陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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日常の狭間

 朝日が眩しい。既に早朝は過ぎ、都を覆い隠す朝霧が少しずつだが無くなってくるのが見える。霧を裂いて差し込んでくる日差しは強く、本日が天気の良い日になる事を証明していた。それを認識しつつ、埃や泥等で軽く汚れた自分の体を少し動かす。関節の各所が疲労で熱を怯えているのが感じられる。軽く掃出し息にも疲労が混じっている事を感じられる。疲れを感じつつも、やり切った感覚を感じ、近くの階段に腰を下ろす。

 視線を持ち上げれば朝日が差し込んでくる、雲の切れ目が見える。その光景に軽く感慨を抱きつつ、個人所有の位相空間に保管しておいた携帯食料を取り出す。笹の葉でくるまれたそれは極東式の携帯食料、忍者フードと言えるものだ。こうやって徹夜明けの日、屋敷に戻って食べる時間がないときに腹を膨らませるためのものだ。この食料の中には食符という食べる事の出来る符が小さくだが混じっており、それを食べると腹が膨れるようにできている。非常に便利な携帯食料だ。腹が膨れ、栄養があり、そして保存できる。味もそこそこ行ける。ただ味気ない事だけが弱点らしい、弱点だろう。

 だがこういう生活がもうしばらくも続いていると正直飽き飽きしてくる。

 いい加減、鹿角の温かいご飯が食べたい。


 まあ、

「それも明日か」

 結局昨日は授業を休む羽目になって、朝から教皇総長のお迎えの準備や、計画や掃除で丸一日がつぶれてしまった。武蔵までやってくる事もあり、忙しさはピークへと達している。それも今日だけだ。今日、教皇総長と武蔵が無事に三河を離れてくれれば、あとは事後処理を終わらせてゆっくりできる。

 あぁ、

「二代さんと一緒にお風呂入りたい……!」

「マスター、欲望が口から洩れています。しかも内容が間違っております。ですので私がマスターのお供をいたしましょう。風呂へでも、閨へでも」

「引っ込んでろ」

「これはそろそろ戦略を変えるべきなのでしょうか」

「根本からして色々間違えているんだよ、エセルは……」

 エセルドレーダの頭を掴んで小さくすると、それを自分の頭の上に乗せる。中々エキセントリックな性格をどうにか治す方法はないだろうか、等と思いつつ、携帯食料を食べ終わる。コーンポタージュ味の携帯食料を食べ終わったら包み紙の笹の葉を位相空間に捨てる。流石に旧市街、もう人間が住んでいない場所とはいえ、平然とポイ捨てをする気にはなれない。小さく、本当に小さくエセルドレーダの惨状に対して溜息を吐きつつ、立ち上がる。

 もう既に教皇総長、そして武蔵が来るその日になってしまっている。

 個人的には教皇総長が来るという事実よりは、武蔵が来るという出来事に対し関心が高い。なぜなら武蔵にある武蔵アリアダスト教導院の学長は酒井・忠次、つまりは松平四天王で自分が唯一親交を持たぬ人物であり、松平四天王の実質的リーダーであるからだ。昔、聖連と衝突し勝利した話等は良く忠勝から聞いている。それこそ耳が痛くなるほど。ただ現在の忠勝の堕落っぷりを見れば信じるのは難しい話ではあるのだが。

 さて、此処はどうするべきか。

 自分の姿を見る。

 武神乗りには特徴的な軽装姿の制服だ。だがそれは結構汚れている。こんな姿ではとてもだが忠勝や鹿角、酒井・忠次の前に姿を見せる事は出来ない。一応彼らが一堂に会する酒屋の場所は知っている。自分が行ってどうにかなる、という話ではないが、それでも酒井・忠次を一目見ておきたいという気持ちはある。見た目は左遷された中年オヤジだが、中身はきっと剃刀の様な切れ者に違いないと、勝手に幻想を抱く。

 が、まずは着替えだ。

 眠気だけなら術式で吸い出してどうにでもしている。ただ汚れとかまではどうにもならない。何かをする前に、今日の出来事に対しての準備を怠らないためにもまずは一旦家へと戻り、汚れを落として着替えよう。そう思った矢先、

