陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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現実 ―――ハームフル・リアリティ

推奨BGM:Unus Mundus


「待って!」

 迷う必要はなかった。湧きあがる怒りと共に事実を淡々と口にした人物の襟をつかみ、そのままとびかかる様にテーブルの向こう側へと押し倒す。テーブルを乗り越え、菊岡誠二郎を床へと叩きつけ、マウントポジションを取る。何をしているのか、等と考える必要はない。

 これは必要な儀式だ。

 だから、ラインハルトも止めはしない。

「怒りは短い狂気。カールならそう言うであろうが、その怒りは”正しい”ものだ。存分に怒りを吐き出すと良いだろう」

 この男はたぶん、この世で誰よりも人間という生き物に精通しているのかもしれない。いや、カール・クラフトの方が確実に上だ。だが、そういう問題ではなく、この男は賢すぎる。理解してしまっている。だからこうやってこの横暴を許してしまう。見ていながらも見過ごしてしまう。


 だから拳を固め、菊岡の顔を見る。申し訳なさそうな表情を浮かべ、薄く笑っている。その両手は少しだけ持ち上げられ、

「えーと、考え直さない?」

 答えとして菊岡の顔面に拳を叩き込む。少々乙女らしからぬ声が出たと思う。とてもだがキリトに聞かせることはできない。だけど、まあ、それでいい。怒りは短い狂気とはなるほど、確かに上手い言葉だと思う。この怒りで周りは見えず、聞こえず、感じない。だとすればそれは誰とも理解し合えない狂気でしかない。一時的な狂気。

 怒りという狂気に身を任せ、菊岡のメガネを砕きながら何発も拳を顔面に叩き込んで行く。拳が菊岡の顔面に叩き込まれるのと同時にメガネの、レンズの破片が砕け、それが拳に突き刺さる。だがその痛みも知った事ではない。痛みを忘れて菊岡の顔面を殴る。手も顔も赤く染まり、それなりに綺麗な服を着てきたつもりだが、それも血で汚れ始める。メガネのフレームはもう使える様な形をしていない。自分でも驚くほどの力が出ているが、知った事ではない。

 あぁ、そうだ。

 こいつだけは絶対に許してはいけない。

 こいつらは絶対に許しておけない。

 いや、違う。それではなまぬるすぎる。自分の子の感情を語るためにはそんな表現では軽すぎる。許す許さないというレベルではない。四千人の死を許容した日本政府、その役人、その代弁者とも言える存在が目の前にいる。この反応、感情、それを言葉として表現するのであれば―――そう、生かしておけない。それが正しい。

 だからもちろん。初めから繰り出す拳は全て菊岡を殺すつもりで放っている拳だ。

 死ね、死んでしまえ。あの城で死んでいったプレイヤーの様に、生きて帰る事が出来なかったプレイヤーたちの様に、

「死んで……!」

 殺意で心を覆って拳を振り下ろそうとして―――それが止められる。

「流石にそれだけ殴れば十分であろう」

 ラインハルトが振り上げた拳を握り、動きを止めてくる。気づけば真っ赤になって荒く息を吐いている。その惨状を前に神代凜子は顔を蒼くして見ていた。ラインハルトは涼しい顔で、菊岡の心配を一切することなくただ拳を片手で止めていた。そこで初めて痛みを感じ始める。これがALOでの話であればこの程度で体が傷つく事もなかったし、一撃目で菊岡を殺せていた。煩わしい。アレだけ強力な肉体があれば―――。

「―――たぶん、今君が思っている事を軍の高官達は考えてたんだよ」

 そう言って口を開く菊岡は―――無傷だった。二、三発ではなく十数発全力で菊岡の顔面に叩き込んだはずだ。なのにッ菊岡の顔は傷がない。ただ割れたメガネが乗せられているだけで、そのメガネの破片さえ突き刺さるようなことはなかった。

「話は少し戻る事になるけど、国は軍事的な優位が必要だったんだよ。カール・クラフトが与えた”餌”の中には人を超人にする方法まであった。それを君たちは見ているはずだ」

 立ち上がりながら、呆然と無傷の菊岡を眺め、菊岡の言っている事を理解する。それは黒円卓の者達の事に他ならない。あとはサイアス、そしてキリト。彼らの様な超人的存在を生み出す、そんな方法はカール・クラフトは与えた。

