陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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プロローグ ―――フォー・ザ・ミラクル

推奨BGM:Ewige Wiederkunft


「木綿季。君は既知感を感じた事があるかい?」

「僕にはないよ。君にはあるの?」

 ―――それが彼との最初の会話だった。

 病室の中で、仮想世界で過ごしてきて、同じ患者以外にはあっていなかったはずなのに。何故かこの訪問者だけはすんなりと受け入れる事が出来た。不思議だった。その第一声が既知感を感じた事があるかどうか、そんな意味不明の言葉だった。だけど既知感なんてものは感じた事がないし、そんなもの知らない。それはいわゆる幸福なのかもしれない。初めて会った時の彼はどこか人生に疲れ切った様な姿をしていた。それは会う度になくなっていったものだが、初めにあった時は何故か僕よりも危うい気がした。

「初めまして紺野木綿季君」

「初めまして名も知らない人」

 自己紹介の前に来た質問の答えについては何も言及されなかった。だけど、何故か答えはそれでよかった気がする。その答えが彼を喜ばせていたような気がする。そう考えると、何故か自分も楽しくなってきた。嬉しくなってきた。解らないけど、目の前の人物は信用できる、いい人だということが解った。そこに、理由は必要なかった。


                           ◆


 彼と初めて会ったのは約一年前の冬の事となる。

 それ以来、彼とは何度も会っている。医師を除いてここまで僕に会いに来てくれたのは彼だけだと思う。現実の体は―――HIVに感染している穢れた体はもはや人の前に見せられるようなものではない。僕とこの仮想空間で会うということは、少なくとも一度は体の惨状を見なくてはならない。死にかけた、人間の体を直視しなくてはならない。なのにそれをものともせずに彼は一年前の冬、大体一月ごろから何度もここへ通って、僕の話し相手になってくれた。

 姉を失った僕の心の傷を塞ぐのには絶好の話し相手だった。

 彼との会話は僕にとって、驚きの連続だった。

 彼は僕の話を聞くだけではなく、彼自身の荒唐無稽な話もしてくれた。彼は本当に話がうまかった。普通に考えてありえない話を次から次へと、それを引っ張り出してきた。そうやって彼は何度も何度も病室を、そして僕のいる仮想世界を訪ねてきた。アルヴヘイム・オンラインというゲームを紹介してきたのも彼だった。そこで同じ先の短い仲間たちと此処が求めていた世界だと確信した。無限に広がるように思える世界に、羽根で空を飛べる事の快感は他のVRゲームでは味わえない快感だった。

「君は神を信じる?」

「そんなものはいちゃいけないから信じてないよ」


                           ◆


 思えば、彼は神と言う存在に関しては少なからず存在を信じている事があった。いや、信じているのではなく確信している様子だった。神と言う存在が実在し、そしてそれが実際に生きて何かを行っている。その正体を掴んでいる様にさえ感じられた。彼の言葉の端からは神に対する苦い思いが零れてきている様な、そんな感覚さえあった。

 だから神の有無については良く語り合った事を覚えている。

「僕は神様はいてはいけないんだと思うんだ」

「へぇ、それはなんでなんだ?」

「だってこんなに助けを求めている人間がいるのに欠片もその慈悲を見せてくれないんだよ? ユダヤにしろ、キリストにしろ、イスラムにしろ、世界の終わりは来ないし審判の時だって来ないじゃないか。多分僕が生きている間は奇跡なんておきない。神様は人を試すだけでその姿を現してくれない。僕みたいに死に際の人間からしてみれば宗教は救いであると同時に迷惑なんだ。心が弱ければ宗教にハマって死後の救済を求めるのもいいかもしれないよ? だけど僕は死後を前提とした生き方は嫌いだよ。今を僕は生きているんだから、死後は死後に任せるとして、今は今を僕は精一杯生きているのに、それを見て”試している”だけの一言で終わらせる神々には正直いてほしくない」

「その発言はあんまりしちゃ駄目だぜ?」

「うん。解ってる」

 君の前だから言えてる、とは絶対に口にしない。押しとどめていた、この甘えにも似たこの感覚は飢えだ。きっと、僕はずっと本音で語り合える相手を欲しがっていた。我慢せず、堪える必要もない、そんな相手が欲しかった。姉は駄目だった。彼女もまた、闘病生活で疲弊していた。医師も駄目だ。確かに優しく、そして話を聞いてくれるだろうが―――身近過ぎた。誰か、全く関係のない人間に聞いてほしかった。僕の考えを、どういう人間か、どんな風に思っているか。

 そして彼は、答えてくれた。

 多分、

 僕は彼に―――父性を感じていたのだと思う。


                           ◆


 姉も両親もいない。いるのは死を待つ仲間たちだけで、天涯孤独の身。奇妙な出会いなのに、何故か彼は僕を優しく抱きしめてくれる、心の底から大切にしてくれる、そんな確信があった。疑う必要もなく、この人は僕を大事にしているという確信があった。溺愛と言ってもいい。いや、それは僕だけにではなく、

