSTRがないといざ、って時にそのまま削り切られるって話だし。何よりVIT優先型ってパーティー用のビルドじゃない? パーティーを組まない人間や、馴染めない人間には辛いビルドよ。私はVIT最低限でSTRふって多少の被弾覚悟で見切りながらごり押しするのがやりやすいと思うわよ」

「俺からしたらお前ら全員なんで避けないかって話なんだけどな」

「AGI=DEX型の変態は黙ってろ」

「俺の扱い酷い」

 STR無振りのため布装備で顔さえ隠す変態ビルドのプレイヤーオボロがその言葉で落ち込む。STRが低いために重い装備は使用できないし、防具も布関係しか装備できない。変態ビルドの名に相応しいキャラクターだ。自分が一時期DEX>AGI型になろうと考えていたのは黙っておこう。

 まだまだ多くのプレイヤーが別の組に集まりながら談笑などに興じている。こうしてみるとやっぱり、アインクラッドに来たことは、≪ソードアート・オンライン≫をプレイしたことは間違ってはいないと思った。これは確かに危険だ。茅場晶彦という一人の天才が完全に支配し、ここでの死はリアルでの死へと繋がる狂気のゲームだ。

 だが、それは現実と何の違いがある。

 実際にリアルで誰かを殺せば捕まる。殺されれば死ぬ。そのルールがSAOでも一緒だというだけだ。確かに遊びだと思って参加したら外にでられずに死ぬ可能性だってあるわけだから、軽い気持ちで参加した人間からすれば狂気以外のなにものでもない。だが一度無意味に蘇ってしまった人間からすれば前世も来世も電子の世界も大して変わりない。死ぬならば、死ぬ。生まれ変わるんだったら生まれ変わる。その当たり前のルールを茅場晶彦は適用させただけなのだ。いや、この世界は現実よりもマシかもしれない。MMORPGは努力さえすれば絶対に報われるのだ。一流大学を出ても不景気だからという理由で就職できないなんて事もない。地道な修練を積んで、冷静に行動すれば、それだけで一日を凌ぐだけの金を稼ぐことが出来るのだ。そしてそれを積み重ねれば家でも城でも購入することが可能だ。だから、この世界は現実よりも圧倒的に温情があると思う。いや、それは未だ喪失を経験したことのない人間の言葉かもしれない。実際に身内か近しい人間が死ねばその考えは変わるかもしれない。

 結局、この瞬間が楽しく感じられる自分はどこか間違っているのだろう、か。

「なんだっけかなぁ」

 どっかの刹那主義者の言葉だったが、アレに共感するものがある。アレはたしか前世の記憶だ。だから中々言葉が思い出せない。長い間勉強せずに放っておいたせいだろうか。たしか、

「……思い出せねぇや」

「なぁにしてんのよ」

 その声に振り向くとそこに居たのはリリーだった。先ほどまで飲み比べをしていたんじゃないかと、その方向を見て即座に後悔した。十数本のボトルの中にスキヤキとエックスの姿が沈んでいた。この女なんたる酒豪か、と心の中で戦慄するがそれを表に見せない。と言うよりショックが大きすぎて見せられない。

 こちらの手に酒の入ったカップを押し付けるようにして笑う。

「宴会の主催者がそんな暗いんじゃ駄目よぉ~」

「あ? 何言ってんの? 俺はただカオスな空気から離れて休憩しているだけなんだが?」

 先ほど食べたツマミとはまた別の物を口に運んで食べて、自分も十分楽しんでいることを証明する。実際、自分はこういう雰囲気は中心で暴れる方よりは横から眺めてる方が好きなのだ。その時には誰かが横で一緒にゆっくり会話してくれることが理想なんだが。

「だってぇ、アスアスったら超ジジ臭い雰囲気出して『わしゃあもう引退じゃ、後は息子に任せるわい』、なぁーんてオーラ出しまくってたわよ? ッハ! まさか、子供が出来ちゃったの……? ……解った、私も責任を取るわ……頑張って一緒に育てましょう……」

「すいません、誰かこの狂人チェンジできませんかぁー! 脳内が危ないんですけどこれ!」

「はい! はい! はい! 今ならベッドまでテイクアウトできるあたしが!」

「淫乱ピンクも狂人ゴールドもアウトー」

「ケーツバット! ケーツバット!」

 ……こいつ、一度ガチで泣かせた方がいいんじゃないか……?

 諦めのため息を出しながら再びツマミを口に放ると、

「ちなみにそのツマミは私が作ったから」

「ぶふぉ」

 なん……だと……?

