陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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渇望 ―――ロード・ロング・スタート

推奨BGM:Bottomless Pit


「一番、キリト行くぜ―――!」

 キリトの手に握られているのは龍骨の斧ではない。青薔薇の剣だ。ユージオとキリトが言うには、昔、あの果ての山脈の洞窟で見つけたものだそうで、キリトがこの世界にいない間に数日かけて引っ張ってきたものらしい。前これを握った時はキリトは持ち上げるだけで限界だったらしい。そして今はちゃんと、片手で持ち上げる事が出来ている。それはもちろん、心意による強化無しで。純粋な身体能力が上昇しているのだ。

 ゲーム的視点から見れば間違いなくレベルアップだろう。ウガチという超強敵を倒したことによって、俺とキリト、ユージオ、そしてセルカを成長させたのだ。ステイシスの窓だったか、ステータスウィンドウを確認したところ、最大ライフとシステム権限らしき数値が上昇していた。おそらく、これがレベル的概念なんだろう。

 ともあれ、それが上昇したキリトは青薔薇の剣を片手で持ち上げる事に成功している。それを両手もちに変え、まるで野球のバットを握るかのように構えている。先ほど吐いた言葉からもやる事は目に見えている。片足を持ち上げて、バランスをとって、前に踏み出しながら―――フルスイング。精確な一撃が数千の間刻まれ続けた小さな切れ込みに命中した。


 カーン、ときれいな音はならず、

 ドグサ、という樹の悲鳴にも音が響いた。

 青薔薇の剣は深々とギガスシダーに突き刺さっている。その光景にユージオは黙っており、キリトも完全に動きを止めていた。誰も動かないその状況で、まず俺が動いた。ギガスシダーに突き刺さっている青薔薇の剣を見る。

 一撃で、二十センチは切り裂いていた。

「……数千年かけて作った傷が一発で出来ているね」

 少しだけ頬を引きつりつつ言った事実に対して、ユージオが次の瞬間爆発した。

「き、キリト―――! 凄いよ!! 本当に見えたよ!! やった! 本当にやったんだ! あははは!!」

 今までギガスシダーに対して悪戦苦闘していたためか、一気に歓喜の表情を爆発させたユージオが俺の手を取って踊りだし、飛び跳ねたり、その全身で喜びをあらわにしていた。初めて会った時の疲れたような、少し大人しい青年のイメージなんて安全に消え去っていた。どうやら洞窟から帰ってきて、ユージオの心境では何らかの変化があったようだ。

 だが、それでもキリトは動かない。

 感動を感じているのだろうか?

 そう思って声をかける。

「キリト! やったな!」

 だがキリトのそれに対する回答はとてもシンプルで、

「―――ぬ、ぬけない……!」

「えー……」

 何というか、……その光景はすごくキリトらしかった。


                           ◆


 その後も青薔薇の剣での挑戦は続いた。もちろん、そこの黒の剣、キリトが”羅刹”と呼ぶ剣も加わった。ユージオが持ち上げる事は不可能だって言っていた蒼薔薇の剣をユージオ自身も持ち上げ、三人で後退しながらギガスシダーの幹に剣を叩き込み続けた。

 乾坤一擲。

 振るう刃一撃一撃に力を超えめ、全力で叩きつける。斬りつけるのではなく、叩きつける。異常な硬度を有するギガスシダーは全くという程に斬撃を通さなかった。元々刃を通さないようにできている、そんな感じさえ受ける程に硬かった。

 だがそこには数千年の歴史があった。

 数千年かけてつけられた傷。本来なら刃を通さない外皮もそこだけは意味をなさない。全力で叩きつけられる刃はそうやって傷に食い込み、傷を広げてゆく。開拓を妨げ、栄養を奪い続けてきた大樹は一撃毎に悲鳴を上げ、音を鳴らす。

