陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~不良騎士道~ 第16話 見習い騎士始まる

 灰色のセミロングの青年、マーシュ・ロディネは少ない手荷物と共に聖王教会、大聖堂の横に置かれている面談室の椅子に座っている。簡素な木の椅子に座りながら見るテーブルの向こう側には水色の髪のシスターが座っている。彼女の前には幾つかのホロウィンドウが表示されており、そこにはマーシュに関する経歴や情報が載っており、シスターはそれを確認している。マーシュが静かに返答を待つ沈黙の中、偶にシスターが漏らす声以外には完全に静かな空間がドアのノックと共に破られる。


「失礼、シスターエルザいますか?」

 そう言って中に入ってきたのは神父服の男だった。柔和な顔の男は部屋の中にいるシスターエルザとマーシュの姿を見、

「おや、入団希望の方ですか? それとも……」

「受け入れの最終確認です。それでそちらの用事は?」

「あぁ、すいません。別に大した事ではないので空いた時間にでも。それでは」

「えぇ、解りました」

 頭を下げて扉の向こう側へ神父が消え、再びシスターエルザはホロウィンドウに目を通す。マーシュは若干の緊張を感じながらそれを見ていると、ホロウィンドウに視線を戻してから十数秒後。シスターエルザは自分の前に浮かんでいたホロウィンドウを消して行き、両手をテーブルの上に乗せ、笑みを浮かべる。

「―――お待たせました、マーシュさん。聖王教会はマーシュ・ロディネを見習い騎士として受け入れます。これから同じ見習い騎士と寝食を共にし、立派な騎士と成るまでには多くの苦難が待ち構えているでしょう。それでも私達は貴方の存在を歓迎します。どうか挫けず、最後まで頑張って下さい」

 受け入れられたことに喜びを感じつつマーシュは頭を下げる。

「ありがとうございます!」

 マーシュ・ロディネ十五歳。ミッドチルダからはかなり離れたベルカ自治領で生まれ育った青年は今日、見習い騎士となるべく聖王教会へとやってきた。


                   ◆


「えーと……」

 シスターエルザから貰ったマップデータを片手に聖王教会の中を歩く。マーシュが住んでいた所にも聖王教会の建物はあった。しかしマーシュが知る中でこれほど大きな建物はなかった。足を踏み入れた関係者用の空間は広く、慣れていないマーシュからすれば迷路のようにさえ感じられた。シスターエルザからマップを貰わなければ直ぐに迷っていたと確信できていた。

 聖王教会西側に、寮、宿舎といった生活の為の施設などが集まった生活区が存在している。時間をかけて見習い騎士用の寮、自分の部屋の番号を何度も確かめてから扉の前に立つ。完全に近代化がなされている第一世界としては珍しい木の扉。自分で触れて開ける必要のあるそれに軽く二回ノックする。木製の扉の向こう側から若い男の声が応答する。

「はいはーい」

 キキ、と過ごした年月を語るような音と共に木製の扉が開き、その向こう側から茶髪の青年の姿が見える。私服姿のマーシュを上から下へ素早く眺め、

「えーと誰かをお探しかな? 俺っちの知り合いじゃないようだし」

 "っち"、と中々特徴的な表現の仕方だなぁ、とどこか見当外れなことを思いながら僅かに緊張しているマーシュが口を開く。

「え、えーと、今日からここでお世話になるマーシュ・ロディネです。よ、よろしくお願いします」

 緊張から僅かに噛んでしまったが、茶髪の青年は気にする事無く大きく笑みを浮かべ、木製の扉を完全に開け放つ。

「おぉ、お前が新入りか! 俺っちの名前はエリック・ウィーゼル、エリックと呼んでくれ。いやぁ、そっかそっか! 新入りか!」

 楽しそうに声を上げながらエリックがマーシュの存在を部屋の中へと招きいれる。恐る恐るといった様子で部屋の中へ導かれながらマーシュは中に入ると、そこには意外と整頓された部屋があった。部屋はそれなりの広さがあり、部屋の西側と東側を二段ベッドが一つずつ陣取っている。部屋の奥の窓は開け放たれ新鮮な空気を部屋に運んでおり、男子寮と聞いてイメージした割には綺麗になっている。

