陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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悪夢 ―――アイ・ドント・ウォント・トゥ・ルーズ

推奨BGM:Bottomless Pit


 空気を求めて深く呼吸しながら肺を酸素で満たす。これがバーチャル世界だという事は認識しているが、今、この瞬間はそうせずにはいられなかった。とにかく肺が酸素を求めている、そんな感覚が体にはあった。体に纏わりつくプレッシャーが転移が終わってようやく消えていくような感じがする。大地に両膝を突き、尻を突き、そこでやっと私はあの異常な空間から抜け出せたことを認識する。あの現実と仮想がごっちゃに混ざって何が真実か解らなくなったような、そんな不思議な空間。あそこに戻る事を体が否定しているのを自覚する。だから心臓を落ち着かせる意味でも深く深呼吸を繰り返す。何度も繰り返した事でようやく落ち着いてきたのを感じる。先ほどはキリトの前で無様を晒してしまった。

 あんなネカマ野郎に。

 いや、キリトのやっている事も今になって見ればその意味は解るのだ。死銃を探しにBoBに参加しに来る。参加の方法が解らないのであれば聞けばいい。政府の雇われにしては少し事前調査が足りない気もするが、手段自体は間違っていない。だからと言って納得できるという話でもない。そこには確かにキリトに”騙された”という結果があり、そして裏切られた気持ちがある。だから事実と気持ちは別の問題だ。


 そう、気持ちと事実は違う問題なのだ。死銃と言う存在を許せないという気持ちが目の前に存在する。先ほど見せられたシステムを無視するような光景は今すぐにでもGMに報告すべきなのだろう。そうすればアカウントのBANや何らかの対処をしてくれるに違いない。だが、そういう常識的な手段が通じる相手のようには思えなかった。何故だかわからないが、その程度の対抗策じゃ意味が無いような気がした、実際に攻撃し、弾丸を撃ち込み、そして殺した瞬間にこそ初めて安心できる―――そんな予感があった。もとより、アカウントのBANだけで済むのならキリトが死銃とその仲間たちを見つけた時点で行っている事だろう。仮にも政府に雇われているのならそれ位出来てもおかしくない。なのにそれをせず、戦って決着をつけるという事は―――。

「……倒す……の……?」

 アレを? あの悪鬼の集団を?

 無理だ。そんなの不可能だ。とてもだがまともな神経で勝てる相手のようには思えない。アレが普通のアバターにはどうしても見えなかった。戦うとなったら一瞬も油断できない。いや、油断しなかったところで通じるかどうか怪しい。寧ろ何も出来ずに負ける可能性の方が高い。

 そして、何よりも、

 黒星。

 特に特徴という特徴もない安物の銃だ。だがそれを死銃に押し付けられた瞬間、体は硬直して動く事を否定して、そして同時に思考する事すら許さなかった。遠い昔の記憶を呼び起こす。生きる為に人を殺してしまった、あの時の記憶を。一生忘れない。一生忘れられない後悔と恐怖の塊。握って引き金を引いてしまった黒星の重みが何時までの手の中に残っている。それを思い出すだけで再び心臓がばくばくいいはじめ、思考能力を奪う。

「しっかりしなさいよ……!」

 軽く自分の頬を叩き、インベントリからヘカートを出現させる。ヘカートを支えに尻もちをつく体を持ち上げて、首に巻くマフラーを口元に引き寄せる。ヘカートを握るだけでもだいぶ精神が楽になった。ヘカートは自分の心をこの世界でずっと支えてきた相棒だ。自分の魂の結晶とも言える存在。手に触れていると、それだけで落ち着く。

 ……人としては少し危ないかもしれないが、この重さが心地よい。今はBoBの三回戦中だ。まだ知りたい事はいっぱいある。こんな所で休んでいる暇はない。真実を知りたければ勝ち続け、キリトを問いただすしか方法はない。だからこそヘカートを両腕で持ち、体を低くしながら到着したフィールドを駆け抜ける。

