陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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妖精郷 ―――リバーツ

推奨BGM:Ewige Wiederkunft
*1推奨BGM:Walhall


「で」

「で?」

「いや」

 視線を受け止めるツァラトゥストラは涼しい顔でそれを受け流す。明らかに話があるのは彼で、俺じゃない。だから、ツァラトゥストラに視線で先を促す。だがツァラトゥストラは何も言わない。そう、何も、最初は俺が何かを言うべきだという風に黙っている。しばし男二人で黙って向かい合う。が、

「ふぅ……」

 先に溜息を吐くのは俺だ。

 あぁ、そうだ。白状しよう。

「解った、解ったよ。そりゃあ後悔してないなんて嘘だよ。後悔なんて腐るほどあるさ」

「だろうな」

 その言葉にツァラトゥストラが苦笑する。他人には安易に同感や同情などして欲しくないが―――この男の場合であれば話は違う。そう、この男だけは俺の完全な理解者であり、また俺自身だ。過去の、という言葉がそこに入るが。

「俺の時もそうだったからな」

「だよなぁ……」


 後悔がない生き方なんてありえない。そんな生物存在しない。後悔がない状態でまっさらで消えるなんてことは絶対にありえないのだ。人間という生物は生きている限り欲の塊であって、何か望みを叶えてそこでも新たな欲を生んでしまう。エンドレスに続く無限のループは人間の業そのものだ。俺も例外ではない。欲で溢れている。

 ああしたかった、こうしたかった。

 ああ、そうさ。

「死にたくねぇよ」

 死にたくない。そんなこと誰だって願う。

 やってきたことが本当に正しいかなんて判断はつかないし、それを絶対的に正しいとも断言できない。ただやったことに対してだけは後悔せず、胸を張り続ける事が自分の人生に誇りを持つという事である。それは理解できる。しかし、

「―――もし、一から十までもが……」

「メルクリウスに決められていたら、だろ」

 ツァラトゥストラが言葉をそう続ける。

 そう、それが一番怖いのだ。

 俺は、俺は―――なんなんだ?

 ツァラトゥストラの残滓をアインクラッド消滅の瞬間に手に入れた。ログアウトと同時に感じたのはマルグリットが剥がされ、俺の魂が悲鳴を上げる音。そして偶然か、いや、確実に必然でこの残滓を手にしてしまった。知る事のなかった事実も知りたくなかった事実も手にしてしまった。知ってしまうとあの存在がどれだけ恐ろしいか本格的に理解できる。

 この感情さえ作りものではないのか……?

 あの少年はまだメルクリウスの恐怖を理解できていないかもしれないが、俺は奴に創造された息子だからこそわかる。アレは運命を管理するのであれば一から十、いや、零から十までの全てを掌握している。行動を支配するだけではない、個人の感情までをも完全に支配している。それは、つまり、

 ―――俺のマリィへの愛さえも。

 彼女を守りたい。救いたい。それさえも作られたものではないのかと。そんなどうしようもない事を疑ってしまう。疑いたくないのに、あんなに啖呵をきったのに、それなのにこんな所で俺は迷い、そして後悔している。偉そうなことを言っておいて本当にどうしようもない。

「偉そうなことを言ってるけどさ―――結局は怖いんだよ。逃げたいんだ。メルクリウスに全て作られたのかもしれないって事が。……どうしようもなく怖いんだ」

 一度口にしてしまえば後はぼろぼろこぼれだす。誰にも打ち明けず、共有する事の出来ない苦しみは、唯一の完全な理解者の前では堰を切ったかのように溢れ出す。

「なんだよ神って! なんだよ座って! ふざけんなよ! んなこと知ったこっちゃねェよ! 俺は! 俺は、俺は……ただ、マリィと居たいだけなんだ。戦いとかはどうでもいい。静かに笑って過ごせる日々が欲しいだけなのに、幸せな日常(せつな)が欲しいだけなのに、何でこんなことで悩まなきゃいけないんだよ……」

「ははは……」

 ツァラトゥストラが軽く笑う。懐かしそうに、遠い昔に思いを馳せる様に。

「やっぱり俺だよ。お前は。全く同じことで悩んでる。俺も、否定される事がどうしようもなく怖かった。今までやった事が全てメルクリウスの手の上で踊らされていたと理解して、どうしようもなく死にたくなったよ」

「なら―――」

 お前はどうやって乗り越えた?

