CCC-20
端末を見て、笑みをこぼす。10万。10万サクラメント。なんという大金だ。素晴らしい。金。圧倒的金。圧倒的なまでの金額。これを見て心躍らない庶民はいない。ぽんと10万なんて大金を渡してくるレオは大層な愚か者だ。ハーウェイトイチシステム? 何を言っている。
月の裏側に日数経過は存在しない。
故に利子は増えない……!
「ウチのマスターがだいぶ悪っぽく染まってきている件」
「シャヘちゃん混沌・善だし間違ってないんじゃないかなぁ。というよりもこの思考回路はどうみてもサーヴァントにマスターが染められているだけでしょ。おめでとう、貴女色に染まったわよ!」
馬鹿な事を言っている二人の事は無視し、階段を下りて、校舎の一階へと向かう。これだけの大金があれば凛の頭の悪い課金システムも余裕で突破できるに違いない。その事実で胸を軽くしながら階段を下りると、ふと、視線は購買へと向かう。ハンガーにかけられ、飾られているのは女子用セーラー服。その前には値札が置いてあり、一万サクラメントと書かれている。
それを見た事を言峰店長は確認し、マーカーを取り出し。
月の裏側に日数経過は存在しない。
故に利子は増えない……!
「ウチのマスターがだいぶ悪っぽく染まってきている件」
「シャヘちゃん混沌・善だし間違ってないんじゃないかなぁ。というよりもこの思考回路はどうみてもサーヴァントにマスターが染められているだけでしょ。おめでとう、貴女色に染まったわよ!」
馬鹿な事を言っている二人の事は無視し、階段を下りて、校舎の一階へと向かう。これだけの大金があれば凛の頭の悪い課金システムも余裕で突破できるに違いない。その事実で胸を軽くしながら階段を下りると、ふと、視線は購買へと向かう。ハンガーにかけられ、飾られているのは女子用セーラー服。その前には値札が置いてあり、一万サクラメントと書かれている。
それを見た事を言峰店長は確認し、マーカーを取り出し。
「気が変わった。これより10万サクラメントで販売しよう」
「こいつ汚い」
言峰が明らかに此方の持ち金全部を狙った金額にセーラー服の値段を変える。態々此方に聞こえる声、見える位置に改変した値札を置き、見せびらかす様にセーラー服を店頭に置く。この店長、実にいい笑顔で此方を見ている。
「挑発に乗るなよ? 絶対だからな? 駄目だからな?」
あぁ、解っているよシャヘル。
言峰の購買から視線を外し―――。
「―――それください」
端末を取り出す。
「―――温めますか?」
「流石はくのん、見事にフリを拾ってくれるわね!!」
◆
「―――というわけで、桜は今すぐこれに着替えるんだ」
「え?」
生徒会室へとマッハで戻り、購入したばかりの月海原旧女子制服を桜へと渡す。前々から見ていて思っていたのだ。生徒会は一つのチームだ。そしてチームには統一感が必要だ。ガトーはもう異次元のクリーチャーだから無視して、しっかりとスーツに着替えてきたユリウスもオッケーをだす。バゼットも教師枠なのでスーツで許可。だが桜よ。桜はロールとしては一年生、つまり後輩であり生徒なのだ。生徒会の生徒が全員同じ制服姿ではないとおかしいだろう。
「白野さーん! 僕の監視が間違ってなければ僕が貸したお金全部それに使いましたよねー?」
「せ、先輩!? だ、駄目ですよ私なんかの為に大金を使っては! それにそのお金は先輩が土下座してまで手に入れたものではないですか!」
安心しろ桜。基本的に愉悦に目覚めかけているレオはネタがしたかっただけだから真面目にやっててもあの後10万サクラメントをくれる予定だったはずだ。
「土下座するまで出す予定はありませんよ? いやぁ、明日が実に楽しみですねぇ」
……ともあれ、お金はなくなった。それは桜の制服へと錬金術によって変化したのだ。だったら桜は責任を取ってこの制服に是非とも着替えるべきなのだ。というか着替えろ。着替えなさい。着替えてくれないと何のためにレオから金を借りたか意味が解らなくなる。