 フィールドは市街地B。

 遮蔽物、そして廃ビルが多く存在する世紀末風のステージだ。

 街の中が戦場となっているこのステージは遮蔽物が多く入り組んでいて、狙撃には向いていない。そのため主武装がヘカートである自分にとっては非常に戦いにくいステージだ。だからと言って手持ちのガバメントでは十分な威力を発揮できない。敵を倒すとなれば自分の攻撃手段は狙撃に絞られる。それはこのステージでは難しい話だが―――できない事でもない。

 狙撃の極意とは待ち伏せと誘い込み。本来なら二人でやる作業だが、スコードロンからスコードロンへと渡り歩いたからこそ身についた技術がある。誘い込みは、トラップなどを利用して相手を意図的に動かす、そんな手段。インベントリの中を確認すれば前の二戦でも同じことをやってきたためにクレイモア、グレネード、そしてスモークが少し減っている。が、全体的に見れば多い消費ではない。この市街地Bのステージはそれなりの広さがあって敵との接敵確率がそこそこ低い。それはつまり戦闘開始まで少しの余裕があるという事だ。BoBの決勝となるとサテライトスキャニングで位置を割り出す事が出来るので狙撃手にはつらい場なのだが、此処ではそれはない。

 ―――私の独壇場よ。

 精神を戦闘状態へと切り替え、ヘカートを手に持ったまま移動を開始する。こんなゲームをやっていれば狙撃銃で接近戦をやる方法も自然と身につく。ヘカートを出しっぱなしにしているのはそういう理由もあるが、多分、

 今、ヘカートを仕舞ってしまえば、また心がくじけそうになってしまう。そんな予感がする。

 それ程に、あの三人……いや、あの軍服を含めた四人は恐ろしかった。もう二度と会いたくない。しかし、二度と人生における接点を持ちたくないと祈っていても、勝ち抜けば再び出会い、戦う機会があるのだろう。だが、

 わざと負けて逃げる様な真似をしてしまえば、絶対に自分が許せなくなる。

 だから、自分に許されたのは進む事のみだ。

 市街地Bの、あらかじめ決めていた誘い込みのポイントへと罠を張りに行く。


                           ◆


 ヘカートのスコープ越しにその光景を見る。ビルの部屋の一つ、持ってきた灰色の布の下、そこから銃口とスコープだけを覗くようにしている状態だから、外から見つけるのは至難の技だろう。自分の予想が正しければ一度銃撃し、弾道予測線が見えでもしない限りは見つかる事はない。だからこうやって心を落ち着かせ、スコープ越しに見る光景に―――敵はいた。市街地戦でのセオリーというか、片手にアサルトマシンガン、もう片手にグレネードを握っている。此方の居場所が把握されればグレネードを投げ込まれてそれで終わりだ。そしてそのまま見つめ続けると、

 敵が予測地点に入り込んだ。

 一歩、二歩、三歩。そうやってゆっくりと確かめながら足を進める敵の姿を追いかけ―――動きが止まった。足を踏み出そうとした場所にはクレイモアのワイヤーがワザと見える様に置いてある。それが敵に見つかったのだろう。そこで動きが止まるが―――まだ撃たない。敵を確殺できるその瞬間までは、絶対に引き金を引かない。そのまま相手がクレイモアのワイヤーを越えて進まず、進む方向を変えるのが見える。そこで一旦建物の陰に隠れるが―――予想通りだ。GGOにはレアアイテムだがステルスマイン、ステルス機能の付いた地雷アイテムが存在する。ワザと見える場所にクレイモアなどを設置し、それを避けて踏み込んだ場所に接地すると言う手段を、大会でもたまにだが見かける。もちろんそんな高価なアイテムを自分は所持していない。が、”かもしれない”という行動は安全マージンを取る上では重要だ。今回はこうやってその心理を逆に利用している。そこで銃撃か何かをしてステルスマインがないかを確認するべきだった―――銃声で位置がバレるのを防ぎたかったのだろう。