「最近、気づいた事があるんだ」

「どんなこと?」

「人間と言う種族が大好きなんだ」

 人類と言うスケールでの話になる。やはり、荒唐無稽だ。今年の冬になって、つい最近会いに来てくれて、教えてくれた事実だ。それを語っていた時の彼はなんというか、告白に近い感じのものがあった。僕と会話をしながら言葉をかき集め、それを纏め上げているようなところがあった。

「いや、正確に言えば人間の放つ輝きを愛しているんだ。必死に生きようとする今、その刹那に生まれる輝きが美しく、それが好きなんだ。ほら、何かを一生懸命になっている人がいるとさ、応援したくなるだろ? 俺の場合はそれを応援するんじゃなくて手を出すんだよ。といっても手伝うわけじゃない。邪魔が入らない様に少し周りを綺麗にするだけ。そう、それだけできればいいんだ。人ががんばっている輝きを見れるだけで俺は満足なんだ。だからなのかな、君の事は特別好ましく思うよ」

 そう言って彼は頭を撫でてくれた。

「まぁ、いちばんに愛しているのは妻なんだけど」

 その言葉は少々余計だと思うけど、だけど彼の言っている言葉の意味は解る。つまるところ傍観者であることが彼の趣味であり、幸せなのかもしれない。頑張っている姿、という所にはやはり僕も含まれていた。なら彼から見て僕は一生懸命に生きようとこの世で足掻けているのだろうか。

「あぁ、俺が保証しよう。君は誰よりも刹那を輝こうと必死に生きている」

 そう言われると嬉しい。

「君は昔から、そう。ずっと昔から変わらないね」

 それはまるでずっと、ずっと昔。遥か昔の事を思い出すかのような言葉だ。おかしなことだ。僕と彼の出会いは一年前―――いや、正確に言えば十一ヶ月前の話だ。まるで前世からの知り合いの様な言い方をされても苦笑して困った表情を浮かべる事しか僕には出来ない。

「やっぱり前世を信じていない?」

 前世を信じているかどうか―――と問われれば信じたい、と言うのが答えとなる。

「信じたい?」

 うん。信じたい。だって神様を信じてないからって何も信じてないわけじゃない。逆に言って、僕の様な末期の病人が神様なんかに頼らずに自分の意見をハッキリ言えるほどに正常な精神をしているんだ。それはつまり、宗教に負けないだけの信仰か思いが僕の中にはあるって事なんだと思う。

「へぇ、それは初耳だな」

 でしょ? 多分僕も初めて深く考えてる。こんな風に考えるのは多分初めてなんだろうけど。僕は、輪廻転生って考えを凄いロマンティックだと思うんだ。だって前世の縁とかを引き継いで来世を迎えるんだよ? 確かに全てがいい事じゃなくて、悪い事もあると思うけど、前世であった事のある人と来世で出会えて、こんな風に脈絡もない会話ができたら凄い素敵だと思うんだ。

「木綿季としたら今はどうなんだ」

 どう、って?

「今の状況が素敵なのか、ロマンティックなのか、もしくは何らかの別の言葉に収まる状況なのかどうなのか」

 解らないよ。リアルが寝たきりになってから僕もう勉強していないし、昔はどうだったか解らないけど今の僕はそこまで頭良くないもん。だけどすごく楽しい考えだと思う。君と僕が前世で話したことがあって、そしてまたこうやって取り留めのない会話をしている。うん、僕はそれだけで十分に素敵な事だと思う。

「それは重畳」


                           ◆


 そして、

「君はあと少しだけ輝きたいとは思わないのかい」

「また面白い事を言うんだね」

「あぁ、道化を演じる事では誰よりも上手だとは理解しているよ」

「あまり褒められたことじゃないと思うよ」

 そういうが、実際は少々面白くて笑っている。が、見つめる彼の表情は笑っていても真剣そのものだ。白い、病院内の仮想空間の世界。ベッドと空色の壁模様以外はまるで殺風景のこの部屋で彼は真剣な表情を浮かべ、僕に輝いてみないかと言葉を持ちかけてきた。

 まるで、意味の解らない話だ。

「僕にHIVを克服してみろって言いたいの?」

「いいや」

「じゃあどうしてほしいの? そんな抽象的な言葉じゃ僕には通じないよ」

「なあ、木綿季……≪スリーピング・ナイツ≫の活動は楽しいか?」

「うん。楽しいよ」

 その答えを出すのに、考える時間は必要ない。問われた瞬間には答えられる。姉が結成したスリーピング・ナイツと、その仲間たちとの冒険は楽しい。あぁやって空を飛んで、スキルを上げて、そして冒険する日々が永遠に続けばいい。そんな子供の空想めいた願いを抱いてしまうほどには楽しい。

