陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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刀巡り ―――モーニング・フレンジー

アインクラッド第十四層
二〇二三年三月


 アインクラッドの攻略が開始されてから、約三週間で一層は攻略された。

 最初の混乱は酷く、とても攻略を開始できるような状況ではないのが現状であった。だがその現状を無視し、前へ、前へと進むプレイヤーがいた。それは俗に≪廃人≫と言われる、重度のMMORPG中毒のプレイヤーのことであり、まだアインクラッド全体が混乱に包まれているうちに所有する情報を全て使い、βテスト時の経験と情報を生かし、まだ攻略には時間がかかると思われていた一層目を攻略。


 まだ、多くのプレイヤーがやっとレベル上げに着手し始めた時期であったのでその衝撃はすさまじいものだった。

 一層目の攻略を行った廃人には様々な思惑があった。経験値が欲しい。レアアイテムが欲しい。アインクラッドをもっと見たい。早く現実に帰りたい。もっと強い相手と戦いたい。自分の限界を試したい。それは、様々な思想と目的がごちゃ混ぜになり、とてもだが綺麗と言えるものではないが、ある一点においてはその意志は共通していた。

 ―――アインクラッドを、このデスゲーム≪ソードアート・オンライン≫を攻略したいと。

 βテストの参加者であり、その経験を保有していた彼らは怒涛とも言える速さで一層のボスを排除すると誰よりも早く二層へと到着し、まだ残る記憶を手がかりに装備を整えると再びフィールドへ、迷宮区画へと足を踏み入れもっとも効率のいいレベル上げを開始した。ソロで戦うのが一番の効率であるならば狩場が重ならないように戦う。適度な広さを持った狩場でパーティを組んだ戦闘が効率的であるならばパーティーを組んで戦う。最大限の効率を叩きだせるような思考を持って先へと進む姿はそうでない人間から≪効率厨≫と批判されることもあるが、多くの人間はその闘志と実力を畏怖しこう呼んだ。

 ―――≪攻略組≫と。

 アインクラッドの攻略が開始され数ヶ月が経過した。初期の混乱を無視して突き進む攻略組の存在もあり、アインクラッドの攻略自体は問題なく進んでいた。攻略組以外でまだ余裕のあるプレイヤー達は己の役割や興味を見つけながら進み、そしてアインクラッドでの生活を楽しんでいる。

 二〇二三年三月現在、アインクラッド攻略の最前線は十四層にまで到達していた。

 全体のまだ十四、されど十四。アインクラッドに残された人間達は必死に攻略を続けていた。攻略のペースは大体九~十日に一層の攻略ペースではあるが、人の中には遠くない未来に脱出できるかもしれない、そんなかすかな希望が攻略と共に見えてくる時期。

 最前線に、彼はいた。


                           ◆


 ……どーしたもんだろうな、これ。

 十四層≪主街区≫、つまりは十四層で拠点となる街の宿の一室、簡素な出来のベッドの上に俺、サイアスは腰をかけていた。 見た目は完全に中世ヨーロッパ、よくファンタジー系の小説やRPGの宿屋で見るようなベッドで、ちゃんと尻の下からベッドの柔らかさが伝わってくるあたり、やはりナーヴギアはすごいと思う。だがそういうことに思考を割くのではなく、今一番の問題は手に握られている一つのアイテムだった。

 ひらひらと下から眺めるように持ち上げている紙には細かく文字や絵図が描かれている。

 それは、自分を最前線の迷宮区の攻略から引き戻すほどのアイテム。

 エクストラスキル≪カタナ≫用の武器、≪打ち刀≫の設計図だ。

 未だエクストラスキルであるカタナが発見されたと言う話は聞かない。だが攻略組で海賊刀を愛用している変人は少ないし、それにスキル経験値上昇ポーションを使用する奇抜な人間は自分だけだ。統計的に見れば自分は奇抜な変人だ。それはおかしい。こんなにも攻略に貢献している自分が奇抜な変人なのは絶対おかしい。アインクラッドの攻略に貢献しているのだから自分は聖人だ。そんな感じの物凄い偉い人に違いない。俺超強いし。うん。無理があるか。聖人じゃねぇや。ごめん神様。俺、俺自身に嘘をついちまった。