「それ、元々は迷宮を進める為に借りたお金ですよね!?」
そんな事は知らない。番人が強くてもそのままはっ倒してしまえば問題はないのだ。故に、手に入れたばかりの女子制服を桜へと押し付ける。桜は少しだけ困った表情を浮かべているが、やがて諦めたような表情を浮かべる。
「……解りました……もう、先輩には勝てませんね、本当に」
溜息を吐きながらも桜の声はどこか嬉しそうなところがある。これ以上は一秒だって無駄にする時間はない。桜の後ろ側へと回り込み、その背中を押す。わわ、と声を漏らしながら前のめりになる桜だが―――その表情が楽しそうなのは疑いようがない。そうやって楽しそうな笑みを見ていると此方も楽しくなってくる。
「じゃ、俺達はサクラ迷宮の前で待ってるからさ、楽しんで来い」
そう告げたシャヘルはネコアルクを頭の上に乗せたまま姿を消す。というか、霊体化だろう。シャヘルも一緒に桜のお着替えを堪能すればいいのに、とは思うが……まあ、趣味を押し付けるものでもない。桜の背中を押し、強引に保健室へと運んでゆく。
「というか着替えを見るんですか!?」
むしろ私が着替えさせる。
「先輩がなにやら邪悪な笑みを……!」
この月の裏側はキャラ崩壊上等な人間が多いので、最近悩む事はばかばかしいと斬り捨てる事にした自分がいた。
◆
「ど、どうでしょうか……?」
桜のブレザー服はセーラー服へと変わっていた。スミレ色の髪に黒の服、そして赤いスカーフ。肌の色や髪の色と実によくマッチングした可愛らしさがそこにはあった。やはり桜の髪は何時みても長くて綺麗で羨ましい。……羨ましくて、伸ばしたくなってくる。
「伸ばすこと自体は不可能ではありませんよ? 髪の毛や爪は基本的に伸びたりしませんが、ここではカスタムさえすればアバター情報は変更可能ですから」
なるほど、髪を伸ばしたければ普通にアバターの情報を書き換えればそれだけで済む話なのか。その発想はなかったが、まあ、おそらく思うだけで実行する事はないだろう。何故か解らないが”岸波白野にアバター情報の変化”という選択肢は着替える事以外では絶対にありえない事だと感じている。完全なフィーリングの問題だが、そこらへんは何故かそう思う。
まあいいだろう。桜の姿は十分に楽しめた。
「先輩? 次からは自分の為にお金を使わなくちゃ駄目ですよ? こんな無駄な事に使っちゃ駄目ですよ?」
それは承諾しかねる―――岸波白野という少女は基本的に騒がしく、馬鹿で、そして無駄な時間こそが一番美しく、そして大切な事だと思う故、その願いは聞けない。
「もう……攻略、頑張ってくださいね?」
やはり呆れているような声だが、上に白衣を着始める桜の表情は何処から見ても満面の笑みだ。確かに桜はNPCで、AIなのかもしれないが、こうやって喜んだり、嬉しがったり、呆れたり、そうやっていろんな表情を見せる彼女は間違いなく本物だと思う。
―――だからこそ、表側へと戻らなくてはならない。
桜にさようならを告げながら保健室から出る。シャヘルは既に巨大な桜の樹の下で待っている。少しだけ駆け足でサクラ迷宮へと走って行く。お金は無くなってしまったが、お金を手に入れる方法も、戦う手段もある。そう簡単に諦めるだけの理由は何処にもないのだ。
◆
「さて」
シャヘルがそう言って腕を組みながら見るのは前方、道を塞ぐように存在する強力なエネミーの姿だ。軽くレベルアップを兼ねた狩りでいける場所を完全にマッピングしたが、そこに設置されているアイテムフォルダは全て空っぽ、出現するエネミーも落とすサクラメントは200と少し程度。二、三撃程度で倒せるエネミーであることが幸いであるが、それでもたった200だ。1万サクラメントを集めるつもりであれば相当数を討伐する必要がある。
うむ。
