陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

EXTRA-16

適当に決戦系BGM聞きながら読むと雰囲気出るかも。


「決戦の日にも改竄に来るとはな。準備が良いことに越した事はないが」

「そんじゃ頑張ってねぇーん」

 ひらひらと背後で手を振る蒼崎青子と、そして興味なさそうに電子タバコを口に咥える蒼崎橙子に対して頭を下げる。この二人がこんな所で魂の改竄なんて事をやってくれなかったらおそらく一回戦、慎二を相手に敗北していた。本当にこの姉妹がいてくれて助かった。何よりも、

 最後の最後でやった魂の改竄のおかげでセイバーがまた一つスキルを取り戻すとは思わなかった。また一つ絆を取り戻したとセイバーは言い、そしてそのスキルも端末で確認した。使いどころは難しいが、成功さえすれば強力な効果を発揮するはずだ。思わぬところで増える手札に笑みがこぼれ―――そして歩きながらも笑顔を凍らせる。

 あぁ、そうだ。

 手札を増やし、勝利するための手順や手段を増やす。

 それはつまり相手を追いつめるための凶器を増やし、殺すための準備を完了させることだ。

 私は既に命を奪う事を肯定している。してしまった。罪悪感を覚えてはいる。だが躊躇はしない。そのラインは慎二を知らずながら攻撃した時に超えてしまった。一度踏み外してしまえば後は滑り、転がり落ちるだけだ。難しい話じゃない。流れに身を任せるだけだ。

『それでいいのか?』

 姿を見せないセイバーの声に、自分の中で答える。

 いいわけがない。


 この殺意は自分のもので、本当に心の底から殺す、という覚悟あるのかどうかと言われれば―――ない。それでも生き残るためには、勝つしかない。そして誰かを殺した、という結果を決して理由をつけて目を逸らしたくない。それだけはしてはいけない。まだ何もわからない自分だが、それでも逃げてはいけない、それだけは解っている。

「良く来たマスターよ」

 目の前には言峰神父が立っている。姿に変わりはないし、表情も変わらない。ただ純粋に此方を観察しているという事だけが解る。

「私個人というAIからしてみれば君がここで死ぬ可能性が高いと踏んでいる。客観的に見て君と彼の間の戦力差は絶望的だ」

 淡々と感情を込めずに言峰神父は事実を告げる。そう、言峰神父は何も間違った事は言っていない。事実、自分とセイバーは全てにおいて”足りない”のだ。経験が、ステータスが、スキルが、情報が。全ての面においてアーチャー達と比べて劣っているのだ。だから勝率がない、等と言われて驚く事もショックになる事もない。正面から受け入れ、それを常識として認識する。

 が、

「しかし君は間桐慎二に勝利した。彼は戦士としては明らかに未熟であり、愚かであった。彼にとって聖杯戦争はゲームでしかなかった。されど、間違いなくここは彼にとって最高のフィールドだった。少なくともここをゲームとして認識している間、彼はアジアのチャンピオンであった。故に敗北する理由はなかった。間違いなく本気で”遊んで”いた。しかし―――そんな彼に君は勝利した」

 言峰神父は此方の所有しているトリガーを回収すると、それを扉に設置する。それを持って封は消え、扉は開かれる。

「我々は強いマスターが残る聖杯戦争を望んでいるのではない。最後に残るマスターを求めているのだ。故に、私個人としては君の今回の活躍に非常に期待している。さあ、行くがいい若きマスターよ。存分に殺し合いたまえ。決戦場の扉は今開かれた」

 言峰神父の言葉を背に受けながら、一歩一歩前へと踏み出し―――光に包まれる。





 狭いエレベーターの中、落下を続ける。

 中央がウォールで区切られているエレベーターは二陣に分かれている。

 即ち我々と敵で。

 セイバーとダンは背中をエレベーターに預け、黙っている。そして私もそんなセイバーの横に立つ。やはり不安だ。ここまで来ると恐怖が先立つ。だからこそ一番信頼し、信用し、そして安心できる存在の傍に居たい。そんな事して自分達三人の行動は一貫している。

