陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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重みと意味 ―――ハイ・スピリッツ

推奨BGM:AHIH ASHR AHIH


「暇だなあ」

 数日前からかなり体がだるい。このバーチャル空間の中でさえ重いのだ。間違いなく自分の人生は終わりへと近づいている。だが、もうこれ以上の幸福は無理だ。自分の人生は美しく、輝いていた。これ以上は体が言う事を聞かない。だから諦めよう。諦めて静かに死のう。それがいい―――。

「本当に? ……本当にそれで……いや、もう自答したもんね、けほけほ」

 答えは一緒だ。

 あきらめた。

 僕の人生は周りからすれば不幸の連続だったかもしれない。だけど僕から言わせれば―――僕は幸せだった。こうやって体が言う事を聞かなくなるその瞬間まで、僕は自分を心配してくれる人に会えた。メールのやり取りを仲間としている。自分の証が永遠に消えないように刻み込んだ。ユウキ、そして紺野木綿季という存在が永遠であると証明できた。最後の最後で僕の人生は幸福で満たされていた。もう、経験できない家族との団らんまで味わえた。

 僕は間違いなく幸せだ。


 なのに、

 この胸のつかえはなんだろう。まるで魚の小骨が喉に突き刺さっている様なむず痒さ。最後の最後で何かを台無しにしている気分だ。何かを忘れている。いや、何かを守れでいないでいる。そんな気がする。あぁ、でも、僕は満足してしまったんだ。あの時、あのボスを倒してアナウンスが流れた瞬間、僕がやりたかったことは全て終わってしまった。自己満足で、誰も得をしない事だったけど、それでもスリーピング・ナイツは全てを理解してついてきてくれた。そしてアスナは半分騙す様な形だったけど、それでも全てを知らずに……知ろうとせずについてきてくれて感謝している。

 最後の最後でネタバレして、多分泣かせちゃった。その事に関しては本当に申し訳ない。どんなに謝ったって許されるようなことではないと思う。それでもどうしても隠しておきたかったんだ、僕が死ぬ事を。だって、たぶんそれを聞いたらアスナは立てなくなるから。たぶんどうして、って凄く困るから。だから知らせたくなかった。

 記憶の中のほら、あの身勝手な少女。満足するだけしたら勝手に自己完結しちゃう嫌な奴。そんな感じのイメージで終わっててくれれば僕としては大満足だった。シウネーにだって死んだ後に言わない様に口止めしてた。お葬式もこっそりひっそりで終わらすように頼んだ。なのに、なんでばれたんだろう。

 やっぱりアスナの男の趣味悪い。うん。あんな秘密をズバズバ見抜いちゃう男、趣味が悪いとしか表現ができない。もう少し個人のプライバシーや心情、想いってのを大事にすべきだと思う。だから黒の英雄キリトは強くてもメンタル的には子供。大人な僕の方が勝ち―――って事にしておく。

「あーあ、どうしよっかなぁ」

 手を軽く動かすと、指の先の感覚がない事に気づく。ついでに足の指の感覚もない。多分、今日明日が山なのかもしれない。今週中とアスナには言っていたが、どうやら今日明日になるっぽい。……アスナは昨日帰ってから何一つとして連絡をくれない。それはそうだ。あんな事秘密にしておいて、簡単にけりがつくはずがない。だから僕は、

 ここでひっそりと満たされて死ぬんだ。知るのはスリーピング・ナイツと第二の両親だけ。それだけの小さなお葬式。でもそれが僕の絆であり、家族なんだから。こんなに満ちていれば大丈夫。僕は満足して逝ける。

「―――それでいいのか?」

「え?」

 何時の間にか、部屋にはもう一つの姿があった。いつも唐突にやってくる彼の姿。こうやって登場するのも凄く久しぶりに感じる。彼と彼女は良く会いに来てくれるけど、彼一人―――しかもこのような登場の仕方は久しくなかった。あの頃、まだ僕がただの死人だった頃の事を思い出させる。突然の来訪に驚きながら、僕は笑みを浮かべる。それは、諦めの笑みだ。

「いいも何も、対価を貰いに来たんでしょ、悪魔さん」

「なに、悪魔ってのは性根の腐った生き物でね。一番おいしい料理しか食べたがらないんだ」

 その言葉の意味が解らない。言葉の前後が繋がっていない。悪魔―――明広の言葉に首をかしげ、その言葉の真意を探ろうとするが全く覚えのない言葉に混乱する。それが何かを示す事だというのは解るが、いったいどういう事なのだろうか。それともまた言葉で遊んでいるのだろうか。だが、ともあれ、専属の死神がやってきたのだ。