 久しぶりに最前線から離れてゆっくり頭と体を休めているとくだらない事ばかりを考えてしまうが、これもまた余裕の表れかもしれない。自分でも適度に休んでいるつもりはある。が、一日のレベル上げを完全にキャンセルしてまでの休みは何時振りだろうかと考える。少なくとも三月に入ってからは休んでなく、その以前も特殊イベントや期間限定クエスト漬けだった。つまり数ヶ月ぶりの休みだと言うことになる。それでも、

「やっぱり、取っておきたいよなぁ……MMORPGプレイヤーとしては」

 エクストラスキルとはどれかのスキルをしつこく使うことで発現する、派生スキル様なものだ。それは一人だけが得られるものではなく、他のプレイヤーも条件をクリアすることで手に入れられるスキル。公式でもエクストラスキルの存在を明言しており、それを見つけることもプレイヤーの楽しみとなっている。今の所発見されているのは≪索敵≫スキルの発展型スキル、≪追跡≫スキルだけでそれは索敵みたいな対モンスターというよりは、対人特化されている索敵スキルだ。とはいえ、索敵関係のスキルは範囲が広いためにソロプレイヤーの必須スキルになっている。

「カタナを出すことでのメリットは他人に先んじて刀を装備することが可能なこと、まだ未発見スキルが使用できること。あとは……その性能が今存在する他の装備より高そうなぐらいか。エクストラで元になった装備より劣ってたら笑えないな」

 メリットはそこそこ。成長を望めるといったところもあるだろう。ならデメリットは、

「ま、刀を装備するって事は今使ってる武器が必要なくなるって所、成長させたスキルの意味がなくなること、慣れてないソードスキルに慣れるために練習する必要があることと……装備を整える必要があること? あとは一時的に最前線で戦えるかどうか解らないな。普通のMMORPGだったらこのまま戦うんだがなぁ」

 だがこのVRMMORPGというジャンルでは違う。

 剣を握り振るうのは自分のアバターではなく、自分自身なのである。正確に言えば仮想現実にて構成された自分のアバターを脳の信号を通し操るのだが、その中で感じる武器の重量や体の動き、そのクセ、その全ては自分が感じ、操っているのであって従来のMMORPGのようにコントローラーを通しての指示ではない。新しい武器を手に入れたのであればそれに慣れるために練習する必要はあるし、慣れない武器でボス戦に挑めば殺されてしまう可能性もある。そんな結末は御免である。だから、メリットとデメリットを吟味した上で―――

 「―――よし、取るか」

 決定する。

 そうと決まれば耐久値が減る前に打ち刀の描かれた図面をインベントリへと戻しベッドから立ち上がる。現在の服装は休日と言うことで装備は外されていて、黒いレザーのスラックスに青い襟付きのシャツだが一番上のボタンだけはあけてある。いわゆる休日用のカジュアルファッション。攻略組で日常的に戦闘用の装備をつけているとは言え休日ぐらいはラフな格好をしたいと、その思いでこういう格好をしているわけだが……その実、スラックスの方は戦闘用装備だったりする。当初、肌で直に感じる革装備の感触は、なんとも言葉にし辛く慣れないものだと思っていたが今では気にしない程度には慣れてしまった。人間の適応力はつくづく素晴らしいなと小さく呟きながらウィンドウを操作しつつ宿の借り部屋から退室する。システムウィンドウの隅には小さく数字で、≪9:46 AM≫とでている。つまりは現在時刻だ。朝食には丁度いい時間かもしれないと考えつつ宿の廊下を歩く。