実にクソゲーである。
「やってられるかぁ!!」
シャヘルが遠坂・マネー・イズ・パワー・システムの入金ターミナルに軽い助走からのドロップキックを全力でくらわす。勢いをつけて繰り出す蹴りを鉄の塊が耐えられるはずもなく、サーヴァントの筋力にあっさりと負けて迷宮の床から吹き飛ばされ、落ちてゆく。ただのスクラップとなったターミナルがおちてゆく光景を軽く眺め終わると、今度は門番のエネミーへと視線を向ける。
なんというか、こっちは今、桜の制服姿と着替え姿を見て凄い眼福モードなのである。今なら許されない事も出来そうな予感がする。
「たとえば?」
ネコアルクに目からビームを撃たせるとか。
「……」
「……」
シャヘルが頭の上に居座るアルクを片手で掴んで見る。自分もネコアルクを見る。その視線を受けて、ネコアルクはデフォルメの両腕を組み、首をひねり、目を閉じてから口を開く。
「あと3レベね!」
「3レベ上げたらビーム打てるお前に驚きだよ」
ネコアルクの理不尽さは何時も通りの事なのでシャヘルの頭の上に戻し、いい加減あの門番を突破しよう。馬鹿正直に金を出す必要はない。シャヘルが大太刀を構えた瞬間、ウシ型のエネミーが此方の敵意を感知し、前足で床を引っ掻きながら頭を揺らす。金色の角を此方へと向けながら、本当に襲い掛かってくるのか、それを質問する様に構えてくる。
「シャヘル」
「おうさ」
魔力をシャヘルと送り込み、シャヘルが一気に踏み込む。動きと同時に反応したエネミーが体を低くし、四足獣の動きでシャヘルを捉えに行く。だが込められた魔力を受け取ったシャヘルは一気にスキルを発動させる。魔力放出と同時に時を切断しながら進み、一撃目の斬撃をエネミーへと叩き込む。
―――敵の背後には回復用の泉の姿が確認できる。だとすればここで魔力リソースを温存する必要はほとんどない。
「本邦初公開ッ!」
時の切断からの斬撃を叩き込み、相手がひるんだ一瞬にシャヘルは相手を蹴るような素早い動きで隙を相手の中に生み出し―――大太刀を一回転させ、その姿を西洋片手剣へと変化させる。その刀神は大太刀と比べればはるかに短く、頼りなく見えるが、禍々しい黒色と、それを縛る様に張られた符は全く変わらない。刃の柄を右手で振り上げると、刀身は完全に光に包まれ、両断する様にシャヘルはそれを振り下ろす。
「猛々しき剣閃(アッタル)!」
一直線に割断する様に放たれた剣はエネミーの頭に深い傷を生み出す。だがそれは致死へと至るほどではない。その後すぐにカウンター跳んでくるのは目に見えている。素早くシャヘルに防御の指示を送る。一瞬で大太刀の姿を取り戻した刃で角による一撃を抑えた瞬間、再び魔力をシャヘルと送る。
再び背後へと時を切断しながらシャヘルは出現し、
「断頭台へとようこそ」
片手で刃を振りおろし、首を刎ねてエネミーを絶命させた。疑うことない一撃必殺、エネミーは一瞬動きを止めてからポリゴンへと姿を分解させられ、砕け散る。
残ったのは経験値とサクラメントだけだった。
「いえーい」
刃を肩に担ぎながら片手を上げて近づいてきたシャヘルと手を叩きあって戦闘の勝利をたたえ合う。その光景を頭にしがみ付いていたネコアルクが呆れたような声を漏らす。
「何よそのコンビネーション。息があってるってレベルじゃないじゃない。まるで相手の動きを知っているかのように動くし。これじゃあ相手が多少格上だとか、少し強い能力を持っているとか関係なく完勝できちゃうじゃない」
自分にできる事の最善がこれなので酷いとか言われると心外である。
「なー」
「なー」
「えぇい、この逆境最強系主従は!」
そこで怒こられる理由が良く解らない。
『勝利を疑っているわけではありませんが、まさか本当に勝ってしまうとは思いもしませんでした。というか白野、軽く僕のお金を持ち逃げしていませんか? というか使い逃げ』
