陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

失敗と成功  ―――ラスト・チョイス

推奨BGM:Mein Kampf


「ふぐっ」

「おいおい、乙女らしかぬ声を出してどうしたんだ」

 ソファに倒れ込んで声を漏らすと、それを見ていた明広が呆れたような顔で此方を見てくる。珍しい事に今日は出勤していない。土日も基本的には”ラース”等という職場へ出かけている明広がこうやって平日の午後を家で過ごしているのは結構レアな話だ。といっても数ある休日の一つとか、たぶんそんな感じの話なんだろう。実際レアな話ではあるが初めてというわけではない。前からあった事だ。ソファから顔だけ持ち上げればマグカップを片手に、立ったまま、明広が此方に視線を向けている。ちなみにマルグリットは今、家にはいない。彼女は買い物の為に少々出かけている。なんでも香純や玲愛、螢と一緒に服を見ながらゆっくり買い物するらしい。

 充実してるなぁ、と密かに思っている。

「ねえ」

「あん?」

「何飲んでるの」

「レモネード」

「いいなぁ。僕にもちょうだーい」


 なるべく甘えるような、可愛い声を出してみる。予想外に可愛くできたので、少しだけ恥ずかしくなるが、明広は顔色を一つも変えずにそのまま口を開く。

「ごめん、金髪巨乳以外には不能なんだ」

「それ、立場的に娘に値する人物に向かって言う事じゃないよね?」

「お前の精神は歳以上に老成してるからなぁ、別に今更気にする事でもないだろう」

 そんな事を言いつつキッチンに向かい、やかんに水を入れてくれている姿が見える。なんだかんだ言ってこの男は身内に甘い。突き放しているように見えて実は助けたがっているし、馬鹿をやっているようでその裏では真剣に考えている。見た目だけで判断してしまうと痛い目を見る様な人物の典型とも言える。僕のマグカップにレモネードの粉をいれて、やかんを温めはじめる。

 うん、なんだかんだ言ってやっぱり甘い。そこがいいのかもしれない。

「んで」

 やかんの中身が沸騰するのを待つ明広が背中を壁に預け、やかんを見つめている。

「今なら神様が懺悔を聞いてあげましょう」

「何時から我が家はキリスト教になったの?」

「我が家、って言える様になってくれたか」

 明広のその言葉に黙った。何を言い返しても墓穴を掘りそうだし、なんだかこの男を家族として認める事は恥ずかしい。というか話題をすり替えられている気がする。……違う、話題を逸らしたのは自分が先だ。あぁ、なんというか。口先では絶対勝てないような、そんな気がする。

「えーと」

「えーと?」

「真似しないでよー!」

「はいはい」

 そんな事を言っている間にやかんから勢いよく音が鳴り、そして煙が噴き出している。お湯が出来上がった証拠だ。やかんを持ち上げて火をきると、その熱い中身をマグカップに注いでいる。お湯と混ざったレモネードの粉が今は混ざっている所だろう。スプーンで適当にかきまぜ溶かしたのを、明広が片手で運んでくる。

「むぅがぁー」

「欲しいのなら人語で言え」

「くーだーさーいー」

「お手」

「僕は犬じゃない!」

「属性的には犬系だと思うんだがなぁ……」

 ソファの上に座り直すと明広がマグカップを渡してくる。

「熱っ!」

 受け取ったマグカップはかなり熱かった。とてもだがマグカップを持つ事なんてできない。できるのは持ち手を握ることぐらいだ。だが明広はそれを運んでくるときに、マグカップを持って運んできたのだ。

 ―――あの手はどんだけ皮膚が分厚いんだ……?

 いや、聴いた話によればタイには手を熱した油の中に入れても平気な人間がいるという。おそらくそういう感じなんだろう―――なんてくだらない事を考える事を止めて、マグカップに向かって必死にふーふー息を当てて少しでもいいから冷ます。今の状態で口をつけようものならば舌を火傷してしまう。

「ふぅ」

 息を吐きながら明広が横に座ってくる。横に座って解るが、意外とがっしりとした体をしている。なんというか、顔程柔らかくはない感じがする。おそらく何らかのスポーツか運動をしていたのだろうが、明広が親友の司狼と繰り広げた冒険と武勇伝を聞いている限り、それが主な理由にも感じる。だが頼りがいのある姿に変わりはない。たぶん、腹筋割れている。

 ともあれ、ようやくレモネードが冷めてきたこともあってやっとその甘酸っぱい液体を喉に通す事が出来る。まだ熱い。熱いが、熱くないと飲みごたえがない。そんな飲み物の一つだとホットレモネードの事は評価している。コールドのレモネードも嫌いではないが、やっぱり冬はホットレモネードを飲みたいと思う。

