陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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プロローグ ―――ビフォー・ザ・ビギニング

推奨BGM:Burlesque


 意識が覚醒するのと同時に、自分が着慣れた服装に姿を変えているのを認識する。現実世界にはありえない万能感と全能感がここ、仮想世界―――アルヴヘイム・オンラインの俺の体にはある。自分が今座っている場所が暖炉の近くの椅子だと認識すると、立ち上がり体を伸ばす。現実の体よりも確実に今の俺は力を得ている。それは紛れもない事実だが―――俺以上に力を得ている化け物というのはどうしようもなく存在している。

 あの戦いから既に十ヶ月が経過している。

 あの時はオベイロン相手に戦える力も持っていたし、あの黒円卓相手に十二分に戦える力を持っていた。だがあの戦いが終わって数日後、段々とその力は減り―――今ではあの時ほどの力は出せない。とは言え、それでもまだまだ常人を超え”過ぎている”だけの余分な力だ。

 生きる上では不要な力だ。

 ともあれ、力に関する考えは終わりがないので止め、ダイニングには自分以外の誰もいないのを確認する。ユイの反応もないという事は、暇な時間をどこか別の場所で潰しているという事なのだろう。ならばそれを邪魔する理由もない。父親としては少しさみしい気もするが、遊びまわる少女を止める理由もない。

「さて」

 まずはホロウィンドウを出現させ、倉庫を表示させる。家を購入した時に少しだけお金を多く支払い、家にストレージを追加した。あの、アスナと一緒に二週間の蜜月を楽しんだ家、にだ。購入に関する話は長くなるので置いておくとし、このストレージにはアイテムを入れておくことができる。


 今の俺は、あの時オベイロンと戦った時の姿のままだ。

 つまり、”黒の剣士”の姿をしている。

 もちろんそこにはダークリパルサーもエリュシデータも存在しない。黒の剣士としてアインクラッドを駆け抜けた装備は今はもう一つも存在しない。いや、一本だけアイテム欄にすら存在しない刃が存在する。だがそれ以外にもう、黒の剣士の証明は残っていない。アイテムを抜けば残っているのはこのアバターの姿だけで、それはリアルの俺と遜色のない姿をしている。

 もちろんアバターを作り直そうと思ったが、しかし、

「……まぁいいや」

 自分のインベントリを開き、その中に存在するアイテムなどを全部倉庫の中へと移してゆく。装備品も此方での冒険用に改めて買い直した物や、リズベットに新たに売ってもらった剣など、普段用以外のアイテムを全て倉庫に投げ込み、自分のインベントリに今日使うもの以外のアイテムがない事、そして必要最低限のユルドしかないことを確認する。

「これでいいか」

 ≪ザ・シード≫を元に作られたゲームは”コンバート”というシステムを経て、違うゲームで遊べるキャラとなる。その場合ステータスなどはそのゲームに相当する数値へと置き換わるのだが、装備やお金だけは持ち込むことができない。コンバートする際にそういった物は削除されるようにできている。故に、他のゲームへと行って、戻ってくる予定がある場合でコンバートするときは、一度倉庫へアイテムを預ける必要がある。そのために家に設置されている倉庫、ストレージシステムは便利だが、

「アスナに怒られるだろうなぁ……」

 確実に怒るだろう。

 結局メールで、これからしばらくガンゲイルの方にアルバイトで行ってくるとしか説明してないし。もし、アスナに本当は何をやっているかがバレたりしたら……―――とてもだが口では言えない状態になってしまう。それだけは回避したい。だから今日は共犯者を作るために行動する。

 倉庫の中にアイテムやユルドを入れた事を確認し、

「うし、行くか」

 必要最低限の物しか持たない状態で家を出る。ちゃんと施錠できているかどうかを確認し、インベントリの中に残しておいたアイテムを取り出す。クリスタルのアイテムは手の中に良く馴染み、ノスタルジーを刺激する。