そして明日がないのでトイチシステムからも私は解放されているのだよレオナルド君。
『ガウェイン、ガラティーンの使用許可を出しますので今すぐ負債の回収に』
「やべぇ、迷宮の奥に逃げろぉぉ―――!!」
迷宮へと近づいてくる神話級の英霊のプレッシャーを感じながら、笑い声と悲鳴を漏らしつつ、サクラ迷宮を進んで行く。―――おそらく、また凛と会う事になる予感を抱きながら。
今週は全体的に時間が足りなくて更新時間が非常に遅くなって申し訳ありません。字数も普段と比べて若干少なっているような、そんな感じです。あとあんけぇいとは継続中です。ドシドシどうぞ。
あんけぇいと
ちなみにセイヴァーのコンセプトはキャスター+セイバーで、モンスターのコンセプトがバーサーカー+キャスターという感じです。まあ、どちらも既にステータスは簡易的に組み上がっていますのでー。
「こいつ汚い」
言峰が明らかに此方の持ち金全部を狙った金額にセーラー服の値段を変える。態々此方に聞こえる声、見える位置に改変した値札を置き、見せびらかす様にセーラー服を店頭に置く。この店長、実にいい笑顔で此方を見ている。
「挑発に乗るなよ? 絶対だからな? 駄目だからな?」
あぁ、解っているよシャヘル。
言峰の購買から視線を外し―――。
「―――それください」
端末を取り出す。
「―――温めますか?」
「流石はくのん、見事にフリを拾ってくれるわね!!」
「―――というわけで、桜は今すぐこれに着替えるんだ」
「え?」
生徒会室へとマッハで戻り、購入したばかりの月海原旧女子制服を桜へと渡す。前々から見ていて思っていたのだ。生徒会は一つのチームだ。そしてチームには統一感が必要だ。ガトーはもう異次元のクリーチャーだから無視して、しっかりとスーツに着替えてきたユリウスもオッケーをだす。バゼットも教師枠なのでスーツで許可。だが桜よ。桜はロールとしては一年生、つまり後輩であり生徒なのだ。生徒会の生徒が全員同じ制服姿ではないとおかしいだろう。
「白野さーん! 僕の監視が間違ってなければ僕が貸したお金全部それに使いましたよねー?」
「せ、先輩!? だ、駄目ですよ私なんかの為に大金を使っては! それにそのお金は先輩が土下座してまで手に入れたものではないですか!」
安心しろ桜。基本的に愉悦に目覚めかけているレオはネタがしたかっただけだから真面目にやっててもあの後10万サクラメントをくれる予定だったはずだ。
「土下座するまで出す予定はありませんよ? いやぁ、明日が実に楽しみですねぇ」
……ともあれ、お金はなくなった。それは桜の制服へと錬金術によって変化したのだ。だったら桜は責任を取ってこの制服に是非とも着替えるべきなのだ。というか着替えろ。着替えなさい。着替えてくれないと何のためにレオから金を借りたか意味が解らなくなる。
「それ、元々は迷宮を進める為に借りたお金ですよね!?」
そんな事は知らない。番人が強くてもそのままはっ倒してしまえば問題はないのだ。故に、手に入れたばかりの女子制服を桜へと押し付ける。桜は少しだけ困った表情を浮かべているが、やがて諦めたような表情を浮かべる。
「……解りました……もう、先輩には勝てませんね、本当に」
溜息を吐きながらも桜の声はどこか嬉しそうなところがある。これ以上は一秒だって無駄にする時間はない。桜の後ろ側へと回り込み、その背中を押す。わわ、と声を漏らしながら前のめりになる桜だが―――その表情が楽しそうなのは疑いようがない。そうやって楽しそうな笑みを見ていると此方も楽しくなってくる。
「じゃ、俺達はサクラ迷宮の前で待ってるからさ、楽しんで来い」
そう告げたシャヘルはネコアルクを頭の上に乗せたまま姿を消す。というか、霊体化だろう。シャヘルも一緒に桜のお着替えを堪能すればいいのに、とは思うが……まあ、趣味を押し付けるものでもない。桜の背中を押し、強引に保健室へと運んでゆく。
