陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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はじまりの日 ―――ハンティング・フォー・トレジャー

 キリトとパーティーを組み、それから始まったパーティーとしての行動は、効率を見るなら素晴らしいの一言だった。戦闘での役割は簡単だった。お互いに索敵スキルを使いリトルネペントを探し、見つけると今現在手元にある唯一の遠距離攻撃手段、つまりは投擲のスキルを使いネペントの急所にスローイングナイフでの攻撃を仕掛ける。ネペントがダメージに気づきこっちを察知すれば、攻撃した相手へとヘイトが高まる。それは即ち先制攻撃を行った自分へとターゲットが来る。ネペントがそうやって自分へと気を取られているうちにキリトが背後からソードスキルを交えた二連撃を食らわせ、そしてそれによりネペントは消滅する。一人でなら数十秒かかる戦闘ではあるが、二人いると到着を待つ必要も武器を構えなおす必要もなく、釣りとターゲット取り、そして攻撃と役目を分散することに加えて、両者共に索敵スキルを所持するために一匹倒した後次のを見つけるまで時間が短い。つまりは、


 まさにネペントの乱獲状態。

 パーティーを組んで約五分。レベル一だったキリトの経験値バーはすぐにそのゲージを満タンにまで埋め、ファンファーレの音と共にレベルアップの到来を告げる。おめ、などとネットゲームでよく使うスラングで祝福するとありがとうと顔を赤らめ、ステータスの上昇を終わらせ再び乱獲に戻る。

 最初の五分で十一匹、その後続く十分でさらにその倍以上を倒す。

 やがてパーティーを組んで三十分後には、既に半分近く経験値がたまっていたサイアスの経験値バーが完全に埋まる。ファンファーレと共に金色のエフェクトが体を包む。レベルアップの証だ。それを見たキリトが構えていた剣を下ろす。

「おめでとう。これで五レベだっけ」

「ありり。あと二レベはここで戦えるな。早くても六レベでコボルド狩りかもな。ソードアート・オンラインは適正に関係なく経験値はいるっぽいしな」

「確か戦闘において活躍した分だけ経験値が入るんだよな」

「ファーミングのこととか考えると、レベル上げは寄生するより、個人でレベル上げしてもらったほうが効率はいいかもな。いや、でも上の方へ行ったらトドメ分だけHP残して、トドメを譲ったほうが経験値多いか? ……考えててもしゃーねーか。つか何故ファーミングとか考え出すし俺。んー、やっぱり少年がいるのなら七まではネペント狩りかなぁ」

 戦い続けだが、やはり重度のネトゲ中毒者としてはこういう会話や戦闘している間が一番安らぐのかもしれない。何より、こうやって純粋にゲームの事だけを考えている間は、現実の事など考えなくてすむ。だから、今は心に余裕を作るためにもこの世界の話を交えながら戦い、集中しようと、レベルアップで得た三ポイントをステータスウィンドで能力値に配分しようとした時に、

 パンパンパン、となにやら乾いた音がする。

 しまった、と思うと同時にブロンズカトラスを構え、同時に気が緩んでたキリトも≪ショートソード≫を構え、それを背後へと構える。いくら索敵スキルを習得しているとはいえ、まだそれが初期レベルな上に、自分達は完全に気が緩んでいた。これが奇襲であればこのままでは死ぬ可能性も出てきてしまうと、そう思い背後を振り返り―――

「……ご、ごめん。最初に何か声をかけるべきだったかもしれない」

 背後を振り返った先にいたのはキリトと同年代ぐらいに見える、幼さの残る少年だった。キリトとこの少年を見ている限り、やっぱりこういう年代の少年がネトゲには多いのかと思ってしまうが、それもまだ人と会わずに真っ先にレベル上げを開始した自分の言う言葉じゃないな、と一人呟きカトラスを下げる。

「悪ぃ。一日に二回も背後から話しかけられるとどーも、心臓に悪くてな」

「ははは……い、いや、俺達も過剰反応してごめん……」

 ばつが悪そうにキリトが切っ先を下に向けると新たに現れた少年がかばうように出していた片手をポケットにいれ、そしてもう片手を右目へと持って行き何かを整えようとして……そこで手の動きを止めてポケットにいれる。たぶんだが、あの少年はリアルではメガネをかけていてその動作が忘れられなかったのだろう。その小さな動作だが、リアルの事を思い出し少し空気が重くなる。