「この部屋には既に三人先客がいるけど気にすることはない。みぃーんなマーシュ……あ、マーシュって呼んでも問題ないよな? その代わりにエリックって呼んでいいから」

「え、あ、はい。どうぞ、よろしくエリック」

「よろしくマーシュ! っと、どこまで話したっけ。おぉ、そうだそうだ。先に三人がベッドとっちまってるから、マーシュが眠れるのは右の二段ベッドの二階部分だからな。まぁ、それを抜けば特に不都合とかはないぜ。あと基本的な規則とかを抜いて一部ローカルルールとかあるけど、そりゃあ後で言うとして」

 エリックが連続して動かしてた口を止め、少し困った顔をして頬を掻く。

「あー、悪い。ちょっとテンション上がると口数増えちまうんだわ」

 マーシュが自分がおそらく間抜けな顔をしてたに違いないと、表情を戻しながら頭を横に振る。

「あ、いや、……部屋を見てただけど少しぼぉっとしてただけなんだ」

 エリックが自分に近しい年齢だと当たりをつけ、マーシュが自分の口調を他人に対する物からもう少し砕けたものへと変える。マーシュの言葉にそうかそうかと、嬉しそうに笑みを浮かべるエリックの様子をここでマーシュはやっとゆっくり見る。茶髪のショートヘアーに快活な青年をイメージさせる笑顔、服装はシンプルな服装でジーンズにTシャツとなっている。憶測だがある程度の服装の自由は認められているのだろう。その姿は完全に休息用の私服だった。

「それじゃ、ちょっと荷物を降ろすか」

「そうだな、ありゃ? そんな少ない荷物で大丈夫なのか?」

 エリックの視線の先、マーシュはそこそこの大きさのトランクケースと、リュックサックしか持ってきていない。指摘されたその事にマーシュは軽く苦笑する。

「俺、ジャファヤの方の出身なんだ」

「うわ、何て田舎」

「あはは、そんな訳であまり重い荷物を長く持ちたくないからね。明日にはこっちに届くようになってるはずだよ」

「用意がいいなあ、俺っちの時なんかそりゃあもう大変だったぜ」

「そうなの?」

「おぉ、そりゃあもう!」

 大げさに話を進めるエリックの言葉は明らかにマーシュを楽しませようとする、歓迎の意思が見えた。若干やりすぎとも思うが、それでも純粋に自分の存在を迎え入れてくれるエリックの存在を心強く思いつつ、マーシュはここでの生活が悪くない物になりそうだと思った。


                   ◆


「―――そうか、そうか、そんな理由で騎士を目指していたのか。う、うぉーん! マーシュ! お前はなんていいやつなんだ……!」

 マーシュが語った、聖王教会へと騎士になりに来た理由を知ってエリックはわざとらしく涙を流していた。どうやらこの男のそういう部分はやらなくてはならないような責任感があるらしく、これからの生活がやかましそうだと直感していた。

 マーシュは第一世界の中でも田舎のベルカ自治領からやってきている。しかしマーシュの家はそう裕福ではない。下に弟や妹がおり、長男としては早い自立が期待されている。事実、管理局は魔力さえあれば直ぐに入局できる。しかしマーシュの魔力保有量はA-で、多いとも少ないとも言えない実に微妙なラインだった。

 管理局の対応も微妙だった。入局を許可されたが、予想していた待遇よりは低く、まだ家に負担をかけることが目に見えていた。

 しかしマーシュも家への負担をどうにかして減らしたかった。年中バカップルの親は家の経済状況を省みず子供を作るおかげで結構厳しい生活となっている。そして、そこでマーシュの考えたことは聖王教会の、ベルカの騎士となることであった。見習い期間には給料をもらえることはないが、しっかりと言われた事さえ守れれば衣食住だけは保障してくれる。