「転移、ユグドラシルシティ」

 飛行ができるようになった今では滅多に使われる事のない転移結晶を使用し、今のアルヴヘイムの首都へと跳ぶ。


                           ◆


 ユグドラシルシティとはオベイロン、いや、レクトがALOを売り、黒円卓の手に渡ってまず最初のアップデートで追加された街だ。

 最初のアップデート内容が新しい街、首都となる”ユグドラシルシティ”の追加と飛行制限の解除だった。このユグドラシルシティというものは世界樹ユグドラシルの頂上に作られており、ラインハルトが薙ぎ払って消し飛ばした辺りに作られた街である。ラインハルトが薙ぎ払ってできた街だと考えると凄い神話っぽいアレな話だが、これは普通に今まで無茶な設定でクリアできなかったイベントを終わらせ、ちゃんとゲームを先に進めるための措置らしい。

 グランドクエストの詳しい内容に関しては明広もラインハルトも何も言わないが、

 ヒントとして神々の黄昏は常識だと言っていた。

 その一言でグランドクエストを投げ出したくなった。このまま時を止めてはどうだろうか。

 ……まぁ、無理だろう。グランドクエストを進める事はゲーム全体の楽しみの一つだ。俺でさえそのヒントを教えてもらわなければ喜んで進めていたに違いない。だが神々の黄昏というと、どうしても大声で笑いあいながら殴りあうラインハルトと明広の姿しか想像できない。そして多分それは地球に訪れる最後の日でもありそうだ。

 そんな日が訪れない事を祈りながら、到着したユグドラシルシティを転移門広場から歩く。昼過ぎになったばかりのため、人通りは多い。これが夜になればさらに活性化するのはやはりゲーマーの活動時間は昔から変わらない故か―――ユグドラシルシティはおそらく、今一番のにぎわいを見せている都市だ。道の中央を通る馬車や手車、ユグドラシルシティで手に入る特産品を持って帰ろうとする商人プレイヤーがいれば、道の横で露店を開くプレイヤーもいるし、装備を整えて飛び立とうとする姿もある。

 なににしてもユグドラシルシティという街はいま、アルヴヘイムの中心に存在する。アップデートによって実装された浮遊上アインクラッドも人気と言えば人気だが、それでも出現モンスターなどは上級者向けになっている。街とかにプレイヤーはいても、やはり中級層の多いALOではユグドラシルシティを拠点にしているプレイヤーが多い。

 そんなユグドラシルシティの端に向かう場所はある。中央に行けばいくほど騒がしくなるというのが街の構造であり、必然的に中心から離れれば段々と静かになる。ユグドラシルシティの外れはアルヴヘイムを一望できる高級住宅街になっている。派手すぎず、自然な美しさを目指した物件の数々は多くのプレイヤーのあこがれの場所となっている。

 本来なら自分にも全く縁のない場所なのだが、迷わずユグドラシルシティの高級住宅街に入る。広々とした道路にはプレイヤーの姿がチラホラと見えている。すれ違うプレイヤーに軽く頭を下げて会釈を送ると同じようにしてくる。人の多い場所では流石にそうもいかないが、流石にこういう雰囲気の場所となると頭が自然に下がるのは小市民の性というものなのだろうか。

 高級住宅街の一番奥に目的地はある。最高の立地条件を持ったその家にはプールに庭に倉庫に宴会場に道場までついている。もはや何でもアリな家だが、やはり家主の趣味か派手すぎないように気を使った外観だ。というよりもこの住宅街自体がこの家主の趣味の様なものだ。建築家っぽいところがあるとは思わなかった。

 ともあれ、到着したところで、門を開けて中に入る。既に許可を貰っているために門は家主の許可なく開き、家の入り口までの石畳を歩く。左右に広がる庭園は最近家主の趣味で始めたらしく、まだまだ草花は育ちきっていない。

 扉に到着したところで一旦足を止め、扉を軽く叩くとホロウィンドウが出現する。そこで呼び出し用のベルを鳴らし、ドアの前で待つ。

『―――』

『―――?』

『―――』

 何やら若干、家の中が騒がしくなってきた。もう昼間だというのに物音がなかったからまさかと思うが―――寝てた? だとしたら少し余計な事をしたかもしれない。とは言え自分の用件も緊急を要するものだ。