「おはよう」

「おはぁ」

 廊下を歩いてて挨拶してきたのは同じ宿に泊まる攻略組プレイヤーだ。基本的に攻略組のプレイヤーは最前線の主街区に宿を借り、攻略中はそこを拠点にして活動する人間が多い。中には寝袋で狩場に泊まるプレイヤーや宿の椅子で座って寝る猛者もいるが、やはり一日の疲れを宿のベッドで落とす方が気分的にもいいと自分は思う。

「あれ、サイアス装備は?」

「俺、今日はオフ」

「あれ、珍しいな。いつもは狂ったように狩場に篭ってるのに」

「うるせえよアルマド」

 この茶髪の似非ポニテ男の名前はアルマド。自分と同じく立派に攻略組を務めるプレイヤー。だが本人は攻略組であることは若干不安な様子で、将来は攻略組から落ちて活動すると言っている。攻略組の数は少ないので知り合いが前線から引くのは悲しく感じられたりもする。

 そんなアルマドの姿は自分とは違い、髪と同じ茶色の革のハーフジャケットを装備し、他にもグローブやレギンスを装備していることが見える。そんなことから今日も十四層の最前線へと進む様子であることがわかる。と言うより大体の攻略組は一日の殆どを攻略とレベリングに当てている。それ以外は武器と防具の調達かメンテと道具の補充ぐらいで、有益なクエスト以外は全クエストスルーの方針でもある。

 それよりも、と。

「腹が減ったから朝飯だ朝飯」

「あぁ、そうだったな」

 憎まれ口を叩きあいながらも宿の廊下を抜けて階段を下りる。基本的に宿は個人的には上の階の方を好む。アルマドがそうなのかどうかは知らないが。三階建てと、結構豪華な作りの宿の階段を一階まで降りる。大体の宿の一階がロビーと酒場の役目を同時に果たしており、基本的に自分はプレイヤーが一番集まり、それでいて値段の高いところに泊まる癖がある。

 やはり、高い宿の方が飯が美味しいのだ。

 酒場部分となっている宿の一階部分には早起きのプレイヤーが数人既に朝食を楽しんでいた。攻略に打ち込むプレイヤーとしては、三度の食事がスキルと装備以外での最大の娯楽とも言えるかもしれないために毎食を注意して選んでいる。とりあえず空いているテーブルに二人で揃って座ると即座にメニューを持ったNPCのウェイトレスがやってくる。

「おはようございます。こちらがメニューです」

「おう、悪ぃな」

 そう言って差し出されたメニューを受け取る。

「NPCだってば」

「知ってるけど、こう、言っちまわね?」

「気持ちはわかるけどな。ここまでリアルだと、な」

 実際NPCが用意された返答しか喋らず、一定のパターンしか行動が登録されてないことを抜けば、その行動のほぼすべてが人間……つまり一般のプレイヤーとかわりがない。もしNPC並みに無愛想なプレイヤーが店をやっていれば、それがNPCとして認識されてしまうこともありえなくない。
 メニューを見るとこの数日で見慣れた内容になっている。その中から自分の朝の定番メニューを選びつつも、

「迷宮区の攻略は現在そっちではどうなってる? 東のルートをこっちでは通ってるけど―――ウェイトレスさーん」

「はい、ご注文をどうぞ」

 声に呼ばれてカウンター近くで待機していたウェイトレスがやってくる。

「こっちは北西ルートで通ってるけど結構アタリっぽい。休憩エリアが発見されたからボス部屋までそう時間は掛からないと思う。少なくともあと数日……二、三日にはボス部屋へのルートは完成して討伐パーティーが組まれるだろうね。あ、コーヒーとペタンサラダ、あとトーストで」

