陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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重みと意味 ―――ライフ・イズ・ア・クラップ

推奨BGM:Sol lucet omnibus


 明広から話を聞き終わった私は椅子から立ち上がる事が出来なかった。なんということはない世間話風に語られた紺野木綿季の半生は重すぎた。あまりにも重すぎた。とてもだが一人の少女に課していいような所業ではない。これでは、あまりにも報われなさすぎる。人生に救いが全く見当たらないのだ。

 話を聞いたからこそアインクラッドの本当の意味を理解した。ユウキはただアインクラッドに名前を残したいのではなく、死んでも忘れられない様に、自分が生きていたという証をアインクラッドに残したかったんだ。

 ―――紺野木綿季という少女は間違いなく不幸と試練の人生を味わってきた。

 出産時の輸血においてHIVに感染、その時からユウキの人生は全てが決まっていたのだろう。成長しながらもHIVに感染しているため免疫力がなく、様々な症状に体を狂わせながらもユウキは普通で居たい為に学校へ通った。そしてユウキは優秀だった。優秀でクラスで何時も一番の成績を取っていた。しかし、ある日、彼女がHIVに感染している事が知れ渡ってしまう。ステレオタイプだ。性行以外にも感染する方法はあるのに、誰もそれに目を向けようとせず、ただただユウキを汚らわしい存在としてコミュニティから排除した。そうやって学校へ通えなくなったユウキは―――親を失い、そして姉を失い、孤独に生きてきたのだ。


 この病室で、何年も、ただ孤独に。

 それがユウキの送ってきた人生だ。

 ―――到底、理解のできるものではない。腐っても、絶対にその気持ちはわかる、辛かった、そんな言葉を吐けるような背景ではない。そんな安っぽい言葉で飾れるような人生ではない。正しく絶句する。ユウキにどんな言葉をかければいいか、それが全くわからない。座った椅子から腰を持ち上げる事が出来ない。壮絶すぎる人生に口を開けては閉じる。

 今、目の前にいる、サイアスに対して何て言えばいいか分らない。ここに来るまでに色々と考えてきた。まずはいきなり消えたユウキを軽く叱ろうかと、またスリーピング・ナイツを集めようかと。そんな事を考えてここまでやってきた。だがそれは無理だ。もう無理だ。そんな軽い言葉で引き留めるのは自分の一人勝手な傲慢な考えだ。

 ユウキは、死期を悟ったのだ。

 死ぬ。自分は死ぬんだ、そんな風に自分の命の終わりを感じ取ってALOからそっと姿を消したのだ。誰にも迷惑をかけず、最大に遺恨や影響を残さない様に、静かに消えたのだ。確かにALOにはユウキの存在した証が残っているが、それも新しいアップデートがくれば皆そっちに夢中になる。ユウキの名前など三か月もすれば忘れられて、黒鉄宮に刻まれている名前の一つ、という程度の認識にしかならない。いや、あるいはそれこそがユウキの狙いだったのかもしれない。

 しかし、だが、

「こんなの……」

 そう、それをあえて言葉にするのであれば、

「ないよ……」

 こんな展開、こんな展開はない。認められない。あまりにも薄情だ。生まれた時から死ぬしかない人生を課すなんてあまりにも辛くて薄情すぎる。何で世の中はこんな風にできているのだろう。これではあまりにも救われなさすぎる。

「アスナ」

 声をかけられ、気づけば自分が涙を流していた事を知る。ポケットからハンカチを取り出して目元をぬぐい、視線を持ち上げる。

「あ……」

「和人じゃなくて悪いな」

 と、軽く頭を撫でられていた。他人に触れられているのに、不思議と忌避感はない。何故だろうか、やはりこの男、サイアスが慈愛にあふれた瞳をみせているせいだろうか、この男は―――。

「で、どうするんだ」

 手を戻したサイアスが両手を組んで、足も組む。そうやってこっちを見ながら、静かに返答を待っている。どうあれ、彼は私の回答を、そして行動を支持してくれる。そんな気がする。だが、多分それだけだろう。この男は後押しをする、支持する、それを超える領分では絶対に手を出してくれない気がする。直接自らが手を下す、そんな事を絶対に行わない、そんな気配がする。気配というよりは予感だ。勘というあやふやで不確かな要素だが、最近それが磨かれている感じがする。

 だが、質問には答えなくてはならない。

「……話したい」

「そうか」

 うん。そうだ。その為に来たのだから。

 私は、ユウキと話しに来たのだ。

「何を言えばいいか解らないし、口が裂けても解るなんて言えないし、私の力の及ぶ範囲をぶっちぎりで超えちゃってるけど、それでもユウキと話したい。その為に今日は来たんだし、話せなきゃ私帰れない。たぶん……うん、そう。たぶん私はユウキと話さなくちゃいけないのよ。何の事かはわからないけど、そんな気がする」

