陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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辺境 ―――ファースト・タッチ

推奨BGM:Burlesque


 水なんてなかった。

「ちくしょう……」

「喉が……かわいた……」

「言うな……」

 そんな言葉を漏らしつつ大地に倒れる草木が生い茂る森の中とは言え、それだけのスペースは十分にあり、そしてそれをするだけの理由が俺らにはある。倒れ、仰向けになって木々の間から空を見上げれば、歩き始めたころは青かった空も既に夕日のオレンジ色に染まっている。都会にはない、スモッグに遮られない美しいオレンジ色の空だ。昔、今の母たちと一緒に田舎へ行った時の事を思い出す。その時、田舎で見た空よりも綺麗に澄んでいる様に見える。皮肉かな、こうやって不幸な目に合わないと美しいものを見れないなんて。

「水なんてないじゃん……」

「だから言うなよ……」


 鬱陶しそうに答える正樹の声は中々レアなものだ。基本的に品行の良いこの男の仮面が外れる事はないので、それだけ焦っているのか、ネガティブに入っているのか、だろう。俺達はこの森に入ってから自分達以外の人間を見つける為に森の中を歩き続けてきた。それも半日ほど。こうやって美しい夕日が見えてくるまで歩き続けてきた。

 だが見えたのは鹿ぐらいだった。

 途中でお腹が空いて、本気鹿を狩猟でもしようかと一瞬迷ったが、正樹に目が予想外にイってると言われた手前、我慢するほかなかった。気合出せば心意で三分クッキングできそうだった勢いだったので、自分でも相当追い込まれている事にその時は気づいたのだ。だが、それ以来生物は見ないし、水の音はしないし、森は永遠に続くし。

 そうやって現在、完全に疲れて倒れている。

「ともあれ、解ったことが一つある」

「ん?」

「これは俺達のALOでのアバターじゃなくて、リアルの身体能力をベースに作られているアバターだって事だよ。アレクのアバターを使っているのだったらこんなにも疲れないし、体力とかもほぼ現実ぐらいだったし」

「そりゃあそうだろ」

「いやいや、これって結構重要な事だぞ? 少なくとも俺達を知っている人間の犯行という事が断定できる」

「あ」

 まあ、確かにここまで来ると完全に断定とも言えるのだが、個人的には勘で完全にラースの仕業だと思っていたので判断材料が増えるのはいい事……なのか? だが、それが解ったところで別段状況が好転するわけでもない。それ以来正樹と共にだまって草の大地に倒れたままでいる。動かなくてはならないのは解っているが、それでもやる気というものが湧いてこない。ここまで歩いて無駄足となると次第にだが人間がいるかどうか怪しくなってくるものだ。

「……」

 嫌な事を考えてしまった。

 ……もしかして、人間や文明のない世界に送られたのではないか、等と考えてしまうほどには―――

「―――キリト」

「ん?」

 唐突に名前を呼ばれたので、視線を正樹の方へと向ける。すると何かに集中しているのか。上半身を持ち上げていた。目は閉じていて、恰好的に何かを聞こうとしているようにも思えた。

「なにか聞こえないか?」

 そう言われて、自分も耳を澄ます。目を閉じて、神経を集中させる。この森の中に響く音源を漏らさぬように、集中し、そして正樹の言う音を拾い上げようとする。

 ―――そして、カン、と甲高い音が響くのが聞こえた。

 本当に小さく、それこそ木々のざわめきに紛れて消えてしまいそうな音だ。だがそれは自然にできる音ではなく、ALOでも聞いたことのある音だ。木を伐採するときに、斧を切れ込みに叩き込んだ場合発生する音だ。即ち人工的に生み出される音だ。

 人がいる。

 その結論に至った俺達は言葉を発する必要もなく飛び上がると、音の下方向へと走り始める。音がした方向へ、人がいると確信して、全力で走る。走るごとに俺の勘は何かがいる事を告げるし、気配としても誰かがいる事は感じられる。故に間違いはない。森の中を駆け抜けて、繁みを飛び越して―――、

 ―――久しぶりとなる大樹の前に出た。

「……ぇ」

 何故俺は、戻ってきたと思った―――?