「おいおい」

 アーチャーだけは違った。

「旦那はいいとしてお前それで本当に若者かよ」

 なにやらアーチャーに駄目だしされた。解せぬ。セイバーに救いの視線を向ける。

「思うままにやるといい。他人の心を知るのが己を知る為の一歩となるだろう」

 セイバーの言葉に従い、軽く頷きながら前に出る。

「いやさ、別にいいんだけど到着するまでこれじゃあ俺が暇なんだよ。うちの旦那は無駄がなさすぎてねぇ? 茶飲み話ができねぇのよ。どうよ、そちらのマスターさん。ちょっとうちの旦那に話しかけてみないかい」

 何故そんな事になる。

「何事も経験だ」

 セイバーは止めるどころかサムズアップを向けてくる。意外とこのアーチャーとセイバー、相性がいいのかもしれない。

 ともかく、何事もチャレンジ精神だ。恐る恐るエレベーターの逆側の端にいるダンへと視線を向け、口を開ける。

 ―――しゅ、趣味はなんですか?

 アーチャーとセイバーが興味津々に聞き耳を立てているのが解る。ふむ、とダンが声を漏らしながら顔を上げ、此方へと向けてくる。その動作一つ一つにビクビクしている自分がいる。何やらセイバーが小動物とか呟いているが、それはこの際スルーする。戦いが終わって、生き残ったら、存分にセイバーを殴る。

「―――戦場で、そんな事を聞いてくる敵は流石に初めてだな……」

「ですよねー」

 自分でもまさかこんな選択肢を選ぶとは思わなかった。しかし、ダンは律儀に質問に答えてくる。

「趣味か……わしはともかく妻が造園に凝っていたな。小さいが美しい庭園だった……これでよいかね」

 あ、ありがとうございます、と思わず頭を下げてしまう。

「お見合いかよ。俺でもこうなるとは思わなかったよ。あぁ、でもご苦労さん。つまみ程度には楽しめたわ。やっぱ期待するだけ無駄だったな」

 私のコミュ能力はそこまでひどかったのだろうか、と視線をセイバーへと向ける。セイバーは頭を横へ振る。決してコミュ能力は低いわけじゃないと、そう口にしてから、

「あの緑色のは少し頭がおかしいんだよ、そっとしておこうぜ」

「お前の言葉のダイレクトアタックが一番ヒデェよ」

「だって間違った事は言ってねぇし? というかお前ら主従逆転させてから来いよ。明らかに逆だろ。むしろそっちの方がバランスが取れてる」

「ハ! 本当にそうだったらどれだけ楽だったろうな! うちの旦那はちょいと潔癖すぎて英霊らしからぬ俺としちゃあ困りもんと来た! ホント、そうだったらどれだけ楽だったろうな」

 セイバーが笑みを浮かべてアーチャーと話し合っている。まるで二人は友人の様に話し合っている。このエレベーターが終点に到着すれば殺し合いが始まるというのに、そんな姿を欠片も見せず、楽しそうに話し合っている。その姿を見て、僅かにだがダンが眉を揺らす。

「ずいぶんと楽しそうだなアーチャーよ」

「おや、そう見えましたかい?」

 あぁ、とダンは頷いた。

「わしにはお前が倒すべき敵の人となりを楽しんでいる様に見える」

 そりゃあ、とアーチャーが肩を揺らす。

「楽しいですよ? なにせ敵と話すこと自体珍しい話なんで」

 ―――森の英雄ロビン・フッドは手段を選ばなかった。特にこのロビン・フッドを襲名した青年はそれに輪をかけて手段を選ばなかった。トラップと毒の超絶技巧者を名乗るほどの力量はマトリクスに破壊工作スキルAという形で証明されており、その説明によれば破壊工作だけで敵軍の六割を削る事が出来るとされている。六割の打撃はもはや壊滅と言ってもいいほどの打撃だ。故に、このロビン・フッドの最期とは悲惨な者であり、その生涯で敵と語り合うことなどなかった。卑怯上等で敵を殺せる手段で殺さなければ何も守れなかった。文字通り森の殺意となって戦わなくてはロビン・フッドは英雄になれなかった。故に、彼と語り合える敵などいなかった。