 視線を上げてみるサイアスの顔、彼は―――笑っていた。何やら満足する表情で、目を閉じて、

「そうか」

 小さく、少し嬉しそうにそう呟いた。そして、背後に手を回した彼は見慣れた道具を持ち出してくる。それはほぼ毎日使っているものだった。二つのリングを重ねたようなバイザー型のVRギア、アミュスフィアだ。それを此方に渡してくる。そして、窓の前のソケットに指をさす。

「あそこに接続してダイブしてみろ。木綿季の”病室”にログインできる」

「病室?」

 視線をユウキの方向へと向ける。

「体を動かせない末期患者に対してはな、医療用のナーヴギア……メディキュボイドでログインさせて仮想世界だけでも自由に、ってまあいろいろあるんだが省くとそうなるんだわ。少なくともこの病院ではな」

 つまりユウキとは仮想世界で会えるという事だ。

「ありがとう、サイアス」

「気にするな」

 椅子を窓の前まで引っ張って、コネクターにアミュスフィアを接続させて、ギアを被る。椅子の背もたれに背中を預ける様にして、アミュスフィアの電源を入れる。ALOの時とは違い、ソフトソケットには何もいれず、そのまま開始の言葉を口にする。

「リンク・スタート」

 世界が一瞬で白に塗りつぶされ、様々な色が現れる。


                           ◆


  次の瞬間、再び体は足に地をつけていた。姿はリアルのまま、ただ居場所が変わっていた。そこは青い部屋だった。四方が水色、空色に染められており、天井も空色に染められている……ただしそこにはリアルに描かれた雲や太陽の絵が描かれており、床には緑色のカーペットが敷き詰められている。それはさながら草原の中にいるような感覚だった。

「僕ね、この部屋の事割と気に入っているんだよね。とくに少しリアルじゃないところが。本物の空とかを投影しちゃうと少しリアルすぎるじゃない? 部屋だって認識させてくれる程度が適度に不自由で丁度いいと思うんだ。うん。籠の鳥だって思い出させてくれるんだ。そうやって現実を思い出させてくれる。だからここが好きだよ僕は」

 部屋の奥、ベッドに腰掛ける様にユウキの姿があった。ALOで見たユウキではなく、リアルの痩せ細ったユウキ―――それをもっと健康的にした姿がそこにはいた。何でもない気軽さで手を振ると、

「見つかっちゃったね」

「ユウキ……」

「ううん、僕は紺野木綿季。偽らざる本当の僕。HIV感染者であり余命数ヶ月? 数週間? 数日? 確実に残りの命が尽きかけている少女だよ」

「そんな!」

「事実は事実なんだよ、お姉さん。否定したところで現実は変わらないし変わってくれない。運命と人生はとことん残酷で何時までも裏切ってくれるんだ。これをどうにかするには神様に愛されるしか方法はないよ。だからさ、―――そんな泣きそうな顔をしないでよ。せっかく来てくれたんだから、もっと楽しい話でもしようかと思って色々話題を用意してたのに」

 ユウキの姿は変わっていても、彼女の雰囲気、気軽さ、気安さ、人物としての変化はどこにもなかった。ただそこには一種の悟りの様なものがあった。まるで全てを予見しているかのような、そんな感じがユウキには存在した。駄目だと解っていても、両目から涙が流れてしまう。それを見てユウキは困ったような表情を浮かべる。

「あぁ、泣かないでよ。これじゃあどっちが年上か解らないよ」

「ごめんなさい……少しだけ待ってて……」

「うん」

 少しだけ涙を流して、それを拭う。そして―――今度こそ涙を流さないと決めて、笑みを浮かべる。平常心だ。これ以上の無様をユウキへ見せる事は出来ない。私は年上のお姉さん役。だからみっとも無い所は見せられない。それはもう遅いかもしれないけど、

