陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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プロローグ ―――スターティング・ディザスター

二〇二二年十一月六日日曜日午後十二時



 海賊刀を片手に握り、一面広がる草原を駆け抜ける。本来なら十数秒で疲れ、荒い息を漏らすであろう速度で走ろうとも決して疲れを見せる事無く走り、あまつさえ"海賊刀"などという金属の塊を持って走れる状態はまさに異常としか表現できないだろう。現代日本であれば確実に異常とみなされるであろう光景だ。

 そう、それが、通常であれば。それが現代日本を舞台としていればの話だ。


 簡素なチュニックにズボンという安っぽい服装の割りに手に握っている得物は本格的で、それが一際姿のアンバランスさを強調するがそれを青年は気にする事無く草原を走り続ける。その顔にはなにが楽しいのか、笑顔が浮かんでいる。本当に楽しそうに武器を握り、草原を走る。

「見つけた……!」

 走っているうちに青年の前に青色の猪が現れる。自然の産物としては決してありえないその生物は、頭の上に≪Frennzy Boar≫と、やはり通常ではありえない表記を見せている。現実ではありえない現象に対して笑みを濃くすると、走る速度を少しだけ緩めつつ剣を握っていない左手に薄い、銅の色をしたナイフを取り出す。一般的に言うスローイングナイフ、それを構えた瞬間青年の体が何かに導かれるように自然な動きを持ってナイフを投擲する。初心者には到底無理な、ダーツの様な投擲を持って放たれたナイフは青いエフェクトを発しながら真っ直ぐ進むと猪、≪フレンジーボア≫へと突き刺さる。その一撃を受けてこちらへと向いていなかった猪の意識がこちらへと向く。同時に、名前の下に表示されていたゲージのようなバーが減る。どれをとってもまったくといっていいほど現実的ではない現象。だがそれでも青年は笑みを浮かべたまま呟く。

「遅ぇ」

 猪が青年へと完全に向く頃には青年の体は既に自分のキルゾーン、つまり右手に握っている海賊刀の間合いへと入っていた。自然な動作で構えている海賊刀を動かすとその動きにエフェクトがついてくる。体は前へと進みながら、素早く振るわれる海賊刀が猪のたてがみ部分へと深く沈み込む。体を振りぬきながら放たれた海賊刀の一撃を喰らい猪の体が大きく吹き飛ばされると同時に頭上のバーが、生物の命を示すライフバーがごっそりと削れ空になる。中空に不自然に浮かんだ状態で固まり、大きく泣き声を漏らしたところで爆発し―――ポリゴンを散らす。

「ま、フレンジーボアならこんなもんだろうよ」

 拡散する猪のポリゴンを背後に、そこで立ち止まり海賊刀を腰の鞘へと差しつつ振り返り、フレンジーボアのドロップアイテムを調べだす。フレンジーボアの毛皮と数コル。初期では簡単に手に入る金額とアイテムだ。ここにはもう用はないとばかりに青年は再び進行方向のほうへと視線を向ける。
「やっぱり最高だなこの世界は―――≪ソードアート・オンライン≫は」

 青年……サイアスと言う名のプレイヤーはそう呟くと、再び全速力で草原を、前方に見えてきた森へと向かって走って行った。


                           ◆


 ≪ソードアート・オンライン≫……省略してSAO、そのβテスト権が来た時俺、最上明広は狂喜した。学校を卒業してからはルームシェアで部屋を借りているのだが、自分の部屋に廃スペックPCを自作で持ち込んでいることからルームメイトには自分がネトゲ廃人に入る部類の人間だということは知られていたし、そして偶に一緒に遊ぶ理解ある仲間だったが、今回ばかりは嫉妬で殺されかけた。やはりβテスト権はNERDLESでのVRゲームを経験したことのある人間であれば、死ぬほど欲しいものだっただろう。

