陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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DAY12

「……」

 ―――ちょっと、今、自分の手の甲に彫られている物が信じられず、軽くだが放心している。そこには従騎士が誰でも求めるであろう、最高の報奨―――紋章が刻まれている。これを刻み込むことも用意する事もかなりお金がかかる為、基本的には親から子へと継承するのが通例だが、優秀な騎士などには苦労に報いる為にこうやって紋章を与える事がある。

 ―――入学してから十年が経過した。

 もう体は完全に女のそれとなっている。もう否定のしようもなく、俺は完全に女だ。胸が出てきて、くびれがあって、子供を産むための準備も出来ている、女だ。それはこの数年で嫌と言うほど知らされてきた。初めての生理などかなりパニクったのが記憶にある。今思えばかなり懐かしい話だが、そうやって積み重ねてきた経験を持って今、俺は―――従騎士の身分を卒業した。

 十年間をビオレと共に過ごしてきた部屋は最初よりも服や下着の類が増えており、それにそって道具も増えている。ビオレと共に過ごしてきたこの部屋が今日でお別れだと思うと、かなり寂しいものがある。ベッドに背中から倒れこみながら腕を持ち上げる。そして手の甲に刻まれた紋章を見る。二本の刃が交差するように描かれた、美しい絵のように見える紋章だ。これを持って俺は卒業と共に家名を得て、そして―――騎士の位を得た。これからは従騎士達の模範として生きる必要があり、この両肩には責任が乗っている。その意味も必要性も理解しているし、それに応えるだけの能力も今は備わっている。


「まるで閃光の様な日々だったなぁ」

 今だけは髪や尻尾が乱れる事を気にせずにベッドの上に体を倒している。これから先、色々とやるべきことがあるから、その前の最後の休みだ。従騎士としての日々は楽しかった。ビオレと一緒にファッションセンスを磨いたり、化粧の仕方を覚えたり、結婚とかの将来を話し合ったり、同期達とたまには街で遊んだり、他人の色恋沙汰に首を突っ込んだり、告白を即答でぶった切ったり。本当に、本当に楽しい日々だった。そしてこれからも形は変わるが、まだ楽しい日々が続くのだろうと、そう思う。

「サイアス?」

「ん、ビオレ?」

 部屋の扉を開けてビオレが入ってくる。ビオレも自分と同じく、正式な騎士団の服装に着替えている。その髪も耳も尻尾も綺麗に整えられており、薄くだが化粧も済ませてある。ベッドの上に倒れている此方の姿を見ると、軽く苦笑する。

「この後で領主様に会うというのに駄目じゃない」

 ビオレの視線は俺の髪と尻尾に向かっている。あぁ、そう言えばこの後領主様に会えと言われているのだった。卒業式の後でまた会うとか軽くダルく感じるが、領主の命令には逆らえない。また髪と尻尾を整えなきゃいけないのだが、

 あー、何か面倒だなぁ……。

「やる気しないー」

「サイアス」

「起こしてー」

「そこまで面倒くさがらなくてもいいじゃない」

「なんというか、従騎士生活終わったんだなぁ、って軽く脱力してる感じ」

 今までの生活がひと段落して、それで新しい生活が始まるのだ。そうなると今とは何かが一変するわけで、……普通はあまり深く考えない事だが、こう、何度も人生に変化を迎えている人物からすると少し感慨深いものがある。だから少しだけ、ほんの少しだけこの状態で放置して欲しい気持ちもあるが、このまま次のステップへ連れていって欲しい気持ちもある。なんだか少し複雑な気分だ。

 言葉で表現できない。

「起こしてよー」

「結局、その物臭な部分は直らなかったわね」

「そんな事を言いながら、起き上がらせるために近寄ってくるビオレ愛している」

「はいはいはい」

 若干ぞんざいな扱いだが、仕方がないわね、と言葉を漏らしながらビオレが近寄ってくる。口ではなんだかんだ言いつつも、こうやって助けに来てくれるからビオレは好きだ。

「とぅっ!」

「キャッ!」

 起き上がらせるためにビオレが近寄ってきたところでビオレの細い腰に手を回し、一気にその体をベッドに倒す。そしてそれに抱きついてベッドに転がる。

「ごろごろごろー」

「あ、ちょ、や、やめてよ! 折角髪とか整えたばかりなのに!」

「あはははは」

「笑い事じゃないってば!」

 ところが残念、私にとっては笑い事なんですよ。

 そのままビオレの上、マウントポジションを取って両手をワキワキさせながら力といやらしさをアピールする。

「くっくっくっく、このサイアスがビオレちゃんをいい声で泣かしてしまいましょう」

「……」

 無言でビオレが睨みかえしてくる。

 ―――あ、これキレる少し前だな。

 そろそろやばく感じ始めたのでビオレを解放し、横に大の字になって倒れる。そのまま、しばらく無言で天井を見つめ続ける。相当古い部屋なのか、天井にも結構シミがついている。壁とか床は十年も使っている事からビオレと一緒に修理したり張り替えたりと、許可を貰っていろいろしたが、この天井だけは結局何もせずに放置したままだな、っと思う。

「なあ、ビオレ」

「なにかしら」

「卒業しちまったなあ……」

「―――怖いの?」

「……少しだけ」

「そう」

 流石に十年も一緒にいればわかるか。

 そう、変化というものに恐ろしく敏感で臆病なのだ。何でもいい。新しい事、つまり未知に挑む事に関して俺は臆病なんだ。今まで、常に既知ばかりを味わってきたから―――その安心感に甘えすぎてしまった。だからいざ、新しい事に挑むと先が見えなくて、怖くなってしまう。今、こうやって楽しんでいる事がこの先壊れてしまうのではないかと、そんなくだらない事を考えてしまう。

「馬鹿だよなぁ……」

 そんなはずないのに。

「壊れる物なんて何もない、形を変えて続いていくだけなのになぁ……」

「……」

 ビオレはそれを黙って聞き入れてくれた。何も言わないでいてくれた事に感謝し、体を持ち上げる。ブラシを取り、それをビオレに向ける。ここ数年は自分一人でブラッシングを続けてきたものだが、

「偶にはよろしく」

「まったく……終わったら私をお願いね」

「あいよ

 仕方がない、というニュアンスを言葉に込めながらブラシを受け取ったビオレに、背を向ける。懐かしい、ゆっくりとしたストロークで髪にブラシを通すのを感じる。近くに置いてあるもう一つのブラシを取り、それで尻尾の手入れも始める。なんと言うか、非常に懐かしい。こうやって髪を整えてもらいながら尻尾を綺麗にする。この形でやるのは何年振りだろうか―――。

「俺達、次はどこだっけ」

「領主様のご息女―――レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ様の御側役よ」

 あぁ、そう言えばそうだったな。まだ六歳になったばかりの腕白姫だったか。最近あちこちで発生する爆発の主犯が彼女だったはずだ。……御側役という事は必然的に親衛隊入りだ。いや、彼女の親衛隊はまだ創設されていない。つまり俺達の存在を持って親衛隊は創設されるのだ。

 ……まだまだ、人生始まったばかりだよな。

 この先も、まだこんな感じの日々が続いていく、そんな感じがする。
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| 短編 | 00:51 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

ヤバい。アスたん超可愛い。マジかわいい。

| 空 | 2012/10/09 07:52 | URL |

サイアスハアハア・・・

| 雑食性 | 2012/10/09 20:26 | URL |















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