陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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DAY11

 持ち上げ、振り下ろす。

 それを既に数百回繰り返している。

 手に握られているのは木刀で、柄の部分には手の保護のために皮が巻かれている。手になじんだ形の得物は何百回、何千回振るおうが薄れることなくその感触を体に刻み、ある種のエクスタシーを感じさせる。とは言え、本当にそれで絶頂する様な変態でもない。だが無心になって得物を振るう機会はある種の、

 救いだ。

 そう、救いだ。

 剣を、いや、武器を握ってしまった瞬間、脳の思考回路が切り替わる。それはもう仕方がない事で、どうしようもない事だ。これは前世からの因果とでもいうべきか―――人間の形をした処刑道具として生きてきた感覚が魂にまで浸みこんでしまっている。故に刃を、得物を握ると真っ先に宿るのは、

 ―――処刑の意志。

 一撃。そう、一撃。どんな生き物も一撃だ。それがギロチンという道具だ。処刑の為に生まれ、そして処刑するためだけに使われる。どんな生物も首を落とされれば一撃で死ぬ。それは生物として生まれればごく当然の事で、当たり前で、常識で―――似たような言葉を使って説明する必要もなく、絶対に回避できない死。それが処刑。


 だから俺の振り下ろす刃は戦闘ではなく、処刑の刃だ。

 どこまでも必殺しか存在しない。必殺しか求めない。必殺しか考えない。敵は必ず倒し、必ずそこで終わらせる。決めると決めたらそこで終わらせてしまう。

 たとえ周りの従騎士達と同じ型、同じ姿、同じ速度、同じ力で振っていても、その質は根本的な部分から違っている。皆が剣術をその体にしみこませている中で、俺だけは処刑術を思い出している。この五年間、ひたすら鍛え続けて来た剣術は、

 その全てが処刑術へと逆戻りしていた。

 意識して処刑の事を頭から切り離そうとも考えたが、無駄だった。どう足掻いても染み付いた色は薄れない。いや、染み付いているのではない。処刑、それ自体が俺の一種の形だとさえ感じられた。だから、俺は、

 剣を使った訓練が何よりも嫌いだ。

 ここまで来た。既知感はないのだ。こんな未知の世界で、素晴らしく優しく、暖かい世界で生まれたのだ。なのに、前世の業は、人殺しは生まれ変わってもまだ人殺しだという風にずっと体に付きまとう。染み付いて離れない。剣を放した瞬間にこの不快は消える。だけども目指すべきものがある。生きたい所がある。やりたい事がある。やらなくてはならない事がある。

 この事実から逃げ続ける事も顔を背け続けることもできない。

 だから、振るう時はひたすら、無心を心掛ける。

 何も考えない。何も込めない。ただ振るう。形としては、型としてはそれだけで完成されている。見た目の美しさはそれだけで型に必要なものを埋めている。だから、そこに剣術も、処刑術も、何も込めない様にひたすら無心で刃を振り下ろす。

「―――そこまで! 終わり!」

「フッ!」

 教官の終わりの声が聞こえるのと同時に木刀を振るう腕の動きを止め、肩に剣を乗せる。片手を解放しただけでもうあの感触は消える。アレがおそらく前世の残滓とも言える、俺の克服すべきものなのかもしれない。しかし、今はどうしてもこのガレットの甘く、楽しい空気に浸っていたい気持ちがある。

 ふと、剣を振り終えて見上げる空は既に夕日でオレンジ色に染まっている。こうやって一日が過ぎてゆく。まだ日は出ているし、夕食やシャワーとか、まだやる事は多くあるが、それでもこうやって訓練の最後に来る素振りが終わると、これでようやく一日が終わった。

 そんな感覚が体に満ちる。

「サイアス」

 らしくもなく黄昏ていたところをビオレに掴まった。少しだけ恥ずかしくなって、ビオレから視線を外すが、すぐにビオレが回り込んでくる。その手にはタオルが握られており、

「もう、凄い汗よ」

「そうか?」

「うん。可愛い顔が台無しだから早く拭いた方がいいわよ」

「それもそうだな」

 昔ほど可愛いだとか、綺麗だとか、そんな言葉に対する抵抗がなくなってきたことが精神的な部分での変化かもしれない。昔ならまだ嫌がっていても、今はそれをすんなり受け入れる自分がいる。こうやって、人は成長して変わっていくのだろうと思いながらも、

 とりあえず汗をぬぐう。ちょっと汗の量がヤバイ。滝の様な汗を流している。乙女にあるまじき量の汗だ。

 急いで顔と首の周りの汗を拭く。

「ありがとう」

 ビオレに感謝し、

「それにしても何でこんなに汗をかいているんだろ……」

 ビオレと比べて圧倒的に汗をかいている自分がいる。ビオレと自分の服装を見比べる。そこには何も変わりがない。ガレット従騎士用の黒い制服だ。上がハーフスリーブに、そして下がミニスカートとなっている可愛らしいデザインのそれだ。過去に何回か”戦争”へ見るだけの参加をしたが、見栄えの良さも重要らしく、制服は基本的に見た目と機能性が重視されている。迷彩柄など可愛くないの一言で領主が却下したらしい。

 領主、あったことはないがかなりフランクな人物らしい。

「え、あんなに真剣に振ってたらそれくらい出るでしょう?」

「真剣?」

「真剣というよりはむしろ鬼気迫るという感じに近いけど……教官からは中々の好評価よ?」

 どうやら無心に自分を追い込んでいたのが原因だったらしい。

 なんというか、人生色々とままならない……。

「はぁ……訓練終わったしシャワーでも浴びに行こうか」

 もうこうなったら汗に関しては諦めて気持ちを切り替えよう。

「ご一緒する?」

「もちろん。髪の面倒はビオレに任せるよ。俺にはもう面倒すぎてどうも……」

「前にも言われたと思いますけど、私達って将来領主のお傍つきや親衛隊に入る事を期待されているから、そういう身嗜みの手入れができるようになった方がいいのよ?」

「えー……うー……そ、そのうち! そう、そのうち! そのうち覚えるからあと数年はビオレが髪をよろしく!」

「はいはい、もっと長くなってからはより大変になるわよ」

 え、この髪さらに伸ばす予定なの? 俺、それ聞いてないんですけど。

 最近ビオレが俺を弄る事に少しずつ妥協を許さなくなってきたな、等と思いつつも、従騎士の軽い一日は終わりを告げる。
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| 短編 | 23:57 | comments:1 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

前世の業は消えない、ということかなぁ
でもこっちでは平和に暮らしてもらいたいという思いも

| 雑食性 | 2012/10/09 20:22 | URL |















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