「気遣いは無用だアーチャー。相互理解は勝利してからするべきものだ。戦闘の前にそれを持ち込むのは余分な重みだ」

 ―――はたして本当にそうだろうか。少なくとも自分はそう思わない。理解をすることは確かに辛いし、難しい話だ。相手を知れば知るほど、別離が辛くなるのは事実であり、心を動かされてしまう。だが自分はそれでも理解したいと思う。理解するからこそ、願いを胸に、前へ進めると思うのだ。だから戦いには無駄だと―――絶対に自分は言えない。シンジの真実が、ライダーの信念が、アーチャーの悪道が、ダンの覚悟が、今の自分を作り上げている。それらを糧に自分は前へ進んでいる。そう言い切れるからだ。

「ま、旦那から言わせりゃあそうかもしんないけど? 俺からすりゃあ青春、葛藤大いに結構! 迷ってくれれば迷ってくれるだけ背中からシュパァーン! とやりやすくなるわけですよ。それに理想とか騎士道とか重苦しいだけですし、死に際は身軽じゃなくちゃね」

「だがアーチャーよ、今回は私の流儀に付き合ってもらうぞ」

「げ、やっぱり今回もッスか」

 アーチャーとダン、二人はどこかでスレ地会いながらも確実に合致している。この組み合わせは致命的に合わないと思えながらも、どこか完全にハマっている。だからこそ、そこが付け入る隙になるのだ。

「―――けどなあ、誰でも自分の人生誇りを持てるわけじゃねぇって、そろそろわかってほしいんだけどねぇ……」

 アーチャーの静かな呟きを残してエレベーターは下へと落ちてゆく。第二層の一番深い場所へと、決戦場へと。会話が終わってから数秒もしない内にエレベーターは到着し、扉が開く。ダンもアーチャーも、私もセイバーも無言で扉の前に立つ。互いに横目で確認し、

「行くぞアーチャー。戦場に還る時だ」

「行こうセイバー。一緒に前に進もう」

 サーヴァントとマスターが共に決戦場へと踏み込む。そこは一層目の決戦場とは違い、崩れた市街だった。完全に荒れ果て、残っているのは石畳だけだ。大きな円を描くようなフィールドには障害物が一つもない。自分とセイバーが一番得意とするフィールドであり、そしてアーチャーとダンが不得意とするフィールド。地の利だけを見るなら圧倒的に此方が有利。いや、クラスとしても此方が勝っている。

 だが経験も、実力も、覚悟も、全てで負けている。

 だから、

「負けないでセイバー!!」

 思いを言葉にし、叫ぶ。

「……往くぞ!!」

 声と共にアーチャーが矢を放ち、セイバーが横へと飛び退く。矢はセイバーに掠ることなく飛んでゆき、そこでセイバーは攻撃への準備、その一段階目を始める。

「無価値の炎よ―――!」

 セイバーの全身を黒炎が覆う。セイバーの全身が無価値の炎によって防護され、そして凶器と化す。だがその代償としてセイバーから一気に多くの魔力が吸い上げられる。それでもセイバーはエネミープログラムであれば一撃で腐滅するだけの凶悪な破壊力を手にした。

「足を止めるのはオススメしないぜ!」

 瞬間、アーチャーの矢が十数という数で一気に襲い掛かる。素早い射撃は距離を開けながら放ってくるものだ。アーチャーの戦術は徹底して変わらない。距離を開けて此方を削り殺す。ただのその攻撃密度は一気に上昇している。セイバーへのアイコンタクトでセイバーへの指示は終わる。此方の指示を受け入れたセイバーは迫るアーチャーの矢に対し、

 全力で突進する事を選んだ。

「んな!?」

「そう来るか」

 セイバーの炎に矢が触れるのと同時に矢は弾け、あらぬ方向へ炎の欠片と共にはじけ飛ぶ。体に纏った炎は減退するも、矢の威力は大きく殺されている。十数という矢ではセイバーを殺すには至らない。そのままセイバーは突進し、魔力を此方の体から吸い上げる。

「刻め、罪姫・正義の柱!」

「守れアーチャー」

 セイバーの姿が消える刹那前にアーチャーがマントを全面に引く様にして、防御の構えを取る。マントを前へ引っ張った瞬間にはセイバーは拳を振り上げて到達していた。全身を炎で包みながら、時を切断し、無拍の奥義を混ぜ込み、必中の奥義をアーチャーの体に叩き込む。

