陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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刀巡り ―――ファースト・レイド

 第八層の攻略は約九日程で完了した。

 現在の攻略ペースは第一層の三週間を抜けばコンスタントに九~十日と言うペースで攻略が続けられており、≪攻略組≫は常に最大の危険地帯でもっとも良い効率をを叩きだす為に寄り道をせずに進むために、多くの場合で攻略されない、いわゆる効率の悪かったダンジョンが手付かずのまま残されて行く。

 この≪ダウナ鉱山≫もその一つだ。

 八層での攻略ではまったく関係がなく、それでいて入手できる経験値は少なかったがために攻略はされず、だがそれでも鍛冶職人にとっては貴重な鉱石素材が手に入るために小規模なパーティーが進入する程度の、その程度のダンジョンだった。だがその実態は違った。リターンが小さいのは入り口周辺だけであって、奥へと行くとスキルレベルの上達具合によってあけることの出来る鍵が存在し、更に強力なモンスターと貴重な鉱石が確保できる、レベル別に区分けされているタイプのダンジョンであった。


 ダウナ鉱山地下二階、下がり続ければ何時かアインクラッドの階層を分ける分厚いプレートを突き抜けるんじゃないかという下らない考えと共に俺達はそこにいた。

 先頭を歩くのは赤毛ポニーテールの女。腰にまで伸びているポニーテールを体の動きと共に揺らしながらマッピングされたエリアを迷いなく進む。彼女はその後ろからついてくるいくつかの影を率いる。トウカと、そしてカグヤと同程度の背の少女を先頭に、カグヤをその後ろに、殿を俺が受け持つ。それぞれが手にする得物は違うが、その雰囲気からそれなりに戦えることは察すことが出来る。

 大通りにはいなかった少女の身長はほぼカグヤの身長のそれと変わらず、臨時で組まれたパーティはまるで保護者とその子供のような姿にしか見えないが、手に握られている短剣と革製品の装備は最前線で戦うプレイヤーの中でもダメージディーラーが好む装備品だ。栗色の髪を紫色のバンダナで縛りながらトウカの隣を歩く。

「モンスターでないね」

「レベルが違いすぎるからな。≪追跡≫(チェイシング)でモンスター避けてるし」

 暇そうにそう呟く盗賊風の少女、カルフォの言葉に対して自分でも驚くほどに興味なさげに答える。やはり今日をオフの日だと決めたのにこうやって結局はダンジョンへと来てしまう自分の運命が気に入らないのか、と思う。だが、カグヤは妥協しない生産廃人だし、結局は近いうちにここへ来るハメになってたかもしれないと思い自分の装備をチェックする。革のブーツに革のグローブと先ほどまで主街区で着ていたズボンに変更はなし。だが上に来ていたシャツの代わりに九層で出てくるモンスターのゴム質の肌を使って作られた、インナースーツのような体にぴたっと張り付くトップスに、その上から革製の白いハーフジャケット。ファッションとかは特に興味がないから完全に職人任せだが、職人本人に対してそんな事を目の前で言ってみれば、

『ぬぅわぁんですぅってぇい!? それは冒涜よぉ! 我々裁縫職人への挑戦よぉ! ふぅ! ふぅ! 素材はいいのだからちゃんと着飾りなさいよぉ!』

 と、憤怒の形相で心臓に悪いマッスル顔を近づけてくる来るために大変心臓によろしくない。思わず前回見てしまったその光景を思い出して吐き気を催すが握り締めるカトラスの柄に力を込めて堪える。

 そこで追跡スキルによって拡大された知覚が先に見える白に近いピンク色のカーソルを捕捉する。トウカもその存在を察知して動きを止める。背中に背負っている大鎌を抜き、片手でそれを持ちながらもう片手でカルフォの前に手を出す。カグヤもカルフォもそれを受けて動きを止めながら得物をそれぞれ握りなおす。カルフォは短剣を、カグヤはメイスを。坑道の中ではランプがなければまともに方向がわからないほどに暗いだけではなく、暗闇はプレイヤーの察知能力を低下させる場所でもあるのだ。夜や暗いダンジョンでの狩りがあまり好まれない理由はそれが理由の一つでもある。とはいえ、≪索敵≫か≪追跡≫スキルを保持していればそうでもない話でもあるのだが。