 真っ先に思い出すのは既知感。感染によるリフレインと経験。終わりのない地獄。だがそれは終わった。解放された。そして、生まれる筈がない。なぜなら自滅因子たる司狼はここにいないのだから。だから感じた違和感に対して戸惑った瞬間、大樹の根元で斧を握る青年の姿を見つけ、不意に懐かしさが胸を満たす。既知、ではなく懐かしさという点で違和感を再び覚え―――忘れる。

 そんな事よりも、今の俺達には大事な事がある。

 突如として現れた俺達に対して斧を持つ青年は驚くが、次の瞬間、俺達が放つ言葉に酔って動きを停止する。

「水を……水をください……!」

 切実な願いであった。


                           ◆


 昼飯の残りに水筒の中身が残っていたらしく、それを青年に分けて貰った。半日飲まず食わずで人を探していた俺らからすればようやく報われた瞬間でもあった。シラリー水等という聞いたこともない水を口にしながら青年に感謝し、再び大地に倒れる。

「ありがとう―――ところで君は誰だ」

「あの、それ、僕が聞きたいんだけど……」

 斧を持った青年は茫然とした様子で、苦笑いを浮かべていた。それもそうだろう。茂みの中から飛び出した人物がいきなり水を恵んでくれと頼んだのだから。しかもそれが初対面の人物となればもっと驚く事だろう。ここからはどうすべきか一瞬困るが、えーと、と言葉を置いて青年が話しかけてくる。

「君たちはルーリッドの村に用事があって来たの……かな? 村だったら南に少し行けば道があってそこから行けるけど」

「村があるのか?」

「うん、というか僕がそこに住んでいるんだしね。仕事も終わった所だし、行くのなら僕が送るけど?」

 青年のその提案にガッツポーズを作り、そして正樹とハイタッチをする。その様子に青年が軽く笑う。

「君たちは仲がいいんだね。髪の色も一緒だしもしかして兄弟? どこから来たの?」

「っ……」

 言葉に詰まる。目の前の存在をどの前提で話すかどうかを考えていなかった。ラースでの研究内容をある程度は把握している。故に目の前にいるのがNPCか、それとも記憶を封鎖されているラース社員なのか、それを判断する方法がない。ラースで、STLでのダイブを続けているから解る。STL内でジェネレートされた人物達には俺達と似た様な魂が―――フラクトライトが生み出されている。少なくともそれを聞いた。どう話しかけるか一瞬迷ったところで、おれよりも先に正樹が口を開けていた。

「あ、いやさ、それが俺達何時の間にか森の中を彷徨ってたんだよ。気が付いたら何時の間にか、ってやつでね。彼と俺ですぐに意気投合したのはいいけど、記憶の賭けている所が多くて……その、名前ぐらいしか思い出せるものがないんだ……」

 正樹の迫真の演技に一瞬驚かされる。が、記憶喪失というネタは定番だし、こういう場所では結構使いやすい設定だ。何よりこの世界に関する情報の欠落がそれを後押ししてくれている。驚いた表情の青年に対し、手を出しながら名乗りを上げる。

「俺はキリトで、あっちが正樹」

「おい」

 正樹が何かを訴えているようだが気にしない。手を伸ばし、青年が握手してくれる。

「僕はユージオ」

 ユージオ。これまた脳を刺激する名前だ。……おそらくだが、STLダイブ中に関わったのか、そんな感じのなのだろうと思う。記憶が封鎖されている以上、それを判断する方法がないので、今のところはユージオという青年をとっつきやすい、童顔の青年として認識しておくだけで十分だ。

「うーん、だけど記憶喪失に知らない場所かあ……」

 斧を肩に担ぎながら、意外とパワフルな青年は一瞬考えこむ様子を見せてから、小さな声でつぶやく」

「もしかして≪ベクタの迷子≫なのかなぁ……」

 ユージオが何やら呟き、考えている間に正樹に近づく。正樹も即座に意図を理解してくれたのか、耳を寄せてくる。

「どうやら俺達みたいなケースは前にもあるらしいな」

「多分だけど、キリトの情報が正しいのならラースの社員がこちらの干渉するとき、ベクタの迷子とかいう風に偽造してたんじゃないかな? 理解があるのと内のとでは動きやすさが段違いだからね」