 この絶望を。

 どうしようもない絶望感を。

 渇望さえ消えてしまいそうなこの絶望を。

「―――愛した」

 苦も無く答えた。

「ヤツ(水銀)が愛する以上に彼女を愛した」

「……なんだそれ」

 なんだそれは。

 そんなもの、……勝てるわけないじゃないか。

「あー……馬鹿馬鹿しい。勝てる気しねぇ……」

 力なく闇の中に倒れこむ。清々しい笑みを浮かべるツァラトゥストラの顔が果てしなくウザく、そして―――羨ましい。愛は狂気だ。この領域で誰かを愛するという事は狂気が狂気を超越している証でもある。その中でも、あの水銀の王が黄昏へと見せる愛は、彼女が人造的に生み出された過去の模造であるとしても、変わりはしない。カール・クラフト、メルクリウスはマルグリット・ブルイユという存在を愛している。この世で、宇宙で、何よりも。その愛の為なら世界を犠牲にする事も厭わない。

 その狂気を、この男は超えた。

 更なる狂気(あい)で。

 馬鹿馬鹿しい。

 馬鹿馬鹿しすぎて―――どうしようもなく羨ましい。

*1

「あーあ。先人は偉大だってことか。負けだ負け。俺の負け。アンタにだけは勝てねぇよ。むしろ何で俺が生まれた。渇望も性格も、全部アンタでやればいい話だろうに」

 おかしなことを言うやつだな、とツァラトゥストラが言い、

「負けたからこんな所で亡霊やってるんだろ」

 それは悔しそうで、疲れ切った表情で、もはや戦場を与えられる事のない兵士の様な顔で、

「俺じゃあ勝てないからお前が生まれたんだ。時よ止まれ……お前は何よりも美しいから。結局必要だったのは止まって守る事じゃなくて進んで排除する事だった。結局どっちにしろ俺達は邪悪な存在としてしか生まれる事が出来なかった」

 だけど―――

「―――いいのか? それで」

 いいのかと言われると、

「良くねぇよ。言い訳あるかよ」

 ふざけるな。こんな結末で許すか、だと? そんなわけあり得るものか。死にたくない。まだ生きたい。マリィを抱きしめたい。一緒に平和な日々を過ごしたい。結婚したい。手を取り合いたい。子供は無理かもしれないが、家族としての時を過ごしたい。あぁ、尽きない欲望はたくさんあるんだ。まだまだ後悔は腐るほどあって―――

「ぁ―――」

 頬を伝って涙が落ちる。

 泣いている。

 死にたくなくて泣いている。多分、初めて自分の事に関して泣いている。死にたくない。消えたくない。まだやりたい事もやり残したこともいっぱいある。だからここで人生に幕を引くのは嫌だ。そう、俺は、

「生きたい……!」

「やっと、口に出したな」

「言えるかよ。司狼やエリーをあんな風にして、多くの人間を不幸にしていっぱい殺して―――俺だけがのうのうと生きていられるかよ」

 止められない。今まで抑え込んでいたものがもう止められない。こうなってしまってはもう感情と渇望の爆発で、誰にも止められはしない。しかし、露出している肌は罅が走り欠けている。着実にだが肉体の、いや、魂の崩壊は進んでいる。アインクラッドの最後の瞬間、マルグリットとつながっていた魂が無理やり引きはがされたとき、その時に魂にできた傷は致命傷で、何か別の魂で補填しない限りはもう治らない。そしてそんな外道の業を、他人を殺さなければ不可能な事を、俺は受け入れない。

 だから、詰みだ。

 これ以上はどこへも進めない。

 だけど、

「―――それでいいんだ」

 ツァラトゥストラが笑みを浮かべる。

「それでいいんだよ。意志さえあれば、それだって道になるもんさ。だからさ」

 ツァラトゥストラが手を前に出す。そこにはあるものが浮かべられていた。それは”感じた”事がある。多分一番最初に罪姫・正義の柱の中へと取り込まれた魂であり、同時に永遠に失ってしまったと思っていたもの。現実の肉体は死せど、魂となってずっと見守り続けて来た―――

「あまり女の意地ってのを、舐めない方がいいぞシャヘル」

 まるでこの先の展開を読み切った風にツァラトゥストラが笑みを浮かべる。

「―――女って生き物は、意外に執念深いんだ」

 それはツァラトゥストラの確信だった。



                           ◆


「蘇る そう あなたはよみがえる
Auferstehn, ja auferstehn, wirst du,

私の塵は短い安らぎの中を漂い
Mein Staub, nach kurzer Ruh

あなたの望みし永遠の命がやってくる
Unsterblich Lebin wird,

種蒔かれしあなたの命が 再びここに花を咲かせる」
Wieder aufzubluhn wirst du gesat!


「―――テレジア、貴女は一体何をやっているのですか!」

 場所は仮想の戦場ではなく、現実の世界、教会の中、その一室。既に心臓の動かなくなった死体の前で、氷室玲愛はその持てる創造の能力を発動させ、現実を彼女の法で侵食していた。その姿を見つけ、トリファは驚愕していた。

 テレジアの創造だけは、周りと大きく異なる点がある。

「刈り入れる者が歩きまわり
Der Herr der Ernte geht

我ら死者の 欠片たちを拾い集める
und sammelt Garben Uns ein, die starben.