「マスター、通神が入ってります。松平・元信よりです」

「様をつけろよ!!」

「いえ、マスター以外を敬う気持ちは皆無ですので」

 これも何度も繰り返した議論だ。しょうがない、と思いつつ表示枠を出現させる。そこには松平・元信の姿がある。背筋を伸ばし、敬礼する。

「おはようございます殿先生!」

 それを見て、元信が苦笑する。

『おはよう飛場君。そんなにかしこまらなくていいよ、先生もっと軽いノリが好きだし。その姿を見るに徹夜明けかい?』

「Jud.歪み潰しと術式の配置をさっき完全に終了させたところです。他の者は全員返しました」

『うんうん。君の様に怪異に対して知識と経験が豊富な生徒がいるのは先生も鼻が高いよ』

「恐縮です」

 表示枠の向こう側の元信に向けて頭を下げると、再び苦笑される。

『じゃあ、飛場君。体を綺麗にしたら新・名古屋城の方まで来てほしいんだ』

 それはつまり、

『夜まで結構時間あるし、先生の話相手になってくれないかな?』


                           ●


 新・名古屋城は地脈炉を四基、そして統括炉を搭載した巨大な工房だ。教導院、という名目は持っているが、実の所人はほぼいない。中に入る事が出来るのは今も元信に仕える者たちと自動人形ぐらいで、その内部は秘密にされている。潜入しようとした精鋭部隊がオタクになって発見されたりと、新・名古屋城の警備も防備も完璧と言っていい。

 本来なら生徒と言えど、入城出来ない場所だ。

 こんな自分がここに入る事が出来るのも、自分の家名、そして今の自分の位置が大きな意味を持っているという事は理解している。

 一度本多の家へと戻って汚れを落とし、着替えを済ます。着替えが終わったところで食堂に顔を出すと、そこで後片付けをすうs目ている鹿角の姿を見つける。

「おはようございます鹿角様」

「おはようございます飛場様、お食事はどうなさいますか?」

 多分鹿角はもうわかっているのだろうが、自動人形としての性だろうか、細かい事は把握したり記憶しておかないといけない。あっさりと、だが少々申し訳のない気持ちで答える。

「あ、朝食の方は携帯食料の方で済ませましたので大丈夫です」

「そうでしたか。ではこれからのご予定は?」

 そう言って鹿角は此方を見る。

「たぶん”祭り”まで名古屋城の方にいると思います。あの、その……」

「Jud.非常に愚かな選択だとは思いますが、私にそれを止める事は出来ません。存分に励むと良いでしょう」

「―――ありがとうございます」

 鹿角に頭を下げて食堂を出る。そしてそのまま本多の家を出る。もう自分がこの家の敷居をまたぐことはおそらく、永遠にないだろう。その事実が少し非現実的なものに思えながらも、真直ぐと新・名古屋城へと向かう。既に元信と会話してから半刻は経過している。着替え等があったとしても、流石に主君をこれ以上待たすのは侍として忍びない。門を抜けた所で身体強化の術式を起動させ、

 軽い跳躍と共に屋根へと飛び移り、新・名古屋城へと向かう。

 流れる様に変わる景色は自分の体がそれなりの速度を出している事を証明する。だが流れる景色の中に人影は一つもない。それはこの近くにはもう人が住んでいないことを証明する証拠でもある。人払いの影響で近くの民家には一人もいなく、その末手が三河の郊外へと棲家を移している。寂しいと思う反面、地脈炉の影響を受ない為怪異にも襲われず、それはそれで幸いなことかもしれないと判断する。

 頭の上にエセルドレーダが乗っていることを確認し、もう少しだけ加速する。


                           ●


 新・名古屋城の中は迷う程広くはない。いや、歩ける場所が限られているべき、と言った方が正しい。見るものが見ればこの中で何が起きているのかを理解できるのだろうが、生憎と其処まで頭がいいわけではない。結局のところ、武神に関する知識と、外道の魔術に関する事、あとは武術。それに関する知識でしか役に立てないどうしようもない男だと自分を判断している。新・名古屋城に入ると、自動人形が頭を下げ、無言で此方を先導してくる。

 そうやって到達したのは新・名古屋城の天守閣に相当する場所。壁に整列する様に存在する大量の自動人形。中々圧巻される光景だ。だがそれに特に気にすることもなく、部屋の中へと進み、部屋の中央で膝を折る。その先には松平・元信の姿がある。

「あ、先に言うけど頭を下げたり膝を折って挨拶したりすっごい畏まったら超怒るからね?」

「ットゥ!」

 反射的にバク転で立ち上がった。頭の上でエセルドレーダがパチパチと手を叩いて称賛してくれる。

 ―――元信公、超心臓に悪い……!