「兵士に使用すれば銃弾なんてものともしない軍隊の出来上がり、ってね。まあ、これにはこれで色々と制限があったんだけど……」

 菊岡は立ち上がりながら歪んでメガネを外し、此方へと視線を受けてくる。

「―――こんな風にちっとやそっとじゃ傷つかない人間になる。ここに護衛がいないのも、ラインハルトが止めないのもこの程度じゃ傷つかないという確信からくるものだよ。個々の職員はキリト君が来るまでは大体自分の体かフラクトライトで実験しているからね。先へ進めるかどうかは別として、結構な人数が魔人錬成を受けているんじゃないかな? まあ、ほんと活動以下ってのが現状なんだけどそれも多分仕組まれているんだろうなぁ……」

 ちょっと待って、と凜子が菊岡の言葉を止める。

「大体話は分かったわ。カール・クラフトという狂人が色々と裏で操ったり操作したり自分を実体実験にかけさせたりと色々と頭がおかしい連中だという事は把握したわ。そして頭がおかしいから成功してしまったと」

 凜子の言葉が色い色と酷い、彼女は間違った事を何一つとして言っていない。と、皮膚が破け、砕けたレンズの刺さった手を凜子に取られる。立ち上がった時にラインハルトは既に腕を解放している。

「女の子なんだから少しは自重しなさい、全く……と、それで」

 手から破片を抜き、手に包帯代わりのハンカチを巻いてもらいながら、凜子は言葉を続ける。

「で? そこにキリト君とマサキ君の二人はどうやって入ってくるのかしら? 貴方達の説明では彼らの役割りは一つも出てきてないわよ」

 そう言えばそうだ。話がキチガイすぎて色々とけむに巻かれていたが、そこは大事な事だ。失踪しているのは二人だ。個人的にはキリトの方が存在としては300%重要だが、流石にそれを口にするほど馬鹿な女になったつもりはない。催促するためにも菊岡とラインハルトを睨む。

「まあ、まあ。キリト君が話に絡み始めるのはSAOでの事件からの話なんだ。まあ、それ以上にとって僕らに重要だったのは”キャリアー”の存在だったんだけどね」

 キャリアーというと、

「もちろん最上明広君の事だ。SAOの事件が発生し、多くの人間が囚われた。カール・クラフトはそこが多くの人間の魂と感情の渦巻く混沌の坩堝だと表現したけど、それは実に正しかった。STLを使って人の魂を反映した世界を作ったのはいい、だけどそれによって完全な世界をつくる事は出来なかったんだ。端的に行ってしまえばデータが足りない。バリエーションが少ない。職員のデータだけでは限界があるから多くの人間の感情や魂の揺れを観測し、記録する必要があった。だから色んな意味でSAOは実験場として優秀だったんだ。マルグリット・ブルイユを育てる為に感情や自立を与える場所と、そして多くの人間のデータを採取するための場所として」

 再び殴りかかろうとするが、今度は凜子が優しくだが、腕をつかんでいる。よく見れば逆側の手は強く握り過ぎて爪が皮膚に食い込んでいる。

「さて、カール・クラフトは元々決めていたのか、もしくは天才的速度で見つけたのか、ここで明広君とキリト君を見つけた。あぁ、ちなみに彼をサイアスと呼ばないで明広と呼ぶのは同じ職場のどうりょだからなんだけどね? え、興味ない? 仕方ないなぁ……えーと、まあ、第一層でMPK……つまりモンスターを利用したプレイヤー殺人行動にあの二人は出くわしちゃってね、というかターゲットになっちゃって、その時見せた”渇望する力”というのが大変気に入られちゃったんだ」

 そこからは常に監視していた、と菊岡は言う。そして、

「彼女を育てるのにふさわしい人物かどうか、それを見極めるためにも、護衛の為にも、SAO内での活動を円滑に進めるためにも実際にダイブして活動する人員が必要だった。デスゲームが開始した後だけど僕たちは迷うことなく人員を送り込むことにしたんだ」

「それが我ら黒円卓、という事だ」

 ラインハルトが肩を揺らしながら菊岡の言葉を引き継ぐ。

「さて、我々黒円卓とは実験の”成功例”というい事になっている。カールの魔人錬成に対してた快適性を見せ、そしてそれを次のステップへと持って行く事が出来た成功者たち―――」

 再び菊岡がそこから拾う。

「―――まあ、それだけじゃないってのは誰もが知ってる事なんだけどね? もう公然の秘密って言うやつだよ。触らぬ神に祟りなし、クラフトが怪しすぎるのは解ってる事だけど、高官を傀儡にしちゃってるし誰も藪を突きたくないからねー。給料のいい職場だし―――まあ、ここら辺から手が付けられなくなって来たりするんだけどね」