「けほけほ……ねえ」

 咳き込みながらも質問する。

「ん?」

「僕って、死んだらどうなるの」

 その言葉に明広は笑みを浮かべる。

「死んでからのお楽しみだ。退屈する事だけはないから安心しろよ」

「うーん、それを聞くとすごく不安になるなぁ」

「痛みも喜びも不安も怒りも、全部生者の特権だよ。本当に楽しめるのは生きている間だけだ。死後に快楽なんて一つもない」

 最後の部分だけ、その言葉は誰かから借りた言葉の様に感じられたが、増々言っている事の意味が解らなくなったところで、

「獅子は子を谷へと突き落とすらしいな」

「へ?」

 そう言って近づいてきた明広は首根っこを掴んで僕の体を片手で持ち上げた。相も変わらず人間を止めたような身体能力だ。この病室エリアはどのVRゲームのステータスも適応されないというのに、そのルールを軽く無視している。持ち上げた事をここで文句を言ったとしても、それは軽く受け流されてしまうのだろう。この男に文句を言ったとしても軽く無意味な事は既に理解している。だから無駄な事はしない。

「解ってるじゃないか」

「心を読まないでよ」

「んじゃあ―――ちょっと外で遊んで来い引きこもり」

 そんな事を言った直後に、明広が持ち上げた僕の体を投げる。放物線を描きながら投げられた僕の体はベッドではなく白い床をめざし、そして衝突に備えて目を閉じた。


                           ◆


 まず最初に感じたのはカーペットの緑ではなく、石の冷たさと硬さだった。軽く尻が痛い。

「……え」

 目を開ければ自分が病室にいない事が理解できた。目の前にあるのは中世風の街並みだ。石畳の道路、レンガの家、そして露店が多く点在する大通り。その姿は知っている。もうずっと遊んでいるVRMMOの世界だ。自分は、目を閉じて開けた瞬間には自分が慣れた、狭い病室ではなく、無限に広がっているこの妖精郷に―――アルヴヘイム・オンラインの世界に来ていた。しかもここは大都市としての役割を果たしている央都アルンの大通りだ。

 露店でキャラクターを放置している事を抜けば、不思議と大通りにはプレイヤーは一人もいなかった。時間帯的に、というよりどの時間でもアルンもユグドラシルシティもプレイヤーで溢れているはずなのに、NPCや放置状態のキャラクターを抜いてプレイヤーは存在していない。不気味な静けささえ感じる光景だった。その光景に見入り、そしてそろそろ立ち上がろうとしたところで、

 後ろから体を持ち上げられる。

「誰!?」

 驚きのあまり声を少し大きめに叫ぶと、背後から体を持ち上げた人物が前に回ってくる。

「やっほ、ユウキ」

 青髪のウンディーネ、スリーピング・ナイツの最も新しい仲間―――アスナだった。

「あ、アスナ―――」

 いきなりの登場と事態に少し驚き、咳を零す。アスナはこっちの想いを知らずに、僕の手を握るとそれを引っ張って僕を街の奥へと、世界樹へと向けて引っ張りだす。

「え、アスナ? 僕―――」

「いいの、私が自分で勝手に満足してやってる事だから。私がユウキにあげられる最初で最後のプレゼント。だってユウキは誰よりも輝いていたいんでしょ? だったらあんあ所にいちゃ駄目だよ。最後の瞬間まで、それこそ倒れて動けなくなる瞬間まで輝いていないと―――そうじゃなきゃ本当の輝きだなんて呼べないと思うの」

 アスナの言葉に絶句し、何かを言おうとしていたが、その言葉を忘れてしまう。そうやってアスナはひたすら僕を引っ張り、アルンの奥へと引っ張る。それ以来アスナは口を開かないし、僕も言葉が選べなくて口を開けられない。ただアスナが言っている事は真実だ。最後まで、倒れる瞬間まで輝いていることこそ僕の願いだ。だけど、そんな事は不可能だ。そんな幸運に見舞われる事なんて稀だ。人間とは常に奪われ失い、そして妥協する生き物なんだ。

 だから僕は今まで得たもので妥協して、それで認めなきゃいけないんだ。

 僕は輝いていた。

 そうしなければ―――今までの人生が否定された気になってしまうから。

 だというのに、

「―――頑張れユウキちゃん!!」

「―――ユウキちゃんグッズ作ったぜ! 販売の許可を……!!」

「―――負けるな! あんな奴に負けるなよ!!」

 大通りを奥へ、世界樹へと向けて歩くと段々とだが人の姿が見えてくる。屋上の上にいたり、道路の端にいたり、空を飛んでいたりと、彼らのいる場所は様々だ。だが彼らは全員僕にエールを送ってきてくれていた。負けるな。勝て。お前なら負けない。そうやって誰もが僕の事を励ましてくれていた。

 まるで意味が解らない。

「―――忘れない、絶対に忘れないぞ」

「―――頑張れ……頑張れ……!」

「―――ユウキちゃんぺろぺろ!」

 今一人だけ数人がかりで殴り殺されている光景があったがそれは無視しよう。空気を読めないやつとはいつの時代だっているらしい。だがこうやって大通りの奥へと進むと、人は増え、そして声援も増える。アスナは彼らを無視して僕の手を引っ張って歩みを続ける。もう僕は逃げる気もないのだから、手を放してもいい気がするけど―――やっぱりやめた。アスナの手は暖かい。姉の手を思い出す。もう少しだけこの温もりを感じていたくて、手を少しだけ強めに握り返す。