 その言葉で思わず反射的に口から食べ物を吐き出しかけてそれを飲み込む。踊りとカオスの詰まった、と言うかそれ以外は詰まってなさそうな狂人が作った料理がこんなに美味い……?

「う、嘘だって言ってよ……! なぁ、なあ……」

「そこまで本気の顔で落ち込まれると私としては結構クルんだけど」

 背後から肩に手が掛かる。そちらの方向へと顔を向けるとお通夜の様な表情をしたタスケがいた。その表情を見て理解した。彼もまた同志。この狂人の料理だと信じたくない同志なのだ。

「タスケ……俺、俺……!」

「言わなくていいんだよサイアス。ボクも、ボクも信じたくなかったんだ。彼女が両手剣とダンスで戦う変態だと思ったら、マジメに料理スキルを育ててる狂人だったなんて。そう、意外と家庭的なタイプだったなんて……こう見えて―――」

「タンマ。それ、私のキャラに関わる。―――ちょっとタスケ君、裏へ行こうか?」

 うわぁあ、と悲鳴を上げながらタスケがリリーにしょっ引かれて行く。帰ってくる頃には今朝話していた、タスケ男の娘化計画が完了しているだろう。さらばタスケ。お前の犠牲は忘れない。後で写真を渡せよ。ついでに狂人を持っていってくれてありがとう。本当にありがとう。

「ダスヴィダーニャタスケ君……私はサイアスと幸せになるよ……」

「ロシア語とかお前何処で覚えたんだよ。あとお前とはどうともならんから」

 残ったトウカに対してツッコミを辟易しながらも入れると、先ほど受け取ったカップの中身を飲む。あの女が飲むほどの物だからキツイかと思っていたがその予想に反して甘めの軽いお酒だった。多少付き合い程度でしか飲まない自分としてはこれぐらいが丁度いい。

 カップの中の酒が減ったのを確認するとそれをテーブルの上において、ポツリと言葉をもらす。

「こういうの、いいな」

「そうね」

 短い、肯定だけの言葉。

 多くの、日本中何処に住んでいるともわからない人間がこうやって一箇所に集まって馬鹿をやって、騒いで、飲んで、食べて、笑って、泣いて、そしてこの瞬間を楽しむのだ。ただ学校に通って大学に行って、就職して、結婚して、そんな風な人生を送っていては決して経験の出来ないことだ。そしてこの瞬間は平和で、凄い平凡で、刺激なんかないけど守りたくて、出来ることならばこのまま―――

 そこで酒場の扉が開く。

「完成」

 そう言って酒場の中にはいってくるのは低身長で全身をローブ覆う幽霊のような姿の少女、カグヤ。真っ直ぐこちらまで歩いてくると紙に書かれた文字を見せてくる。

『ヒャッハァー! 完成ダァー! カエルは消毒ダァー!』

 とりあえずテンションが高いことは理解できた。

 即座にカグヤがこちらにトレードを申し込んでくる。新たなプレイヤーの到着とその行動に何人かが振り向き注視してくる。その視線を受け流しながらこちらもトレードを承諾して、カグヤから完成品を受け取る。本来ならオブジェクト化されたそれを直接受け取った方が早いが、それではつまらない。ちょっとした演出のためにこんな回りくどい手段をとっているのだ。トレードが終了し"それ"がインベントリに追加される。ほかでもない、皆に集まってもらったのはこれが目的であった。カグヤの来訪を察知したユリウスが会話を切り上げこちらを見る。ミナトは……気にしなくていいだろう。

 とりあえず手をパンパンと叩き、全員の視線を集める。雑談に興じていたプレイヤーがこちらに視線を向ける。とりあえず掴みはこれでいい。インベントリは他の人には見えない状態のままにしておく。

「さて、皆いい空気吸ってるか? 食ってるか? 飲んでるか? 楽しんでいるのならいい。これからメインイベントの時間だ」

 注目を集めているのを意識しながらもインベントリを操作し、そこに収納されている武器を装備する。装備された武器が即座にポリゴンとして形作られ腰に現れる。驚きの声と共にそれに視線が集まる。それはまだアインクラッドでは装備しているプレイヤーが発見されたことのない、モンスターにのみ見られた武器、≪刀≫だ。