 菊岡は投げやりに言っている。

「まあ、そんなわけで黒円卓の皆様方には頑張ってもらったんだよ、明広君かキリト君、どちらが本当に相応しいかを―――」

「―――まあ、カールは最初からシャヘルを選ぶことを決めていたがな」

「……ちょっと待って、それは一体どういうことだい?」

 菊岡の知らない事実だったのか、菊岡は眉を歪ませながら視線をラインハルトへと向ける。ラインハルト本人は自分に集まる視線に何も感じないのか、足を組み、椅子に座っている。小さな動き、しぐさ、その一つ一つが全て絵になるような美男子だ。時を忘れて眺めたくなる魔性がこの男にはあるような気もする。だが視線をしっかりと集めたラインハルトは言う。

「そも、卿らは我が友人であるカール・クラフトを甘く見ている」

 ラインハルトは言う。

「カールが提案するのであればそれは決まった事であり、事故が発生すればそれは事前にカールが決めていた事故だ。解らないかね? そもそも”選ぶ”や、”事故”、”偶然”という概念はカールに通じない。カールにとっては全ての出来事、全ての結果が必然でしかない。それが既知感というものであり、カールという男の悲しい所だ。故に見極めるという事は間違っている。初めからカールはシャヘル―――最上明広という青年にシャレムを、黄昏の女神マルグリット・ブルイユを預けることを決めていた」

 ここまで言っても解らないのか? とラインハルトは全員へと向けて言葉を放つ。シャヘルが最上明広という個人を指し、シャレムがマルグリットを指す名前であるという事は解る。だがそこから想像できることはあまりにも少ない。と、ラインハルトはそこに言葉を付け加える。

「ふむ、ならばこれでどうだろうか―――マルグリットブルイユは二十数年前には既に完成を見ていた」

 その言葉を受けて驚愕の表情を浮かべたのは菊岡だが、それに対して勘づいたのは凜子だった。菊岡が頭を押さえるのに比べ、凜子は指を顎に当て、ゆっくりと口を開く。

「……ウガリット神話におけるシャヘルとシャレムは明けの明星と宵の明星、つまり曙と黄昏を象徴する存在だわ。だが一番特徴的なのは二人は”同時”に生み出された存在である事。神話じゃ珍しくはない兄妹設定だけど、これは、まさか―――」

 正直な話、凜子は自分程会話についていけてないだろうが、話の意味は理解しているだろう。だからこそ、ラインハルトはよく分かったな、と言わんばかりに笑みを浮かべている。

「卿の想像通りだ」

 凜子の話が本当であればシャヘルとシャレムは同人い生み出された。ならば―――その名を与えられた二人はどうであろうか。

「―――最上明広という青年は女神の番として生まれてくるように、カールが用意したフラクトライトを妊婦に埋め込んで生まれてきた」

 流石に頭が痛くなってきた。





 地獄の底。神さえ覗き見る事の出来ない場所。世界に見捨てられた場所。光の溢れる世界。

 その奥深くで、階段に座る男がいる。

 男の恰好は西洋風の服装だ。将校等来そうなファンタジー風の服装。それを着崩している。その男の軽薄そうな雰囲気に似合う恰好だ。

 オレンジ色の髪を風に揺らしながら階段に腰掛けている男は遠い、空の向こうを見ている。そのまま笑みを浮かべると、小さくつぶやく。

「―――あと、二年ってとこかねぇ。ウチの大将もけっこーギリギリだからそれまで持つかねぇ。それにしてもああちはどうだ? ネタバラしって所か? どっちにしろ時間との勝負だな、こりゃ」

 誰に言うでもなく自分自身にそう語りかけてから、男は立ち上がる。

「ま、何に白手段は択ばないって話だよな。あぁ、解ってるさ、俺がテメーの事を一番解ってるさ」

 一歩踏み出すのと同時に男の姿が溶けて消えはじめる」

「おぉ、おぉ、任せな、最後の最後で勝つさ、俺らはよ」

 姿の消える男の背後には、階段の頂上には玉座があった。闇によっておおわれ、そこに座る主の顔は見えない。だがそこに座る主は言葉を発することもなく、動くこともなく、ただ虚空を見つめ続ける。

「―――そんじゃ、頑張りますか」

 次の一歩で男の姿は消え、そこに残されたのは思いだけだった。




 思いのほかここで出す情報の量が多くて全体的に見れば話が進んでいない。あと1回か2回でこの章は完了、キリトとユージオ編ですかねぇ……。
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| 断頭の剣鬼 | 13:43 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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