「来たよ」

「うん。なんとなくだけど来るのは解ってた。どうやって僕の所まで来たの?」

「キリト君……って言えば解るかな? 彼が君がいる場所まで渡りをつけてくれたの」

 その言葉にあぁ、とユウキが言葉を零す。

「うん。確かにキリトなら解るかも。だって彼、剣を合わせただけで僕の正体見破りかけてたし。いいなぁ、何か色々と嫉妬しちゃうなぁ、キリトには。少しだけ気に入らない」

 頬を膨らませる姿は年相応の少女の様子だが、今、この場には悲壮な空気が漂っている。それだけは自分でさえどうしようもない事実だ。

「ユウキは―――」

「―――うん。僕の命はもう残り少ないよ。えーっと、多分お父さんから聞いたのかな」

「お父さん? え、もしかしてサイアス……明広?」

「うん。僕には肉親が一人もいないから、今の保護者はあの人なんだ」

 アレが? 打ち首マシーンが? 首狩り妖怪が? 人間を育てるところからもっとも対極に位置する人物が? 保護者? ない。絶対にありえない。

 ユウキが苦笑する。

「考えている事は大体わかるけど馬鹿にしちゃ駄目だよ。ああ見えて凄い落ち込みやすかったり、小さなことで喜んだり、凄く面白くて……いい人だから。お父さん、ってこっそり呼んでいるのは内緒だよ? まだ本人の前じゃ一度も言ったことないから。マリィも、明広も、僕にとっては第二の両親だよ。本当に、本当に……感謝してる。言葉では形容できないぐらいに感謝して、愛している。向けられた愛と同等かそれ以上に愛しているよ。うん、最期がこんなんだし僕はとても幸福だと思う。中々ない経験だと思うなあ」

 ユウキは笑っていた。自分の死期が近いって理解してて、もうどうしようもないと言う事も理解している。それでも自分は幸福だったと、そうやって笑っていた。この悲壮な空気は私一人で醸し出している事なのかもしれない。現に、ユウキに後悔の姿は一切なかった。そう、一欠片もの悔いがないのだ、この少女には。明らかに自分よりも若い少女なのに、短い人生なのに、それでも今まで生きてきたことに対して悔いがないと言い切っている。

 その生きざまは、何よりも美しく、尊い。

「ねえ、ユウキ」

「どうしたの?」

 知りたい。

「なんで―――」

 ―――なんでそんなあっさりと諦められるの……?

 そう質問した私の言葉に、ユウキはしばし黙って、ベッドに倒れ込む。仰向けに、天井を見上げるように倒れながら、ユウキは言う。

「僕はね、悪魔と取引をしたんだ」

「悪魔?」

「うん。多分お姉さんは僕が尊い生き方をしているとか、そんな勘違いをしていると思うんだ。だけどそれは違うんだ。僕はこの世の誰よりも生き汚いだけで、そしてそれも満足したからおしまい。それだけの話なんだ。文字通り魂を売って、僕は短い自由を得たんだ。魂を悪魔へと売り払った人間の魂はどんなお話でも同じ末路を迎えるんだ―――地獄だよ。神に背いた愚かな生き物として罵られ、踏みにじられ、そして苦しんで死後の世界を悪魔に蹂躙されながら過ごすんだ。本当に尊い生き方をする人間なら悪魔に魂を売らないんだ。求めちゃいけないんだよ。力とか、人間の先とか。死後の安寧とか。どうしようもない事でどうしようもなくあっさりと死んじゃうのが人間だもん。僕はそうなれなかった。束の間の至福を味わう為だけに永遠を得てしまった。楽園(エデン)の禁断の果実を僕は取って食べたんだ」

 ほとんど独白にも近いユウキの言葉。それを私は否定する事も邪魔する事も肯定する事も出来ない。ただ無言で、ユウキの言葉に耳を傾けること以外には何もできない。ただ、無言でユウキの言葉を待つ。今更ながら、ここに来てわかったことが一つある。

 ―――私がユウキに言う言葉は一つもない。

 いや、

 ……ないのは、言える言葉よね。

 ユウキへ言うべき言葉が、今の自分には存在しない。何を言おうにも、全てが軽薄すぎる気がして、言葉が見つからない。

「実はさ、スリーピング・ナイツっていうのはお姉ちゃんが作ったギルドでね、僕みたいに先の長くない人の集まりだったんだ。今では死ぬのは僕一人になっちゃったけど―――楽しかったなぁ、皆と一緒にギルドやってるの。攻略の為に色々集めたり、計画したりするの楽しかったなあ……」

「だったら!」

 思わず声を上げていた。

「だったら、またALOで遊ぼうよ、私は待っているから、またスリーピング・ナイツを集めて……!」

 それが不可能に近い事だと言う事は解っている。そしてユウキも苦笑しながら、無理だよ、とやんわりと断ってくる。否定的だが、その声にはそうなったらいいなあ、という希望の色がある。

「もう無理だよ。ぶっちゃけた話、僕は今週中に死ぬだろうね」

「そんな……!」

「そういう運命だから仕方がないんだ」

 ユウキは生きる事を諦めて、完全に死ぬ覚悟ができている。もはや生き延びる事も、またALOへ来ることも完全に諦めて、全てを放棄している。

 ―――もう、言葉も、出来る事も見つからない。

 無言のまま、面会時間の終わりまで時は過ぎてゆく。
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| 断頭の剣鬼 | 16:24 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

誤字がヒドイ。
文法がおかしい。
用法が誤っている。

が、この更新速度は称賛に値すると思います。

上から目線ですみませんが、出来れば少しは見なおしてから投稿して欲しい。
折角面白い作品なのでなおさら。

| | 2012/12/15 21:25 | URL |















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