陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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EXTRA-26

気合の入るBGM聞きながらドーゾ。


 ―――落ちる。ひたすら落ちてゆく。

 決戦場への扉は開かれ、その中へと踏み出せば落ちて行くしかない。

 ここは蠱毒の聖杯の中。殺し、潰し、消し合ってしか生き延びれない地獄の釜。その底を目指してひたすら誰かを傷つけ、進む。殺す事でしか前に進めない修羅道。そして今、その場へと向かってゆくエレベーターの中で、シールドによって自分達と彼女たちは分けられている。

 シールドの向こう側には手を合わせて鏡の様に互いを見つめる少女達の姿が見える。だがその正体は既に看破している。彼女の正体はありすでありアリス。地上で死に、死を理解できずにこの月の聖杯戦争へとやってきてしまった焦女で―――彼女の鏡写しの様な存在、黒いアリスはサーヴァントのナーサリーライムだ。子供の夢の守護者。ありすのためだけの友達であり、守り手であり、従者なのだ。彼女たちの姿は歪だ。そしてそれをキャスターであるナーサリーライムは許容している。それでいいのだと、その姿に納得し、受け入れてる。いや、真実を言えば―――。


「今日は何をして遊ぶの?」

 少女達が楽しそうに向かい合って話し合っている。

「かくれんぼ? オニごっこ? おままごと?」

 欲を言えばなるべくソフトな遊びがいい。そんな希望もあって、知らない内に口からおままごと、と声を零していた。あまりに平和な光景に少しだけ、脳をやられてしまったのかもしれない。その答えに少女は笑みを浮かべた。

「私もおままごとがいいな。パパトママがいると楽しいもの」

 白と黒の少女は許されたスペースをグルグルと回る。

「じゃああたしがおとうさんであたしがおかあさんね」

「うん。あたしがおかあさんであたしがおとうさんね」

 グルグルと同じ場所を回る様に歩き続ける少女達。その声は一緒だ。だからこそどっちがどっちだか解る気がしない。

 ……本当か?

 いや、良く耳を澄ませば解る。二人の間にある声の質は同じ様で違う。片方は本気でこの状況を楽しんでいる。もう片方も楽しんでいるが、同時に恐れてもいる。この状況の真の意味を理解できていないのは一人だけだ。それ以外は全ての存在が、この状況と、その意味を正しく理解していのだ。

「お姉ちゃんはどうする?」

 だからありすの言葉にアリスは答える。

「―――悪者かな」

「わるもの?」

 悪者。悪。敵対者。相容れないもの。アリス/ナーサリーライムはその意味を正しく理解し、使っている。少しずつ、同じ言葉を使って、ありすに敵意も殺意も悪意もない、悪意のない害意を此方へと向けてくる。

「うん。悪者。邪魔ものかも」

「あたしとあたしが幸せに暮らしているのをじゃまするの?」

「うん、きっとそう。割り込んで、邪魔して、全部めちゃくちゃにしちゃうの」

 あぁ、でも、それはきっと―――間違ってはいない。ここで死ぬつもりはない。負ける予定もない。だからその言葉は間違っていないのだ。

「邪魔ものは嫌―――」

 そうだろう。

「幸せがなくなっちゃうのはイヤ―――」

 そうだろうな。

「どうしよう……?」

 ありすではその判断を下せない。だから鏡の国の彼女が言うのだ。

「悪者は首をちょん切っておしまい!」

 それにありすは疑問を覚えるだろう。正しいかどうかを悩むだろう。だが最終的に飲み込む。飲み込まざるを得ない。なぜならアリスはありすなのだから。彼女たちは鏡写しだからだ。アリスの判断はありすの判断でもある。危ない、怖い、でもやる。ありすとアリスは鏡写しの存在だから、結局は同意でその問答は終わってしまう。

 その間に割って入ろうとすれば―――。

「邪魔しないでよ。あたしはあたしと話してるの」

「そうよ、アリスはありすと話してるの」

「せっかく同じだと思ったのに。もうさみしくなくなるとおもったのに! わたしの事をきらうならお姉ちゃんなんていらない!」

 この二人はこの状態で完結しているのだ。一部も他社が入り込む余地はない。もしあるとすればそれは戯れの、遊びの、物語へと客人を招いた時だ。彼女たちの庭は彼女たちだけのもので、