「ボスに備えて装備のメンテと補充もしておきたいところだな。紅茶とペタンサラダ、焼きニルとライスで」

「以上のご注文でよろしいでしょうか?」

「―――それに紅茶とトーストと目玉焼きお願い」

「おい」

「ご注文を承りました。少々お待ち下さい」

 去って行くウェイトレスと交代するようにやってきたのはこれまたポニーテールの女性だった。否、正しくは美女と言う言葉が正しいのだろう。正式サービス開始前は男女の比率で言えば女性の方が多かったが、茅場晶彦によって素顔素顔が暴かれた時に、その多くは女性をロールとして演じていた男だと暴かれ、それと同時に女性の体をしたアバターは男のものへと変換された―――とはいえ、服装がスカートとかだったので十分に恥ずかしい思いをした者は多かっただろうが。

 入れ替わりで入ってきた美女は身長でいえば自分やアルマドには届かず大体百六十台、それでも女子としては高い方で、赤毛のポニーテールを黒いリボンで纏めている。可愛いと言うよりは凛々しい、綺麗と言った部類の女で、年齢は自分と同じぐらいだろうと当たりをつけている。武器はおそらく寝起きだろうから付けていないが、防具の方は太ももまである長さの革製の黒いロングジャケットを胸元を協調するようにその部分だけ開け、膝上までの赤いスカートを装備をしている。図々しくも横に座ってくるといきなり肩に寄りかかってきた。

「おはよ、だぁーりん。昨夜は激しかったわね」

「誰がダーリンだこの阿呆。何もねぇし。あとてめぇの分は奢る気はさらさらないぞ。アルマドは自腹だし」

「えー、酷い、あたしの事は遊びだったのね!?」

「そんな事は一切ないわぁ! ……助けてアルマドえもん!」

「やだなぁサイ太君。責任とって結婚しないと」

「今のあたしはダーリン専用よ! 足洗ったし。だから責任とってね」

「神は死んだ。ここは偉大なるヒキニパ神を信仰すべきか……いや、助けて黄昏の女神!」

「なにそれ」

「俺が唯一信仰してもいいと思ってる神様。金髪巨乳で超かわいいの。結婚したい」

「ぐるるるる―――ライバルの予感……!」

「お前、まだ目が覚めてないんじゃないか」

「かもしれねぇ。あとよっかかるなトウカ、重い」

「えー」

 赤毛ポニーテールの女、トウカが心外だと言わんばかりの表情でこっちを睨んでくるがそれを無視して、料理の到着を待つ間もっと有意義な会話にしゃれ込む事とする。

「で、たしかボス戦は近いんだっけ」

「あぁ、そうだった。トウカの事はいつものことだからスルーするとして、たぶん今回も≪軍≫が出張ってくると思うよ。十一層から結構調子に乗ってきてる感じではあるけど、正直前線で戦うプレイヤーはアインクラッド全体のプレイヤーである一万……もう減ってるけど、その全体の何分の一っていう少なさだ。高圧的な態度はいかんともし難いけど。まぁ、悪いことはしてないしな」

「まぁ、壁が増えるのは嬉しいわな。俺らのような≪ビーター≫がいるおかげで壁とアタッカーの育成できてるっぽいし、それで人数が確保できてんだからそこだけは尊敬できるな。ただ規律とか無駄にごちゃごちゃしすぎてそこで駄目にしてる感じ。トップダウン形式の指揮系統は指示がし易いけど、ゲームなんだしそんな締める感じじゃなくてもいいと思うね」

 眠たげにしているトウカだったが軍の話でちょっとだけ目が覚めたのか寄りかかったまま口を開く。

「軍の話ならあたしもちょっと聞くね。アレ、元々は今のような感じじゃなかったらしいわね」

「そうなのか?」

「うん。元々は≪MMOトゥデイ≫ってギルドだったのよ。今では≪アインクラッド解放軍≫って名前だけど、その変化があったのは約二ヶ月前ぐらい? トップがシンカーって外部攻略サイトの管理者だったんだけど、その人結構放任主義って言うか優しすぎたって言うか……おかげで違うトップが出てきて名前が変更。今で言う軍の感じになってるよ。まぁ、初期のMTD……MMOトゥデイの略ね? その雰囲気が好きで抜けたって人もいるんだけど、軍に所属してれば安定した収入とかが入るから所属している人は少なくないよ」

