陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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失敗と成功  ―――ニュー・イヤー

推奨BGM:Mein Kampf


「あーあ。負けちゃったなあ」

 石階段をのぼりながらそんな事を呟く。全てが自分のせいではないにせよ、あんな攻撃パターンが用意されていた事は驚きだ。というかあの性能は反則だ。たった一撃でタンクを含めた全員が全滅とか話にならない。絶対にあの攻撃は属性防御か予備動作を潰す方法があるはずだ。

 まあ、アークリッチは倒されてしまったので対策を考えてても無駄なのだが。

 あのあと、アークリッチ対策会議を再び開いたのは良かったのだが、その直後別のパーティーによってアークリッチは倒されてしまった。実に残念な事だが、攻略は失敗だ。アークリッチを結構な所まで追い込んだだけにかなり悔しい。あの時予備動作を見逃さずにいられたらどうにかなったかもしれないという後悔が少々自分にはある。自分はスリーピング・ナイツのリーダーであり、指示する立場にいたのだ。だからあの時勝てなかった責任は自分にもある。

 そんな事を言ったら怒られるんだろうけどなぁ……。

「おーい、木綿季ー」

「あ、はーい!」


 石階段を上り切った姿が三つある。珍しい事に、三人とも普段着ではなく浴衣姿になっている。並ぶように立って僕を待っている人物たちは僕の保護者、マルグリットと明広、そして僕を初日の日に迎えに来てくれた綾瀬香純。三人とも良く似合う浴衣姿となっている。マルグリットが白をベースにした赤い模様の浴衣、明広が朱に黒のラインの浴衣、そして香純はオレンジの水玉模様の浴衣となっている。それに合わせて僕も強制的にというか、浴衣に着替えさせられている。此方は蒼がベースに黄色の模様の入った浴衣だ。

 ……こうやって浴衣を着るなんてゲームでもなかった初体験だ。十二月三十一日、午後十一時……冬のそんな時間もあって結構寒いが、この初めての恰好に結構テンションが上がっている自分がいるのも真実だ。これぐらいの寒気はどうってことはない。駆け足で石段を駆けあがり、軽い跳躍と共に石段を登り切る。もちろん着地の際に両手を広げ、体操選手の様にポーズをとる事を忘れない。

「三点」

 容赦のない採点がされる。

「えー」

「駄目駄目、芸術性が足りないね。もっと捻りとか加えなきゃ世界は狙えないぞ!」

「いや、アンタは世界を狙わせてどうしたいのよ」

 香純の容赦のないツッコミに明広が意味はないと答え、マルグリットがその光景を見て笑う。ALOで戦っているのもいいが、こうやってのんびり新年を迎えるのも悪くはない。とはいえ、こんな日々が後どれだけ続くのだろう……そう考えるとやはり怖いものはある。人間、やはり死という絶対的な終焉から逃れる事は出来ないのだろう。そしてそれを考え、怖くならないものはいないと思う。

「それにしても」

 と、境内をゆっくりと歩きながら香純が言う。

「司狼のやつどこに行ったのよ! 急にいなくなるし! 連絡つかないし!」

 両手を上げて、吠える様に香純が言った。司狼という人物は結構親しいのだろう。初めて聞く名前だが、このグループの一員と言う事は。

「アイツなら……海外にいるぞ? なんか世界回ってくるとか言ってどっか行った。エリー連れて」

「うわ、ナニソレ。凄いありえそう。あの馬鹿、そういう事するんだったら一言ぐらい連絡いれてもいいんじゃない? ねえ、電話番号とか知らない?」

「知るかよ。適当に祈ったら届くんじゃねーか」

「明広、私の事馬鹿にしてる?」

「うん」

 香純が笑顔、ノーモションで拳を繰り出してくる。おっと、等と声をもらしながら明広が見事なスウェーでその拳を回避する。あまりに軽やかな動きだが、それが逆に香純の闘争心に火をつけたようだ。うがぁ、等と意味不明な言葉を漏らしつつ、明広に本気で殴りかかっている。だが余裕の表情のまま、というか挑発する様におちょくる顔をしながら香純の攻撃を避け続けている。