「れ、レベルアップおめでとう。早いね」

 たぶん、空気を変える為の言葉だったんだろう。年上の余裕を装いつつ、おう、と返事する。

「こう見えて廃人思考だからな。たぶん正式サービスが稼動して一番長くここに篭ってるぞ」

「いや、自信満々に言うことじゃないぞ、それ……?」

 その言葉で軽く少年が笑う。やはり、誰もが今は余裕がない中少しは考えに余裕のあるやつが、こんな時だからこそ少しは道化を演じる必要があるのかもしれないな、と思い言葉を続ける。

「早いって言うのならお前も結構早いよな?」

「サイアスは早すぎだろ。俺が到着した時だって誰かが来るのにあと二、三時間はかかると思ってた」

「あはは、僕もここに来るのは一番乗りだと思っていたよ」

 その一言でわかる、こいつは俺達と同じ存在だと。性別とか使ってる武器とか性格とかそんなことではなく、コイツもこのゲームが稼動する前に、βテスターとして参加していた人間だということだ。森の中の小道、町の中広場から広場へと繋がる秘密の通路。どこで特殊モンスターが湧くか、そこで戦えば効率がいいか、どこでアイテムを買えば一番安く済むか。そういう知識を俺達βテスターは持っている。この状況では反則とも言える武器だが、その発言からして自分も生き残るために全力でここまで来たと言うことなのだろう。

 ……俺からしてみれば、ネトゲ中毒とは言えても廃人にはまだ遠いがな!

 重度の中毒者から見ればまだ生易しいものだった。

 そんな中、少年が声を上げる。

「君たちもやってるんだろ?≪森の秘薬≫クエ。パーティーで胚珠出し?」

「あ、いや、俺は普通にレベル上げ。こっちの少年が胚珠狙い」

「経験値が欲しいのとドロップが欲しいのでは利害が一致するしな。それにアニールブレードは三層の迷宮区までは安定して使える優れものだし」

 それを聞いて少年が一瞬迷った後、

「じゃ……僕もパーティーに入れないかな?」

「え、でもアレって一人用のクエじゃなかったっけ?」

 ソードアート・オンラインで受注可能なクエストには大きく分けて二種類存在する。一つ、それは一人用のクエストで、クエストの間に発生する必要なアイテムなどが個人でしか手に入らず、パーティーを組んで同じクエストに挑んでも、人数分の回数をこなさなければ全員クリアしたことには出来ないものと、パーティー向けのクエストで参加者全員が一斉にクリアできる類のクエストだ。この森の秘薬と言うクエストは一人用のクエストで、クリアのために必要な≪リトルネペントの胚珠≫は基本的にドロップ率が低い上に、一人一個所持しないと全員クリアしたことにならない。この場合、低確率ドロップである胚珠をキリトと少年が一つずつ所持する必要がある。そのためキリトは戸惑っているのだろうが、

「花つきのネペントはノーマルを狩れば狩るほど数が増えるんだし、僕もパーティーに入れてネペントを乱獲しながら二人分の受注で確率ブースト状態で狩れば、花つきのネペントも胚珠もすぐに手に入るよ」

 やけに饒舌だと思うが、それも誰かがいる安心でやっと本来の調子が戻ったのかもしれないと思う。だがそれに戸惑っているのか、キリトはすぐさま返答を出さずに、

「あ、ここは君たちが先に使ってるんだし……サイアス? は必要としないみたいだし、君が先に出た胚珠を貰ってもいいよ。君がここにいればそれだけでドロップ率は上がるし。パーティーも別に参加しなくていいからさ」

 少年が言ってるのはたぶんパーティー用の共通インベントリのことだろう。パーティを組んでドロップがでた場合、全てのドロップが一旦パーティー用の共通インベントリのほうへと流れ込むのだ。それで胚珠がでた場合、キリトは少年がそれだけを取り逃げることを恐れているとでも思っているのだろうが……

「あ、あぁ、……それで頼む」

 キリト自身はどうやら別の事で強張っているが、さてどういうことやら。

「じゃ、僕は≪コペル≫、よろしく」

「ナイスな一級廃人かもしれない男≪サイアス≫だ」

「≪キリト≫だ、よろしく……ってさっきと紹介が違う。しかもなにその紹介」

「あぁ……こんなこともあろうかと紹介パターンは数個用意してる……! MMORPGでただ挨拶するだけじゃ芸がないからな!」

 普通のMMORPGであれば名前は表示されているために挨拶はこんにちわ、の一言で済むのだろうが、ソードアート・オンラインはそこらへんが若干リアルに、つまりは名前は表示されていないのだ。ライフバーも自分の以外はパーティーを組まない限りは見ることができない。だがキリトとコペルのリアクションは揃いも揃って、

