陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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プロローグ ―――ボーン・イン・ザ・ワールド

推奨BGM:Mein Kampf


 ―――多分、医者のあの顔を一生忘れる事はないだろう。

 まるでキリストとサタンが二人三脚しながらやってきたのを見たような顔だった。確かにそんな姿を見る事が出来たら確実に世紀末か末世のどちらかだ。だが生憎とどちらでもなく、医師が僕を見て泡を吹きそうになった理由は別にある。本当に気持ちとしては複雑な所があるが、

 ―――僕は”病院の前に立っている”。

 これが冬の寒さなんだ、と今更になって体を使って感じ取っている。VRではなく、現実の寒さ。もう少し服を着るか何かをするべきだったのかもしれないが、生憎とそんな気分にはなれなかった。肌で感じる久方ぶりの冷気はバーチャル空間で感じられるものと変わらないようで―――結構違う。常に一定で保たれているシミュレーションの世界にはない常に変わる温度、湿度、風の強弱、そういう事全てが今、肌で感じる事が出来る。十五年に渡る闘病生活で痩せ細った体は完全には治ってはいない。本来は立ち上がって歩ける事自体が奇跡なのだ。これ以上サービスしてもらったら正直気持ち悪いのかもしれない。

 少し、不自由なぐらいが生きていることを実感できていい。


 退院する準備として貰った服装の内、首に巻いてあるマフラーをもう少しだけ身に寄せる。こう言う衣類の暖かさもかなり久しぶりだ。少なくともあの仮想世界に入ってからは設定された温度と、ゲームのスキルによる温度調整しか感じていない。首や体は暖かいのに指の先は寒い、この感覚はゲームの中では表現できていない細かい表現だ。

 視線を持ち上げて上を見れば青い空が広がっているのが見える。どこまでも澄んでいる、冬の空だ。少々濁って見えるのはALOで見た空にはなくてここにはあるもの―――スモッグによる環境汚染故の結果だろう。だがそれを含めて今、こうやって息を吸える現実世界が愛しく感じられる。というより今、現実の全てが愛おしく感じられる。なんというか、

 生きているって素晴らしい。生きているという事実それ自体が一つの奇跡だと思う。

 これ以上は延々と続けるだけになりそうなので思考をそこで無理やり引きはがし、腕に巻いた腕時計を確認する。時刻は九時半。普段通りであれば既にALOにログインし、スリーピング・ナイツの仲間たちと眠い眠い言いながら冒険を開始する時間だ。だが今日ばかりはそうならない。既に今日は遅れる事は伝えてあるが―――正直、皆もそんな場合じゃないだろう。

 ―――奇跡の対価は絶対に支払わなければならない。

 まあ、それもまだ先の話だ。約束を守るためにも―――僕は僕らしく、この瞬間を全力で生きればいい。それだけでいいんだ。

「えーと、あの子かな」

 と、そこでこっちに視線を向けてくる女性の姿を見つける髪は女性にしては短い。下は動きやすそうなロングのボトムスで、上は暖かそうなコートを着ている女性はこちらに近寄ってくると、首をかしげながら、

「えーと、紺野木綿季君……でいいんだよね?」

「あ、はい」

 自分の名前を呼んだ。女性の方へ軽く頭を下げる。初めて見る女性だが、健康的な美しさを持つ女性、と言うのだろうか。やはり”彼”の知り合いと言うべきか、普通に美人だった。ともあれ、目の前の人物が彼の言っていた人物であるのならば、

「綾瀬香純さん?」

「あ、香純でいいわよ。あまり敬語とか慣れてないでしょ? そういうの、あまり気にしなくていいわよ」

「あ、うん」

 ニカ、と笑みを向けてくる女性はまるで太陽の様だと思う。ほんの少し会話しただけなのに、この人、綾瀬香純の事は嫌いになれそうにない。彼も彼であれば、その知り合いも知り合いと言うべきなのか。

「駐車場の方に車を置いてあるからいこっか。荷物とかない? 大丈夫?」

 彼女の視線は此方の手元へと向けられているが、生憎と手荷物の類は一切存在しない。体の方が寝たきりだったため、私物など残っているわけがない。残り少なかった私物も姉が死んだのと同時に全て売り払ってしまって、自分の治療費となっている。だからこの服以外に私物は存在しない。身軽と言えば身軽だが、悲しいと言えば悲しい。

「荷物はないよ」

「んじゃあ寒いし早く車に乗ろっか!」

 元気のいい声で先導をされながら、病院の裏手の駐車場へと向かう。思えば、この病院の駐車場へとやってくるのは初めての経験だし、車に乗るのも十数年来の経験だ。ALOには馬車しかないから、これは久しぶりの経験となる。となると、少し興奮する。