「というか着替えを見るんですか!?」
むしろ私が着替えさせる。
「先輩がなにやら邪悪な笑みを……!」
この月の裏側はキャラ崩壊上等な人間が多いので、最近悩む事はばかばかしいと斬り捨てる事にした自分がいた。
「ど、どうでしょうか……?」
桜のブレザー服はセーラー服へと変わっていた。スミレ色の髪に黒の服、そして赤いスカーフ。肌の色や髪の色と実によくマッチングした可愛らしさがそこにはあった。やはり桜の髪は何時みても長くて綺麗で羨ましい。……羨ましくて、伸ばしたくなってくる。
「伸ばすこと自体は不可能ではありませんよ? 髪の毛や爪は基本的に伸びたりしませんが、ここではカスタムさえすればアバター情報は変更可能ですから」
なるほど、髪を伸ばしたければ普通にアバターの情報を書き換えればそれだけで済む話なのか。その発想はなかったが、まあ、おそらく思うだけで実行する事はないだろう。何故か解らないが”岸波白野にアバター情報の変化”という選択肢は着替える事以外では絶対にありえない事だと感じている。完全なフィーリングの問題だが、そこらへんは何故かそう思う。
まあいいだろう。桜の姿は十分に楽しめた。
「先輩? 次からは自分の為にお金を使わなくちゃ駄目ですよ? こんな無駄な事に使っちゃ駄目ですよ?」
それは承諾しかねる―――岸波白野という少女は基本的に騒がしく、馬鹿で、そして無駄な時間こそが一番美しく、そして大切な事だと思う故、その願いは聞けない。
「もう……攻略、頑張ってくださいね?」
やはり呆れているような声だが、上に白衣を着始める桜の表情は何処から見ても満面の笑みだ。確かに桜はNPCで、AIなのかもしれないが、こうやって喜んだり、嬉しがったり、呆れたり、そうやっていろんな表情を見せる彼女は間違いなく本物だと思う。
―――だからこそ、表側へと戻らなくてはならない。
桜にさようならを告げながら保健室から出る。シャヘルは既に巨大な桜の樹の下で待っている。少しだけ駆け足でサクラ迷宮へと走って行く。お金は無くなってしまったが、お金を手に入れる方法も、戦う手段もある。そう簡単に諦めるだけの理由は何処にもないのだ。
「さて」
シャヘルがそう言って腕を組みながら見るのは前方、道を塞ぐように存在する強力なエネミーの姿だ。軽くレベルアップを兼ねた狩りでいける場所を完全にマッピングしたが、そこに設置されているアイテムフォルダは全て空っぽ、出現するエネミーも落とすサクラメントは200と少し程度。二、三撃程度で倒せるエネミーであることが幸いであるが、それでもたった200だ。1万サクラメントを集めるつもりであれば相当数を討伐する必要がある。
うむ。
実にクソゲーである。
「やってられるかぁ!!」
シャヘルが遠坂・マネー・イズ・パワー・システムの入金ターミナルに軽い助走からのドロップキックを全力でくらわす。勢いをつけて繰り出す蹴りを鉄の塊が耐えられるはずもなく、サーヴァントの筋力にあっさりと負けて迷宮の床から吹き飛ばされ、落ちてゆく。ただのスクラップとなったターミナルがおちてゆく光景を軽く眺め終わると、今度は門番のエネミーへと視線を向ける。
なんというか、こっちは今、桜の制服姿と着替え姿を見て凄い眼福モードなのである。今なら許されない事も出来そうな予感がする。
「たとえば?」
ネコアルクに目からビームを撃たせるとか。
「……」
「……」
シャヘルが頭の上に居座るアルクを片手で掴んで見る。自分もネコアルクを見る。その視線を受けて、ネコアルクはデフォルメの両腕を組み、首をひねり、目を閉じてから口を開く。
「あと3レベね!」
「3レベ上げたらビーム打てるお前に驚きだよ」