 それがマーシュの目に留まった。

 半年で何とか体を鍛え、頭の中に知識を詰め込み、何とかギリギリ適正試験に合格する。そうやってマーシュは聖王教会の門を叩き、やってきたのだ。

 エリックの大げさなリアクションを聞きながら困った様子でいると部屋の扉が開く。

「新入りが来たのか」

「ん? 新入りって……あぁ、今日一人入ってくるんだったな」

 そう言って開いた扉を潜って現れるのは二つの姿。両方とも着ている服は運動用のジャージになっており、聖王教会のエンブレムが刻まれている青色のそれは男子用の支給品だろう。片方はセミロングオールバックの銀髪の鋭い目つきの青年で、もう片方が糸目で緑髪のセミロングの青年だ。どちらも汗を流してきたばかりなのかジャージの前部を大きく開け、肩からはタオルをかけている。マーシュが立ち上がり挨拶をする。

「初めまして、今日からこの部屋でお世話になるマーシュ・ロディネです」

「あぁ、お前がそうか。ルシオ・エンハルトだ。ルシオで十分だ」

 そう言って手を差し出す銀髪の青年の背は高かった。見た目からしてマーシュよりも年齢はありそうな青年の手を握ると、それはマメやタコが潰れて硬くなった"戦士"の手だった。あまり話すようなタイプには見えない青年だ。手を放すと今度が緑髪の青年が前に出る。

「タカヤ・ヒメノって言う、出来たらタカヤって呼んでくれると個人的には嬉しいかな」

 こちらは感情表現の少なそうなルシオとは違い、もっとエリックよりの人間だが握手する掌の硬さはルシオのそれと遜色ない。マーシュはまだ柔らかい自分の手を少しだけ恥ずかしく思いながらも、よろしくと言う。部屋の中へと戻ってきたルシオとタカヤはそのまま部屋の中に入ると自分の荷物の下へ向かう前に、エリックに蹴りを入れる。

「おい、このスカタン。何時まで泣き真似してるんだ」

「泣き真似ゆーな! 俺っちは純粋にマーシュの境遇に同情してだなぁ」

「同情するのは勝手だがそれが鬱陶しい事ぐらい覚えろ」

「ルシオさんは新人に対してもツンデレなのね。マーシュ、フラグが立ったぞ!」

「五月蝿ぇ。お前の声がウザイだけだ。黙ってろ」

 言いたいことを言ったルシオはそのまま自分のベッドへ向かい、タオルを置いて服を着替え始める。
そんな様子を眺めているマーシュの肩に手が置かれる。

「まぁ、ルシオは口数は少ないけど悪いやつじゃないから、怖い顔してるからって怖がらないであげてね?」

「聞こえてるぞ阿呆」

 上半身裸、横目でエリックを睨みつけるルシオの姿に軽く耐え切れず、マーシュが軽い笑いを漏らす。その姿に釣られたのかエリックが、笑いを零し、タカヤがそれに続く。ルシオは呆れた視線を向けてくるが、それを気にせずマーシュは少しだけ、笑う。最初家を出て聖王教会に行く事は怖かったし不安でいっぱいだった。だがこの状況を見る限りその不安は杞憂で終わりそうだった。ここで、ここからこの三人と共に数年、正式な騎士となるまで共に過ごす事となる。その時まで自分は果たして残っていられるのだろうか、そんな不安がよぎった瞬間。

「―――よっこらしょ。楽しそうにしてるじゃねぇか」

 開いた窓からスーツ姿の男が進入してきた。


                   ◆


「お兄さん新入りだって聞いてはりきっちゃったぞー!」

 窓から侵入した赤毛の男は楽しそうな声で部屋に入った。まず最初にルシオが硬直し、タカヤが苦笑いを浮かべる。そしてエリックが興奮しだしたように両手に拳を作る。

「兄貴!兄貴! 一体何をはりきったんですか!?」

 やけに興奮した様子のエリックが赤毛の男に問いかける。何か諦めるような表情のルシオにこれは何か嫌な予感がする。マーシュがそう予感した次の瞬間、赤毛の男は懐からとある物を取り出す。