 やっぱり、元信公が自分の知っている人間の中で一番苦手とする人物だなぁ、と思いながら、適度に体勢を緩くしながら正対する。

「飛場・竜馬お呼びにより参上です」

「うんうん。今のを見るとどうしても歳を感じちゃうなぁ」

 松平・元信の姿は老いている。白髪が目立つし、筋肉も落ちてきている。ただ、その目を見れば情熱が今も身を焦がすほどの強さで燃え上がっているのが見える。この男は死ぬその瞬間まで自分の想いを、理想を手放す事は絶対にありえない。それが理解できる。

 元信が背中を向けて天守閣の外、ベランダ部分に移る。ちょいちょい、と片手で近づく様に手招きしてくる。故に斜め後ろに、元信が見えるものが見える位置に立つ。

 そこから見えるのは、山の向こうに停泊する武蔵だった。

 本当にギリギリだが、武蔵の姿が見える。港に停泊し、物資を中に溜め込む姿が。

「そういえば本多・正純君とは連絡を取り合っているんだっけ?」

「はい。元旧友という事もありますから。ただ、自分よりは二代さんの方が仲がいいんですけど……」

「うんうん。仲がいいのはいい事だよ。友情とか絆はお金には出来ないものだからね。奇縁が巡りにめぐってどこで助けになるかなんて誰にもわからないし。大切にした方がいいよ、本当に」

 そう言う元信の声は何時もの若干アッパーなテンションがなく、実に落ち着き、静かなものだった。元信らしくはない……とは思わない。公に見せる姿とプライベートで見せる姿が同じ、という人間はそこまで多くはない。いや、自分の知り合いで言えば比率はかなり多いのだが、少なくともこの人物は違うと思う。

 良く解らない人だ、とは思う。

「悪いね、飛場君。歳よりの話に付き合わせちゃって」

 すかさず両手を振る。

「い、いえ! そんなことありませんよ!」

「解ってるのならマスターのお手を煩わせないでください。私と二人っきりの時間が減ってしまうではないですか」

 余計な事を言うエセルの小さい姿を素早く両手でつかみ、笑顔のまま黙らせる。

「あははは、本当に君たちは仲良しだねぇ、君の様に若い子を見てると本当に自分がどれだけ老いたのかを思い知らされるよ」

「殿先生……」

 それに対して言える事はない。ただ、殿先生が―――松平・元信が武蔵をどんな気持ちで見つめているのか、それを察する事しかできない。武蔵に関しての出来事、データはそれとなくこっちの耳に入ってくる。自分に対して正純の話を向けてきたのも正純の事を意識してではなく、そんな彼女と親交のある―――いや、よそう。

「殿先生」

 改めて伝える。

「自分は侍です。―――若いとか、老いたとか、そういう事を抜きにしてお使いください」

 とっくの前から覚悟は出来上がっている。

「……本当に、申し訳ないね。特に君の奥さんには謝らないといけないね」

 それを言うのであれば、二代に謝るべきなのは俺だ。俺こそが頭を下げて、謝るべきなのだ。だがそれをするだけの時間もないし、するつもりもない。自らの道に後悔はない。本多の家へと転がり込み、育てられたこの大恩、

 忘れる俺ではない。

「飛場……いえ、東国無双の家に名を侵せてもらうものとして―――死力を尽くします」

「すまないね、そして頼りにしてるよ」

 知らされている事は少ない。理解できる事も少ない。だが解る事はある。松平・元信は本気だ。本気でこの極東の世を動かそうとしている。情報は全く来ないし、教えてもらうつもりもない。だけど、自分は武士だ。侍なのだ。全力で主君への忠を示すのが侍であり、自分の主君は松平・元信なのだ。

 ―――すみません、二代さん。

 もう会うことがないであろう伴侶に対して心の中で謝罪する。

「じゃあ―――暗くなったら”お祭り”を始めるよ。頼んだよ」

「―――Jud.」

 それに応えたのは俺だけではなく、

 背後に並ぶ大量の自動人形達。

 その全てが、自らの役目を果たす為に目覚めた。




スランプ続行中。久しぶりに書いたらこんな感じに。
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| 境界線上の写本保持者 | 15:16 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

そろそろアクセル・ワールドの更新を……!w
続きが気になってしかたないです…

| 匿名 | 2013/01/25 01:27 | URL | ≫ EDIT

おお!久しぶりの更新ですな!
続編期待してますぞ!

| | 2013/01/31 22:17 | URL |















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