 段々と大樹に刻まれる音の質が変わりだす。

 最初は力任せの音だった。そこに優雅さの欠片はない。力を込めて叩くだけの音。

 それが少しずつ、綺麗に、響くような音に変わって行く。

 それは本来ユージオが龍骨の斧で真芯を捉えた時にだけ出る筈の音だった。だがそれは回数、速度とと共に少しずつ回数を増やす。

 だが変わるのは音ばかりではなく、振るう動きもだ。

 剣を振るった事のない青年。初めて振るう動きは生まれたての馬の様に震え、見るに堪えぬものだった。だが、それでも剣を振るう事はためらわれなかった。剣術を習った事のない青年は二人、命を危険にさらして戦う事の出来る者達から形だかではない、活きるためだけの剣術を振るわされ、その技術は短い時間で少しずつ、

 本当に少しずつ。

 研磨されていった。

 短い時間。

 もはや悪魔の大樹が斬り倒される運命を迎える事に間違いはなかった。後は時間の問題。だから、その短い時間に二人に、ユージオは見の握り方、振り方、構え方、そう言った心得を起訴の部分から教わっていた。

 この大樹を切り落とした後、自分の身の振り方をユージオは決めていた。

 進むべき道を進むために、

 大樹は―――伐り倒された。


                           ◆


「一体どんな魔法を使ったのよ……」

「ま、ちょっと本気になっただけさ……な?」

 セルカの言葉に答えたキリトは此方にウィンクと共に視線を送ってくる。知らんがな、と聞こえない様に呟きつつ視線をキリトから外して祭りへと向ける。

 そう、祭りだ。

 ギガスシダー―――今までこの村の発展を妨げていた大樹を伐り倒した事を喜ぶ祭り、祝、宴だ。

 洞窟の中での悪夢から既に三日が経過している。そこでの経験は忘れようにも忘れられるわけがなく、そして色々と俺達を変える事となった。兄の剣を拾ったり、キリトが何時もみたいな人外らしさを披露する様になったり、セルカが少しだけ神聖術を得意になったり……ユージオが剣を習いたがったり。

 正直な所、キリトから全ての話を聞いた後でなら、何となくだが解る。態度からしてユージオは想いだしたのだ。キリトとの過去を。そしておそらく、その事実にキリトは気づいている。いや、気づかない筈がない。ユージオの急な心変わり、それに気づかない筈がない。何せ、おれからだって見ていてわかる。ユージオの目に宿った決意と闘争の意志、それは誰にでも現れるものではない。強い、本当に強い意志があって宿るものだ。

 それを引き起こせるような事態は少ない。

 だが、まあ。

「……黙ってるし、いいか」

「どうしたんだよ正樹?」

「何でもないよ」

 キリトが何も言わないのであれば、それはそれ。もう決着がついている事なのだろう。もしくは、これから決着がつくのだろう。外野が外から怒鳴りつけるようなことでもないし、そこは相棒を信じると言う事で完全に黙って信じる事とする。

 手元の木製のカップの中からワインらしき液体を飲み、司狼に振り回されたせいでしっかり酒の良し悪しが解ってしまう事に若干自己嫌悪しつつ、顔を持ち上げて視線の先を見れば、ユージオがいる。村長に引っ張られるように村の広場、その中央へと引っ張られていた。

 奇妙な光景だ。

 間違いなく、この場にいる大半の人間はユージオに対して興味を持っていない。それは見えるし理解できる。その異常性には吐き気を覚える。なのに、今、目の前にいる村人の多くはユージオに視線を合わせ、労いの言葉をかけている。取り繕う事さえないような連中だったはずなのに、何故、何故こうも想ってもいない言葉をはけるのだろうか。ものすごい感覚的な問題なのだが、これを言葉に表すとすると、そう。

 皮膚の下がぞわぞわする、といった感じだろうか。

 何か正しくない。何かが気味が悪い。何かがおかしい。それがおかしいと気づいているのにそれが非常に感覚的なもので、正しく捉えていないから理解できていない。理解できてないのに感じるからこその気味の悪さだ。とてもだが言葉には出来ない。

「……正樹」

「キリト?」

 キリトが此方に視線を向け、真剣な表情を送っていた。認めざるを得ないが、キリトは人間やめていて、自分よりも遥か彼方に存在する超一流の剣士だ。人外(兄たち)と戦い続け、人外(兄たち)に育て上げられた立派な化け物だ。俺と同じものを感じているのかもしれない。