「終わっているのさ」

 セイバーはその光景を見ながらどこか悲しそうな表情で言った。

「どう足掻いても終焉を迎えている。それでも現世にしがみ付いているのは残念からではなく、理解ができないから、と言った所か。これもまた戦乱による無情故、致し方なしと諦めるのは簡単な話だ」

 セイバーはどうやらありすとキャスターの在り方に関してどうやら思う事があるらしく、何時もの軽口が出てこない。そして自分も、それを言及するつもりはない。ただ、セイバーは静かにそのまま言葉を継げる。

「白野、俺の価値観を押し付けるつもりはない。が、死者ってのは死んであるべきなんだ。彼らの魂は時代へと進むためにも終焉を迎え、転生の道を受け入れるべきだ。あぁ、言葉は悪いかもしれないが言わせてもらおう」

 セイバーの言葉は何時も以上の苛烈さと、見た事のない過激さを持っていた。

「死者が生きているなんて気持ちが悪い。蘇るべきでもないし、そう願うべきでもない。ダンの時は黙ってたが―――願っちゃいけないんだよ、死者の生を。死は死であるが故に愛おしい。愛すべきは終焉は人の為なんだ」

 そして、エレベーターは動きを停止する。ありすと私は絶対に相容れない。だから―――エレベーターから降りて、決戦場となる氷の城の中央に降り立つ。降りたところでエレベーターは消え、氷の城の中央、中庭に当たるであろう位置に立つ。開けた場所は血統をするにはふさわしい程の広さを持っている。

 それがセイバーに有利であるか。キャスターに有利であるか、それを論じる必要はない。

 敵意は見せた。

 覚悟は―――たぶん、ない。

 それでも、私は死にたくない。

 現実を見る事だけは諦めない。

「ハッ」

「うふふ」

 セイバーとキャスターが構え、にらみ合う。セイバーの体からは静かだが殺気と闘気が満ちており、キャスターからは今まで感じる事のなかった殺意を感じる。あぁ、どのサーヴァントも確実に殺す気なのだ。そしてありすからはそれを感じない。この期に及んでも、これが真の殺人の宴である事には気づかない。

 幼いからではない。

 現実を見ていないから。

「よぉ、ナーサリーライム。正直な話、お前の事は結構尊敬してるんだぜ。お前のやり方は真似できないし。ま、殺す事には変わりないんだがな。覚悟はできたか? お前の首は頂いていくぜ」

「こわーい。お兄ちゃんになったりお姉ちゃんになったり、ほんと忙しいくせに良く言うわね。大丈夫。あたしはあたしがいれば大丈夫。だから貴方達との遊びもこれでおしまい。首をちょん切ってさよならしましょあたし!」

 もういらない。それが彼女たちの言葉であり―――

「―――さあ、嘘みたいに殺してあげる。ページを閉じてさよならね!」

 初めて、キャスターと、そしてありすが”殺す”という言葉を使った。それはこの一戦を始めるには十分すぎる言葉だった。瞬間、セイバーは飛び出し、キャスターは言葉を乗せる。

「兎を追いかけて鏡の国へ!」

 瞬間、決戦場の床から氷柱が出現し、セイバーに襲い掛かる。予想通り、魔術による攻撃だ。それは既に予測されていた事だ。だがセイバーのマトリクスを見れば解る。このセイバーはセイバーとしては”そこそこ”優秀な部類で、対魔力Bを所持している。それ故に、大地から出現した氷柱はセイバーへと到達する前に、その大部分が対魔力によって削られ、威力をそぎ落とされる。セイバーへと到達する頃には半分ほどの勢いしか残っていない。