「うわぁ……」

 と二人揃って呆れたような声がでるが、この程度の道化を演じて活力が出るのであれば、それはそれで悪くない。やはり、死に直面する危機は子供には逃避するものがない限り辛すぎるのだろう。


                           ◆


 それからコペルを加えた三人での狩りの効率は中々のものだった。キリトと自分の役割に一切の変更はなかったが、元βテスターだけあってコペルの動きはSAOのVRエンジンに慣れていることがすぐにわかった。自分とキリトの役目が何かを理解すると、コペルがその間の、タゲ取りへとその役目をシフトさせた。最初は自分がタゲ取りと釣りを兼任していたが、コペルがバックラー装備でタゲ取りをしてくれるために効率が増した。その戦闘方法は変わらない。投擲で死なない程度にネペントを釣り、引き寄せる。その近くへコペルが行き、ターゲットをとったらキリトがまとめてソードスキルでしとめる。

 簡単なルーチンではあり、そしてコペルは必要なさそうに見えるが、実際はダメージを受けるのはコペルだけに抑えられ、アイテムの分配分を少し色をつければいいためさほど問題はなく、キリトと二人だけの時よりも更に殲滅スピードが増している。

 だが、その過程において、自分もキリトもコペルも終始無言であった。

 戦っているとどうしても喋る気にはなれない。戦闘に集中するとどうしてもリアルと今の現状に関して考えてしまう。……今までは考えもしなかったが、自分の父親と母親はどうしているのだろう。あれは、若干自分の本質に気づいていた節もなくない。ルームメイトは先にプレイできたことをうらやましがってたけど、参加しなくてよかったなぁ……早く死にそうだし。予備校の出席とかどんな扱いになるのだろうか。アーガスは確実に倒産するだろうなぁ、と。

 くだらないことから身近なことまで、実にいろいろと考えさせられるのと同時に、自分が今までマジメに考えてなかったことに気がつく。やはり、それはここがVRMMORPGと言う世界のおかげだからだろうか、と思う。

 ここがRPGと言う、戦闘を行うことで経験と報酬を得られる世界だということは、既に目標と方法が示されているということだ。そしてその目標の事を考え続けている限りは大体他の事を考えなくてすむ。一般のプレイヤーにはどう受け止められるかは解らないが、重度のMMORPG中毒としては、これだけの要素があれば他の事を考える必要はしばらくはない。

 だが考えるにしろ、考えないにしろ、時は少しずつだが経って行く。

 コペルを加えた三人パーティーでネペントの乱獲を開始してからしばらく、キリトもコペルもレベルが三へと上昇し、自分のレベルも六へと上昇した。キリトとコペルが相手しているネペントへと向けてスローイングナイフを投擲系初歩スキル≪シングルシュート≫を使用し援護する。

 アインクラッドの武器には様々な種類があり、その全ては斬撃、刺突、打撃、貫通の四属性に分けることが出来る。そして、投擲武器にもそれは適用される。この場合スローイングダガーは刺突属性に分かれるが、その代わり他の武器にはない特性を持っている。それは、複数への同時攻撃を許すことだ。……ただし、ある程度のスキルの修練が必要ではあるが。

 だがこの数時間の使用とパーティーでの積極的な投擲スキルの使用は、初歩のシングルシュートにおいてのみ、二体同時攻撃を許していた。

 放たれたスローイングナイフが水色のエフェクトを引きながら弱点であるツタの付け根、体を支える茎へと突き刺さり大幅にライフを減らす。同時にライフが一度に大きく減った証としてネペント達がダメージモーションを取り僅かにひるむ。そのできた隙を逃すはずもなくキリトとコペルが一気に弱点への攻撃をソードスキルで決め、ネペントを両断しポリゴンを拡散させる。そこでふう、と疲れた息を吐きながらコペルが呟く。

「……でないね」

「リアルラックねぇなぁお前ら。もうちょい神様に祈れ。運がよければリアルラック上がるかもよ」

「もしかしてサイアスの運の悪さが俺達に影響してるのかもな。……さて、サイアスのバカ話は無視するとして、―――正直な話、βの時と出現率が変更されている可能性が一番高いかもな……。レアのドロップレートとかが正式サービスで下方修正されるのは他のMMORPGでもある事だって聞くけど」