「んで」

「んー?」

「上手くいってるのか?」

「うーん」

 ……そうだなぁ……。

 今の自分の状況を軽く確認するが、あまりいい調子だとは言えない。一番の問題はキリトと戦ってしまった事だ。自分は知らなかったが、キリトの存在はALOでもかなり有名だったらしい。それも悪い方向にではなくいい方向に。あのあと調べてわかったがキリトはあのSAO解放の英雄・キリトと同一人物だったのだ。なんというか、意地とは言え凄まじい人を倒してしまった気がする。しかし聞いた話ではキリトの真骨頂は二刀流にあるらしい。

 ……なにがナイスファイトだ。

 思いっきり手加減されてたのではないか。それはそれで腹が立つが、今はそれが問題ではない。キリトという”ブランドネーム”を倒してしまった事が問題なのだ。実力者として有名なキリトを倒してしまった事で、周りの人間が僕に対しての認識を変えた。デュエルをしたがっている強いプレイヤーから、キリトを倒せるほどの強いレベルのプレイヤーに、と。そしてキリトを倒せるレベルの実力者は非常に遺憾ながら少ない。それこそ数えた方が早い。間違いなくトップクラスのプレイヤーなのだ。それを倒してしまうと、周りがこう思ってしまう―――”キリトを倒したあいつに勝てるわけがない”と。そういう効果があって、ここしばらく、挑戦者の数は激減した。それでも挑戦してくるプレイヤーはいるにいるが、どれも巨大ギルドのマスターだったり、領主だったり、ギルドに勧誘して攻略の手伝いを頼めるような相手ではない。

 仲間探しは結構行き詰っていた。

 そう、現段階で結構行き詰っているのだ。だけど完全に停止しているわけではない。完全に行き詰っているわけではない。光明は見えている。やるべき事は変わらず、自分は餌と釣り針として機能しているし、し続けなければならない。スリーピング・ナイツの他のメンバーも自分たちの役目をしっかりと果している。だから、自分も確実に役目を果たさなければならない。

 だから、

「あんまし調子よくはないけど……なんとか、なる、って感じかなぁ……」

「歯切れ悪いな」

「しかたがないでしょー。実際あんまし調子は良くないんだから」

「そっか」

 レモネードを握った明広が背中をソファに預け、そのままちびちび中の液体を飲んでいる。自分も直ぐに全部を飲み干さない様にちびちびと口をつけながら、無言で時を過ごす。目の前ではつけっぱなしにしているテレビがニュースを映している。今は昼のエンタメショーで特に興味もないお店の情報を見せている。こうやってテレビで紹介するお店に実際行く人ってどれぐらいいるんだろうな、等とくだらない事を考えていると、

「助けよっか?」

 などと声が明広からかかってくる。だが、今度こそは答えを間違えない。

「いらない」

「そっか」

 先ほどのそっか、とは違って今度の声は少々嬉しそうだった。最初の選択肢は少々間違えたかもしれないけど、それでも後悔はするつもりはない。これは僕の選択肢で、僕の選んだ道で、元々不幸な道を歩んでいたのがちょっぴりだけ救われた、そんな話なんだから。

 不幸を嘆く事は腐るほどしてきた。だからもう不幸とか逆境で嘆くのは止めた。今はこの刹那を精一杯輝こうとしよう。頑張って頑張って誰よりも輝こう。生きていられる間が人間の花だから。花の命は短い、だけど、だからこそ、花は美しい。うん。そう言う話なのだ。とても簡単で、とても解りやすいが、それでも理解されない事。誰もが当たり前に考えて深く考えない事。

「なぁ、木綿季」

「なぁに?」

 明広が言葉を放ってくる。

「ごめんな」

 急に謝ってくる。良く意味が解らない。それにこの男が謝るようなタイプにはどうしても見えない。だから急な謝罪にマグカップを落としそうになる。流石に動揺しすぎたのか、その姿を見て明広が軽く笑っていた。恥ずかしい、死にたい。ここは反撃する意味でも先ほどの謝罪を蒸し返すべきだ。そうだ、そうに違いない。

「な、何で急に謝るんだよ。全然明広らしくないよ」

「謝る必要があるから謝るのさ」

「一体何をやらかしたの? 僕の部屋にこっそり入った? 着替えでも除いた?」

「だからマリィ以外には反応しないと何度言わせれば……」

「はいはいはい」

「お前、こっちに来てからいい性格するようになったなぁ……」

「ありがとう、それ確実に明広のおかげだから」

 病室にいたころの僕はもう少々純朴とも言える性格だった。それは接触している仲間がスリーピング・ナイツだけで、僕のコミュニティが彼らと姉とだけで終了していたから。だから僕はそれ以上の刺激を得る事も学習する事もなかった。だから明広を通して新たなコミュニティに接触し、色々と触れて、学ぶことで僕は変化した。今の形へと性格も考え方も、そして多分運命も変わった。