 βテストが始まってから、自分の生活は更に変わったと自負している。

 まず最初に、他のネットゲームは所属しているギルドメンバーなどにしばらく休むと通達して、完全にSAO一本に集中できるようにした。バイトも有給などを取れるようにしてまとまった時間を確保し、ログイン前にはメモや食べ物を用意して、完全に準備完了と言うところで毎日何時間も続けて遊び続けた。草原を走りぬけ、巨大な町の路地裏を迷ったり、モンスターと戦いながら動き方や弱点を探ったりと、約半年だけの期間だったが本当に、楽しかった。特に悔しそうにログインの様子を見るルームメイトの顔は見てて激しく気持ちがよかった。

 βテスターとしてダイブした半年は、それは非常に楽しい時間だった。

 正式稼動すれば、テストで見つけたバグが修正され、更に課金システムの導入や多くのプレイヤーが参加し、歴史史上最大規模のVRMMORPGになることはβテストの時点で約束されていた。だから遊んだ。正式サービスが開始されたさいに、他のβテスターにも負けないようにデータを集めて、リアルに戻った時はルームメイトと一緒にもって帰ってきたデータを見ながらどう進めるのが一番効率的なのかなど、どんなキャラクターにビルドするかなど、様々な事を進めてきた。半年間のβテスト期間が終わると正式サービス開始のためにβテストで使用したキャラクターは削除しなくてはならなくて、まるで自分の身を削るかのような思いだったことを覚えている。

 そして正式サービスは開始した。

 開始と同時に今日という日のために取っておいた十万円を全てWEBマネーへと変換し振り込み、それをSAOで使えるゲーム内マネーへと変える。椅子も最高のコンディションに整えて体が痛くならないようにし、ログイン。前々から決めていた店へとダッシュして到着すると、少し胡散臭いアラブ系の姿をしたNPCから初期金額でブロンズカトラスを購入し、裏通りの小汚い怪しい雰囲気の店でスローイングナイフを購入、それらを装備し町から飛び出す。

 そうやって、自分のSAOでの冒険は始まった。

 MMORPGというのはリソースの奪い合いだということを知っている。そしてそのリソースには狩場、つまりモンスターと戦って得られる経験値の場も含まれているのである。だからゲーム開始直後、スタート直後の初心者には難しいが、βテスト経験者になら稼げる場所―――ちょっとした狩りの穴場へと全速力で向かっていた。他に、プレイヤーが来る前に。


                           ◆


 βテスターとしての経験を生かしスタートダッシュを決め、草原を駆け抜け到達したのは森だった。森の中の小道を抜けきるとそこには≪ホルンカ≫と言う一通り設備の整った小さな村が存在する。そこではクエストも用意されており序盤では大変お世話になる片手剣、≪アニールブレード≫を入手する機会がある。その性能はアインクラッドの第一層に存在する大都市≪はじまりの街≫で売っているどの剣よりも強力な性能をほこっている。が、俺、最上明広……≪Syas≫(サイアス)は別にアニールブレードを手に入れるつもりは毛頭ない。手に入れるつもりなら≪ブロンズカトラス≫を買わなかった。≪ホルンカ≫近くの森には≪リトルネペント≫と言うやや強めのモンスターが出現する。第一層のモンスターとしては強めの設定で経験値も多い。今日一日死なないように気をつけて篭れば、終わる頃にはレベル六か七になっていると思う。

 そのためにも、と森の中へと進入する。まだ日は高く昇っている状態ではあるが、ここに到達するまでに猪を倒しながら進んで来たためにそれなりに時間が経っている。だが一直線にここまで来たからまだ狩場には誰もいないはずだと、そう思いながら鞘に差していた海賊刀を取り出し、左手にスローイングナイフを取る。本来レベル一のキャラクターに許されたスキルスロットは二つだけで、レベルが一定上昇するたびにスロットは増える。だが最初は二つしか空きがないために本来なら≪索敵≫か≪隠蔽≫をとるべきなのだろうが、≪投擲≫をとったのは狩りの効率を上げるためだ。それに、片手で使える遠距離からの攻撃手段を持っていることはソロでの活動においてはかなりに役に立つ。