「セイバー!」

「はいよ!」

 セイバーは氷柱を足場に飛び上がりながら、無価値の炎を使用するための魔力を此方から吸い上げる。それを持って刃に炎を纏わせ、

「―――」

 一閃。対魔力によって弱体化した魔術を粉砕する。その氷柱が礫となってキャスターへと飛散すするが、それは皮膚に触れる前に溶けるように消える。

「豚になった方が幸せって子もいると思うの……!」

 それも魔術の詠唱だった。高速で詠唱のスキルを所持してなくとも、キャスターは必至の思い出詠唱し、そしてそれを力としてはなった。空中にいるセイバーは避ける事も出来ずにそれを正面から受ける。だが、キャスターとセイバーというサーヴァントの相性は最悪だ。それは最初から分かっていた事だ。

 対魔力を所持しているセイバーと魔術で戦うキャスター。

 この戦いで、キャスターが小細工以外で勝利する方法など存在しない。だからこの戦いも、最初から詰んでいた。

「……」

 セイバーは無言で魔術の風を割く。攻撃と共に颶風は無価値の炎に蝕まれ、腐滅する。その光景を目にしながらも、キャスターは再び風の魔術を数発と叩き込む。今までのとは違い、ありすから多くの魔力を汲み上げて放っているのが解る。対魔力によって軽減されるのなら最初から軽減される事を前提に行動すればいい。それがキャスターの発想だった。

 それは間違ってはいない。

「守ったら―――」

「解ってる」

 守ったら逆にそれを崩してくるような魔術であることぐらい、見抜いている。セイバーにはこの風の魔術に対し、防御でしのぐのではなく、攻撃によって割く事を選択させている。キャスターの猛攻によって押されているセイバー。そう見えているのかもしれない。だが、実際は違う。

「白野」

「……うん」

「追いかけて追いかけて迷い込んだ不思議の国!」

 大地を突き破り再び氷が襲い掛かる。だが得物の一閃でそれを破壊させつつ、覚悟を決めて―――宣言する。

「可能性の覇道者、取得宣言―――」

 一戦闘に一回だけ、セイバーが取得した事のあるスキルを取得するという便利なスキル。黄金律や、自身が取得した事のない精神系スキルは取得できない。だが、一度でもどこかの世界でセイバーが取得した事があるのであれば、セイバーはそれを一戦闘の間、取得し続ける事が出来る。少し、というよりもかなり卑怯な手段だ。そして、これはキャスターの現状に対してチェックメイトをかける。

 だから、この結果を受け入れる事を重い、宣言する。

「取得―――対魔力A」

 セイバーの対魔力Bがスキル取得によって上書きされ、一時的に対魔力Aへと変化する。ここではない、どこかでセイバーが魔を得意とする存在と相対するために取得したのだろうか。もしくはセイバーの言う”本体”が所持しているのだろうか。それを判断する術も、興味もない。ただこの宣言がキャスターの攻撃手段を全て無力化し、ありすの死を確定とする宣言であることは間違いない。

「あ―――」

 セイバーの体を氷柱と、そして風が同時に襲い掛かる。だがそれはセイバーの体に触れるのと同時に消え去る。ムーンセルは残酷なほどにサーヴァントのスキルや権能、宝具といった物を再現している。対魔力Aの内容は実に簡単で、ランクA以下の魔術を無効化するものだ。対魔力Bが三節以下の魔術の無効化、軽減に対して対魔力A慈悲がない。

 大魔術、固有結界、そのクラスに到達するものでなくてはセイバーの体に傷をつける事は出来なくなった。

 名無しの森は破壊されたばかりで使えない。

 キャスター・ナーサリーライムの魔力はE。

 事実、ありすは詰んでいた。

「……」

 セイバーは処刑刃に黒い炎を纏わせたまま、キャスターへと歩み寄る。対魔力A。その付与を目撃したキャスターは驚きに目を大きく見開き、そして己の結末を悟った。それでも、

「兎を追って鏡の国へ……!」

 キャスターは、ナーサーリーライムは子供の夢を守る存在だ。ありすを、文字通り消えるその瞬間まで彼女を守り続ける。そういう英霊で、そういう存在で、それが誇りなのだ。だから攻撃を止める事はない。自暴自棄でもなんでもなく、己の在り方を曲げぬために黒い、幼い姿のキャスターは決して魔術の詠唱と攻撃を止める事はない。