「僕は嫌いじゃないよ。今の僕の事。楽しいし。それに感謝だってしている。もしあそこから連れ出してくれなかったらたぶん一生、冬の朝の寒さを感じる事は出来なかった。朝起きた時、もう少し布団の中でまどろみたいあの気分になれなかった。買い物に出かけて時間をかけて着替えながら服を選ぶこともできなかったし、……学校へ通うこともできなかった」

 感謝してもしきれない。未来のなかった僕に、明広は確実に違う未来を提示してくれた。あの時手を握り返したことに後悔はない。あの選択肢に後悔などはないんだ。

 だけど、

「木綿季。一つだけお前に忠告しておくよ」

「うん?」

「神という生き物は皆揃って脚本家なんだ。それも自分が参加しているタイプの劇の脚本家でね。そろいもそろって悲劇しか書けない無能の集団と来た」

 それはつまり、

「予言しとく。俺と関わったせいで木綿季、お前は絶対ロクな死に方をしないよ。死に救いなんてない。あるのは底なしの冒涜だけだ。だから今のうちに謝っとく。ごめんな。そして今のが最後の謝罪だ。もう二度とないから受け取っておいてくれ」

 言っている意味の大半は理解できない。が、明広がそう言うのであればそうなのかもしれない。もうすでに二ヶ月以上この男と一緒に暮らしているが、未だに謎の多い男だと思う。私生活の事は解ったし、交友関係や背景も解った。なのにこの男の正体に関しては一歩も近づいていない気がしてならない。何かを見落としている気がする。いや、見落とされている気がする。

 ……そして何か、忘れてはならない事を忘れているような気がする。

 だがその部分だけ、綺麗サッパリ抜き出したかの様に記憶が消えていて、思い出せない。

 つまりは、まあ、さして重要だと言う事ではないのだろう。

「―――」

 何か言おうとして口を開けた瞬間、かちゃり、と鍵を回す音がした。そのあと扉を開く音と共に声が家に響く。

「ただいまー」

「おじゃましますー」

「邪魔するわね」

「ここが最上君とあの子のハウスね」

 最後の発言だけはいったい誰か即座に解った。部屋に飾られている時計を見ればもうすでに五時に近い。もうそんな時間かと思うのと同時に、そこまで長く話していたのか、と驚かされる。そして買い物に出かけていたマルグリットが客人を連れ帰ってきたと言う事は、……今夜は少々豪華な夕飯になりそうだ。

 さて、と声を漏らしながら明広が立ち上がる。

「ま、お前は運のいい子だし、そのうち欲しいものは見つかるだろ。―――あ、先輩、ソッコで厨房いかないでください。フライパンの底にまた穴を開けられたら困るので」

「私の愛はフライパンごときじゃ受け止められない。次は鍋ね」

「駄目だこいつ、まるで反省してねぇ」

 家に上がって真っ先に厨房へと向かった玲愛を止める明広を見送りながら、家へと上がってきた香純と螢に頭を下げて挨拶をする。真剣な話はここまでだ。夕飯を七時に食べる事を考えるのであれば、そろそろつくらなきゃいけないところだろ。それにしても、

「パパはモッテモテだね」

「だが嫁一筋」

「うぐっ」

「……」

「大丈夫、何時か絶対に寝取る」

 発言のダメージは明広よりも周りの方がデカかったらしい。クリスマスの時に見てて思ったが、本当に人気だな、と改めて感心する。これであと数年若くて、未婚で、そして学生だったら確実にギャルゲーになりそうだ。……なんかありえそうなのでその考えを振り払い、レモネードを飲み終わる。

「僕も手伝うー!」

 とりあえず、

 家にいる間ぐらいは馬鹿になろう。言葉を信じるわけではないが―――そのうち、見つかるだろう。

 そう思ってソファから起き上がり、キッチンへと向かう。

 ……僕の物語がようやく動き始めるのは翌日の話だった。




パパと娘の会話()

次回からようやくマザロザ本編って感じですねー。
長かったわぁー。
ちなみに作業用BGMとしてYESのRoundabout聞いてました。
えぇ、ジョジョで有名なアレですね。Queenも同年代と考えると、
あの頃のロックはかなりすごかったなぁ、と。
スポンサーサイト

| 断頭の剣鬼 | 08:51 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

やべぇ、先輩ぶれないにも程がある(笑)
妻子(?)持ちだろうと容赦というか遠慮ねえ(爆)
最上家の台所器具がピンチ(笑笑)

にしても、マリィ以外に不能とか、マジで親子の会話を超越してるw

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/12/05 20:04 | URL | ≫ EDIT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://tenzodogeza.blog.fc2.com/tb.php/284-9a34be47

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。