「なるほど」

「ところでなんだ俺だけ―――」

 正樹から素早く離れる。見なくても不満気な顔をしているのは解る。だけど知りたい事は多くある。ユージオの横へと行きながら、質問する。

「なあ、ユージオ。ベクタの迷い子ってなんだ?」

 それを聞いた途端、ユージオが驚いたような様子を浮かべる。よほど驚いたのは、この情報がこの世界の住人にとっては常識なのかもしれない。心なしか少々ユージオが可哀想なものを見る様な目になっている。

「歩きながらでいいかな? 暗くなる前に村に戻りたいし」


                           ◆


「結構色んな事が抜けているんだね。ともかく、ベクタの迷い子っていうのは君たちの様にある日突然記憶もなく表れた人達の事を言うんだ。ルーリッド……ここらへんに表れるのは割と久しぶりらしいけどね。中央へ行けばいくほど頻度は高いらしいね。えーと、ベクタというのは闇の神様の事で、善も悪も区別なく闇の祝福を与える神様なんだけど、気まぐれな所があるらしくて、こんな風に記憶だけを奪って放り出す事もあるんだって」

「なんてはた迷惑な」

「あははは」

 ユージオに先導されるように歩く道は今までの様な道なき道、ではなく長い年月を人の足によって踏まれ、そうやって整えられた道だった。ユージオにあった時はまだオレンジ色だった空も、段々とくれてきて、今では大分暗くなっていた。それでも綺麗に星空が見える空は、見ていて飽きる事がない。

「キリトもマサキもベクタの迷い子か……一度に二人ってのは聞いたことがないけどなぁ……」

 そこで一瞬ドキリ、としてしまう。が、ユージオは特に気にしてない様子だった。

「んー、記憶が戻るまではルーリッドでゆっくりしてるといいよ。幸いこういう場合のマニュアルが修道院の方にもあるし、僕が村長の方に話を通しておくから。だから記憶が戻るまでゆっくりと頑張ろう? あ、でもなんか重要な天職についてたらそれはそれで問題かぁ」

 ちらほらと危機馴れない単語がユージオの口から飛び出てくる。

「なあ、天職ってなんだ?」

 ユージオはまた驚いたような表情を浮かべ、今度はそういえばベクタの事も知らなかったんだね、と一旦自分に呟いてから、

「天職ってのは僕たちが働ける歳になった時に与えられる職業の事だよ。基本的には代々受け継がれるもので、自分の天職を全うした場合は好きな職業を選ぶことができるんだ。……まあ、見ての通り」

 ユージオが斧を持ち上げる。

「僕の天職は木こり。君たちと出会ったあの大樹があった場所―――ギガスシダーを伐り倒さなきゃいけないんだ。ただあの木はもう何千年か僕のご先祖さまから交代で切っているもんなんだけど未だに倒れる気配がなくて……まあ、たぶん僕も適当に結婚して子供に役目を継がせるんじゃないかな」

 軽くそう言うユージオに対して、ここで自分は初めて恐怖に近い感情を感じていた。

 天職、という絶対的なルールを疑うことなく受け入れているユージオに対してだった。何の迷いもなく、終わる事のない作業を笑って続けられるユージオの精神の異常性に。明らかに頭のおかしくなる様で、そして徒労である作業に対して取り組めるユージオに対して。そして同じルールを守るこの世界の住人に対して。

「―――キリト、ここは君が思っているほどいい場所じゃないかもしれないぞ?」

「うん。俺もそう思ってた」

 ―――未知とは新しき刺激と共に、恐怖の一歩である。

 今更ながら、それを思い出した。




まあ、何時もの事ですが。
本自体は持っていますが、描きはじめてからは一切読んでいません。
読みません。
絶対ったら絶対。
だって読んだらどう足掻いても内容がにちゃうじゃないですかぁー!
やっぱりこういうのは原作を”ベース”にするのが楽しいと思うんです。
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| 断頭の剣鬼 | 14:52 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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