「せあっ!!」

「っちぃ!」

 アーチャーが大きく吹き飛ばされる。その体制のままアーチャーは矢を放ってくる。吹き飛ばされながらも空中で体勢を整え、攻撃してくる姿は流石アーチャーと評価するほかない。だが此方はかける事のできる時間がない。

 既にセイバーは毒に侵されていた。

 おそらく最初の十数の矢。その中に毒が混ぜられていた。毒を使用してくる素振りすら見せずに此方の体を蝕むその技量は舌を巻くしかない。セイバーのHPは毒によって知らぬうちに削られていた。治療薬をセイバーに使用しながらも、

 再び魔力を込める。

「罪姫・正義の柱……!」

 再びセイバーの姿が時を超える。一回戦では連続使用も無理だったが、二回戦目となればレベルが違う。アリーナを通して経た訓練によって、自分とセイバーの魔力容量は大幅に減っている。それこそ無価値の炎を武器だけではなく全身に広げる程の魔力や、”時を刻め”を連発できるほどには増えている。故に迷うことなく魔力をセイバーの奥義に注ぎ込む。自分の命をセイバーの燃料と氏、勝機を見出すための一撃とする。

「二発目ェェ―――!!」

「がはっ」

 時を刻んで進むセイバーは二発目の拳をアーチャーに叩きつける。衝撃と共に無価値の炎が弾け、アーチャーの体を吹き飛ばす。セイバーの体に矢が突き刺さり、再びステータス表示は毒に変化する。が、それと同時に無価値の炎がアーチャーの体にも燃え移る。

「腐滅しろアーチャー―――そいつは死ぬまで消えないぜ」

「ハ、お前を殺せば消えるだろ!」

「引き金から指を離すなよ、アーチャー」

「解って、ますって!」

 吹き飛ばされながらも再びアーチャーは矢を放ってくる。だが此方にはもう魔力はスキル一回分しか存在しない。そして購買で販売している魔力回復用のアイテムは原則やきそばぱんとかのみで、それはほぼ回復しないのと同じだ。故に、

「セイバー!」

 声にこたえる様にセイバーが守りを固めながら後ろへと一気に下がる。その姿が近づいたことを確認しながら治療薬を使用し、セイバーの毒を解除する。迫ってくる矢を拳で叩き落としながらセイバーはここまで戻ってくると、再び拳を構え直す。その顔に疲労は見えない。が、それでも傷は多く見えている。毒とトラップだけが全てではない事をアーチャーの技巧が示している。

「あちち、毒が治療されちまうんじゃちょいとキツイぜ旦那」

「なら自分にできる事を示してみろアーチャー―――”顔のない王”の使用を許可する」

「そんじゃ頑張りますか……!」

 アーチャーは体を黒い炎に蝕まれている。全身に激痛を走らせる腐食の炎は触れているだけでさえ発狂しそうなほどの痛みを与えるとセイバーは説明していた。生きたまま体を腐らせる。その破壊力は経験しない限り理解できるものではないだろう。その痛みをアーチャーは精神力のみで抑え込んでいる。

 そして、

「無貌の王―――参る」

 アーチャーがマントを翻した瞬間、アーチャーの姿が消えた。

「セイバー! アーチャーは!?」

 セイバーは一瞬周りを確認する様に視線を巡らせ、

「臭いも気配も音も視線も感じない! こりゃあ完全透明化の宝具か……!」

 セイバーは油断なく構えている。だがセイバーの言葉が本当であれば。アーチャーが攻撃を放っても此方は気づかない可能性がある。セイバーが把握できないというのだから、かなり危険な状態に違いない。

 油断の出来ない状況が数秒続く。

 アーチャーは動きを見せない。

「―――!」

 瞬間、セイバーが弾けるように動く。その刹那後にはセイバーの首の位置を矢が通過していた。一回地を転がってから立ち上がったセイバーは構え直す。その視線は虚空から出現したアーチャーへと向けられていた。