 だが、それを全て受け止め、傷一つつくこともなく、セイバーはキャスターへと歩み寄る。

「さながら死神の様ね」

「間違ってないさ。神を殺すためだけに色々と神話を食って、それになって、そして馬鹿な話にも敗北した死神だよ」

 セイバーは確かな歩みでキャスターへと向かって歩み―――到着する。最初に食らった数発の魔術を除いて、セイバーの体は無傷だ。そしてキャスターは連続で魔術を詠唱し、放ったことから肩で息をしている。もう悩む必要はない。

「セイバー」

 言葉を続けずとも、セイバーは此方の心を感じてくれる。

「アウフ―――」

 セイバーが処刑刃を振り上げ、必殺の一撃を振り下ろす。一撃。たったの一撃でセイバーは万物を総べる王さえ殺せる。それを成す奇跡を持っているのがセイバーだ。だから次の瞬間、セイバーは刃を振りおろし―――

 ―――勝利するはずだった。

「■■■■―――ォォ!!」

 それは決戦場を揺らす咆哮だった。怒りの咆哮だった。その言語は理解できない。ただそれには抑えきれぬ怒りが込められているのが理解できた。

「避けてセイバー!」

「ッ!」

 瞬時にセイバーが飛び退く。だがギリギリで敏捷が足りなかったのか、セイバーは飛び退くのと同時にその足を掴まれる。赤い巨腕がまるで人形を握るかのようにセイバーを振り回し、

「■■■■■!!!」

 跳んだ。凄まじい速度と跳躍力で跳び、そしてセイバーの体を氷の城の塔へと叩きつけた。凄まじい衝撃がアリーナ全体へと広がり、大地を揺るがす。その光景にいち早く反応できたのは自分だったが、次第にそれに他のものがついてくる。

「クソ、やってくれた、なぁ―――!!」

 セイバーが得物に纏った無価値の炎を爆発させる。瞬間に、赤い魔人はその衝撃を受けて一瞬だけ城の塔に叩きつけられているセイバーと赤き魔人の間に距離ができる。その刹那w見逃すはずがない。アレは既に一度戦って撃破して射る敵だ。だから見る。思い出す。導き出す。

「セイバァ―――!」

「腐、滅しろぉ……!」

 セイバーが武器を放棄し、両手で魔人の顔を掴む、瞬間、両手の中で発生した無価値の炎が爆破を腰、魔人を吹き飛ばす。その体が吹き飛んだ瞬間、セイバーは再び武器を掴み、時の加速に入る。切り刻まれた時の世界でいつも通り動けるのはセイバーだけ。幸運のステータスを持たない相手では必殺の処刑を避ける事は出来ない。

 はずなのに、

 それは首だけを全力守っていた。

 両腕で首をガードし、必殺の一撃を耐久力と筋力だけで耐えきった。魔人とセイバーの黄砂の一瞬で火花を散らしながら、セイバーが私の前まで着地してくる。着地同時に、即座に用意しておいたアイテムを使ってセイバーを回復する。

「やってくれたな、キャスター!」

 キャスターの前に轟音と共に着地したのはアリーナで倒したはずのジャバウォックだった。ジャバウォックが宝具かスキル扱いなのかはわからないが、確かにセイバーが一度は倒したはずだった。どんな宝具にしろ、破壊されたからには再生にしばし時間が必要であるはずなのに……!

「ジャバウォック……?」

 いや、これはキャスターにとっても予想外の事態だったに違いない。それはジャバウォックの様子を見れば解る。今のセイバーの一撃によってジャバウォックは頭を半分失っている。だがそれ以外にも体には所々欠けたパーツが存在している。このジャバウォックは初めて見た時ほどの凶悪で圧倒的な暴威を纏っていない。不完全な姿だ。キャスターは、ありすはこのジャバウォックは友と呼んだ。

 だったら―――!

