陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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DAY6

 訓練場、練兵場だと思っていた場所は大きな闘技場の姿をしていた。ぐるりと中央のリングを囲むように存在する客席は既に観客で賑わっており、興奮した様子で集まっていた。もはやなんと言っていいかわからず、練兵場の入り口で軽く硬直していると、心配してきた入り口の兵士が話しかけてくる。

「どうした? 調子が悪いのか?」

「え、いや、人……」

「ん? これは国営放送されてるぞ? ……まさか知らなかった? おかしいな。試験日程と共に知らされるはずだし、毎年放送してるぞ」

 父と母め、裏切りやがったな。というかアレは隠していたのだろうか。だとしたら嫌な仕込みだとしか言えない。未だに硬直の続く此方の背中を強く叩いてくる。

「まあ、気にすんな! 騎士目指すのならそのうち慣れる事さ!」


 それはそうなのだが、そういう問題でもないだろうと言いたくなる。しかし子供一人が抗議したところで何かが改善されるわけでもない。諦めの溜息を吐きながら中央のリングへと向かう。リングといっても練兵場の中央が戦いやすいように整備されているだけで、土土の大地を囲むように観客席が存在するだけだ。最初から商業目的でこんなことをするのであれば、どっかにちゃんとしたリングでも作ればいいのに、と密かに思う。

「すいません、ちょっと圧倒されてました」

 所定位置に付きながら中央に陣取る騎士に向かって言うと、頷く。どうやら理解のある人物らしい。別に咎めたり減点されない事を感謝しながら、騎士の向こう側の存在―――対戦相手を観察する。種族はガレットに多い猫型だ。毛は黄色く、得物は……ロングソード。既に剣を抜き、手に握っている。やはりそこそこ裕福そうな家系から来ているようだ。軽く妬ましい。

「それでは、私は君達の健闘を祈っているよ」

 イケボを聞かせながら騎士が去って行く。基本的なルール説明は既に控室の中で受けているために、再度確認してもらう必要がない。

 そして、

『さあ! 騎士学校入学試験! 未来のガレットを担う少年少女たちを生み出す場所へ入学できるのはもちろん全員ではない! 一回戦、第十五試合をを開始します!』

 よく見れば解説席までできている。本当に命を賭けた戦いとは無縁の世界だと思う。まあ、能天気さも平和の証で、悪くはないと思う。この平和を望んで戦い続けて来たのだから。

『さあ、今回の勝負はタルトレット家の次男! ショコラ・ド・タルトレット君! 幼い頃から剣を握り、ガレット獅子団の騎士を夢見た少年は今! 剣を握って舞台の上に立った!』

 歓声が湧くのと同時にショコラ少年が手を上げる。名前の通りにチョコレート色の髪の色をしている。

『対するは全くの無名! 金も権力も家名もない! だがそこに東洋の神秘はある! サイアス君だー!』

「ちょっと解説表に出ろ」

 解説席に向かって人差し指を突き付けるが、軽くスルーされる。そして観客席から歓声が上がる。基本的に金持ちだから、権力があるから、弱いから、等といった理由で差別が起こらないのがフロニャルドだ。

「いい勝負をし、共に騎士を目指しましょう」

 だからこうやって試合前に近づいて、握手を求めてくる姿はなんというか―――凄いやり辛い。昔が昔というか、人間の負の部分、汚い側面を見続けて来た結果、こういう存在が非常に眩しく映る。おそらくだがこの世界には暗殺とか、毒殺とか、そんな概念すら存在しないのだろう。なんて羨ましい世界。なんて羨ましい人々。そして今、自分はその世界に生きているのだから―――法には従うべきなのだろう。

 手を握り返す。

「あぁ、互いにいい結果を残せるように頑張ろう」

『おぉっと、早速友情を結んでますが、これは試合の方は大丈夫かー?』

 終わったら解説をどうにかしよう。そんな事を考えながら所定位置で―――構える。

 長い間拳を握っていないのにその動作は自然に出てきた。左半身を前に、拳をゆるく握りながら左肘を前にだし、拳は額の位置まで上げる。右肘は後ろへと突きだし、緩く握った拳を胸元のあたりまで持ってくる。我流で磨いた徒手格闘の、基本中の基本の構え。左腕を盾にし、右拳で打撃する。昔の、あの世界の身体能力だからこそできた無手の戦い方だが、この世界も身体能力の非常識さでは中々負けていない。少し緩めに、柔らかく動ける様に構える。久々に戦闘用に取る構えは心地が良い。

 相対するショコラも堂に入った構えをする―――しかし、見たところ、それから脅威を感じない。一番の脅威は、その手の甲に刻まれている”紋章”の存在だ。大地と空に満ちるフロニャ力を集め、紋章はそれを生命力と混ぜる事で輝力というエネルギーを生み出す。その恩恵で騎士などの存在は非常識な魔法チックな攻撃を繰り出せる。身体強化、砲撃、斬撃、物質創造―――色々と非常識な存在である紋章術は所有しているだけでもかなりの戦闘力になる。