「野郎……いい読みしてるじゃねぇか。避けるとはな」

「いや、避けてない」

 セイバーは自分の首を見せる。そこには一線の傷がついている。

「攻撃は流石に感じるだろうから神経を鋭敏化させて”触れた後に回避”できる様に準備しておいた。相棒の指示は全力で避ける事だからな、それと合わさって何とか成功した」

「馬鹿か頭いいのか解らねぇ所だな、おい」

 アーチャーはあきれた様子で此方を見ている。その姿は前よりも―――余裕が見える。ステータスを確認すれば今の一撃でセイバーは毒を受けていた。毒を放置すれば致命傷につながるのは目に見えている。素早く回復の為に治療薬に手を伸ばし―――動きを止める。

「お探しのものはこれかい?」

 そう言ってアーチャーの手には治療薬などの回復アイテムが握られていた。それを手の中でアーチャーは砕き、

「元々こいつはこうやって工作やら設置やら暗殺やらをごまかすための宝具なんだよ。ま、無防備に突っ立っていたのが悪いって事で一つ」

 アーチャーが弓を放つ。それに反応しセイバーが横へ飛ぶ。そしてアーチャーが笑みを浮かべる。

「お、そっちに逃げて良かったのかい大将」

「ッ、ォ!」

 セイバーが回避した先、セイバーが着地するのと同時に透明化されていたオブジェクトが出現する。つまりはトラップ。簡易だが電流の流れる床がそこにはあった。セイバーは回避と同時にそこへ踏み込んでいた。そして今度、セイバーに追加されるステータス異常は麻痺だった。

 数秒、たったの数秒だった。アーチャーが顔のない王を使って姿を消していたのは数秒。その間に私から回復アイテムを奪取し、トラップを仕掛け、そしてセイバーへの攻撃を放った。恐ろしい程に手際が良く、洗練されており、そして慣れている。これが破壊工作Aというスキルが戦闘において使われた場合の脅威。あのアリーナでの曲撃ちもこれと比べればまだまだ可愛いものだ。

 さらに追い詰められた。魔力はスキル一回分。体力は減る一方。回復手段はない。

 だからこそ、

「攻めてセイバー。何時も通り、何も迷うことなく、攻めて、攻めて、攻めて―――そして勝って」

「おぉ……!」

 最後の魔力がセイバーへと送り込まれ、そしてセイバーが取り戻したばかりのスキルを発動させる。言葉のとおりセイバーは動きを始める。前に出る。攻める。それしか勝機はない。臆病であるものに身リアはないのだ。故に掴み取らなくてはならない。

 セイバーが踏み出すのと同時に足元が爆破する。おそらく爆破系のトラップ。セイバーの体力が削れるが、セイバーはそれを無視して前へと進む。アーチャーはその光景を驚愕と共に見ていた。

「化け物かよ……!」

「心無い言葉だなぁ!」

 アーチャーの矢がセイバーの体に衝突し、弾かれる。衝撃の度に無価値の炎は剥がれて行き、素のセイバーが露出してゆく。だがそれに木をとどめる事無く、防御や後退を視野から消し去り、セイバーは直進し、

 アーチャーの正面へと辿り着く。

 セイバーが拳を振るうのと同時にアーチャーが回避行動に出る。

「ぐっ」

 が、アーチャーの動きがアリーナとの戦いに比べて若干鈍い。飛び去るはずだったアーチャーの足をセイバーが掴む。

「砕け散れェ―――!!」

 そのままアーチャーを床に叩きつける。

「アーチャー!」

 流石のダンも声を荒げる。だがセイバーは一度で止めず、獣のような表情を見せながら、アーチャーを一度ならず、二度、三度、四度と床へと叩きつける。

「舐める……ん、じゃん、ねぇ……!」

 叩きつけながらもアーチャーが詠唱を完成される。セイバーへ指示を飛ばし、即座に防御の体勢を取らせる。瞬間、床を突き破って茨がセイバーの体を掴む。そして、

「旦那」

「いいだろう、仕留めるがいい」

 アーチャーとダンの呼吸は完全にあっていた。もはやこれ以上の確認をアーチャーは必要としない。アーチャーが弓のついた左腕を伸ばす。

「森の恵みよ―――」

 その腕から蔓が伸びる。それは森の神秘。森の宝具。アーチャーが毒殺を完全なものとする為に必要とした一番の相性の宝具。それを食らえばどんな毒だって猛毒と化し、そして猛毒を即死の一撃へと変換させる。