 トウカがカルフォの前から手を退けるとカルフォが右手にスローイングピックを取り出す。自分が愛用しているスローイングナイフとは違い刺突属性ではなく貫通属性のこの武器は、相手に刺さってから継続的な貫通ダメージが与えられるために投擲武器の中でも人気の部類に入る道具だ。構えるのは一瞬、慣れた手つきでトウカの索敵補正で暴かれた暗闇の中のモンスターに向かってスローイングピックが放たれる。

「キッ」

 一瞬、悲鳴のような声が聞こえてポリゴンが弾ける音がする。ここまで警戒する必要はないかもしれないが、今回の依頼人でもあるカグヤは非戦闘員なのだ。戦闘の心得はあるとは言えやはり戦闘につき合わせたくない為慎重になる。

「うしっ」

 軽いガッツポーズをカルフォが取り、少し先へと進むと今の一撃で倒されたモンスターのドロップが落ちていた。数十コルと≪マインバットの牙≫と書かれたそれがインベントリへと移り、コルが平等分配されると同時にドロップがランダムでパーティーを組んでいるプレイヤーの誰かへと送られる。基本的に自分がパーティーを組む場合出たコルが平等分配、そしてドロップはランダム分配で出したプレイヤーのものと決定している。とは言え、今の素材はいわゆる”カス”とも呼べるものなので後で店売りするのが普通だろう。

 再び隊列を、カグヤを守るように組む。

 ダウナ鉱山の地下二階の中を少し進み、目的の場所へと到達した。

 ダウナ鉱山の入り組んだ坑道は非常に厄介ではあるがそのほとんどが行き止まりとなっており実際はここまでは一本道であった。来たことはなく、マップを見ながら来たので時間は掛かったが帰りはダッシュすればモンスターを無視して一気に帰れる距離だな、と自分の中で帰りの事を考えておく。転移結晶を使うのが一番楽だが、アレは数万するのでこの程度で使うのはもったいない気がする。

 目的の場所は横に四人ほどしか並べそうになかった狭い坑道とは違い、少し広い空間となっていた。いくつもの金属で出来た、金網のような扉が存在し、それがカグヤの話していた扉だと気づく。
その中から左端の扉の前へまで行くとぽんぽんと扉を叩く。

「これ」

 たった一言だがその扉がカグヤの目的のエリアに通じている扉だと言うことを示す。ならここは今回のために雇ったカルフォの番だと、そう思いその姿を探そうと周りを見渡すと、

「あっれぇ……今のレベルじゃ足りないのかな……よっと……えぇい、開かないなぁ……」

 右端、一番レベルの高そうなモンスターがいる扉に挑戦していた。

「何やってんのお前!?」

「え、いやぁ……鍵とかトラップ見るとつい外したくならない?」

「ねぇよ」

「ないわぁ」

「えぇー」

「盗賊系ビルドのプレイヤーを見つけたのはいいけど、性格に激しく難ありって所よね」

「今更後悔してもおせぇよ……んな訳で大人しくあっちへどーぞ」

「えぇー……。仕方がないなぁ」

 今のスキルでは到底開ける事の敵わない鍵を前に盗賊としてのプライドを(プライドがあるかどうかは別として)刺激されたらしく、名残惜しそうに離れカグヤの立つ鍵の前で止まり、盗賊ビルドをしているプレイヤーの必需品でもある、ピッキングツールを手に持ち直す。それを鍵についている鍵穴に入れると≪解錠≫(ピッキング)スキルを発動させたのか機械めいた動きでかちゃかちゃと鍵穴の中でツールを動かし数秒。カチャ、と鍵が外れる音と共に鍵が床へと落ちて消える。これでダウナ鉱山の未踏破部分の一角が解放された。

「お疲れ様」

「いやぁ、今の技量ではあけられない鍵があるって知れただけでも収穫だよ。今度違う扉を開けるときにも呼んでね」

 そう言ってカルフォがパーティーから外れて来た道を戻り始める。投擲スキルの一撃でここの敵を倒せることから見ると、ここでは通用するほどの戦闘力を有している自信の表れだろう。本来のMMORPGで言えば階層=レベルがマージンであるはずだろうが、デスゲームであるSAOでの安全マージンは階層+10レベルなのである。つまりここ八層の安全マージンは最低でも十八レベルであり、今の少女のレベルは知らないが最低でもそれ以上のレベルを有していると言うことになる。