「詳しいのな、トウカ」

「やだぁ、ミステリアスな女って素敵? そう思うのなら結婚しない!?」

「駄目だ。脳が腐ってやがる」

「あぁ。確実に腐ってるな。これでピンクはINRANと言うことは証明されたな、いんらーん」

「……あぁ?」

「いえ、なんでもないです。だからサイアスに見られない角度から睨むのはやめて俺の心臓がマッハ」

「……っとまぁ、冗談は置いといて、あたしも元はMTDのメンバーだったのよ……あたしゃ、変化が気に入らなくて抜けたんだけど」

 人に歴史あり、とはこういう事なのだろう。基本的にネットゲームではリアルの事を聞いたりするのは嫌厭されていることで、自分から話してくるまでは聞かないのが花ではあるが、トウカに関してはSAO内でも結構そういうところがあるため、そういう事情を話してくれるのは素直に嬉しい。そんなところで、

「お待たせしました」

 と、頼んだ朝食がやってくる。手際よく頼んだ料理が目の前に並べられ、匂いが食欲を湧かせる。ウェイトレスが御代を請求するのでアルマドとトウカの分もまとめて払う。

「悪いな」

「気にすんじゃねぇよ。一々バラバラに払うのも面倒だし自分の払いのついでに払っただけだよ」

「キャー、サイアスだから素敵! リアルツンデレなんて超珍しい! だからあたし貴方を愛してる」

「黙れ淫乱ピンク」

「あたしピンクじゃなくて赤毛よー!」

「俺との扱いが違いすぎる。不具合修正されろ」

 トウカの放つ抗議の声を無視してでてきた料理を口へと運ぶ。ニル焼きと言うのはここら一帯で湧く豚型モンスターの肉で、ペタンはレタスの様な味をした植物の事だ。色々とファンタジーな名前をしているが結局は豚肉とサラダだ。あとは紅茶とライス。シンプル・イズ・ザ・ベスト。力をつけるためには朝から肉が必須である。……VRだから関係ないかもしれないが。

 朝食を進めつつも話題の大筋は変わらない。その内容は基本的に攻略の話を中心にして回っている。ギルドがメンバー同士のつながりを大事にするのであれば、攻略組にも攻略組のつながりがある。自分の場合、迷宮区探検中に出会ったソロプレイヤーや狩場で出会ったソロプレイヤーとはつながりを大事にする。つながりを作っておけばそれが後々で有利になってきたり情報源になったりもする。

 というよりも、基本的にギルドに所属している人間とはあまり付き合いがないかもしれない。

 そんな風に話していると座っているテーブルに更に知り合いが増えてくる。時刻は十時を過ぎ、そろそろ攻略プレイヤー達が朝食を食べる時間になってくる。基本的に情報交換のしやすさを考慮して同じ宿に泊まって活動するのが好ましい。そういうのを無視して好きなところに泊まる一匹狼もいるが、このゲームでは情報はライフラインになりえるのだ。そういう考えを持ったプレイヤー達が自分やアルマド、トウカのいるテーブルに集まってくる。

「よぅアスにマド! トウの字もいるじゃねぇか!」

 朝から元気良く声を飛ばすのは何処からどう見てもヤンキーにしか見えないプレイヤーのスキヤキ。気に入った相手には好意的だがそうでない相手には喧嘩腰と言う完全なヤンキー目ヤンキー科のヤンキー属。だがいいヤンキーだ。茅場晶彦にリアルでオトシマエをつけると宣言している愛すべき馬鹿であり、面倒見のいい兄貴でもある。ただ、笑い声が五月蝿いのはどうにかしてほしい。