「―――圧政者への毒となれ」

 蔓がセイバーの体に巻きつき、そして大樹と化す。祈りの弓(イー・バウ)。宝具を持ってセイバーの体内の毒は一気に爆発し、

「これで終いだ!」

 アーチャーが矢を放つ。セイバーの体内の毒は超強化されている。パスを通じたセイバーの全身を蝕んでいる超強力な毒を感じる。この繋がりを普通のマスターであるならば切るだろう。だが自分にそれは出来なかった。セイバーの痛みは全て自分の為のものだ。それをどうして切る事が出来るだろうか。もはやセイバーのHPは残りカス程度にしか残っていない。トドメの矢を持ってセイバーは死ぬ。

 その現実はセイバーが纏う無価値の炎によって覆された。

「な!?」

「この瞬間を待っていたぜぇ……!」

「セイバー! 私の魔力を全部持って行って!」

 セイバーの習得した新スキル。その名を”暴食の王”という。その効果はシンプルに、痛みを魔力へと変換する事だった。故にセイバーの最大の痛みである致死毒を暴食の王によって魔力へと変換して。それによって、

 魔力は溢れるほどに満ちている。

「野郎! オレの罠を超えやがった―――!」

「アーチャー―――」

 ダンが何をしようとしたのか、何を言おうとしたのか。それはもはや関係なく、その声をかき消すようにセイバーが咆哮の様な声をあげる。

「時を刻め罪姫・正義の柱!!」

 時を超えてアーチャーの体に拳が突き刺さる。宝具を使った反動か、アーチャーの動きは精彩に欠けていた。避ける事も防御する事も間に合わない。衝撃で大きく吹き飛ばされながら、セイバーに遅れる魔力全てを注ぎ込む。そして、

「再び時を刻め罪姫・正義の柱―――!」

 再び拳がアーチャーの体を殴り飛ばす。セイバーは言っていた。爆破した武器はあくまで出している分だけであり、その本来の姿は完全に肉体と同化しているから遠慮する必要はないと。だからこそ、

 魔力が切れるまで続けろ、とセイバーに叫ぶ。

「三度時を刻め罪姫・正義の柱……!」

 セイバーが手刀でアーチャーの体を大きく裂く。その体は吹き飛ぶ。

「四度時を刻め罪姫・正義の柱……!」

 もはやアーチャーの体からは力が抜けている。だが止まらない。止められない。まだアーチャーは消滅のラインを超えていない。勝利したのであればセラフによる介入があるはずだ。だからまだ勝利していない。そして勝利する事以外を気にする余裕もない。

「セイバァ―――!!」

「五度時を刻めよ……!」

 セイバーの姿が消えた瞬間にはアーチャーの背後へと移動していた。既に拳は全力で振りぬかれている。アーチャーの体がくの字に曲がる。だがそこで姿をセイバーは消し、最後の魔力を吸い上げる。

「夜明けの前に滅びろ」

 再び正面へと現れたセイバーは後ろから殴り飛ばされる慣性が”発生した瞬間”に正面から同等の衝撃を叩き込む。両側から同じレベルの衝撃を受けたアーチャーは逃げ場もなく、その場で酸素を求める様に息を吐き―――

「―――すなねぇな……旦那……」

 その場で倒れた。

 攻撃を終えたセイバーがバックステップで自分の横で飛び退いてくる。セイバーには疲労の様子が見えるし、辛そうにも見える。だがもう警戒の様子も、構えている姿もない。セイバーを蝕んでいた毒も、消えている。もはや疑う余地はない。

 ―――二回戦に勝利したのだ。

 その光景をダンは驚きと、そしてまるで天啓を得たかのような表情でセイバーを見ていた。その表情は無骨ながら、紳士さを見せていたダンの姿からは想像できない表情だった。よろよろと立ち上がりながら、アーチャーがダンの横にまで移動する。

「クソ、何をやってるんだよ俺は……! 地力も決意も旦那の方が上だったのに、どうしてオレ達が押し負けた……!?」

 アーチャーの言葉に応えはない。答えは出せない。だがその代わりに、セラフは障壁を張る。オレンジ色の、敗者を分解するための領域を遮る障壁を。アーチャーとダンはその領域に取り込まれ、そして障壁の向こう側で膝をつくダンは分解されながらも口を開く。

