陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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プロローグ ―――ハピネス・オヴ・ライフ

推奨BGM:Burlesque


 背中に柔らかい感触を受けつつ徐々に意識が覚醒し始める。その事実に違和感を感じる。柔らかいと言う事実にだ。VR世界にダイブしたまま寝ると、安全の為に強制的にログアウトする事となっている。だから起きたら僕は現実に引き戻される。HIV感染者という現実に。そこにはインプのユウキという存在はなく、ベッドの柔らかさを感じ取れるだけの余裕もない。だから起きた時にベッドの柔らかさを感じるなんて夢に違い。

 だがこうやって起きるのと同時に背中には確かな柔らかさを感じるし、同時に温かみも感じる。暖かい毛布に包まれているのだと解る。医療のVRギア―――アレには暖かいとか寒いとかはない。常に室温が体を害さない温度に調整されているからだ。だからこんな風に熱いとか、そういう感じはないはずなのだ。

 そしてそこでやっと、自分が病室にいないって事に気づく。そこにすぐに気付かない辺り、やはりまだ脳の半分は眠っているのかもしれない。軽く欠伸を漏らしながらやっと覚醒し始めたんだな、と自分の現状を認識し始める。もう少々ベッドの中でまどろんでいたかったが、そうもいかない。上半身を持ち上げ、自分がいる場所を見る。


 自分がいるのは白い部屋だ。木の箪笥やベッドサイドテーブルが置かれており、私物はあまりおかれていない。調度品の類もあまりおかれていない。少しさみしい部屋だが、まだ来たばかりだと考えるとこれぐらいは違和感がない。何より、前使っていた病室と比べれば万倍マシだ。上半身が持ち上がったことで寒い空気に触れる事となって、少しだけ体が震える。

「……あ」

 部屋を見渡せば椅子の上に折りたたまれるようにジャケットが置かれていた。ベッドから出て、ジャケットを上に羽織る。ジャケットを羽織るとようやく暖を取れて、上半身が温かく感じる。とはいえ、ベッドから出たので今度は下半身が寒い。よく見れば今の自分はパジャマ姿だ。パジャマとは薄いんだからそりゃあ寒いだろうと納得しつつ、

 動きを止める。

 正直に言えば、まだ迷っている。

 このまま部屋の外へ出ていいのか。

 このまま部屋の外へ出たら夢から覚めて、病室の中へと戻ってしまうのではないかと。そんな事ありえないと解っていながら、どうしても悩んでしまう。今の自分は間違いなく幸せだ。幸せの絶頂にあると言っても過言ではない。仲間は治って、自分も余命を得た。考えようによっては最良の結果だ。だけど後悔はないとも言い切れない。

 死んだ両親や姉をさしおいて、僕だけが幸せになっている。

 それはおそらく、この選択肢を選んだ僕が一生向き合わなければいけない罪科。

 しかし下を向いてばかりでは見つけられるものも見つからない。まずはこの部屋から出よう。そんな思いを持って扉に触れようとしたところで、扉が勝手に内側に開く。驚いて後ろへ数歩下がりながら開いた扉の方向へと視線を向けると、そこには見覚えのある人物が見覚えのない姿で立っていた。

 簡単に言うと、スーツの上着の代わりにエプロンをつけた明広が扉を開けていたのだ。

「あ、もう起きてたのか」

「あ、う、うん」

 いきなりの登場と、その恰好に少々戸惑う。色々と考えが頭に浮かび、何かを言おうとして、

「朝ごはんもう少しでできるから早く顔洗って歯を磨いてこい。洗面所の場所は昨夜使ったし覚えてるよな?」

「うん。覚えてるよ」

「おし、じゃあ行ってこい」

「アキー! 卵焦げちゃうよー!」

「あーはいはいー!」

 急いで明広が扉の向こう側へと戻って行くのが見える。そう言えば既婚者だった、と思い出しつつ、夫婦で料理しているのか、と思う。なんだか、

 ……本当に、平凡だなぁ。

 奇跡を起こした張本人には全く見えない。どこからどう見ても普通に優しいお父さん、って感じにしか見えない。自分自身を悪魔と称する人物にはどうしても見えない。悪い夢を見ているようで、アレは現実なのだ。