 腰から鞘ごと刀を抜いてそれを見せ付ける。

「エクストラスキル≪カタナ≫だ!」

「≪打ち刀+2≫」

 何気に既に強化している辺り職人としてのこだわりが見えるカグヤ。

 それを見て一瞬の静寂、そしてそこから声が爆発する。

「カタナなんてスキルあったのか!?」

「条件は! 条件は何で御座るかぁー! 言え! 今すぐ言え! 今すぐだ!」

「条件は曲刀スキルを使い込むことだよ。するとそのうちスキルが発現する。あとは刀のレシピ入手のクエが来るからそれをクリアして作成してもらうだけ」

「うがぁあ! 欲しかった武器が先に取られたー!」

「ざまぁ」

「寄越せ!」

「だが断る」

 酔った様な叫びと本気ではない遊びの罵倒の声と祝福の言葉を受け止めながら全員の視線が刀に注視しているのを感じる。今回の目的はエクストラスキル≪カタナ≫を紹介してその存在を広めることだ。この情報を情報屋に売ればそれなりのコルになるだろうが、生憎とお金に困ることもないし、≪攻略組≫プレイヤーは狩場に居ることが多いからコルはたくさん確保している。自分一人だけが保持するという優越感も十分に味わった。あとはスキルを公開してプレイヤー全体の生存率を上げたほうがいい。そういう思いでの公開だ。あと若干自慢したいという気持ちもないわけではなかった。

 刀を腰に差し戻す。

「そこで終わりなんじゃないだろう?」

「もちろん! 最初から使えるソードスキルをちょっとやるぜ!」

「いよ、サイアス男前!」

「かっこつけて失敗すんなよ!」

「馬鹿、システムの動きなんだから失敗するかよ!」

 声援を受けながら腰溜めに構え、刀に手をかける。即座に周りに居たプレイヤーが退き、テーブルや椅子も邪魔にならない程度に動かす。その中心で右半身を前に出すようにし、左腰に差してある鞘からエフェクトを纏った状態で刀を抜刀する。

 エクストラスキル≪カタナ≫の初級抜刀系スキル、≪ヌキウチ≫。

 一歩前へと踏み出しながら素早く鞘から抜かれた刀が前方の虚空を水平に切り裂きエフェクトを撒き散らす。だがそのままで動きを終わらせずにカタナを右下から左斜め上に切り上げる。赤いエフェクトを纏った刀が素早く切り上げられ、その軌跡を目に残しながら空を切る。初級単発攻撃スキル≪ザンテツ≫。そして刀を一度納刀すると、鞘を上下反転させ、抜いた時に刃が上を向くようにして紫色のエフェクトを纏い抜刀する。抜刀された刀が上段から目の前の空間を断絶するように放たれ、手の中で柄を回して握りなおすと自分の力で逆手持ちのまま納刀。

 ≪カタナ≫の初級抜刀系スキル≪シュン≫。その三つの斬撃によって演舞を終わらせる。左手で掴む鞘の重さを感じながら周りを見渡すと全員が完全にフリーズしていた。

「え、えと……どーよ?」

 戸惑い気味に放たれた言葉を受けて周りから爆発するように声が上がる。俺も覚えるという声から、今の動きから≪カタナ≫とはどんなスキルかを分析するやつ、他には自分のスキル構成を考え直すやつ。様々なやつが声を掛け合って興奮するように話し合っている。その中でトウカがこちらを見て、やったね、と唇を動かす。

 ……若干恥ずかしくなってそっぽを向く。

 だけどすぐに皆の輪の中へと戻って、

「―――ッ!」

 そして先ほどまで忘れてた言葉を既知感と共に思い出す。

「あぁ、そうだった」

 たしか、"時よ止まれ、お前は何よりも美しいから"だったか。

 こんなに楽しそうな光景を見るとそんな現実味のない言葉に共感できてしまう。自分も、皆で毎日こうやって楽しく出来たら幸せなんだろうな、と思いつつ手招きするトウカへと向かう。とりあえずもみくちゃされながらも今日は楽しもう。楽しめる間に精一杯味わおう。たとえこれが既知感を感じる毎日でも皆で笑って、笑って、笑って、そして明日になったら頑張ろう。なぜならこの既知感なら悪くはないと思えるから。だから、茅場晶彦の課した試練に打ち勝ってもう一回楽しもう。この時間を、皆と輝ける瞬間を俺は愛している。この場所を守るために頑張ろう。そうやって毎日を過ごそう。どうか明日が今日の様な日になります様に。
スポンサーサイト

| 断頭の剣鬼 | 23:24 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://tenzodogeza.blog.fc2.com/tb.php/63-7c98b99f

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。