「……いや、そうだったな。わしもまだまだ未熟だったようだ。最後の最後で自分の心を見誤った。意志の強さではなく意志の質……それがここで前に進む力となるようだ」

 それはダンの告白であった。

「私は軍人であったことに疑問はないが―――後悔はあった。それが今更になって亡くした妻を取り戻す為に聖杯を求めるとは、なんとも愚かな話だったのだろうか。一生を軍人として生きる事を良しとした者が軍を捨て、今際の際に個人の願いに執着したのだ。騎士の誇りなど無縁だったものを引っ張り出し―――」

 ダンはまるで遺言を残す様な独白を続ける。

「―――妻か、それとも軍人となる前の一人の人間としての―――いや、それも、もう解らぬ」

 ダンは最後の最後で、ようやく己の真実へと辿り着いた。”見えぬ”という事実に気づき、そして後悔をした―――何故己はこうも愚かであったと。だからこそダンは背筋を伸ばして立つ。

「泣くなよ相棒。笑って送り出せ。相手が最後に見る者はお前なんだ。憎く思わないのであれば体を綺麗に整えて、笑って送り出せ」

 ダンの言葉に思わず流れそうだった涙をこらえる。その姿を見てダンは苦笑する。

「不思議だ。そうやっている分には年相応の娘にしか見えないのに……最後の一撃には躊躇も迷いもなかった。おそらく君にも譲れぬものがあったのだろう。わしには―――そう、この胸に会ったのは死人の夢だったのだ」

 笑みをけし、ダンは此方を真直ぐ見つめる。

「迷いながら生きるといい、若者よ。迷いを固めろ、と言っても固められぬのが人間だ。だがその迷いはいずれ敵を穿つための意志となるだろう。努々忘れぬことだ」

 ダンは敗北し、此方を罵倒する権利を持っていた。それこそ敗北者が消える直前に胸を晴らすための行為だ。だがダンはその安易な道を選ばず、此方の事を思って言葉を残す道を選んだ。この男は自分の騎士として認めていないが―――それでも今、ダンは立派な騎士の精神を見せている。それだけで自分には十分だった。

「さて」

 ダンとアーチャーの崩壊は進んでいた。

 もう数分も持たないだろう。

「最後に無様を晒したが、敗北というのも悪くないな。今まで未来を奪う事しかできなかった者が未来ある若者の礎になれた。実に意義ある戦いだった」

 それでも、晴れやかな笑みを浮かべながらダンはそう言っていた。もはやダンが憂う事はない。このまま死ぬ運命を良しとしていた。ダン・ブラックモアという軍人はもう既にいなく、まるで孫を見守るような穏やかさで満ちている。

「……すまねぇな旦那。やっぱ俺に正攻法は向いてねぇや。俺の様な無銘の英雄じゃやっぱ無理だったわ。情けねぇ、他のサーヴァントなら旦那にこんなオチをつけなかったってのによ」

 頭をかきながら謝罪を告げるアーチャーは本当に申し訳ない表情を浮かべていた。手段を選ばない事。それはつまりそれだけ勝利したかった、という事実だ。アーチャーはそれしか手段がなかったのではない。自らを汚しながらでも勝利を捧げたかった、というのだ。

「……いや、謝罪するのは此方だアーチャー。わしの我がままに付き合わせて矜持を穢してしまった」

 ったく、とアーチャーが声を漏らす。

「今更遅ぇんですよ。こっちは迷惑かけられたってレベルじゃねぇんですよ、だ。つうかなに? 謝ってるんじぇねぇよ。俺の事はいいんだよ、どうせ買っても負けても最後には消えるんだし。願いらしい願いはあるんですけどね? 基本楽しけりゃあオールオッケーなんですよ俺は。ま、旦那との共闘はつまんなかったんですけどね」

 ははは、とダンが豪快に笑う。もはやダンの体はほとんどが分解されていて、姿が見えなくなっている。喋る事だって難しいだろう。だがそれでも二人は楽しそうに話を続ける。そして私は、それを最後まで見なくてはならない。