 そこで視線が自分へと集まる。軽く肩をすくめながら思い出してみる。

「あー、そうだな。≪フェンサー・エイジ≫とか≪ダーティー≫とかβからやってみたけど、確かにそういう修正はあった気がするぜ。他にもBOT対策とかで色々修正される部分はあったけどね。つか何時の時代もBOTがあるってことに驚きだよ。優越感を味わうのはMMORPGの醍醐味かもしれないけど、その間の苦労があるからこそ意味があると思うんだけどねぇ」

「廃人の言葉は無視して、どうする?」

「俺の扱い酷くないか」

「……うーん、あり得るなぁ……。―――レベルも結構上がったし、一度ホルンカまで戻る? 武器の方も大分損耗してきた感じでしょ?」

 そういわれて自分の装備のステータスをチェックする。ブロンズカトラスはキリトやコペルが来る前、一人で狩場を占領していた時に使っていたのでそれなりの消耗があったが、ここへ来てパーティーを組んで殆ど使用してはいないので、カトラスの損耗はキリトやコペルのショートソードと同じぐらいだろう。スローイングナイフの方はもう殆ど空になっている。ホルンカではスローイングナイフではなく、投擲用小型鎚を販売しているが、アレは対人用の防具破壊用の装備だから正直今は必要はなく、スローイングナイフの補給ははじまりの街まで戻らないとだめだろう。総合的に考えると、釣りのほうは厳しいだろうが接近戦ではいけるということだ。

 そうやって自分の装備やアイテム、防具の損耗状況を考えながら。どうするかを考えていると、三人で集まっている場所、その十メートルほど離れた場所でゴツゴツとしたポリゴンと赤い光が生まれる。それはモンスターの湧き、ネットゲーマーのスラングで言うPOPを現す光だ。特に期待もせずにその姿を眺めていると、

 若干白に近い赤色のカーソル、そして捕食器の上に赤く咲く花。それは花つきのリトルネペントだった。

「―――っ!!!」

「っしゃ……!!」

 早くもコペルとキリトは声にならない雄たけびと共にガッツポーズを取り、今にでも飛びかかりそうなところで―――キリトがコペルを静止させる。自分も残り数が少なくなったスローイングナイフを手に取り索敵で様子を窺う。花つきのリトルネペントの更に奥、索敵スキルがなければ気づかない木々の闇の中にはもう一体のネペントが存在した。ここでこれがもう一匹の花つきネペントであれば強運に恵まれているといえるのだろうが、この世界はそんな甘くないようであった。

 花つきのそばにいたネペントはその頭上の上に花の変わりに一つの実をなしていた。

 ≪実つきリトルネペント≫、それはこの狩場において一番のジョーカーとも言えるモンスターである。

 花つきのネペントが他の固体よりも若干強く、経験値が多くもらえるのに対して、実つきはステータスも報酬も変わらないのに、一層ではもっとも厄介とも言える実をなしているのだ。その実は戦闘において武器にも防具にもならないが、戦闘中に一度でもそれに触れてしまうとはじけ、そしてここら一帯に存在する全てのネペントを引き寄せる匂いのする煙を充満させるのだ。レベル三のキリトやコペルでは確実に死ねるし、レベルが六へと達した自分でも数の暴力の前ではかなり辛い。コペルもその存在に気づき、動きが完全に静止する。注意深く二体のネペントの動きを見ながら素早く言葉をつむぐ。

「どうする。定石としては誰か一人で実つきのネペントを釣って離れた所へ誘導、その間に二人でフルボッコにして花つきを倒して、タゲ取ってもらってる内に倒すとか」

「いや、離れすぎるのは得策じゃないと思うよ……これで途中で実つきがでたらヤバイし」

それは心配のし過ぎではないかと思うが、言葉を言い切る前にコペルが前に出る。

「僕が実つきの方を押さえておくから、キリトとサイアスは速攻で花つきを倒してくれ」

「………………了解」

「お兄さんに任せろ」

 共に、獲物へと向けて走り出す。空を見上げればいつの間にか日は完全に沈みアインクラッドの空は闇で覆われていた。森の奥には闇の中でもかすかに次の層へと繋がる塔が見え、自分達を照らす月灯りはない。
だがそれでも、

 アインクラッドの一日は終わらない。
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| 断頭の剣鬼 | 17:32 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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