 と、そこで扉が開く。

「はいはい、どちらさまー」

 扉を開けて出てきたのは―――パンツ一枚の男だった。

「服を着ろよおい!」

「家の中ぐらい好きな恰好をしたいじゃん。いや、普通に―――」

「その先は知りたくないよ! おはよう! おはよう!! もう昼だからこんにちわだがな!」

 俺も後で絶対アスナとイチャイチャしてやる。絶対だ。

「あぁ、おはよう……とりあえず服を探すか」

 パンツ一枚のGM―――明広が眠そうな顔で迎えてくれた。


                           ◆


 その後黒のシャツと紺のスラックスに着替えた明広が、ソファまで案内してくれる。テーブルを挟んで逆側のソファに座ると、ホロウィンドウの操作で飲み物とお菓子を少し出してくれる。

「ま、ちょっとしたズルだけど、働いている人間の特権さ」

「な、何か気が引けるな……」

 目の前で堂々とオブジェクトジェネレーターを操作している姿に、なんだか少し気が引ける。此方とらなるべく普通のプレイヤーでいる事が理想なのだ。もはやその夢は宇宙の彼方へと目の前の男によって投げ捨てられてしまったような気もするが。

 落ち着くためにも目の前に出されたジュースを飲むと、中身はパンプキンジュースだった。少し前にやったハロウィンイベントを思い出させる。

「で?」

 ソファに腰掛けた明広が先を促してくる。なのでジュースを木のテーブルの上に置き、

「俺、しばらくの間≪ガンゲイル・オンライン≫に”キリト”をコンバートさせようと思ってるんだ」

 隠す必要もないのでストレートにそれを口にした。そこで、予想外の言葉が明広から出た。

「あぁ、死銃か」

「知ってるのか?」

「まあな。≪ザ・シード≫によって生まれた日本国内のVRゲームには基本的に警告が行ってる筈だぞ。仮想世界で人を殺せる死銃ってやつがいる、っとな」

 詰まらなさそうな顔をする明広。どうやらこの件の死銃に対して興味がないらしい。とは言え仕事の一環として警戒が必要で、情報を知っている、という所だろう。

「で、どうせ死銃を追っかける事になってんだろお前」

「う、うん、まあ……」

「ま、気をつけな。最近GGOにハマってる馬鹿が二人いるから。絶対に見つからない様に頑張れ」

「誰だそれ」

 嫌な予感と共に、明広の口からその名前が放たれた。

「―――司狼とミハエル」

「うわぁ……」

 菊岡の話しではもうすぐ”BoB”という大会が開催され、そこに高確率で死銃が参加するとの話だった。必然的に俺もそれに参加しなくてはいけない。しかし司狼とミハエルがいるという事は―――

「―――これ、絶対どっかでぶち当たるよな」

「ま、俺は頑張れとしか言えんよ」

「他人事みたいな言い方しやがって……!」

「他人事だもん」

 だもんとかマジやめろ。お前の口から言われると吐き気しかしねぇ。

 ともあれ、話題はそれだけではない。幾つか聞きたい事もある。

「なあ、可能なのか?」

「殺人が、か?」

「いや、スクリーン越しに殺す事」

 それが引っ掛かっていた。資料を確認した限り、死銃は直接撃ったのではなく、スクリーン越しに銃撃し、殺したのだ。それがあまりにも不自然に思えたのだ。だからこうやって明広の下へ来たのはそれを確認する意味でもあった。それに対する明広の答えは、

「まあ、条件付きで可能ってやつかねぇ」

 テーブルの上に置かれたクッキーを口に放り込みながらそう言う。

「条件付き?」

「できる人間が限られるって話だ」

 となると、

「俺、ラインハルト、エレオノーレ、あー、あとシュライバーもいけるかもな。残りにゃあ無理だな。距離とか必中とか。そこらへんの概念弄れるようなやつじゃなきゃ多分無理だぞ」

 それはつまり今出た四人が能力的にはキチガイ級だという事を表している。流石アインクラッドの産んだギロチン妖怪。やっぱり格が違った。

「アキー?」

 家の奥から声がする。そっちの方向へ目を向ければマリィが普段着であるロングスカートとブラウス姿で階段から降りてきていたところだった。此方を見つけると手を振って、明広の横に座り込む。