 駐車場に置いてあった車は一台だけだった。解りやすく置いてあった車はグレーの車だった。

 テレビのコマーシャルで見た事のある様な車に見える。

「ふふーん、どーよ見なさいよ! ローン組んで買った我が愛車を!」

「え、ローン組んだの?」

「そうよー。ほら、乗った乗った」

ポケットから鍵を取り出すとボタン一つで車のロックを解除し、助手席の扉を開けてくれる。流石に少し構いすぎかもしれないと思うが、相手は純粋な善意からこういう対応をしてくれているのだ。実際、体は快調ではないのだ。善意に今は甘える事にして、助手席に乗り込む。扉が閉まると運転席の方に香純が座り込む。

「明広と司狼が無駄に車とかバイク自慢してくるから、私も就職したらいっちょかっこいいの買ってやるー! って感じのノリで購入したのよねー、これ。鼻で笑われてちょっとガチでキレた」

 えー。

「あははは、ごめんごめん、身内の話をしても解らないわよね。あ、シートベルトしてる?」

「あ」

「駄目よ、ちゃんとシートベルトはしないと?」

「うん、今やった」

 すっかり忘れていた。そう言えば車にはシートベルトが存在していたのだ。ずっとVRMMOの世界にいると安全性とかを全てシステム任せにしてしまうため、こういう現実での安全対策に関してはすっかり忘れてしまっていた。シートベルトが体を締め付ける感触が少し、キツク感じる。

「大丈夫? シートベルトした? あ、車酔いするタイプ?」

「えーと」

 どうなんだろう、今はまだ気持ち悪いとは感じないが、車が動き出したら解らない。車に最後乗った時の事を覚えていないので、どうとも言えない。本当に困ったところで、

「あ、解らないわよね? ごめんごめん。んじゃ、とりあえずゆっくり走らせるから、気持ち悪くなったら教えてね」

 そう言って車が走り出す。宣告した通りにゆっくりとだ。ゆっくりと車を走らせ始める。ゆっくりといってもそれなりの速度は出ている。が、酔う気配はないので自分はおそらく乗り物に酔うタイプではないのだろう。そういえばALOでは高速で飛び回ってるのだ。そう簡単に速度で酔う事もないだろう。なんて馬鹿馬鹿しい事を考えていたのだろうか。

「僕、少し興奮しすぎてるんじゃないかなぁ……」

「んー?」

「ううん。なんでもない」

「そう? まあ何かあるのなら何でも言いなさい。先生なんでも話を聞くから」

「先生?」

「そ、私先生なの」

 前に視線を向けたまま、香純が喋り続ける。

「一時は馬鹿の事もあって色々と諦めてたんだけどね。でも夢でね、諦めきれなかったところに馬鹿一号が……あ、明広の事ね? アイツがいつの間にかコネ持ってて、SAOリターナー相手に中学レベルの教師をやらないかー、って職を持ってきてくれたのよ。教師って職業はあんまり給料がいいわけじゃないから生活キツイわよー」

 諦めずに夢を追い続けて、そしてその結果夢をかなえた女性。それはとても平凡な事だが、同時にすごく素晴らしいものでもある。一体この世にいる人間のうち、何人が、全体の何パーセントの人間が壁に当たり、状況的に不可能になろうとも諦めずに前進できるだろうか。そういう意志こそが、彼が―――最上明広が最も尊いと思うものである。

 そういえば、

「ねぇ」

「ん?」

 車が信号によって止められる。

「香純と明広ってどんな関係なの?」

 そういえば迎えを寄越すとは言われたが、どんな関係だとかは聞いていなかった。いや、その情報は確実に蛇足なのかもしれないが、こうやって恩人の知り合いとでもなると結構気になるものがある。良く考えると彼、明広は何度も病院へ会いに来てくれたが、たった一度も自分の職業や背景については語ったことがない。となる、身近な人物から彼について知ることができるのは嬉しい事なのかもしれない。

「簡単に言うと私とアイツは昔っからの幼馴染なのよ」

 そこで苦笑される。

「フラグ建築ミスって横からかっさらわれたんだけどねー。いやぁ、私も二年の間にフラグ立てて結婚までダッシュするダークホースがいるとは思わなかったわ……」

「好きだったの?」

「そりゃあ好きだったわよ。昔からずっと一緒だったし。本音言うと家庭的な部分で私先輩に勝ってたし、この勝負には勝利したもんだと若干慢心してたわね。あ、先輩っていうのは私の高校の先輩で、一緒にアイツを狙う仲だった人ね?」