 ちなみにソロの方が旨味が多いの知っているため、ソロ一直線目指すつもりで次は索敵と隠蔽を順次取得していくつもりだ。

 そんな事を考えながら森の中、モンスターの姿を探すとすぐに探していた存在を見つける。巨大なウツボカズラの様な姿に、下部は蠢く根が足の代わりを果たすグロテスクな姿をした植物系のモンスター。≪索敵≫スキルを取得してないために探すのに若干苦労するが、目視できる範囲に入ると頭の上に紫色のカーソル、つまり相手が自分よりも格上だと証明する色のカーソルが現れる。向こうはまだこちらに気がついていないために、先制攻撃のチャンスがある。≪リトルネペント≫はたしかレベル三のモンスターで、六……粘って七レベルまでは十分旨味のあるモンスターだってことを思い出しつつ、

 左手に握ったスローイングナイフを構える。

 頭の中で投擲スキルの初期から使用のできる単発攻撃スキル、≪シングルシュート≫を起動させる。脳から発せられる信号をナーヴギアが読み込み、脳の指令に従って体がプログラムどおりの動きを、つまり構えたナイフを腕の動きを持って真っ直ぐ、リトルネペントへと向けて放つ。薄い水色のエフェクトを纏ったナイフがウツボカズラ状のモンスターの茎、つまりは弱点へと突き刺さる。β時代に既に攻略部分までのモンスターの弱点データは作成し、可能な限り覚えてある。故にその弱点への衝撃は期待通りモンスターの悲鳴と怒りを呼ぶ。

 そして、二撃目の≪シングルシュート≫が放たれる。

 ≪リトルネペント≫と自分の間の距離は大体八メートルだと認識する。リトルネペント持つ攻撃は全部で二つ。一つは足の役割を果たすツルの様な根、それによる刺突と打撃。そしてもうひとつが腐食液による射撃に分類できる攻撃だ。前者の射程が近距離……つまりは一メートルから二メートルが限界で、腐食液は五メートルと中々の射程をほこっていたはずだ。それに加え腐食液は装備の耐久値を減らすいやらしい効果もついていた。

 だから、シングルシュートによる範囲外からの攻撃は有効な手段だということは明らかである。

 ナイフを再び弱点に当てられたリトルネペントは悲鳴を上げながらよろめき、その前進が停止する。頭上に浮かぶHPバーも弱点への二連撃を喰らって大きく減らしており、体力は五割にまで減っている。投擲によるダメージはさほど高くなく、牽制や釣り用の武器だとは思っていたが、思いのほか弱点へとなら効果が高いと嬉しい誤算を受けながら、前へと進みこむ。リトルネペントと自分の間の距離は約五メートル。それは腐食液の射程範囲内だ。カトラスをいつでも攻撃に使えるように構えながら走ると、眼前の敵の体が膨張する。リトルネペントのAIアルゴリズムは、プレイヤーが四~五メートルの距離にいる場合、積極的に腐食液を使用するように設定されている。だが、腐食液の射程は長くやっかいでも、その範囲は正面三十度と、体を僅かにずらせば避けられると言う弱点がある。そのため、前進しながら膨張するリトルネペントの体を見る。一メートルの範囲にまで入ったところでリトルネペントがそのグロテスクとも言える口から腐食液を放った。

「そこっ!」

 体を敏捷のパラメーターに任せて横へと動かすと体のあった場所を腐食液が通り過ぎる。それを横目で確認しつつカトラスを軽く振り上げ、片手用曲刀基本ソードスキル≪リーバー≫を発動させる。一撃の斬撃、斜めの切りおろしという簡単なソードスキルで、人力でも再現可能なその動きは≪ソードスキル≫として発動することで、普段の斬撃以上の威力を発揮する。カトラスの耐久値が僅かに減りながらもソードスキルによる斬撃は≪リトルネペント≫の弱点へと食い込み、その体力を大いに減らす。ツルが攻撃のために襲ってくる前に、≪リーバー≫によって振り抜かれたカトラスを再び上へともって行くために反った刃を上へとすかさず向かせ、下から弱点を切り上げる。硬い茎にカトラスが食い込み、ウツボの部分が切断されライフバーが完全に真っ赤へと変わり空になる。その動きを完全に凍らせたリトルネペントが草原で倒した猪のように空中で凍てつき、そしてポリゴンへと爆散する。

