陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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重みと意味 ―――シャタード・リアリティ

推奨BGM:Burlesque
*1推奨BGM:Sol lucet omnibus


 家にまではアンナが迎えに来てくれた。曰く、キリト君は彼女に会うべきではないと言って来なかったらしい。その理由は解らないが、キリト君は妙に勘が鋭い。だから、常人では感じ取れないものも感じ取れる。それで、何かを感じ取ってしまったのだろう。キリト君は少しだけ、何かを考える様にそう言った。だから家の前まで来たアンナに案内され、都内のバスに乗ってアンナの言う目的地へと向かった。

 狭いバスの中、アンナと二人、並んで席に座りながら、揺られる。今見る彼女の姿はALOで見たような軍服ではなく、赤いコート姿だった。所々しろいファーで飾られているそれは実に暖かそうで、少々羨ましい。一月末のこの季節、まだまだ冬の寒気は体に襲い掛かってくる。バスの中でヒーターがついていても、少々肌寒さを感じる。だが、今はそれよりも、


「ねえ」

「あー大丈夫大丈夫。ちゃんと子犬ちゃんに会わせてあげるから」

 子犬ちゃん、とは十中八九ユウキの事だろう。確かに色々犬っぽいとは思うが、流石に子犬と言ってしまうのはどうなのだろうか。まあ、アンナがユウキの所へと確実に連れて行ってくれるというのならそれはそれで問題はない。私には知る権利と義務がある。何故スリーピング・ナイツが解散して、皆ALOからいなくなってしまったのか。誰よりも、私にはあるはずだ。

 と、そこで額に軽い衝撃を受ける。気づけばアンナが人差し指で此方の額を小突いてきたのだ。

「こぉーら。女の子が何を額にシワを寄せているのよ。リザみたいなチチデカモンスターを目指すのなら少しの油断もできないわよ。というかリザのアレマジでどうなってんの? Fカップとかこの世の生き物じゃないでしょ」

  アンナが恨めしそうに自分の胸を見つめている。最近気づいたことだが黒円卓の人間、その関係者は妙にテンションを上げるとそのまま自分の世界へ入ったり軽くトリップかましたりするのだが、端的に言ってこの連中は頭が大丈夫なのだろうか。でもこの連中というとキリト君まで含んでしまうから困る。あとついでに恩人である二大変態も。

 一応、というか今ではカリスマを影も見せないが、明広とラインハルトにも感謝している。あの時、ALOでの戦いでは何もかもが早すぎてほとんど何も理解できなかったが、最終的にチート級の強さを持った二人が蹂躙したと言う事だけは理解できた。あとGGOの時も明広が暗躍してたからこそ今、生きていられるとか。

 ……良く考えたら、私とキリト君。何度も助けられているんだなぁ。

 なんだか最近、色々と忙しかったり、楽しすぎた為、ようやく落ち着いて考える機会を得た気がする。家にいれば逃げる様にALOにログインして、ALOにいればそのまま誰かとチャットしたり、スキルトレーニングをしてる。ゆっくりと今までの出来事を思い返す事は不思議となかった。

「……え?」

 それはおかしい。いや、かなりおかしい。

 何故、振り返らない? 冷静に考えてそれはどこかおかしい。何故だか解らない焦燥感に駆られる。今、自分は何かものすごく致命的な事を見逃しているのではないだろうか。今、自分はものすごく大事な事に気づいていないか? 何か、何か重要な事に今、手を伸ばしている気がする。何故だろう。何故昔の、終わったことに対する話をしないんだ? そう、それはまるで―――。

「―――興味が……ない……?」

 アンナにさえ聞こえない声でつぶやくと、その言葉が妙にしっくりとはまった。そう、興味を持たない。終わってしまった事実に対して興味を持たない、そんな感覚がする。そうだ、そんな感じだ。過去に起きた事は覚えているし大事に思う。だがそれを振り返るほどの興味はない。ただの”ログ”として自分の中で溜め込んでいる。そんな感覚がある。いやだ、何だろうこれは。