「木綿季ー!」

「はーい!」

 だが、今の彼と彼の妻は僕の保護者なんだ。

 素直に従うことにして、駆け足で洗面所へと向かう。


                           ◆


 ダイニングのテーブルの上には色々と気合の入った朝食が並べられていた。まずは中にハムやチーズ、ピーマンやニンジンの詰め込まれたオムレツ。こんがりと焼けたトースト、テーブルの中央には誰からも届くようにフルーツとサラダが、そして最後に牛乳とヨーグルトが皿の横に置かれている。イングリッシュブレックファーストにしても中々豪華な顔ぶれだと思う。

 まさかALOで見ていたような朝食をこうやって現実で食べられる日が来るとは思わなかった。

「いただきます」

 フォークを握って、オムレツをまずトーストの上に乗せる。そしてオムレツを乗せたトーストを口に運ぶ。とろっとしたオムレツとカリっとした触感のトーストを味わいつつ、やっぱり仮想世界と現実世界で食事するというのはかなり違うな、と思う。確かに仮想世界で食べれば満腹になる。だが、そこには実感がないのだ。所詮仮想は仮想であり、現実は現実だ。現実として食べるのと、仮想で食べるのとでは充実感が幾段か違う。これは実際に仮想のみで食事を続けてきた自分にしか解らない事実だろう。

 なんというか、

 今、普通に食事ができているという事実に軽い感動を覚えている。

「美味しい?」

 食事風景を笑顔で見つめてくる金髪の女性―――マルグリットが聞いてくる。口に食べ物が入ってるので頷いて美味しいということを伝えると、安心したように溜息を吐く。その姿を見て明広が小さく笑う。そして、マルグリットが頬を膨らませる。

「笑うのは酷いんじゃないかな」

「いやいや、存外可愛い姿だったんで思わず」

「これでも結構心配してたんだからね?」

「解ってるって」

 あぁ、と明広が此方に視線を向けながら言う。

「マリィって基本俺以外に料理しないから」

 そこでマルグリットが割り込む。

「アキはなんでも”美味しい美味しい”って答えるから全く自信にならないんだよ? もう少し酷評してくれれば改善のしようとかもあるんだけどなぁ……」

「本当に美味しいんだからどうしようもない話だよな?」

 明広が此方に同意を求めてくる視線を向けている。確かに文句のつけようのない美味しさだ。

「僕も美味しいと思うよ」

「本当? なら良かった」

 今度こそ安心したような表情を浮かべ、心配がなくなったような表情を浮かべている。作っている側として作った者の評価はやはり気になると言うところだろう。と、そこで見ているだけだった明広やマルグリットも皿の上の料理を食べ始める。自分も新鮮な牛乳を口に運びながら、料理を食べ続ける。舌の上で感じる様々な触感、そして味を絶対に忘れない様に、一口一口を噛みしめて確かめる。

「くくく、ふふふ……」

 そんな様子を見て、明広が笑っている。

「……なにか面白い事をした?」

「いや、なんだか偉い必死に食ってる様子が可愛いもんでね、ちょっと面白かった」

「か、可愛いって……」

 そんな言われ方した事がないので少し恥ずかしくなる。ちょっと照れていたらマルグリットがム、っとした表情を浮かべている。

「別に嫉妬する必要はないだろ」

「嫉妬なんかしてませーん」

「してるしてる」

「つーん」

「ほれほれ」

「あ、く、くすぐったいよ、ふふふ」

 保護者様方はどうやら仲良しの様だ。このまま幸せな夫婦であってほしいが正直傍でいちゃつかれるとなんかオーラのせいか凄い疲れるので正直いないところでやってくれないだろうか。

 まぁ、料理に罪はないよね。

 料理を味わうためにも、黙々とそれを食べる。


                           ◆


 料理を食べ終わってそれを台所へ運んだところで、マルグリットが袖をまくって食器の掃除に入り、そして明広がスーツの上着を着る。

「そんじゃ、行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい。今日は何時ごろに帰ってくるの?」

「今日も定時に帰ってくるよ」

「うん、行ってらっしゃい」

「行ってきます。木綿季もいい子にしてろよ?」

「うん。行ってらっしゃい」

 朝食を食べた明広はスーツ姿で家を出た。どうやら普通に仕事をしているらしい。奇跡を軽々と起こせる自称神様でも社会のルールを守らないといけないらしい。神様という存在も意外とルールに縛られて生きているのかもしれない。となると消費税や住民税を取られている神様がいるわけか。それはそれで何故か胸が熱くなってくる。