「あぁ、ダチがピンチだったら駆けつけるもんだよなぁ……!」

 躊躇も油断も遠慮もしない。現実を見ない子供は現実を見せなくてはならない。それはその道を選んでしまった、選ぶしかなかったものの役目だ。あぁ、だがありすは幼い―――夢の中で永遠に眠るのもまた一つの結論なのかもしれない。

「セイバー!」

 コードキャストでセイバーの筋力を一時的に強化する。対魔力Aは付与されたままだ。キャスターからの攻撃はもう怖くない。故に一番の敵はジャバウォックだ。ジャバウォックさえ撃破できれば、それで渡したいの勝利なのだ。だから、

「私に首級をセイバー……!」

「任せろォ―――!」

 その光景にジャバウォック吠える。理性の無い瞳だが、それには明確な意志がある。それは確実にキャスターとありすを不退転の決意で守る意志だ。本来なら理性の欠片も見せないキャスターの道具でしかないが、不完全である今、僅かながら”我”を見せる事に成功している。

 それがキャスターを救うとは、皮肉な話だ。

 正面からセイバーとジャバウォックがぶつかる。だがそれも一瞬の話だ。刹那の交差からセイバーが純粋な筋力ではジャバウォックには絶対に勝てない事を悟る。故に戦闘方式を即座に切り替える。セイバーに素早く動き回る指示を飛ばす。

「……!」

「■■■!!」

 駆けるセイバーの姿をジャバウォックが追う。城の壁を垂直に走るセイバーを、ジャバウォックは跳躍で軽々と追いつき、拳を繰り出す。素早く威力の乗ったそれをセイバーは刃を交差して防御する。既に対魔力Aを宣言しているため、魔力放出等の瞬間戦闘力上昇系のスキルは取れない。セイバーに魔力を送り込む。

「ぐっ……!」

 セイバーが一撃と共に吹き飛ばされる。塔を貫通しながら吹き飛ばされたセイバーは空中で体勢を整え直し、注ぎ込まれた魔力を使う。

「愛しき聖婦よ、再び我を産み落とす産道となり生を与えよ―――」

 セイバーに魔術効果が付与されるのと同時に、塔の瓦礫を突き破る様にジャバウォックが出現する。それは最も身近にあった武器―――即ち崩れた塔を握ると、常識外の筋力でそれを振るった。

「……おい、マジかよ」

 バットに打たれたボールの様にセイバーが吹き飛ぶ。氷の大地に何度かバウンドしつつ激しく着地し、セイバーが血を吐く。再びセイバーは私の前に、ジャバウォックが少女達の守護者として立つような位置取りが完成する。

「行ける?」

「モチ。その判断のおかげで何とか立てる」

 端末を通して先ほどのジャバウォックの与えたダメージを確認すれば、セイバーの現在のHP最大量を二倍ほど超過する程のダメージだった。セイバーにあの時、リザレクションの付与をとっさの判断で行わせた。本能的に防御しても無駄だと悟った故の行動だったが、それは吉と出たらしい。セイバーの体力が一割程度しか残っていない。

 アイテムを惜しまず使い、セイバーのHPを回復する。

 ジャバウォックは少女達に背中を見せて、此方を睨む。言葉は発さないが、それでもその意志は確認できる。その光景にキャスターが声を漏らす。

「ジャバウォック―――」

 そして、キャスターは己を取り戻す。ありすの心を、夢を守り続けられるのは彼女だけだ、と。

「ジャバウォック!!」

 名を叫んだ。そしてそれにジャバウォックは吠える様に答える。決戦場を揺るがす声量にセイバーは微笑み、セイバーに送り込む魔力の量を増やす。魔力回復用のアイテムを使う事にもはや抵抗なんかない。

 この敵は今までの誰よりも強い。

 アーチャーとダンとはまた別の強さだが、強い……!