「―――まさか好きな子ができたとか―――!」

「そろそろ本気で殴るぞ」

 この黒の英雄様は一体何を言っているのだろう。だがキリトは両手でステイステイ、と犬をあやす様な手の動きをしながら非常にムカつく顔で言ってくれる。

「解ってる、解ってる……俺も初めてアスナに逢った時は結構ぎこちなくてさ」

「誰が嫁自慢してくれって言ったんだよ」

「え、違うのか……?」

「こう、人の話を聞かなかったり暴走率が高いのが人外になる条件なのか」

「俺としてはいい加減に人間扱いしてくれない事に非常に遺憾なんだけど」

 と、二人にしか解らないやり取りをしたところで、軽く笑う。その様子をセルカが首をかしげながら見ているが、話の中身は一切理解できていないだろう。

 と、そこで村長……ガスフト村長が両手を叩いて、改めて村中の視線を集める。

「皆の者! 今日は集まってくれたことに感謝する! 本日は我々の発展を妨げていたギガスシダーを伐り倒したユージオを、そしてその偉業をたたえる日だ! これを認めぬものなどはおるまい?」

 そう言って村長が人々を見回すのを見る。村人たちは頷き、ユージオは認めている。そこに少し、驚きを得る。自分が理解していたこの世界の住人はどこまでも自己中心的な存在だ。認める事はないと思っていたが、それは違っていた様だ。

「これより掟に従い天職を全うしたユージオには新たな天職を選ぶ権利が与えられる。さあ、ユージオよ、羊飼いでも、木こりでも、好きな天職を選ぶと良い!」

 村長のその言葉にキリトは口の端を歪める。

「来たか」

 口の端を歪めるキリトの表情は実に楽しそうなもので、そしてその手の中には白い包みが握られていた。この祭りが始まった時からずっと握られているそれを、俺はここ数日何度も目にしている。何となくだが、この先に展開は見えている。

 ユージオが聞こえる声で宣言する。

「僕は―――剣士になろうかと思います!」

 その言葉に村長は一瞬驚き、何かを呟いていた。

「剣士になり、ザッカリア剣術大会で優勝し、央都へと―――セントラルカセドラルへ、迎えに行きます」

 もはやそれはキリトとユージオの中では決まっている感情なのだろう。そしてその村長は表情を驚かせたものの、動揺はない。つまりはこれを理解できていると言う事だ。

 キリトから大体の事情は知らされている。

 アリス、STL、整合騎士、闇の国、自己愛、兄の剣、消えた記憶、連れ去れる少女、禁忌目録。

 キリトが知っている情報を共有させてもらって確実に解る事が一つだけある。

 そして、それは―――。

「待て! ユージオは確かにギガスシダーを倒した。だがそれとこれは別の話だ」

 祭りに水を差す奴がやってくる。人垣を割って、前に進み出てくるのは剣を持った二人組だった。片方はいかにも”兵士”っぽい服装に身を包んだ人物だった。キリトが呟く。

「ジンクとドイクか」

「誰?」

「自分が宇宙一強いとか思ってるアホ」

「なるほど」

 ユージオの発言はつまり自分たちを完全に無視した事であり、そして自分たちが成し遂げてない事を先に果たされるのは嫌だ、と言っているのだ。

「俺が六年も衛士になって、ザッカリアへと行くことができるのはまだ四年も残っている! 俺よりも弱いユージオが俺よりも先にザッカリアの剣術大会へと行くのはおかしい! 最低でも四年は待つべきだ」

 筋は通っているように見えて、実のところただの我が儘だ。天職である以上はユージオの当然の権利であり、それを覆す事は出来ない。故に村長は困った様子を浮かべ、そして衛士長ジンクは怒鳴り立てている。