 軽い吐き気がする。

 何か、システム的におかしい事に気づいた時に、再び額に衝撃を感じる。ただし今回はもっと強めの衝撃だ。

「あいたっ」

「おっぱいこの野郎!」

「何を言ってるの!?」

「アンタも結構デカイのよね……!」

「まだその話を引っ張ってたの!?」

「私のこのロリィ体形じゃあ誘惑しようとしてもできないのよ! 折角の有望株だったのに! コンチクショォ!!! 寝取り上等だけどロリ属性ないから私は無理よ!」

「そんなこと知りたくなかったわよ! というか知らせないでよ!」

 やさぐれた表情を浮かべ、バスの中だという事を忘れてアンナがヒートアップしている。

「いいわよねぇ! 年下の彼氏持っちゃって!」

「キリト君は最高よ!」

「素でノロケやたがったコンチクショウ!」

 アンナが頭を抱えてうずくまり、何やらこっちが申し訳のない気分になる。確実に何も悪い事をしてないはずなのに、何かトドメを刺した気分になっている。なにやら小さな声でるーるるー等と歌っている事から精神的に結構やばいのかもしれない。すぐさま背中をさすり、フォローに入る。


                           ◆


「いよっしゃああ!」

 結果、バスから降りる頃には元気に元の姿に復活していた。ようやく元気になった姿に呆れの溜息を吐きつつ、バスが自分たちを下ろした場所をよく見る。

 そこは、病院だった。始めてくる、知らない病院だ。だが中々に大きく、設備の整っていると言う事はその外観を見ればわかる。ここにいる人間はそれなりにお金に余裕があるか、立場的に上位に位置する者だろう。だがユウキに合わせてくれると言ってここまで連れて来たと言う事は、

「ユウキは……?」

「黙ってついてくれば解るわよ」

 バスの中で見せていたアンナの陽気さはここではなくなっていた。真剣な表情で此方の了承を求めるアンナに対して、私には黙ってうなずく以外の選択肢がなかった。黙ってアンナの後を追う様に病院の敷地に入る。入り口をタクシーや車が通り、そして入り口には結構な出入りがある。病院の活動規模としても結構大きいらしい。車いすを押すナースの横を抜けて院内に入る。

 そこでアンナはカウンターへと寄る事もなく、真直ぐ病院の奥へと向かう。軽く盗み見る表示には病棟と書かれていた。と言う事になると、ユウキはここで入院している患者となるのであろうか。嫌な予感が胸をよぎり、それを否定してアンナの後ろを歩く。もうアンナは口を開かず、ただ黙ってこっちを先導するしかしていない。

 と、そこで突き当りに出る。そこにはエレベーターがあって、ちょうど到着したところもあって扉が開いて中の医者達を外へ出す。

「乗るわよ」

「あ、うん」

 エレベーターに乗ると、アンナが病院の六階のボタンを押すのを見る。

「……え?」

 病院の六階、そのラベルの横には個人部屋と書かれている。つまり一般の病棟とは違って、長く入院していたり、病気が重かったりする場合利用されるものだ。さらに嫌な予感が強くなったところでエレベーターが音を立てて止まる。最上階となる六階で動きを停止して、扉を開く。

 廊下に出た六階は一階と比べてかなり静かだった。一階の喧騒がうそのように静かで、廊下を歩く医者達も何も話さず、カルテと睨みあったり真剣に考えている様な表情だった。もちろん、たまたまそうだっただけかもしれないが、今は猛烈な予感、嫌な予感が脳を揺さぶって全てをマイナスに見せる。

「こっちよ」

 アンナが病院のさらに奥を目指して歩き出す。黙ってついていくこと以外に選択肢はなく、”雰囲気”を見せるアンナの背中を追う。

 そこから黙って歩いて数分。

「ここよ」

 到着したのは簡素な扉の前だった。扉の横に立つとドアをコンコン、と叩く。

「私はここにいるから貴女一人で中に入りなさい」

 それだけ告げて、アンナは扉の横の壁に寄り掛かり、目をつむる。そこんはもはや言葉を交わす意思はない、という現れがある。一瞬、このまま声をかけるべきかどうかを迷うが、アンナは目をつむったまま微動だにしない。ここから先は私一人で入る事になるのだろう。ゴクリ、と音を立ててつばを飲み込む。少々下品かもしれないが、それだけの緊張が今の私にはある。恐る恐ると手をドアに伸ばし、開く。