「我が聖婦よ……!」

 セイバーにリザレクション効果が付与される。だがこの効果は魔力の消耗がデカイ。そう何度も使えるものでもない。それでも、ジャバウォック相手には惜しむ事は出来ない。使える武器は全て投入する必要がある。だから更に魔力をセイバーに注ぎ込む。

「無価値の炎よ―――」

 セイバーの刃を覆う刃は更に勢いを増す。触れたら敵を腐滅させる呪われた炎も、ジャバウォックの圧倒的な力量差の前では通りが悪い。だから更に魔導を重ねる。

「浮かべ魔界の月よ! 吸い上げろ魂を! お前こそ闇夜の王だ! さあ、力を出せよチンピラ!」

 そして白い世界がわずかながら、赤く染まる。空に浮かび上がるのは吸精の月。それにさらされる存在の命を吸い上げ、自らの活力へと変換する赤き月。出力が足りないのか、未熟なのか、月が浮かぶだけで世界は夜へと変貌しない。だがあの月はキャスターとジャバウォックのHPをセイバーの魔力に反応し吸い上げ、セイバーのHPへと変換している。

「苦しいの、イヤァ!」

 ありすが叫び、その声がジャバウォックを狂わせ、そしてキャスターの心に焔を灯す。

 キャスターが素早い詠唱と共に魔術を放つ。それが対魔力Aによって掻き消える事は解っていても、キャスターはそれを放った。つまりそれはブラフ、目くらまし、本命へのつなぎでしかない。解りきった罠に乗るほど、

「私は未熟のままじゃない……!」

 セイバーは此方の指示通りの動きを取る。魔術が炸裂するのと同時に、全速力で前面へと踏み込む。最速、即ち時の切断を利用した絶対加速。それを利用してジャバウォックが前に出てくるよりも早く前に踏み出す。セイバーは今、誰よりも早い。故にどんなにジャバウォックのステータスが狂ったように設定されていようとも、それがセイバーに追いつけるはずがない。

 そして、セイバーはジャバウォックよりも早く前に出れて。

 ―――ジャバウォックは一歩も前に出ていなかったから。

「……ッォ!」

 ジャバウォックをバーサーカーと評価するのは正しい。圧倒的な力と共に理性を失った化け物。その極限を見せているのがジャバウォックだが―――今はその狂化が不完全故に大幅に力はそがれ、そして命令を聞くだけの理性はある。

 司令塔はキャスターだと、

「潰しちゃえジャバウォック!」

 ありすの声に反応する様に、両腕をスレッジハンマーの用にジャバウォックが振り下ろす。圧倒的速度で加速したまではいい。だが、これではセイバーは的でしかない。避ける事も防御も出来ない。ならば、

「もっと早く……!」

「刻め、罪姫・正義の柱……!」

 セイバーがさらに加速する。ジャバウォックの一撃がセイバーの体を絣、そのHPを根こそぎ削る。だがセイバは動きを止めず、処刑刃を振るいながらジャバウォックの横を抜ける。

「俺の名を知っている以上、処刑されるのは必然の結末だ」

 セイバーの刃がジャバウォックの両腕を根元から切り飛ばす。斬り飛ばされた腕が数メートル飛ばされたところで姿を消し、消滅する。これでジャバウォックの無力化に成功した―――!

「―――越えて越えて虹色草原」

 ありすとキャスターの間で強大な魔力が渦巻くそれが。大魔術の発動の証であるという事に間違いはない。ジャバウォック”が”カバーだったのだ。本命はキャスターの大魔術の詠唱、対魔力さえ貫通する強力な一撃の為の詠唱の時間だ。ジャバウォックへ攻撃を叩き込んで、セイバーは動きが取れない。丁度動きの後の硬直を狙われた感じとなる。

 持てる魔力をセイバーへと送りながら、自分の魂を燃やす様に叫ぶ、

「耐えてセイバー!」

 返事の前に、

「白黒マス目の王様ゲーム―――走って走って鏡の迷宮、みじめなウサギはサヨナラね!」

 キャスターが魔術を完成させた。瞬間魔術によって魔力が辺りに充満し、それが衝撃となってセイバーを全方向から襲い掛かる。できる事はそれに目を背ける事無く睨み続け、魔力を送り込み続ける事。

 駆け廻る魔力はジャバウォックの欠損を修復し、キャスターの傷を癒した。それは完全な逆転だった。ジャバウォックもキャスターも完全回復し、不利は完全になくなった。故に、ありすとアリスは叫ぶ。