 なんというか、

「仲がいいでしょ?」

「うん」

「カスミとシロウはね、アキの幼馴染なの。ずっと昔から一緒だった三人だったの。名前で解るかもしれないけど、シロウは男で、何時もアキと馬鹿ばっかりしてたんだって」

「昔からあのノリを続けてるとか中々破天荒というか……」

「子供っぽい?」

「うん」

 なんというか……悪ガキがそのまま大きくなったような感じがする。少年の心を忘れないと言えば聞こえはいいだろう。だが実際に見れば馬鹿をやっているだけだ。ALOのゲームマスターという事実には驚かされたが、こういう感性というか、心の持ち主だからこそあのゲームはあそこまで人気で混沌としているのかもしれない。ただし変態の人口は減ってくれ。偶に町でパンツ一枚ではなく葉っぱ一枚の変態がうろつく光景は何時みても心臓に悪い。そしてそのまま天に召されていく姿も無駄に幻想的で心臓に悪い。

 カーディナルさんは働き者だなぁ……。

 GM以上にGMらしいAIとか絶対に何かがおかしい。

 と、そこで無駄に拳を放っていた香純がぜーはーぜーはー息を吐きながらようやく明広への攻撃をあきらめた。やはり基礎体力というか、人類とそれ以上の壁を気合と根性で乗り越える事は出来なかったらしい。キィー、と悔しがっている姿を明広が追撃におちょくっている。

「アレ、放置してていいの?」

「いつもあんな感じだよ」

 いつもあんな感じで香純はおちょくられているのか。これはひどい。良く心労で倒れないものだと一瞬思うが、良く考えれば香純も香純で結構ずかずか踏み込んでいく図太いタイプの人間だった。そりゃあこんなに突っかかっても疲れて倒れない。多分数分もしたらまた元気になっているのではないだろうか。良く疲れないなぁ、とは少しだけ尊敬する。自分ではここまで突っ込むことも突っかかる事も無理だ。

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」

「香純。お前」

 境内の中を進み、長蛇の列に加わる。このままあと十数分待てば新年となり、この列も動き始めるだろう。自分達みたいに浴衣姿で来ている人間は少ない為、結構視線を集めているみたいだが、結局は視線を外されて自分の事に集中している。まあ、人間なんて所詮そんなものだろう。本当に興味を持てるのは自分のことぐらいだ。

「もしかして体力落ちた?」

「うぐっ」

 図星だったらしい。少し困った表情を浮かべ、

「だ、だって仕事が座ってばかりなんだもん! 体を動かす時間なんてないわよー!」

「俺らと一緒だった頃は俺達追いかけてて右へ左へダッシュの毎日だったもんなぁ。まぁ、それが図らずともダイエットになっていたと。運動する時間いれたほうがいいんじゃないか?」

「ンな事解ってるわよ! なんでアンタとマリィちゃんはそんなに体形がいいのよ!」

 マルグリットも、明広も運動をしているようには見えない。というか全くしてないだろう。なのに二人には体形が悪くなるような予兆がない。むしろ老いる事さえ想像のつかない夫婦だ。なんというか、香純の言いたい事は解る。この二人は色々と卑怯じゃないのか、って話なんだろうが、

「ククククク……! この明広、綿密なスケジューリングの下、常に健康管理を行っている……!」

「アキ、嘘は駄目だよ。家にいる間はごろごろしてばかりじゃない」

 明広が黙った。まるでネタをバラされた芸人の様な悲痛な顔をして黙っている。なんというか、色々と可哀想に見えてきた。

 と、そこで鐘の音が響くのが聞こえてきた。さっきまで気にしなかったが、

「もうそろそろ新年か」

「二〇二六年だねー」

 もうそんな年か、と軽く言葉を零す。

 思えば闘病生活も長く続いてるなぁ……。

 今の状態は闘病とは言えるのだろうか。むしろ病よりも現実と戦っている気がする。だがこれで闘病生活一五、一六年目。たぶんそれぐらい。もう細かい日付は覚えていない。面倒なのではなく、純粋に覚えていないだけだ。何時始まって、どれだけ続けて来たのか。その大半が苦痛の歴史だったため、自然と忘れてしまった。だが家族と一緒だった時の事は欠片とも忘れない。だから、