「へぇー、人気だったんだ、あの人」

「無愛想に見えて実は世話焼きだったり、細かい気配りができて、結構マメな人間だったからね。好感度の稼ぎ方は上手かったわよー? まあ、それも多分身内だけの話だけどね。アイツ、結構他人はどうでもいいって感じのフシがあったんだけど……」

 緑色になった信号を合図に車が再び動き始める。速度を守り、安全に運転しながら、車は一秒ごとに目的地へと向けて進んでいる。

「アイツも変わったなぁ……。やっぱり、大きくなると変わらずにはいられないのよねー……」

 そう言ってハンドルを握る彼女の表情は昔の、なんだか懐かしい物を眺めている様な、そんな表情を浮かべている。まだ二十代なのにそんな表情を浮かべるのには早いんじゃないだろうか、何て事も思うが、彼の浮かべた雰囲気を考えると、幼馴染関係にもいろいろあったのではないかと邪推する。まあ、狙っている云々言っている時点で何かがあったのはもはや確定なのだが。

「でも、こんな風に頼みごとするんだからきっと仲がいいんだよ」

「まあね。結局アイツは結婚しても人付き合いに関しては何も変わらなかったわね。喜べばいいのか、悲しめばいいのか。これじゃあ最初から何も意識されてないようで、意識しまくってた私がバカだったみたいじゃない」

 女の心はやはり複雑である。

 と、そこで車が動きを止める。大体1時間ほどのドライブだったが、どうやら目的地に到着した様子だった。もはや大通りにはおらず、どっかの密集住宅街というか、マンションや家の多い場所へと来ていた。車はそんな住宅街にあるマンションの一つ、その地下の駐車場へと入って行く。どうやらここが目的地だったようだ。

「さ、降りていいわよ」

「あ、うん」

 車が止まってからシートベルトを外し、そして車の扉を開ける。降りる際に体が少しだけよろ、っと来たのは車になれてないからだと思いたい。自分がここまで弱っているなどとは思いたくない。車から降りたところで香純も車から降り、車に鍵をかけ終わると、駐車場の一角に存在するエレベーターに向かう。彼女に黙ってついていく。

 エレベーターに乗り込むと、階を表示するボタンには九階までが表示されている。香純が九階のボタンを押し、エレベーターの扉は自分と香純をいれて扉を閉める。

「相変わらずいい所に住んで居るわね……アイツと私の人生には何故こうも開きがあるのか……!」

「それ、私怨じゃないかな」

「うん」

「……」

 完全に開き直っているので何も言えない。そんな所でエレベーターが九階に到着する。エレベーターから踏み出してみる九階のホールは結構綺麗だった。まるでホテルのホールだと評価する。といっても自分が知っているホテルなどゲームの中の物だけなのだが。

「こっちこっち」

 香純が手招きしてくる方へ歩くと、ある扉の前に止まる。その扉には数字で”903号”と書かれている。

 おそらく、此処が目的地なのだろう。おくすことなく呼び出しのベルを香純が押す辺り、結構ここへ来る回数は多いのかもしれない。と、家の中からベルに対応する反応として声が聞こえてくる。

「はいはーい」

 少し急ぐような足音と共に、扉の鍵が外れ、扉が開く。開いたドアの向こう側にいたのは二人組だった。一人は金髪の女性だった。同性の自分からしても美しい女性だと思えた。エプロンをつけている所を見ると、料理中だったのかもしれない。そして、その横に立つのは男の姿だ。ジャージ姿と何ともやる気のない服装だが、人物をよく知っているおかげか、そこまで気にならない。

 そして、金髪の女性が口を開く。

「いらっしゃい。待ってたよ」

 それに続く様に、男の方が、明広が口を開く。

「さ、中に入りな木綿季。此処が君の生活する家だ。我が家だと思って寛げばいい」

 ―――HIV感染者を預かってくれる親戚はどこにも存在しなかった。姉と両親がいなくなった今、保護者として名乗り出てくれたのは、彼だけだった。だから、今日から僕はここで暮らすんだ。

 ……奇跡の対価を支払う、その日が来るまで。




新感覚マザーズロザリオ:全員治療済み(?)

この時点で原作と大いに逸れる事は確定済みですよー。
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| 断頭の剣鬼 | 12:54 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

お久しぶりです。

これだけを見ればマザーズ・ロザリオとは全く思えない。
まさに未知・・・っ!

続き期待して待ってます。

| 断章の接合者 | 2012/11/23 13:57 | URL | ≫ EDIT

こっからどう進んでいくのだろうか…。
楽しみにしています。

| 烏 | 2012/11/23 15:25 | URL | ≫ EDIT

 今までがどこか既知ばかりだったのに未知……だと……
期待するしかないじゃないか

| 狐 | 2012/11/23 20:09 | URL |















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