「キリトだったんだ」

「まぁな。つか和人よ」

「なんだよ」

「嫁の存在で思い出したんだがアスナはどうすんだよ」

「Ah……」

 頭を抱える。そう、そこだ。それが最大の問題なのだ。アスナにバレれば雷程度では済まないのだ。レイピアによる百叩きが待っているかもしれない。ALO事件終了後から俺に合わせてアスナまで逞しくなった気がする。あぁ、本当にどうしよう……。

「というわけで情報封鎖をだなぁ……!」

「お前は俺にいったい何を求めているんだ」

「できないのか?」

「俺って別にそこまで万能でもないんですけど……」

 なんだか出来そうな気配がしたから期待したのだが、駄目だったか。まあ、元よりアスナに処刑される覚悟でGGOに行くつもりだったのだ。この男の協力を得られなかったとしても仕方がないと諦めるしかない。

「うん? 何の話?」

 会話に加わったばかりのマリィは良く状況を把握していない。そのため明広がマリィと向かい合い、

「つまりこの和人少年がちょっと違う世界へ浮気に行くって話だ」

「キリト、フリンは駄目だよ?」

「フリンでも浮気でもなんでもないし!」

「お前が何かをやらかす、イコール女が増える、ってイメージしかねぇんだけど」

「お前が人のことを言えるかよ!」

「俺既婚者だし」

 それを持ち出されたら何も言えない。本当に何も言えない。一応女を引き寄せてしまっている事は自覚しているのだ。少しだけ。周りに言われて少し自分の記憶の整理とかしてみると、少しだけキザったらしい行動多くないかと思い始めている。

「はぁ……」

 まぁ、協力が得られなかったとしてもいい話を聞けた。

 つまり、相当ハイレベルな存在か、もしくはそれに特化した能力を持っていなければ死銃がやった事は無理だというのが、明広の結論だと思う。だとすればアレは直接殺したのではなく、何らかのシステムの穴を突いての攻撃だったかもしれない。まだまだ考える事は多くある。

「うーん、私助けてあげてもいいよ」

「ほ、ほんとか!?」

 マリィの思わぬ言葉に驚く。

「と言っても少しお買いもの一緒に行ったりして話題を逸らす程度だけど……多分すぐばれるよ?」

「お願いします! お願いします! 是非ともお願いします! 最近より怖くなったアスナの怒りゲージを1%下げるだけでもいいのでお願いします!」

「恥も糞もあったもんじゃねぇなぁ……」

 温厚な嫁を持った明広に解るわけがない。年上で自分よりもバイタリティ溢れる恋人を持った心境を。ヒーラー職なのに前線で攻撃する事からバーサークヒーラーなんて名前まで貰っているあの恋人は若干、というよりも結構ヤンデレの気質があって、地雷を踏まない様に気を付けないといけない。

 ちなみに今回は地雷の上でタップダンスを踊るような真似だ。

「あははは……」

 思わず苦笑いのマリィに、楽しそうに唇を歪める明広。

「まあ、俺から出せる唯一のアドバイスをあげておこう」

「ん?」

「―――”そいつ”はどこでも出せるから、有効活用してやれ」

 ”そいつ”と示したのが何であるかを理解している。この十ヶ月一度も使っていない物でもあるが、それはまだ残っている。それを使うような事態にならない事を祈っているが―――またオベイロンの様な存在が現れた場合、これに頼る事になるだろう。

「解っているさ」

 立ち上がる。

「ありがとう、助かったよ」

「おう」

「また遊びに来てね」

 夫婦に玄関まで見送られ、家から出る。あとはここから自宅まで戻り、

 ―――このアバターをコンバートするだけだ。
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| 断頭の剣鬼 | 09:38 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

少し前に殺ったハロウィンイベント
やった?誤字だよなコレ・・・多分
違和感なく読んでしまった。

| tuyuri | 2012/10/08 13:00 | URL | ≫ EDIT

リアルパンプキンヘッドだ!妖怪的に考えてw

| 読者 | 2012/10/08 17:22 | URL |

キリトさんあなただって病みがちじゃないんですかー人のこと言えるんですかー
正妻様の制裁を心待ちにしてます

| 臣 | 2012/10/08 19:28 | URL |















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