 そうやって、

 背中に声援を受けながら到着したのは央都アルンの最奥、世界樹前広場だった。色々と伝説になっている場所だ。元々はグランドクエストで世界樹内部に挑戦する前の準備用の広場なのだが、ここがアルン崩壊と決闘の為に何度も利用されているため、一種の決闘の聖地とされている場所だ。まず坂を上がった所に広場が存在して、その先に階段があって、その上にもう一つ広場がある。それが世界樹前広場だ。アスナは僕を世界樹前広場、階段の前まで引っ張ってくると、手を放して抱きついてくる。

「馬鹿っ……大事な事は先に全部言わなきゃ駄目じゃない……!」

「……ごめんなさい……どうしても悲しい思いをさせたくないから会いたくなかったんだ。知らせたくなかったんだ。本当にごめんなさい」

 許しの言葉を求めようとして、アスナが僕の口を人差し指で塞いでくる。

「私は年上のお姉さんだから特別に許してあげるし―――特別にプレゼントも上げる」

「プレゼント?」

 そう言って首をかしげる僕に向かって悲しそうにアスナはうん、と答えて頷く。抱擁を解いたアスナは一歩後ろへと下がると、階段の上へと指をさす。

「私が用意できるのはこれだけ。これまで。結局のところ、私にはそこまでの力がないから。だからこれが精いっぱい。ユウキの最後の大舞台を生み出す事だけが、私に出来る精一杯の事だったから」

 その言葉を聞いて―――僕は階段を上った。一歩一歩、階段を足の裏で、消えてゆく感覚で確かめながらしっかりと踏んで上る。そうやって僕は階段を上り切ったところで―――あるものを申し込まれた。

『初撃決着モードで対戦を申し込まれています』

 世界樹広場の奥、扉の前に背中を向けて立っていたのは黒いコート姿のスプリガンだった。背中には黒と黄金の二刀を背負っており、その全身からは今まで見る事の出来なかった威圧感と覇気が、そして殺意があった。とてもだが人間とは思えない剣呑な気配。だがそれは全て、ALOのプレイヤーにおいて真に最強と言われる男が本気になった証だった。今までの甘い顔も、優しさも、その全てを捨て去った、戦闘だけの為の状態に入った黒の英雄。

「ここは元々俺がある男と戦った場所でな……こうやって待ち構えられて、絶望しながら魂を削って戦ったもんだよ。文字通り身と命を削っての勝利だった。さて―――」

 黒の英雄キリトは振り返りながら言った。

「ユウキ。俺はお前の命を、最後の一滴まで絞りつくす。覚悟しろ―――」

 二刀を抜いたキリトの視線には殺意がある。間違いなく僕をこの戦いで殺す気だった。黒の英雄とまで謳われた男の全力の本気。それを受けて真っ当な人間ならすくみ上り、気絶するかもしれない。だけど、

 僕は笑みを浮かべて了承のボタンを押した。

「―――冥途の土産だ、最期の瞬間まで輝いていけ!」

「……ありがとう、アスナ、キリト」

 これは、僕の最期に与えられた最後のチャンスだった。

 終わるその瞬間まで、全力で生きる。

 その最後のチャンスだった。




超大人げないキリトさんvs死にかけユウキちゃん。
これ、キリトさんアンチつきそう。

結局のところユウキちゃんも結構壊れている人種でして、刹那に輝けるのであれば向こう見ずで、むしろ輝いている間に死ねるのであればそれが最高って感じのアレな子なんです。でも可愛い。
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| 断頭の剣鬼 | 14:13 | comments:6 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

二度あることは三度ある。
そうアルンは三度目の崩壊を……!

| 柳之助 | 2012/12/17 15:50 | URL |

キリトさんもこわれてるような?
てか、登場人物のほとんどが皆何処かこわれてるw





ユウキちゃんペロペロ

| とっつき | 2012/12/17 17:06 | URL |

流石に、キリトの二刀でもきついか……。
しかしユウキかわいい。

| 空 | 2012/12/17 18:50 | URL |

大人気ない? 某所の子持ち軍人閣下とか、コズミックニートとか、首フェチな妖怪とか――総じてtopに近づくにつれ容赦とか他者に合わせるのは苦手or思慮にないとかいう人達が集まる世界で容赦とか(笑)

ああ、でも頼むからあれだ。折角の刹那の輝き、仕事してくれとは言ったけど、そこは仕事しなくていいぞニートよ(笑)
あとキリキリは今日も決まってる(アスナ視点)

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/12/17 19:23 | URL | ≫ EDIT

どーしよ。
これからゼミなのに目の前セルフエコノミー。

この舞台をセッティングしたアスナさんいい仕事でした。
ユウキにもアスナにも、悔いのない結末を待ってます。

| 断章の接合者 | 2012/12/18 07:31 | URL | ≫ EDIT

久々のキリトさんの本気モードだぁ!!!

こ、これはキリトさんとユウキちゃんの文字通りの全力全壊勝負!!

| ガリバー | 2012/12/18 21:46 | URL |















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