 そこで見たのは二つの部屋だった。

 一つは、私が踏み込んだ部屋。椅子が何個かあり、それ以外にはほぼ飾りが何もない部屋。そしてそれはガラスの窓によってもう一つの部屋と仕切られており、

 そのガラスの向こう側には物々しい機械と共に一人の少女が眠らされていた。

 ジェルベッドの上、首から上しか見る事が出来ないが、その上で計器につながられた少女の頬は痩せこけている。周りの機械が親の職業柄、VR関係の機械ということまでは理解できる。だがそれ以上は解らない。そして、何よりも、一番重要なのは目の前の、このベッドの中にいる少女だ。その少女はライトメイルも来ていないし、長剣も握っていない。死んだように目を瞑っているが、その顔を見間違えるはずがない。

 ≪絶剣≫ユウキがそこにはいた。

 あまりにも変わり果てた姿で。

「嘘……!」

 思わず、見たものの衝撃に後ろに下がろうとして、動きを止める。怯えても引いても駄目だ。ユウキと話しに来たのだから。その一念で軽いショックだった自分の精神を引き寄せ、強固に固める。目の前の光景、その少女の正体が本当にユウキなのか、それを調べる為に部屋を見渡すと、

 部屋の隅に一人、知っている人物がいた。

「よ、アスナ」

「サイアス……」

「俺とお前が直接会うのは結構久しぶりだな。元気にやってるか?」

 ジーンズにセーター、そしてマフラーと、変わらぬスタイルでサイアスは部屋の隅の壁に寄り掛かっていた。アンナが何故かユウキの事を知っていた事から予測は出来たが、まさかここにいるとは思わなかった。いや、そういえば―――


                           ◆


「―――アスナ、ユウキに会いに行くのなら覚悟はしておけよ。アイツは愛されている。それこそ必要以上に」


                           ◆


 そんな事を言っていた気がする。その意味は解らないが、おそらく目の前のこの人物に対しての言葉なんだろうと、今対峙して理解する。サイアスの目を見れば、その目が慈愛で満ちていると解る。それが自分に、そしてガラス窓向こうのユウキに向けられている事も解る。

「サイアス、貴方はここで一体―――」

「俺は、ユウキ―――紺野木綿季の保護者だ」

「え?」

 ちょっと、待て。

「ま、待って、サイアスが保護者ってどういう事なの? それに何でユウキはあんな所にいるの? ねえ、ユウキは一体どうしたの?」

 捲し立てられる質問にサイアスは若干俯きながら口元をマフラーに埋める。その質問に答える事無く、サイアスは声のトーンを低くして絶望的な情報を与えてくれる。

「ユウキはHIV感染者だ」

「嘘!」

  前に踏み出しサイアスの胸倉を掴みあげる。その体を勢いのまま壁に叩きつけて顔を寄せる。これがどうしようのない行動だと言う事も、意味のない行動だとも、目の前の男が嘘が苦手で嘘を吐けない男だと言う事も理解しているが、この激情をもはや溜め込む事は出来ない。あぁ、どうして。どうしてキリト君はこの場にいてくれないの。一緒に来るように頼めばよかった。

 胸倉をつかまれたまま、サイアスが口を開く。

「少し長くなるけど、全部最初から聞くか? 木綿季の話」

 サイアスの服を掴みあげる手が震えているのが解る。酷いやつあたりだと再認識し、その手を解く。解放されたサイアスが掴まれた服の部分を叩いて整え直すと、小さな声でつぶやいた。

「―――全く、俺もとんだ下種だな」

「え?」

「いや、関係のない話だ。それよりそこの椅子を引っ張ってこい。一時間はかかるぞ」

「あ、うん」

 既にサイアスは近くにあった椅子を引っ張り、そこに腰を掛けていた。私も同じように椅子を引っ張ってその上に座ると、サイアスへと向く。サイアスは此方が完全に落ち着いて話の内容を全て聞くだけの余裕ができるまでを待つと、ゆっくりと口を開けた。

「そうだな、まずは木綿季の生まれから話すとしようか―――」

 そうやって語られたのは長い、長いユウキの、紺野木綿季の人生の話だった。他の誰でもない、病気と闘い続け、そしてそれでも輝こうと、必死に短い刹那を輝いていた少女の人生のお話だった。

 それを聞いて、私は―――。
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| 断頭の剣鬼 | 10:54 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

ギャグがログアウトしてしまったようです。

シリアスさんがログインしやがりました。

| nao | 2012/12/14 11:10 | URL | ≫ EDIT

なんか一気にシリアスになってお兄さんびっくり(°д°)

| ガリバー | 2012/12/14 13:54 | URL |















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