「ふぅ、ナイフ入れて四発、カトラスだけなら三発で行けそうだな」

 安全性を考えるのなら距離を空けながらナイフでひたすらチキンプレイが一番だろうが、そんな事をしてればサイフに優しくない上に狩り効率も悪い。今の戦闘は時間で言えば接近してから十秒、釣ってから三十秒で終わった。敵を倒した事で出てきたドロップとコルを確認しつつ経験値量を比べてみれば、その量は先ほど倒した猪の二倍はあった。再び今日一日でどれだけ倒せるか頭の中で計算すると、結構イケルな、と確信し、次のモンスターを求めて森の中を徘徊しはじめる。

                           ◆


 索敵スキルを所持しないために若干の不便さを感じつつも、そのあと数時間のリトルネペント狩りで、一だったレベルは数百匹の犠牲を持ってレベル四にまで上昇し、一日目としては幸先のいいスタートとなっていた。だがその狩りのおかげで使っていたカトラスは消耗され、スローイングナイフも完全に使い切ってしまった。リトルネペントのドロップをあわせて売却し、ブロンズカトラスの修理とスローイングナイフの補給、そしてホルンカで販売している茶革ハーフジャケットを購入し装備する。

「まぁ、ここまではテンプレだよなぁ」

 小さく自分にだけ呟く。やはり一番乗りは自分だったが、一時間ほど経過してから同じくβテストに参加したらしきプレイヤーを一人、二人ほど見かけた。彼らもきっと自分みたいなMMO中毒、廃人に属する人間だなんだと、そう納得する。自分が狩場を一箇所使ってるのを見て、他の狩場へと移る辺りその紳士っぷりが窺える。今戻れば既に使用中かもしれないがその場合はパーティーが組めるかも、

 などと思っているときにそれは始まった。

 リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン。

 それは鐘の音だった。ホルンカには鐘なんてものは存在しないために、場違いすぎるそのサウンドに戸惑っていると、自分の体の周りに青い光のエフェクトが現れ体を包みだす。このエフェクトは今日初めて見るものではない。これはβテスト時代、ワープや転移といった現象で見ることのできるエフェクトだ。自分は≪転移結晶≫を所持も使用もしてないのにどういうことだと、そう思った瞬間には光の柱に飲まれて視界が切り替わる。

 瀟洒な中世風の町並みに石造りの床、奥には宮殿がが見えるその光景には見覚えがある。それは自分がこの世界、つまりVRMMORPGソードアート・オンラインで一番最初に到着する町、はじまりの街の風景だ。そう考えている間にもどんどんと周りに光の柱、つまりは転移してくるプレイヤーが増えてくる。その反応を見る限り誰もが混乱、あるいは怒り、そして―――

「おい、これはどういうことだよ!」

「ログアウトできないぞ!?」

「GMを呼べよ!!」

「……ログアウトができない?」

 その言葉が聞こえた瞬間システムウィンドウを開きそこに存在するはずのログアウトボタンを確かめる。確かに周りの言葉の通り、そこにはあるはずのログアウトのボタンが存在しなかった。それはつまり外部からの干渉でのみこのVRの世界から脱出できるということだが、不意にざわめく人の声を裂き一際大きな声が叫ぶ。

「おい、上を見ろよ!」

 そこに映っていたのは深紅のローブ姿だった。巨大な、広場の何処からでも確認することが出来るような大きさのその影は、βテスト参加者なら知っている姿だ。GMがアバターを用意できなかった場合に使用する姿で、それを通してアナウンスなどをする姿だ。だがその姿はβ時代とは違い、酷い嫌悪感と嫌な予感しか生まない、そんな雰囲気を表していた。何処から見てもとても良い報告をしてくれそうな感じではない。周りの人達のようにぎゃあぎゃあ喚くのはかっこ悪いと、そう思い不安と嫌悪感を押し込む。

               『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 二〇二二年十一月六日、日曜日午後五時。

 その言葉を持ってデスゲーム≪ソードアート・オンライン≫が開始した。
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| 断頭の剣鬼 | 12:47 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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