 真正面から戦う戦いは存在するが、基本的にGGOというゲームは潜伏と奇襲、それが基本のゲームだ。パラメーターは存在するが、奇襲からヘッドショットで一気に終わらすのが有効な手段。だから根気よく耐え忍ぶことが強者に必要な資質でもあるのだ。特にスナイパーとなるとそれが高いレベルで要求される。だからこそ相手が来るのに耐え―――見えた。

 用意しておいたルートに相手を追い込み、その姿が開けた場所に出るのを確認した。そこは自分の戦場だ。ヘカートの照準を相手の頭に合わせる。弾道予測線は今日も調子がいい。狙撃という事で一発目は敵に見えない。心臓も落ち着いている。弾道予測線は細く、確実に脳を撃ち抜く軌道で伸びている。このまま引き金を引けば確実にヘッドショットで一撃死だ。いける、確信した瞬間。

『―――人殺し』

 去り際に残された言葉が脳を凍てつかせる。引き金を引く事を躊躇する、その言葉を思い出しただけで精神が乱れる。弾道予測線が丸太程の太さにまで広がる。この状態でとてもだが狙撃なんてできない。これで撃つようならただのギャンブラーだ。しかもスってばかりのタイプのだ。

「ふぅ……ふぅ……ふぅー……」

 素早く深呼吸を繰り返し何とか精神を落ち着かせる。しかし残された言葉が残響として脳内に響き続ける。拭いきれぬ嫌悪感と罪悪感が胸を焼く。何故だ、何故私が人殺しだと解ったのだろうか。もしかして現実の知り合いだった? 親戚だとか? そしてキリトも人殺しと呼ばれていた。あぁ、駄目だ。その一言だけで心が激しく乱されている。思い出すだけで動悸が激しくなる。せっかく相手を追い込んだのに離れてしまう。また追い込むとなると姿を晒す危険性が出てくる―――。

 ―――そこで、キリトの真剣な表情を思い浮かべる。

「あ……」

 何とかする。そのためにここに来たんだと。そう言って、負けない意志を示していた。それを思い出した瞬間、

 弾道予測線は一気に縮小する。瞬く間に一つの線になるとそれが頭に重なる。瞬間、反射的に引き金を引く。発射の衝撃で布が取れ、床に落ちる。銃口から発射された弾丸は回転しながら超高速で空を割きながら進み、弾道予測線の指示する通りに一直線に―――敵の頭を貫通して後ろの壁に突き刺さる。ヘッドショットを受けた相手は一撃でライフが全損し、悔しそうな表情を浮かべて倒れる。その姿をスコープ越しに確認し、荒い息を吐き出し立ち上がる。

「ざまぁ見なさい。ふざけんじゃないわよ。死銃がなによ―――そんな事認められるわけないでしょ。ゲームが現実を侵すなんて」

 そう、そんな事絶対に認められない。だから―――私は戦う。

 私がシノンであり続ける為に、私はこの銃を死銃へと向け、そして引き金を引く事に一切躊躇しない。足手まといかもしれないし、確実に負けると思う。だが恐れて逃げて縮こまるのは絶対にシノンのすることではない。そう、シノンは絶対にそんな事をしない。現実の朝田詩乃と違って、この世界のシノンはヘカートで戦う猛者だ。BoBの上位入賞者だ。

 故に、

「……負けない」

 死銃にも、

 そして、

 ―――キリトにも。
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| 断頭の剣鬼 | 08:32 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

誤字で吹いたw
灰を酸素デミタシ→肺を酸素で満たし
政府の夜刀我→政府の雇われ

| | 2012/10/16 13:31 | URL |

絶対キリトなんかに負けないっ(キリッ

キリトさんにはかてなかったよ…
ですねわかります

| おひねり | 2012/10/16 23:05 | URL | ≫ EDIT















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