「だったらさ、木綿季―――その魂を売る気はないか」

 おかしなことを言う。

「変な宗教でも始めたの?」

 魂を売るなんて非現実的な事を言い始めた彼の事を若干心配する―――とはいえ、非現実的なIFの話は既に良くしている。だがここまでストレートなのは流石に珍しい。ついに頭がおかしくなったのではないかと少しだけ、心配する。が、笑みを浮かべたまま、彼は手を伸ばしてくる。

「悪魔の契約ってやつだよ。木綿季。もし俺がスリーピング・ナイツ全員を治療できると言ったらどうする? もし、俺が期限付きで君の体を完全に治す事ができると言ったらどうする?」

 そんなIF話は非常に馬鹿馬鹿しい。

「そんな事現実としてありえないよ。他の皆が直る事はあっても僕だけはありえない」

「あぁ、だが可能性の話をしているんだよ、木綿季。可能性と言うものは獣なんだ。そこに那由他に一つの可能性があれば那由他も繰り返せばぶち当たるんだ。IFとしては中々素敵な話じゃないか? 君が魂を売って、その結果スリーピング・ナイツは完全に回復、君も期限付きで生身で動けるようになる。悪くない話だろ?」

「まるでたちの悪いセールスマンの様な話し方だね」

 あぁ、だけど。もしそんな事が可能だとしたら、

「迷わず僕は手を取るだろうね」

 彼が伸ばしてきている手を握る。暖かい手だと思う。顔には似合わず、中々硬くも感じる、男の強い手だ。

「もし、その契約で君の死後の魂が一生こわーい悪魔に縛られるとしても君は後悔せずにいられるか?」

「そうだね―――たぶん、後悔するんじゃないかな」

 後悔をしない事なんて不可能だ。だって僕は人間で、人間とは不確かで不完全な生き物なんだ。だから覚悟を決めたようで決めきれなかった事や、後悔しない様にしたつもりであとで後悔もする。それがどうしようもなく、人間と言う生物を表している感じがする。

 だから、うん。

「僕は後悔するかもしれないけど迷わず手を取るよ、悪魔さん」

「そうか、なら実際に契約してみるか?」

「君と?」

「あぁ、そうだ。君の死後の魂を永遠に俺の軍勢として、役割を追える日まで縛り続ける」

 何とも物騒な響きだ。束の間の自由の為に死後の全てを失う。取引としてはこの上なく最悪な類の取引だ。これで書類にサインする人間がいたら相当頭がおかしいのだろうけど、

 僕は、

 ”また”そこにサインをした。

「ま、騙されたと思って契約してあげるよ」

 そういうと、彼は笑みを深くしていた。何か、とても眩しいものを見る様な、とても愛しい何かを見る様な、自分の子供に向ける情愛の様な物を込めた眼差しを送ってくる。見た目、二十数歳しかないはずの相手なのに、その眼差しには万年を経験したかのような者の深い情愛が込められていた。そして、ゆっくりと彼は口の端を持ち上げながら言葉を放つ。

「あぁ、信じるといいよ」

 少しだけ、胡散臭いとは感じるが。

「―――俺は君のその魂の在り方を非常に好ましく思っている」

 キザったらしい台詞で、

「約束しよう、木綿季。君に輝ける場を与えると。そして新世界を生み出すための礎になって貰うよ。何、心配する事は何もない」

 そこで一旦区切り、

「あぁ、そうさ」

 僕の瞳を射抜く。

「―――全能の神、栄光の王はここにいるさ。奇跡の一つや二つ程度容易い。その輝きの為ならば奇跡を起こしてみせよう。それこそが傲慢である証明が故に―――」

 そして、僕は奇跡を見た。




 謎だらけの木綿季との会話。これがマザーズロザリオ編の始まりにして真相の全てだったり。
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| 断頭の剣鬼 | 08:12 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

ユウキのレギオン化ktkr

| 空 | 2012/11/22 17:25 | URL |

久々の投稿
リメイク前のフラグ回収ktkr

| ぜんら | 2012/11/22 23:03 | URL |

ユウキの就職先(死後)が決定しました。
(まともな)人材不足でブラックなのは間違いない。
けど、グラズヘイムよりは、まし、かなぁ・・・?

| 断章の接合者 | 2012/11/23 14:03 | URL | ≫ EDIT

明広とユウキの会話にニヤニヤが止まらん!!
そして最後のセリフ。これはまさか傲慢(ルシフェル)の大罪のことか!シャヘルは曙(明け)の明星の神でルシフェルの父という説とそのものという二つの解釈があるがここではルシフェルそのものなのか。
・・・・ということは、明広=サタナイルで明広もシン(罪)の力が使えるということで、キタコレ!!魔刃や魔群、そしてなによりわれらがアストたんも復活の可能性が!!!

| 随神相 | 2012/11/23 14:54 | URL |















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