 っと、そうだ。

「えーと、マリィさん、僕洗い物を手伝おうか?」

 このまま何もせず、手持無沙汰になるのは嫌だ。というかここまで良くしてもらっておいて、何も返せないのは非常に心苦しい。何か手伝いの一つや二つでもしたい所なのだが、

「大丈夫。一人でも簡単に終わる量だし」

「あ、うん」

 あっさりと断られてしまった。軽くハミングしながら洗い物をしている所を見ると意外とこういう家事の類は好きなのかもしれない。よく見れば家の中も綺麗に汚れの跡なく掃除されきっているようだし。

「Je veux le sang, sang, sang, et sang―――」

 ただハミングというか鼻歌の内容が激しく物騒な気がする。何故か本能が理解することを拒んでいる気がする。いや、マルグリットは優しい理想的な女性像を体現している人物だ。そんな事ありえないだろう。

 たぶん。

 ともあれ、脳から残響するように残りそうなリフレインを追い出し、手持無沙汰となってしまったこの状況でどうするかを悩む。掃除か洗濯、何かを手伝えればいいのだろうが、どちらも助けを必要としない様子だ。

「あ、ユウキ」

「は、はい」

 何故か名前及ばれたことに酷く緊張する。

「今は暇かもしれないけど1月まで我慢してね? 何とか学校に入れられないか頑張ってるから」

 学校、という単語に動きを凍らせる。

「学、校……?」

「うん。ユウキはまだ十五歳でしょ? なら中学校が妥当だ、って明広が言ってたよ。子供は勉強と遊ぶことが仕事だって。あ、私学校行ったことがない」

 驚愕の新事実が一気に複数出てきた気がする。だが、学校という単語は同時に昔の記憶を引き出す。昔、HIV感染者だとバレてしまった記憶。アレは確かにトラウマだ。トラウマだが―――だが学校へ行きたい。通いたいという欲求は変わらず常にあった。

「え、えっと……」

 ちょっと戸惑いながら言葉を選んでいると、

「今は冬休みでどこも休んでいるから、1月まで待っててね?」

「あ、うん……」

 なんか、自分はここまで幸福でいいのだろうか。そんな思いさえ湧いてくるほどに幸福で今の自分は満ちている。これが奪われたら自分はまっとうに―――
 
 ―――いや。

 おそらく、そうなる前に対価を払う日が来る。おそらくそう遠くない未来。まだ数ヶ月の猶予はありえるのだろうけど、奪われる前に確実に自分が対価を払い、そして―――。

 考えるのは止めよう。終わりを考えるのは悪い事ではない。だが大事なのは”あと”ではなく今を、どうやって全力で生きるかだ。終わりを考えて恐れるのは自分らしくない。それは僕の意志にも彼の意志にも反する事だ。こうやって機会を与えられたのだから、その分全力で刹那を、日常を生きる義務が僕にはある。

「アミュスフィアならリビングにおいてあるから、それを使って遊んでていいわよ? 今日は特にやることはないし。昨日できなかったし、今日はお友達と話すといいよ」

「うん。そうする」

 この日常を味わえる間に全力で味わい尽くそう。

 そう思い、

 僕はアミュスフィアを手に取った。




明広パパ:邪神
マリィママ:女神
木綿季:子供

なんか違う小説読んでるみたいだね!
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| 断頭の剣鬼 | 11:39 | comments:6 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

「ウチのパパは邪神さま」みたいな感じのタイトルの家族ものを読んでる気分。
‥‥‥別にこのままでもいいのよ?

| hunting ground | 2012/11/24 12:21 | URL | ≫ EDIT

いやぁ、ほのぼのしてるなぁ。
うん、ユウキが幸せそうでなにより。

| 空 | 2012/11/24 14:04 | URL |

管理人のみ閲覧できます

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| | 2012/11/25 01:21 | |

最初の無名の言葉に同意する.....今主人公が誰なのかわからない....

| 無名 | 2012/11/25 04:55 | URL |

背中に柔らかい感触をというところでマリィの胸に抱かれていることを妄想した
今の平穏が怖いなあ……

| | 2012/11/25 07:56 | URL |

色々と言いたいコトがあるけど、木綿季ちゃんが幸せそうなだけで余は満足じゃ

| 尚識 | 2012/11/25 10:27 | URL | ≫ EDIT















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