「おはようー、まだ皆集まってない感じ? じゃ、ボクも朝食貰っちゃおうか」

 続いてやってくるのがこれまたSAO内では珍しいハーフの少年、タスケ。淡い金髪に碧色の目と、リアルと同じらしいその容姿は珍しがられるが、本人にとってはコンプレックスらしく仲間内でそれをつっつくのは禁止されている。本人は忍者をロールプレイしているつもりらしく、ダガーや投擲を主軸とした戦闘を行っている。

「おっはぁー☆キャー! ポニテ三人衆が揃ってるラッキー♪」

「ポニテ三人衆じゃねぇよ(ないわよ)!!!」

 重なる声にリリーはしかし、ふざけた様子でリアクションを返す。

「キャーこわ~い! リリーこまっちゃーう;; でもぉ、それもいい……!」

 エモーションを態々ポップアップウィンドウで表現するアタリ、キャラの徹底振りが窺える。端的に言ってウザイ。

「店員さーん、あの変態蹴り出して下さい! いや、マジでリリー少しは落ち着けよ」

 朝からハイテンションをかましてくるのが踊り子としか表現の仕様がない露出の激しい装備の女。明らかに年齢は同年代のはずなのに天元突破したようなテンション、発言一つ一つが胡散臭く、平気で狂ったような嘘をつくことで有名な狂人だが、根の性格が優しいために色々と台無しな人間である。

 そんな風に、最初は三人しかいなかった酒場が人であふれかえり始める。合流したスキヤキ、タスケ、リリーとはべつに、他の顔見知りプレイヤー達もテーブルに集まる。黒髪で女のような容姿をしたカナメ、筋肉に"ちょっと"だけ執着しているボブなど、個性的なメンバーで会話に花を咲かせる。

「あ、サイアスたん今日は装備どうしたの? まさか……デート? デートなのね? キャァー! ついに犯されるぅー!」

「黙れ狂人!」

「アスの苦労は何時もの事とするがよ」

「しないでください」

「どうやったら装備がないことからデートに発想つなげてそこから自分が犯されることに繋がるんだ」

「あれ、ホラ、装備がないって事は今日はオフ、と言うことはオフにするほどの理由がある。それはたぶんデートとか大事な用事って事で、それは自分のはず、そして最後はお持ち帰りって発想じゃ」

「ねぇよ」

「ないね」

「ないわぁ」

「筋肉が足りないね」

「これ以上のカオスはマジ勘弁して欲しいから少し黙ってようね? ね?」

「そうよ! サイアスはあたし一人で十分なんだから!」

「てめぇはもう喋るな」

「ははは、相変わらずサイアスは愛されてますね。狂人が狂人なのはいつもの事として、サイアスさん、何時かトウカさんに刺されますよ。SAO開始前のトレンドは≪ヤンデレ≫でしたから。えぇ、それはもうnice boat.な感じにエンディング迎えられると私は楽しいと思ってますよ」

「やめて! へんな事を馬鹿に吹き込まないで! こいつすぐに実行したがるから!」

「えー」

「おい、無表情でえーとか言うんじゃありません」

「カナメはカナメは物凄く残念ですよ」

「一昔前のアニメで流行った風に可愛く言っても、カナメって男だから残念だよね。いや、ホントに」

「タスケが男の娘属性に目覚めたか」

「いや、むしろ着替えさせてみるか。案外似合うかもしれないぞ」

「ねぇ、何で皆ボクをそんな眼で見るの? ねえ、マジじゃないよね? ……ねえ?」

「えー、リリー、前々からタスケ君はぁ、ちょっびぃ~と! おめかしして着せ替えれば、何処に出しても恥ずかしくないナイスガールになっちゃうと思うんだ♪」

「……目が本気だよ? リリー君ちがうよね? 君のいつもの胡散臭さは? 嘘だよ☆っていう、いつものアレは? ねぇ、何で目が本気なの!?」

「……まぁ、冗談は置いておいて」

「(本気だったんだけどなぁ)」

「実は昨日迷宮区でよ―――」

 そうやって、騒がしい朝は過ぎ去って行く。
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| 断頭の剣鬼 | 17:19 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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