ネコアルクの理不尽さは何時も通りの事なのでシャヘルの頭の上に戻し、いい加減あの門番を突破しよう。馬鹿正直に金を出す必要はない。シャヘルが大太刀を構えた瞬間、ウシ型のエネミーが此方の敵意を感知し、前足で床を引っ掻きながら頭を揺らす。金色の角を此方へと向けながら、本当に襲い掛かってくるのか、それを質問する様に構えてくる。
「シャヘル」
「おうさ」
魔力をシャヘルと送り込み、シャヘルが一気に踏み込む。動きと同時に反応したエネミーが体を低くし、四足獣の動きでシャヘルを捉えに行く。だが込められた魔力を受け取ったシャヘルは一気にスキルを発動させる。魔力放出と同時に時を切断しながら進み、一撃目の斬撃をエネミーへと叩き込む。
―――敵の背後には回復用の泉の姿が確認できる。だとすればここで魔力リソースを温存する必要はほとんどない。
「本邦初公開ッ!」
時の切断からの斬撃を叩き込み、相手がひるんだ一瞬にシャヘルは相手を蹴るような素早い動きで隙を相手の中に生み出し―――大太刀を一回転させ、その姿を西洋片手剣へと変化させる。その刀神は大太刀と比べればはるかに短く、頼りなく見えるが、禍々しい黒色と、それを縛る様に張られた符は全く変わらない。刃の柄を右手で振り上げると、刀身は完全に光に包まれ、両断する様にシャヘルはそれを振り下ろす。
「猛々しき剣閃(アッタル)!」
一直線に割断する様に放たれた剣はエネミーの頭に深い傷を生み出す。だがそれは致死へと至るほどではない。その後すぐにカウンター跳んでくるのは目に見えている。素早くシャヘルに防御の指示を送る。一瞬で大太刀の姿を取り戻した刃で角による一撃を抑えた瞬間、再び魔力をシャヘルと送る。
再び背後へと時を切断しながらシャヘルは出現し、
「断頭台へとようこそ」
片手で刃を振りおろし、首を刎ねてエネミーを絶命させた。疑うことない一撃必殺、エネミーは一瞬動きを止めてからポリゴンへと姿を分解させられ、砕け散る。
残ったのは経験値とサクラメントだけだった。
「いえーい」
刃を肩に担ぎながら片手を上げて近づいてきたシャヘルと手を叩きあって戦闘の勝利をたたえ合う。その光景を頭にしがみ付いていたネコアルクが呆れたような声を漏らす。
「何よそのコンビネーション。息があってるってレベルじゃないじゃない。まるで相手の動きを知っているかのように動くし。これじゃあ相手が多少格上だとか、少し強い能力を持っているとか関係なく完勝できちゃうじゃない」
自分にできる事の最善がこれなので酷いとか言われると心外である。
「なー」
「なー」
「えぇい、この逆境最強系主従は!」
そこで怒こられる理由が良く解らない。
『勝利を疑っているわけではありませんが、まさか本当に勝ってしまうとは思いもしませんでした。というか白野、軽く僕のお金を持ち逃げしていませんか? というか使い逃げ』
そして明日がないのでトイチシステムからも私は解放されているのだよレオナルド君。
『ガウェイン、ガラティーンの使用許可を出しますので今すぐ負債の回収に』
「やべぇ、迷宮の奥に逃げろぉぉ―――!!」
迷宮へと近づいてくる神話級の英霊のプレッシャーを感じながら、笑い声と悲鳴を漏らしつつ、サクラ迷宮を進んで行く。―――おそらく、また凛と会う事になる予感を抱きながら。
今週は全体的に時間が足りなくて更新時間が非常に遅くなって申し訳ありません。字数も普段と比べて若干少なっているような、そんな感じです。あとあんけぇいとは継続中です。ドシドシどうぞ。
あんけぇいと
ちなみにセイヴァーのコンセプトはキャスター+セイバーで、モンスターのコンセプトがバーサーカー+キャスターという感じです。まあ、どちらも既にステータスは簡易的に組み上がっていますのでー。
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| 断頭の剣鬼 | 23:54 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