「しょうがないな」

 キリトが呟き、

「どうするの?」

 セルカがキリトに質問する。ニヤリ、とキリトが笑みを浮かべ、そしてキリトが答えるよりも早く、ユージオの声が響いた。

「―――つまり勝てばいいんですね」

 キリトから視線を外し、ユージオへと視線を向ける。ジンクと相対する。ユージオの表情は覚悟の決まった人間の表情だ。不退転。これ以上は絶対に下がらない、負けない、後れを取らない。背水の陣にも似た様な心境を持って、完全に覚悟を決めた男の目立った。

「貴方に勝って、僕の方が強い、そう証明したら満足するんですね」

「お前は―――!」

 ユージオは確実に挑発していた。真剣な表情のユージオが冗談を言っているようには思えないし、間違いなくユージオは本気だ。本気で六年間剣術を習ってきたジンクに、三日だけ剣を振り続けた自分が勝利できると確信している。

 だからこそ、

「ユージオ!」

 キリトは包みを投げた。

 空中で巻かれていた布は外れ、その中に隠されていた美しい青の刀身が晒される。月の明かりを浴びて美しく輝く青はまるで氷の様で、見る者を魅了する。片手で投げ込まれた刃の柄を握ると、衝撃を殺す様に一回転させ、片手で持ち上げながらジンクに刃を向ける。

「僕はもう負けない。僕はもう失わない。落ちるところまで落ちたんだ、あとは這い上がるだけなんだ。また、あの日々を取り戻す為に―――僕は、ここから進む。だから勝負しよう、ジンク」

 狂信にも届きそうな渇望。

 ―――彼もまた役者。

 一瞬、そんな言葉が脳を巡り、かき消す。

 おそらく一撃。

 一撃でユージオは勝利する。それは見えている結果であり、確定している未来である、そして覚悟の違いから生まれる絶対的な溝でもある。この村で、俺とキリトを除いてユージオを止められる存在はいない。

 村の広場、その中央にジンクとユージオの勝負用にできる場所を見届け、月に視線を移す。

「兄さん、いるんだろ、此処のどこかに」

 外国にいると言われたはずの兄。その兄の所有物が何故かここにある。それがあるからではなく、それに触れたからこそ解る。

「―――兄さん……」

 何か、何かとんでもないうねりに巻き込まれている、そんな予感があった。

 一瞬だけ響く金属と金属のぶち狩り合う音。

 大地に鉄が突き刺さる音。

 そして、漏れる声。

「……馬鹿な……!」

 予定調和。予測通り。全ては望んだ通りに進む。

 ある一点を超えて全てが、全てが最良の結果で―――。

 順調なはずなのに、奈落の底へ落ちている気がするのは何故だろう。




またせたな!
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| 断頭の剣鬼 | 13:03 | comments:12 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

お帰りなさい!

|   | 2013/02/17 13:08 | URL | ≫ EDIT

待ってました―!!

| 断章の接合者 | 2013/02/17 13:41 | URL | ≫ EDIT

お待ちしておりましたw

| アル | 2013/02/17 15:04 | URL |

お疲れ様です。待ってましたよー!

| 空 | 2013/02/17 15:55 | URL |

おかえりー。
待ってたぜ。

| シオウ | 2013/02/17 17:18 | URL | ≫ EDIT

そろそろランニングだな!

| | 2013/02/17 22:25 | URL |

おかえりなさいませぇー!
待ってました!

| | 2013/02/18 09:29 | URL | ≫ EDIT

お帰りなさい!!
取り敢えず、ジンクさんとやらのかませ具合にワロタww

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2013/02/18 12:19 | URL | ≫ EDIT

この日を待ってました!

全ては予定調和というある種の
デジャヴ感をもう持ち始めてる…

果たしてこの先どうなるか
とても見ものです!

| マ王 | 2013/02/18 18:03 | URL | ≫ EDIT

お待ちしておりました。(服従のポーズ)

| ROGUE | 2013/02/18 18:31 | URL |

お待ちしておりました、土下座神様。
あなたの紡ぐ新しい物語の続きを期待しております。

| 黒羽鴉 | 2013/02/19 02:27 | URL |

おかえりなさい!!

| ガリバー | 2013/02/21 12:04 | URL |















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