 今の、この時間を忘れる事は永遠にないだろう。

 家族の思い出とともに、新しい今の家族との思い出も、僕を動かし続ける原動力だ。

「さて、もうそろそろ新年だな」

 明広が浴衣の下につけていた時計を確認しながら言った。その時計を覗き込めば、アナログ時計が時刻を零時一分前と表示している。いつも思う事だがくだらない事を話している時こそ時間が妙に早く過ぎている様に感じる。もうすこしだけでいいから、この楽しい時間をゆっくりと味あわせてくれないのだろうか。いや……それは望みすぎなんだろう。少し不自由なぐらいが、自由の意味を理解できて丁度いい。

 本当に自由になると、何が自由なのか解らなくなるのだと思う。縛るものがあるからこそ、人間は人間でいられるのだ。

「なんか馬鹿みたい」

 なにを一人で悟ったような事を言っているんだろ。というか、

「な、なんだよ」

 三人が全員此方へと生暖かい視線を向けている。

「うーん、我が家のお姫様はどうやら色々と考えるお年頃の様で」

「相談する事があったらいつ言ってもいいのよ?」

「うんうん、先生に任せなさいって」

「そ、そんな優しそうな目で見ないでよー!」

 なんというか、凄い恥ずかしくなってくるので真剣に止めてもらいたい。

 と、そこで再び鐘の音が響いた。そして明広の時計を覗き見た事で、時刻が零時になったことも確認できた。これで見事二〇二六年となった。列の先頭、本堂の中から宮司が出てくるのが見えた。

「新年あけましておめでとー!」

「新年あけましておめでとう」

「あけおめー」

「あけましておめでとう」

「って一人だけすっごい雑!」

「ははははは」

 約一名だけ雑に挨拶をしたが、これで見事新年を迎える事が出来た。

「家に帰ったら年越しそば用意してあるから、少し遅いけど年越しそば食ってから寝ようか」

「あ、もちろん私の分もあるわよね?」

「大丈夫だよ。ちゃんと用意してあるよ」

「あ、ついでに一晩だけ泊めてくれない? こっから帰るの面倒なんだけど」

「少しは頑張れよ社会人」

 少しずつ動き出す列に身を任せ、進みながら新年に入っても平常運転だなぁ、と今の状況を把握する。この調子だと今年も結構愉快な事になりそうだな、と評価していると、

「あ、そうだ木綿季ちゃん」

「うん?」

「一月七日から学校に来れるようにしておいたから」

「俺がな」

「そこ! 黙る!」

「……え、学校……?」

 そういえばこっちに来たとき、最初に学校に入れるようにするとかなんとかって話を聞いたが、

「冗談じゃなかったの……?」

 驚きながらつぶやいた言葉に、明広が頭を撫でながら笑う。

「へい、このパァーパが嘘をつくように思えるか」

「うん」

 即答したら少しへこんだ。

 あぁ、しかし、学校。

 ―――もう二度といけないと思ってたし、

「僕が入っても……迷惑にならない……?」

 その事だけが心配だ。元々HIV感染者という事が漏れてしまったから僕は学校に通えなくなってしまった。この時期に編入生となったらかなり怪しいに違いない。

「心配しなくていいわよ。基本的に問題児かいないから。それに情報の隠蔽とか規制とか、そういうの凄い上手な所だし」

「えーと……」

「まあ、行ってみればわかるわよ。ただ準備だけはしてね、ってお話」

 まあ、まだ一月七日まではあるから少々戸惑いながらも、心を整える時間はある。だけど―――

「―――何時まで頭を撫でてるの?」

 明広が何時までも頭の上に手を置いて撫でていた。いや、暖かくて気持ちはいいのだが、せっかく整えた髪型が台無しにされている気分なんだけど……。

「いやぁ、意外と触り心地が良くて……」

「むー」

 何故か子ども扱いされているようでそれはいただけない。……いや、実際子供なんだろうけど。

「はははは」

 子ども扱いされている事に若干不満を抱きつつも、列が進み自分の番がやってくる。お賽銭を投げ込みながら、手を叩き祈る。祈る事の出来る神様は一人しか知らないけど、神様に祈るのではなく自分自身に祈る。

 ―――また来年も、皆でここに来れますように。




マリィの浴衣姿……!
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| 断頭の剣鬼 | 13:08 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

この世界ほど神頼みが筋違いな世界はない

| ぜんら | 2012/12/03 08:53 | URL |

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| | 2013/11/20 20:49 | |















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