陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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重みと意味 ―――アイ・アム・ベリー・セルフィッシュ

推奨BGM:Nacht der langen Messer


 嫁の目が死んでる。

 アインクラッドの二十二層、自分の家、暖炉の前のロッキングチェアの上で何時もの様に昼寝でもしようかと思って座っていると、ユウキに会いに行っていた嫁が、アスナが帰ってきた。だが帰ってきたアスナは目元を赤く腫らして、明らかに泣いた跡を見せていた。だから無言でベッドへと運んで、寝かしつけたのだが、予想外にすんなり寝てしまった事から、やはりアスナは疲れていたのだろう。

 まあ、ルサルカ……アンナからユウキの居場所を聞き出してもしや、と思ったがやはり嫌な予感というものは良く当たる。本当に運命というものがあるのであれば、その創造者を一回ぶん殴ってやらなければ到底納得する事も満足する事も出来ないだろう。だが現にそれが不可能なことぐらいは解っている。いや、やりそうな人物は二人ぐらいいるが、たぶん彼らでも無理だろう。一応人間だし。たぶん。


 ともあれ、こうやって嫁が弱って困っている所を見る事しかできないのは旦那としては辛い、といっても仮想世界だけの夫婦関係だが。

「ふぅ」

 レアアイテムである飲み物が無限に湧き出るマグカップを手に、今日は運よくカフェ・オレだったことに感謝しつつ、それを口に運ぶ。このマグカップ、湧き出るドリンクが日によってランダムで変動するので、この前、ハバネロドリンクが出てきた時は死を覚悟した。こういう遊び心のあるアイテムはいいなぁ、と思いつつ、今日一日は無限に出てくるカフェ・オレを口にする。少々自分の口には甘く感じられるが、細かい味を選べないところも魅力のポイントだと思っているアイテムだ。

「さて、俺はどうするかな……」

 正直な話、

 ―――俺には何もできない。

 今回の件は完全にアスナの物語。俺が脇役で、アスナとユウキがツートップの主演だろう。だから俺は舞台を動かす能力はない。そう、その説明がしっくりと来る。スポットライトを浴びているのはアスナであり、ユウキであり、俺はこの物語では主演にヒントを与える程度の能力しかない。となると、俺から自発的に動く事も出来ない。アスナかユウキが動かない限りは俺も何かをすることはできない。そんな舞台だ。

「ま、俺もあまり野暮な事はしたくないしな」

 あれであの馬鹿親は隠しているつもりなのだろうか。軽くハッキングしたりして学校の資料を調べればすぐに足がつくのに。なんというか、脇が甘い。

「それとも見逃された? ……いや、どうせ脇役だしどうでもいいか。一番重要なのは―――」

 アスナへと視線を向ける。一番重要なのはアスナの選択だ。たぶん、俺が何をしようとも、話を進めようとしても何らかの妨害が入るに違いない。それは”今までの結果を見れば一目瞭然”なのだ。これ以上俺が茶々を入れようとすれば何かが来るに違いない。だから一番重要なのはアスナの選択であり、俺が彼女を導けるかどうかなのだ。結局のところ、俺も酷い脚本を見たくはない。バッドエンディング何て以ての外。救いのない物語だとしても最後は笑っていられるようなトゥルーエンドを目指す様な人生でいたい。ささやかな願いだ。

 だから、

「そろそろか」

 マグカップに口をつけながら、ベッドの中で動き出すアスナに視線を向ける。


                           ◆


「ん……」

 意識が少しずつ覚醒する。昔のALOはALO内で眠ればそのままログアウトしてしまう仕様だったが、今は寝落ち防止機能がついているのでその心配はない。だから今いるベッドは、ALO内の我が家のベッドだ。大量に溜め込んだ財産を放出して購入した家と家具だけあってベッドは高級品で、かなり柔らかく、気持ちがいい。現実的に言うと柔らかいベッドは背中に悪いらしく、選択肢としてはあまりよくないそうだが、仮想世界ではそんな事は関係ないだろう。

「おはよう、アスナ。と言ってもリアルじゃあもう八時ぐらいなんだけどね」

「え……?」

 苦笑するキリト君の姿が見える。いつものロッキングチェアに陣取り、マグカップから何かを飲んでいる。おそらく今日はアタリを引いたのだろう。視線を窓の外へと向ければ外は太陽の光が差し込んでかなり明るい。朝となっている。ALOは一日十六時間設定なので、リアルが夜でもALOが朝になっているのは多々ある事だ。こういう場合は体内時計の調整がいろいろ面倒だ。もうALOも二十四時間設定にしてほしい。