「―――ようこそ! ありすのお茶会へ!」

 楽しそうなありすの笑顔。

 なんと眩しいだろうか。

 そして、

 なんと絶望的な事実だろうか。

「―――暴食の王(ベルゼバブ・アポトーシス)」

 全方向から魔力の衝撃を受け、間違いなく致命傷のはずのセイバーは生きていた。ダメージを魔力へと変換し、二回戦と全く同じ手段を使って一時的なブーストを得ている。溢れるだけの魔力を後は全力で注ぎ込むだけでいい。完全に復活したジャバウォックが反応する。だが遅い。遅すぎる。

 この瞬間、セイバーは時を―――

「消せ、罪姫・正義の柱」

 魔力任せの一撃は時間そのものを一時的に超越した。加速は一瞬の停滞を生み、時間のほころびを生み出す。だがその瞬間、セイバーは一瞬でジャバウォックの頭を刎ね飛ばす。あっさりすぎる一撃。必殺の一撃。処刑人の奇跡は誰にも抗えない。

 ジャバウォックは悲鳴を上げることもなく。歪んだ時の間で消え去った。

 そして、

「アウフ・ヴィーダーゼン。最後の最後で慢心したのが敗因だったな、ガーディアン」

「あっ―――」

 セイバーの刃はキャスターの心臓を突き刺していた。リザレクション効果も、戦闘続行スキルも所持していないキャスターでは、これ以上の戦闘は不可能だ。セイバーが刃を引き抜くと、そこから鮮血がほとぼしり、キャスターが後ろへ倒れ込む。

 その命を示すHPはゼロになっていた。

 その光景に振り替える事無く、セイバーは此方の前へと戻ってくる。

 セイバーは口の端から血を流し、ジャバウォックを斬った時に付着した返り血や、攻撃を受けて服装がボロボロになっている。だが生きている。生きて立っている。その姿を見て、ホっとして、思わずセイバーの手を取って抱きしめる。

「良かった……」

「自分が生き残った事じゃなくて俺が生き残った事に対してそう言える辺り、お前は俺のマスターに相応しい。さ、時間だ―――」

 セイバーがそう言うのと同時に、ムーンセルは処刑の時間に入る。勝者と敗者はオレンジのシールドによって分けられ、敗者の解体が始まる。既にHPがゼロになり、解体が始まっていたキャスターは気力だけで己を繋ぎ止め、ありすへと歩み寄る。ありすはぽかんとした表情を浮かべる。

「あれ……消えていくよ……?」

 ありすは呟き、そして気づく。

「あ、そうか……もう……終わりなんだね」

 解体が始まり、ありすの体も少しずつだが、消え始める。だがその表情に苦痛はなく、安らかな表情だった。それを、キャスターは―――アリスは悲痛な声を上げて見上げる。守りたかったものの崩壊が目の前にある。

「なんで……」

 だが、ありすは笑みで答える。

「あたしはずっと一人で、誰も見てくれなくて、居場所がなくて……さびしくて……ずっとずっと……」

 ありすの言葉に、アリスは涙で答える。

「やっと見つけたのに。あたしだけのあたしを。居場所を。幸せを。それだけで良かったのに。ずっとこのままで、ずっとずっと、それだけで良かったのに―――なんで終わっちゃうの? どうしてこんな小さな幸せも持ってられないの?」

 あぁ、とセイバーは小さくつぶやく。

「これも人生さ。涙は好きなだけ流せ。涙男流す事に恥じる必要はない。どんな時代、どんな場所であっても子供を殺すのは何時だって最低最悪の話さ」

 セイバーの言葉を受けて、自分が初めて泣いている事に気づく。涙を目から止める事無く流している。そしてセイバーが肯定してくれているおかげで、これは間違っていないんだと解る。

「もう、いいんだ」

 儚い笑みをありすは浮かべる。

「あたし、たぶんわかってたもの。だってもうあたしの体はあの病院にないもの。あたしはたぶん……もう死んでるもの。ううん、もっとずっとはじめから……あの病院にいたころから、ありすは何もなかった。一人だった。痛かった。誰もあたしを人間として扱ってくれなかった。それはワンダーランドへ来ても同じだった……だからね? わかってた……アリスも……居場所……きっとすぐになくなっちゃうって……」