 そんな少女の背中を見送ると改めてカグヤの方へと視線を向ける。既にメイスを両手で握っており、やる気満々と言った輝きが目には満ちていた。ここら辺はやっぱり子供だな、と思うもその気持ちは否定できず、トウカと共にカグヤの前に並ぶ。

「それじゃ、行くか?」

「うん」

「あたしはサイアスの愛が足りないわ」

「俺とトウカで前に出るからカグヤは薬使って援護でおーけい?」

「大丈夫、私放置プレイもいけるから!」

「雌犬(ビッチ)」

「サイアス限定で構わない!」

「お客様の中に警察の方はいませんかぁー!」

 くだらないことを言いつつもその足は新しく解放された新たなエリアへと向かって行く。言葉ではふざけているようにしか見えないがその実奇襲に対して追跡スキルで辺りを窺いながら、万全の態勢で進む。互いに武器はいつでも振れるようにしながら先へと、目指すべき坑道の奥へと向かって進む。


                           ◆


「撤退! 撤退! 無理! ムリゲー! 三人じゃ無理!」

「美味しいけど流石に壁なしじゃ辛い!」

「勿体無い」

 先ほどよりは若干広くなった坑道の中、三人が入り口へと向けて走る。

 頭上のHPバーはカグヤを除けば三割ほど減っておりそれが戦闘による結果だということが見て取れる。だがサイアスもトウカも決して油断や慢心をしていたわけではない。最前線を攻略するプレイヤーは常に自分の力量と相手の力量を見極め、もっとも効率的な形で経験値を稼ごうとしたり生き残ろうとする。

 サイアスもトウカもそれはどの層でも変わらない。変わらず一番効率的な戦闘方法で、自分が傷つかないように戦う。だが、そんな彼らにとって一つの予想外の出来事があった。

 それは、湧くモンスターが予想を超えて強かったのだ。

 八層であるために予想としては十層、強くても十一層程度のモンスターだと判断していた。それなら二人でも十分にいけるレベルの相手だと。だがその予想は大きく裏切られ、

「っち」

 背後を振り向くと濃い目の赤で塗られたカーソルを浮かべるモンスターが目に入ってくる。岩でできた体を持つその人の半分ほどの大きさのカエルは、こちらへと真っ直ぐ跳ねて向かってくる。着地、つまりは硬直した一瞬を狙って左手に握った何本かのスローイングナイフを一瞬で投擲する。投擲系中級スキル≪マルチスロウ≫、複数のナイフを同時に投擲するスキルが筋力の補正によってその威力を増し、緑色のエフェクトを撒き散らしながらカエルの体に突き刺さる。ぐぇ、と低い音を立ててカエルが呻くがそのHPバーは二割削るだけに止まる。カエルの背後からは更に同じカエルが二体ほど接近しているのがわかる。

「面倒だな」

 このまま強引に倒してもいいが、その場合それなりに損耗を強いられてしまう。カグヤの戦闘力は言わずもがな低い。その経験値の九割は鍛冶のボーナスによる産物だろう。つまりこの状況で戦える人間は自分とトウカのみ。体力は二割ほど減っているがそれは一撃によるダメージではなく、トウカはSTR>VITの耐久ビルドなので自分より数発多く喰らった結果だ。自分は防御力は紙と言ってもいいレベルなので三発ほど喰らってこの結果。マルチスロウは投擲系でもそれなりの威力を有するスキルだ。見た目からしてそれなりの防御力のある相手にあのダメージでは、距離をとって逃げ撃ちに徹するよりは直接切り込んだほうが早いだろう。その代わりに回復結晶かPOT代がかさむ。頭の中でどっちで進むかを思考、即座に切り込むことを決定してトウカの方を視線だけで追う。その目にはこちらに対しての信頼が映されており壁になってくれと頼んだら即座に前に立ってくれるだろう。若干むず痒いなと思いつつも、

「スイッチ」

「い、っやぁぁあ!」

 マルチスロウでの硬直で半秒ほど硬直している自分の前に、トウカが大鎌を体全体で回転させながら前進する。大鎌と言う武器も一応レア武器に属する武器ではあるがその取得条件は他のエクストラスキルより楽で、とあるクエストを完了すれば手に入るという誰でも得られる代物である。ただその使い勝手が悪すぎて誰も使用しないというだけで。