『両者構えました』

『そうですね、私としては少々サイアス君の構えに驚きを感じてますね』

 先ほどの騎士がいつの間にか解説席に合流していた。そう言えば騎士や団長とか、上の人間が解説席で解説しているのはよくあることだ。ただしアナウンサーは許さぬ。

 あ、テンション少し上がってきた。

『結構しっかりとした構えです。左腕を防御に、それで出来た隙に素早く右腕を叩き込むというスタイルでしょうか。防具をもってないのが悔やまれますね。手甲の一つでもあればまた戦闘能力は高くなるのでしょうけど……』

「おい! バラすなよ! 戦う前からバラすなよ! おい!」

『はははははは!』

 笑ってごまかしやがった。駄目だこの国。基本考えてない様にしか見えない……!

 実際はそれなりに頭のいい人間が政務や財政関係を管理しているのだろうが、どうも戦闘に限っては脳筋集団が目立つ。というか手の内を先にばらすのだけは本当にやめてほしい。

『ともあれ―――第十五試合、開始!』

 逃げるように放たれた開始の合図。だがその言葉が聞こえるのと同時に体と脳は戦闘に対応するように即座にスイッチを切り替える。剣を握る相手に対して、即座に接近する。走るのでも歩くのでもなく、軽い跳躍で前へ飛ぶ。上半身をぶれさせない、下半身の力だけに頼った前方への、相手の懐に低く跳び込むステップ。

『おお!? これはまさかの!?』

『これはレベルが高いですね』

 見ている側からすればステップというよりはまるで地面を滑っている様にしか見えない。その姿は驚愕的で、反応も難しい。中国武術で言う活歩という技術に近い。感覚的に黒円卓に教え込まれた技術はまだ―――生きている。

 そのまま、

「ふっ!」

「ッ!」

 右拳をノーモーションで叩き込む。一撃必殺を狙い水月に拳を叩き込むが、その一撃は予想外の硬さに阻まれ、威力が完全には通り切らなかった。いや、それだけではない。昔の身体能力をベースに動きを組んでいるから威力の調整がおかしい。いや、正しく言えば力の配分が間違っている。前までなら今の一撃で壁まで吹き飛ばせたはずだ。戦闘においてこのズレは不味い、完全に感覚を取り戻す必要がある。

 ショコラ少年には悪いが―――

「俺の糧になって貰う」

 水月に打撃を入れた直後に空いている左腕を手刀の様に繰り出し、ショコラの首筋を狙って落とす。ロングソードの内側であるここでは剣を振るうことはできない。故にここで終わりである―――

「ハァ―――!」

 紋章術さえ来なければ。

 体を一気に倒す。紋章がショコラの背後に現れた瞬間四肢を大地に倒し、一気に体を横に押し飛ばす。瞬間、ショコラを中心に紋章術が発動し、円形に爆心地を増やしながら広がる。後ろへバク転しながら爆心地から逃れるのと同時に、その中心で刃を構える相手の存在が見える。既にもう一度紋章を解放している姿が見える。その対象は今度は剣へと変化している。おそらく斬撃の強化―――肩で息をしている姿を見るとこの一撃が限界であり、終わらせるつもりだろう。

「必殺!」

 だが、

「調整完了」

 地面に触れるような低さまで体を倒し、這う様な動きでジグザグに一気に加速する。変則的過ぎる動きに戦闘における初心者が対応できるはずもなく、動きに惑わされ一瞬で俺を見失う。そのまま背後へと回り込む。

 そして、手刀を振り下ろす。

「首―――置いてけ」

「しまっ―――」

 手刀が振り下ろされ首に命中するのと同時に、ショコラ少年の姿が爆発しけものだまになる。それはダメージの許容限界を超えた事の証明だ。けものだまになったショコラをキャッチした瞬間。

『終了―――!! なんと、まさかの勝者は無名のサイアス!』

『素晴らしい動きですね。まるでずっと昔から戦い続けて来た戦士の様な冷静さでした』

『中身が老けているという事でしょうか』

「おい、アナウンサー。お前は俺に対してなんか恨みでもあるのか」

『サイアス君の勝利を称えて、そしてショコラ君の健闘を称えて、惜しみない拍手をお願いします!』

 再び逃げられた気がするが―――こうやって誰かに拍手されるのも悪くはない感覚だと思う。けものだまを両腕で抱えながら控室へと戻る。
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| 短編 | 14:42 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

おいアナウンサーwww
そして安定の首置いてけ。いいぞもっとやれ。

| ろくぞー | 2012/09/29 14:59 | URL |

アナウンサーwwww
そっか首置いてけやるとけものだまになっちまうのか・・・・・・

| 雑食性 | 2012/09/29 16:29 | URL |

あなうんさーww
にしても威力は剣呑なのに、「フロニャ力」って声に出すと脱力だなぁ……

| 羽屯十一 | 2012/09/29 21:49 | URL |

アナウンサーwww
首置いてけ遂に出た!!

| 七夜 | 2012/10/02 02:08 | URL | ≫ EDIT















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