「私、どれぐらい寝てた?」

「んー、そうだなぁ……」

 考え込む様に頭を捻ってから、キリト君が口を開く。

「大体二時間ぐらいだよ。たっぷり寝顔を堪能させてもらったよ」

「も、もう!」

 言ってくれればいつでも見せて上げるのに、と言ってから自分が何でここにいるのかを思い出し、無言になる。どうしても思い出してしまうのは諦めきったユウキの顔で、あんな少女に似合うような顔ではない。到底許せない。許せるはずない、そんな顔だ。自分がユウキのあの顔をどうしようもできなかった事が何よりも腹立たしい。あぁ、思い出してしまう。思い出すと再び涙を流してしまいそうになる。それを堪えようとして、

「アスナ」

 キリト君が声をかけてくる。キリト君に視線を向ける。私よりも一歳年下の恋人。まだ母親には認められてないけど、父親は認めてくれる大事な大事な人。私よりも若いのに、いつも見る彼の背中は私のより大きく感じて、そして私よりも多くの真実を掴んでいる様な、そんな気さえする。

「なあ、アスナ」

「何?」

 キリト君が問いかけてくる言葉に私の思考は一瞬だけ、停止する。

「紺野木綿季は本当に不幸だったのか―――?」

 ……。

 一瞬の思考の停止から復帰するのと同時に口を開く。

「そんなの当たり前だよ! だって、だってあんな人生―――」

「―――それをユウキは悔いていたか? 彼女は一度でも不幸だと嘆いていたか? 人生というものに対して怒りを見せていたか?」

 それは、そのはずだ。だってユウキの、紺野木綿季の人生を振り返ってみよう。彼女は小学校では迫害され、親を二人とも亡くし、そして唯一の両親である姉さえも失ったのだ。ALOに存在を刻んだとしても、木綿季という名の少女の人生が不幸と裏切りの連続だったことは疑いようがない。そんな人生に対して不幸だと嘆かない方がおかしい。

「あ―――」

 でも、

 彼女は一度も嘆いてなんかいなかった。諦めたような、悟ったような表情を浮かべても自分が不幸なんて言って、その言葉に逃げる事は一度もなかった。だけども、

「不幸だって嘆かなくてもあんな人生ないよ! ずっと死ぬ事しか考えてないよあの子!」

「かもな。アイツと俺、そっくりだしなんとなく解る」

「解る?」

「あぁ」

 キリト君が頷く。

「もし、アイツがSAOにいたら俺の代わりにアイツが二刀流を受け取っていたに違いない。それだけアイツは凄い。でもな、考え方が俺と一緒なんだよ。簡単に言うと刹那主義者。今、この一瞬全力で頑張れればいい。あとはあと。そん時が来たら考えればいい。楽観主義とも言えるしいきあたりばったりって言ってもいい。計画性のない人間なんだけどさ、すっごい似てるんだよな、そこらへん」

 ただ、

「ただ俺とアイツの違いは二つ。俺はもっと向こう見ずなんだ。未来なんかよりも明確な今を楽しんでいたい。凄い自己中心的なやつなんだよ、俺は。だけどユウキはずっと昔から死という未来しか見てこなかったから―――」

「キリト君と違って……死という未来しか見えていない?」

 あぁ、とキリトが言って頷く。マグカップに口をつけて、少し甘いなぁ、等と感想を零す声が聞こえ、

「本人は否定するかもしれないけど、紺野木綿季という少女は死という未来から逃避するために刹那を楽しむフシがある。理解はしているんだけど死ぬって事が怖くてそれから逃げようとしているんだよ。悟っているのとか、諦めているとか、そういうのは多分全部嘘。うん、なんとなくだけどそんな気がするね」

 キリト君お得意の勘か、と茶化したい所だが、キリト君の勘というものには今まで何度も救われているし、自分も最近勘の可能性に関しては考慮している所がある。意外と勘というものは馬鹿にできないし、何よりキリト君の言葉には説得力がある。何か、信じ込ませるような強い力を持っている。

「じゃあさ」

 口を開き、小さな声で零す。

「……私はどうすればいいのよ……」

 マグカップから口を放しながらキリト君は真顔で私の目を覗き込み、そして言った。

「さあ?」


                           ◆


 ベッドから滑り落ちそうになった。ちょっとだけ裏切られた気分になったが、即座に持ち直して立ち上がる。

「キリト君!」

「あははははは」

 ロッキングチェアの上から此方の様子を見て笑うキリト君の姿は先ほどまで真剣な表情でユウキについて教えてくれていた彼とは違う。普段の、冒険している時の彼だ。マグカップを両手で握りながら、キリト君が少しだけ、真剣みを声に帯びさせる。