 雑誌だ。

「―――今月発売のグラビア雑誌≪自主規制≫……!」

「流石兄貴! 平然とヤバイもんを持ち込んでくる! 見せ付ける! 渡そうとする! 相変わらず尊敬したくなる頭のおかしさだ!」

「おい、そこの二人ちょっと待て」

「少し落ち着こうか……」

 流石にヤバすぎたのかルシオとタカヤがストップに入る。未だに状況が良くつかめないマーシュは少し離れた、安全な位置を確保し、遠巻きにその光景を眺める。ルシオが上半身裸のまま、片手を頭に当てながら近づく。

「えーと、ウィル―――」

「さんで十分だ」

「ウィルさん……その手の中のものは?」

「何って……」

 ウィルと呼ばれた男はサングラスの向こう側の視線をマーシュへと向けてくる。 ビクリ、とウィルの視界の中で体を強張らせるマーシュ。

「入寮祝い」

「タイトルは」

「≪自主規制≫」

「少し落ち着きましょうか。うん」

 明らかに落ち着く必要があったのはタカヤの方だった。ルシオに関しては頭を痛そうに抱えている。
段々とだがこの部屋の力関係が見えてきた。基本的にルシオがパワーバランス的にはトップらしいが、この男が入ってきた時点で大きくエリック側に―――

「ん?」

「どうした新人クン。なに、人生の先輩からの施しってヤツだ。気にすることはない。メイドか、ナースか、婦警か? お前のタイプを言うといいぞ。ちなみに女騎士やシスターってのも結構背徳的で中々良いと俺は思うんだが……」

 なんだか色々とヤバイ道へと引き込まれそうな気がしたマーシュは何かこれ以上喋られる前に声を出す。

「あ、貴方は一体誰ですか!?」

「俺か? そうだな……」

 ふふふ、とアニメの特撮モノでやりそうなヒーローのポーズを取りながらウィルが宣言する。

「俺はこの聖王教会を守る妖精さんだッ!」

 グラビア雑誌を持ちながらポーズを決める男の姿はどこからどう見ても妖精には見えない。

 むしろマフィアって言われた方が納得できる姿をしている。

 手の中の雑誌で全て台無しだが。

 ウィルがハッ、とした表情をとるとグラビア雑誌をエリックに押し付けて窓の淵に足を掛ける。
片手を上げて別れの挨拶をしながら、

「そんじゃ俺そろそろ追っ手が近づいてきたからガチで逃げるわ。マーシュ・ロディネ君、ここで良い青春を送るといいぞ」

「あ、は、……はい」

 返事を聞き届けたウィルはそれでは、と元気良く窓の外へ笑いながら飛び出して行く。一体何がしたかったのか、そしてその正体が解らないが、終始押されっぱなしだったマーシュは放心しているとその肩に優しく手が乗せられる。そちらの方に顔を向ければタカヤが頭を横に振りながら溜息を吐く。

「まぁ、今の人の正体については明日になれば解るよ」

「明日?」

「あぁ。明日。それよりも施設は確認しておいた? 風呂場や食堂はわからないと辛いよ」

「あ」

 そういえば、とマーシュが声を漏らす。自分は聖王教会に到着したばかりでまだまだ施設の把握をしていないと。

「ほら、エリックは雑誌に夢中だし、ルシオを使うのも悪いし、まだ動ける僕が色々と紹介して回るよ」

「悪い」

 反射的にマーシュの口からこぼれた言葉に対してタカヤは頭を横に振り、

「これから長い付き合いになるんだ、一々気にする必要はないよ……それに明日は死ぬほど大変になるだろうし」

「え?」

「いや、なんでもないよ。それじゃあ行こうか?」

 タカヤの呟いた言葉に若干不安になりつつも、マーシュの心はこれからの生活に対して期待を馳せていた。

 地獄は翌日から始まる事を知らずに。
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| 不良騎士道 | 12:47 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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