 命を奪ったものとして。

 生き残った者として。

 奪ったものを魂に刻むのだ。

「そりゃあますます済まんな。騎士の誇りなど無価値なものであっただろう」

 ダンの言葉に、アーチャーは背を向ける。

「んー……まあ、いや、なんだ。……たまにだったらやりなれない事も悪くないんじゃない? 旦那との共闘はつまんなかったし、願いは叶えられないし、ペナルティ受けるし、令呪で縛りプレイはじめるけどよ―――くだらない騎士の真似事はいい経験になった」

 森の英雄ロビン・フッドは顔のない王としてひたすら”狩り”続けてきたのだ。

 故に、

「―――ああ、縁はなかったんだがね。一度ぐらいは恰好つけたかったんだよ、俺も。だから謝る必要はねぇんだよ。十分いい戦いだった。恥じるところなんかどこにもねぇ」

 そういうアーチャーの表情も安らかであり、どこか照れた様子を見せていた。だからこそ、

 堪えきれずにぽろぽろと涙が流れ出す。セイバーは何も言わずに横で立っていてくれる。その存在が有難く、少しだけ寄り掛かる。

「……最期に手に入らなかったものを掴ませてもらった……それだけでいいさ」

 それを告げてアーチャーの姿は消え去った。完全に。この世界から。アーチャーの表情に悔いはなく、晴れやかな表情で逝けた事が何よりもの救いだった。そうして消えたアーチャーの姿をダンは見届け、小さく感謝を呟いてから此方へと視線を向けてくる。

「岸波君。最後に年寄りの戯言を聞いて欲しい」

 それは、ダンの最期の願いだった。

「もし、この先誰と戦うことになろうとも、必ずその結果を受け入れてほしい。迷いも悔いも、消えないのなら消さずともいい。ただ結果を拒む事だけはしてはならない。自分のしたことからは逃げてはならないのだ。全てを糧に進め。覚悟とは、そういう事だ。わし流だが―――それが未練を残さぬ進み方というものだ」

 ダンは目を閉じる。

「そして可能であるのなら、戦いに意味w見出してほしい。何故戦うのか。なぜ負けられないのか。勝者としての責務を、果たすのだ。もう既に解っているのであれば、如何か忘れないでほしい。未来ある若者よ……それだけは……忘れるな……」

 言い終わったダンは空を仰ぎ、ゆっくりと、口を開く。

「さて……ようやく……会えそうだ。長かったな……アンヌ―――」

 ダンは女の―――おそらく妻の名前を口にし、そして永遠に消えた。

 ―――セラフが敗者の処理を完了するのと同時に、決戦場の出口は開く。




 fate/extraを確認しながら執筆してたらこんなに長く。毒(笑)とか破壊工作(笑)とかそんな風に緑アーチャーの事が言われてたので、これはてんぞー式テコ入れが必要だな、とこんな感じになりました。おかげで久々の1万2千文字オーバーです。クッソなげぇ。

 明日は友人のサプライズパーティーがあるので更新ないかも。
スポンサーサイト

| 断頭の剣鬼 | 14:17 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

 エクストラだと自分も緑茶好きですよ

 何気に練炭と声優同じだし

| 名状し難きナニカ | 2013/04/19 19:19 | URL |

暴食の王とな!?
いや、逆転は王道だけど、緑茶さんの宝具をうまく使って追い詰める過程が最高でした(>_<)b
顔のない王とかCCCでもクシャグシャポイにされてたのにっ、光ってる緑茶さん輝いてるよ(;´д⊂)
セイバーは次回から嫁(聖遺物)復活かぁ~
AUOの件もあるし、幕引き来ても無理ないなかなと期待混じりに思ってたけど、いい感じに焦らしてくれおるww
小リスマスターのさらなる成長に期待っ!

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2013/04/19 21:01 | URL | ≫ EDIT

お疲れ様です!二回戦終了ですね。
自分もextra赤騎士王で一周目を今やってます。両刀使いと噂の彼女、普通に可愛いです。
高校に入学したばかりなので時間あまりとれないですが、ちまちまやってます。アーチャーは結構好きなキャラだったので、活躍が嬉しいです。

本編より続きが気になるw頑張ってください!

| 通行人D | 2013/04/22 00:12 | URL |















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://tenzodogeza.blog.fc2.com/tb.php/356-0c00e2b1

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。