「まあ、正直な話、俺は脇役だからな。全てを決めるのはアスナの責任だよ」

「脇役?」

「そう、脇役。SAO事件、ALO事件、GGO事件。今までのVR関係の事件には全部首を突っ込んできてちょっと人間やめたり止めなかったり一緒に人間踏み外したりしたけど、……今回の件は完全に俺の管轄外、俺の出る幕じゃないんだよ」

 そこで、キリト君は少しだけ大人びているが、疲れている、そんな表情を浮かべて溜息を吐く。

「ま、あんなものがあるんだ終わるはずないよな……使い方は解らないにしろアレは明らかに第三世代とは言い難い性能だし、ダウンサイジングは今の技術じゃあ不可能だろう……いや、そもそもアレは……だとしたら、やっぱり……」

「キリト君?」

「あ、いや、悪い」

 時々こうやって一人だけ理解したり、思考に没頭してしまうのがキリト君の悪い癖だ。それで一人だけ納得して進めてしまうからなお悪い。そこらへんはやはりSAO時代のソロとしての経験や癖なんだろう。だがともかく、

「あぁ、えーと、とにかく。これでVRを巡る事件は終わらないって話。今はたぶん、休憩。俺がでしゃばるところはない、そんな時間。たぶん最初から最後までアスナとユウキだけの舞台だと思うよ。あぁ、うん。たぶんそんな感じかなぁ」

「良く意味が解らないけど……?」

 キリト君が苦笑する。

「多分理解しちゃいけない事なんだよ。少なくとも俺は手遅れなのかもしれない―――ま、完全に関係のない話になるし本題に戻ろう」

 そこで一旦キリト君が区切り、

「今一番大事なのは―――アスナが何をしたいか、なんだよ」

「それが解ったら苦労しないわよ……」

「本当に?」

「……」

「本当に解らないのか?」

「……」

 キリト君のその言葉に無言になる。やりたい事、そしてやらなくてはならない事、というのは言葉が似ていても全く違う二つの行動だ。そして私がユウキの為にすることは―――たぶん、やらなくてはならない事なんだ。本当の意味で、ユウキに対して心の救いを与えたい。これはとても身勝手で独りよがりの自己満足なんだろうけど、それでも、何かをしなくてはならない。

 そう、ユウキが何よりも刹那に輝ける瞬間を与えて、それを幕引きにする。

 身勝手な願い。

 ―――どうか最後の瞬間まであきらめず、輝いていてほしい。

 そのためには、

「ねえ、キリト君」

「なんだ、アスナ」

「―――お願いがあるんだ」

 私の言葉に、キリト君は笑みを浮かべた。

「I'm on your words, my princess」(お言葉のままに、お姫様)

 卑怯で、勝手だけど―――私も、スリーピング・ナイツの一員だもの。




良妻? いいえ、良夫でした。キリト△。
マザロザもいよいよ終わりが見えて来ました。
原作とは違う終わり方なのはもう見えてますね。

さて、マザロザが終われば―――ヤツが来る。
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| 断頭の剣鬼 | 15:07 | comments:7 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

キリトくんこうして見るとイケメンだよね。

そして奴は絶対に許さない。

――我らの黄昏は絶対に奪わせない

| 暇人 | 2012/12/16 15:18 | URL | ≫ EDIT

キリト、身体能力は落ちたが考察力(洞察力かな?)はますます人外化してきてるな。
そして、ついにアイツが来るか……。
おのれ■■、ハイパー☆インド大戦に出れないからといって、こちらに来るとは。我等の黄昏は絶対に護ってみせる……!

| 空 | 2012/12/16 18:27 | URL |

ついにウンコマンがくるか
今度こそ勝てるか?

| アカガネ | 2012/12/16 21:22 | URL | ≫ EDIT

やだ、キリキリイケメンすぎ……。

そしてついに糞インドが来るか……。
滅尽滅相? 知らぬ聞こえぬ見えん! 消えるのは貴様だ波旬!

| 裸エプロン閣下 | 2012/12/16 21:37 | URL |

ヤダこのバカップル、隙あらばイチャつくわw
そして、確かに皆さんの言うとおりキリトさんイケメン過ぎる(笑)

んで―――とうとう来るか第六天。
前座はいらん知らん認めん。お前の舞台は此処には無いぞ端役は疾く去るが定めと知れ――さて、
という訳でそろそろメルクリウス表で仕事しようぜwww

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/12/17 07:34 | URL | ≫ EDIT

やだっ!キリトサンまじ良夫w
ニートよ今こそ働く刻だ!

| とっつき | 2012/12/17 12:18 | URL |

たとえ目が死んでいても、副団長カワイイ.
キリット爆ぜろwww
キリトさんの人外化が順調に進行中。

■■、我ら軍勢(レギオン)の全ては貴様を許しはしないっ!!

| 断章の接合者 | 2012/12/18 07:10 | URL | ≫ EDIT















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