 マルチスロウを受けて硬直していたカエルと、その背後から追いかけて来た≪ロックトード≫二体が並んだところを、トウカが綺麗に回転斬りによる一撃で三体を纏めて斬撃する。その一撃で怯むと思われていたロックトードではあったが、一番最初にマルチスロウを受けて怯んでいた一体だけは硬直中に一撃を受けたために二回目の怯みがキャンセルされ、口を開き舌をレイピアのように突き出してくる。それがトウカの右肩に刺さるがそれを無視してトウカが大鎌を振るう。自分もタイミングを見極めるためにトウカの射程範囲外ギリギリでフックカトラスを構えたまま待機する。カグヤは完全に足手まといなので少し後ろで増援が来ないかをチェックし続ける。

 トウカはこの役目に慣れているため的確に相手を追い込もうと動いてゆく。AGIを育ててないために体の動きは自分のと比べて明らかに鈍重と言えるクラスではあるが、その代わりにSTRとVITに任せたごり押しの威力はなかなかのものである。わざと体でロックトードの攻撃を受け止めながら、大鎌を右腰に構える。大鎌に深紅のエフェクトが纏わり付きそれを放つ瞬間にトウカが叫ぶ。

「スイッチ!」

 横薙ぎ、ノックバック効果のある大横薙ぎの大鎌スキル≪ワイルドスウィング≫がロックトードへと突き刺さり体が後ろへと押される。前へと体を押し出しながらも既にカトラスはプログラムに登録されているスキルの動きを再現しようと黄色のエフェクトを纏う。一番体力が低いロックトードを見定めながら五連撃の上級曲刀系ソードスキル、≪ダンスマカブル≫が放たれる。踊るように放たれた斬撃が狙ったロックトードのみならずその横の二体も切り裂く。そのまま動きをやめる事無く、硬直へと入る前につなげることの出来るソードスキルを発動させる。継続するように黄色い光を持ったカトラスを振り回すとシステムのアシストにより体が引っ張られるように動く。バツの字に切り裂く二連撃の≪クロスボーン≫が中央のロックトードを絶命させると同時に復帰した一体が反撃とばかりに攻撃を放つ。刺さった攻撃の痛みを無視しながら大きく隙を作る技を発動させる。

「スイッチ!」

 水色のエフェクトを纏った一撃で薙ぎ払うと後ろから再びトウカが大鎌を振り抜きながら接近してくる。硬直が切れた瞬間にバックステップしながらトウカの一撃がロックトードに突き刺さると、その一撃で残った二体のHPを全損させ悲鳴と共にポリゴンが拡散する。互いに動きを止めてHPやドロップを確認する前に追跡スキルで周りの索敵を行う。反応がないことを確かめてから武器を下ろす。が、それでもいつでも振れる状態にする。

 ポーションをインベントリから実体化させ、それを飲む。

「追ってきた分は今ので最後か?」

「みたいね。経験値は美味しいけど、正直二人で戦うにはきついわね。壁があと一人か二人、攻撃のできる人間があと一人欲しいわ。フルパーティーじゃなくてもいいから、四、五人でパーティー組んで戦えば結構美味しいと思う。まぁ、ソロで戦えるレベルになって来た方が圧倒的だと思うけど」

 基本的に人数で経験値は分割されるために、多いと入手量は減るがその代わりに効率は上がる。
 効率厨としてはそこらへんのバランスが大事なのであるがトウカの予想は自分と大体同じだ。

「ごめん」

「そう思う必要はないんだよ依頼主」

 そう言ってカグヤの頭に手を置いて軽く撫でてやるとトウカが羨ましそうな顔をする。それを無視して話を進める。

「今は……もうすぐ昼時か。一旦外へ出て知り合いを呼ぶか。十四層より美味い狩場があるって言えば、少なくとも攻略組は釣れる。あとはどれだけの人数が迷宮区に行ってないかの勝負だな」

「そうね。流石にこのままではキツすぎるからそれに賛成」

「肯定」

「多数決の結果、援軍呼んで再攻略に決定。それじゃ善は急げってことで」

 インベントリから結晶を一つ取り出しそれを軽く上へと投げる。

「転移! ≪ダウナ≫!」

 叫ぶと同時に光に包まれ視界が全て白く染まった。

 ―――ダウナ鉱山B2、廃坑区画A。攻略失敗。
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| 断頭の剣鬼 | 19:17 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

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| | 2012/07/23 23:04 | |















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