 ありすは決して愚かではなかった。ただ、弱かった。自分の死という現実に直視するだけの勇気がなかった。だから理解する事を止めた。現実から逃げ続けた。マスターを殺したという結果から目を背け続けた。それは罪だ。罪だが―――誰がそれを責める事が出来ようか。元来人間とは弱い生き物なのだ。死という絶対の現実を、笑顔で直視できる人間なんて、多くないのだ。

 あのダン・ブラックモアの様に、死を結果として受け入れる勇者は、少ないのだ。

「―――お姉ちゃんは、ありすの事見てくれた?」

「うん、うん、見てたよ、ありすの事……!」

 崩れゆくありすの姿に頷き、涙を流しながら答えると、ありすは小さく、今までごめんなさい、と謝ってから笑みを浮かべる。

「お姉ちゃんは同じだけど、ありすとは違うんだね。ありがとう、今までありすの事を見ていてくれて」

 そして、

「ごめんね、あたし。本当はもう少し遊びたかったけど―――バイバイ」

 親友へと送るような眩い笑みをアリスへと向けて、リボンを残してありすは完全に消えた。その光景をアリスは眺めてから、呆然と呟く。

「アリスはありすが見ている夢」

 サーヴァント・キャスターの存在はマスターが消え去ったことにより、その崩壊が加速している。それはマスターによる供給が消えたわけではなく、キャスターを想像している主が消えたから、その存在は薄れてゆく。

「アリスはありすが見ている夢だから、夢が終わればアリスは消えてしまう。次の聖杯戦争が来てもありすの夢ではないアリスはまた別のアリス。ありすの夢見るアリスで私は十分幸せだった。―――何時もあたしは誰かの夢。本当のアリスは誰も知らない。あぁ、それでも私は幸せだった」

 アリスは涙をこぼした。それを流してもアリスは自身が本物に至る事はないと理解している。

 それをアリスは見つめながら―――消えた。

 残されたのは黒と白のリボンだけだった。

 ありすのつけていた白のリボン。

 アリスのつけていた黒のリボン。

 ムーンセルの気まぐれか、それだけは解体を免れ、シールドは消えた。出口のエレベーターが出現するが。それに構うことなくリボンを拾い上げる。

 そして、涙を流しても本物になれなかった少女の為に涙を流す。

「シンジ―――ダン―――ありす」

 自分と戦ってきたマスター達の死から目を背けることはないが、それでも、

「この運命は、残酷すぎるよ……!」

 そう言って涙を流し、悼む事しか自分には出来なかった。




 今回は短く8000文字ぐらいで仕上げるつもりが結局1万2千に。アーチャー戦と同じ長さになった件。解せぬ。

 あとジャバウォック△ってことで。この空気でステータスだすのは流石にアレなので、次回で邪神のステは出しますね。

 あと正樹のステ所望の奴は屋上でケツだして土下座な。

 最後に、アンケの結果両方救うという事で、6回戦の相手は酷いインフレする事になりました。型月のある作品の主人公がサーヴァントになるよ! やったね!
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| 断頭の剣鬼 | 16:35 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

キャーベイ中尉ー!

| 空 | 2013/05/02 18:29 | URL |

 or⊇
 取りあえず、参上口上述べる前に土下座を捧げてみる私。
 『~だせよチンピラ!』w 断頭本編といい、てんぞーさん作の物語で中尉の立ち位置がブレなさ過ぎてもう笑えるww
 まさかキャスター戦でここまで盛り上げてくると思わなかったのですが、原作本編以上にグッっときましたっ!

| tonton | 2013/05/02 21:34 | URL | ≫ EDIT

更新お疲れ様です。
型月主人公が鯖て、残りはアレしかないwww

ところで、宝具「王の軍勢」みたいなレギオン召喚の予定ありますー?

| 断章の接合者 | 2013/05/02 21:36 | URL |















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