おお 信ぜよわが心  おお 信ぜよ 失うものは何もない」
O granbe, mein Herz, o glanbe. Es geht dir nichts verloren!


「今すぐ辞めなさいテレジア! もう手遅れなんです、最上さんは……!」

 そう、心臓が動いていない。氷室玲愛の有する創造とは再生。再誕。自らの命を生贄に、それを持って再誕を与える創造。自己犠牲の力。だがそれも対象が生きていなければ意味がない。死者には通じない。だからこそ、完全に心肺機能が停止している最上明広の復活はありえない。

「―――!」

 トリファが強引にでも玲愛を止めようとした瞬間、トリファの動きを止める存在が出てくる。シスター服姿のそれは、

「リザ、何をしているのですか、我々の娘が―――」

「ここら辺は男と女の認識の違いってやつね」

 リザは片腕でトリファを抑え込んでいた。団員の強さで言うのならトリファは間違いなく最弱で、女のリザにさえ実力では劣るトリファの力とは荒事ではなく、それ以外の所にある。故にトリファではリザを突破できない。

「私のもの それは私が望んだもの  私のもの それは私が愛し戦って来たものなのだ
Dein ist, dein, was du gesehnt Dein, was du geliebt, was du gestritten!

おお 信ぜよ  あなたは徒に生まれて来たのではないのだと
O glaube , : du wardst nicht umsonst geboren!

ただ徒に生を貪り 苦しんだのではないのだと
Hast nicht umsonst gelebt, gelitten!

生まれて来たものは 滅びねばならない」
Was entstanden ist, das muβ vergehen.


「リザ!」

「あのね、女は別に何時も守って欲しいと思っているわけじゃないのよ。私達だって一緒に並びたいと思うのよ。男を見送る事しかできない私達が、どれだけ辛い思いをしているかは男には解らないわよ」

 視線は玲愛へと注がれる。その表情は真剣で、ちゃんと先が見えている。そこには全てを失ってでも蘇らそうという狂気はなく、その先がちゃんと見えている目だ。相手が蘇っても自分が死んでしまえば、喜ばれない。それを理解している。自分の為の犠牲を嫌う様な男に、玲愛は惚れたのだから。

「滅び去ったものは よみがえらねばならない
Was vergangen, auferstehen!

震えおののくのをやめよ
Hor auf zu beben!

生きるため 汝自身を用意せよ
Bereite dich zu leben!

おお 苦しみよ 汝は全てに滲み通る
O Schmerz! du Alldurchdringer!

おお 死よ 全ての征服者であった汝から 今こそ私は逃れ出る」
Dir bin, o Tod! du Allbezwinger, ich entrungen!


 それは切なる祈り。どうか、自分の命を少しでもいいから受け取って、それを生きる力にしてほしいと、そういう願いが込められている。どうか、

「―――卑怯な女でごめんね」

 祈りを完成させる。不完全な祈りを。準備が完全に整っているわけではなく、それでいて出力も小さい。故に削られるものも、与えられるものも、微々たるものでしかない。

「創造―――
Briah―――

壺中聖櫃 不死創造する 生贄祭壇」
Heilige Arche――Goldene Eihwas Swastika


 そして―――玲愛が冷たくなった明広の唇に口づけする。


                           ◆


「―――見ているかね獣殿? あぁ、解っている。貴方が今見ている事は理解しているよ。始まるぞ。これぞ超越の第一幕。天に輝く明星が魔星として墜ちる一幕。私には怒りの日が見えている。未知の結末が見えている―――審判の日は近い。故にこれは貴方へと提供する前座だ。どうかその聖槍を振るい、敵の具合を確かめるのが宜しい。陳腐で脚本は酷く、茶番劇の名にふさわしい。されど役者は一流、故に面白くなると思うよ。さぁ、神座へと至る物語の序幕だ―――大いに暴れられよ。中々に壊しがいのある敵であると認めよう―――」
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| 断頭の剣鬼 | 10:14 | comments:10 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

これ読んでたら、もっかいDiesやりたくなった。つか、やった。
アンナちゃん正妻ルートを渇望した。

頑張れ、アッキー!

| アミノ酸 | 2012/09/29 10:39 | URL |

先輩まじ天使

| アッガイ | 2012/09/29 10:52 | URL |

先輩愛してる。
先輩死んじゃうのかな…? やだなぁ。

| ろくぞー | 2012/09/29 11:01 | URL |

先輩マジヒロイン。
明星……やはり甕星から回帰してたりするのかな。

| 空 | 2012/09/29 11:01 | URL |

先輩、マジで天使だな

そして、水銀は相変わらずウザイなぁ……!

| 尚識 | 2012/09/29 11:11 | URL | ≫ EDIT

先輩マジでいい女ですね。
次回いよいよ妖怪復活?

| ジント | 2012/09/29 11:30 | URL |

……ツァラトゥストラというか練炭が渡したのって……トウカ……?
それに玲愛先輩も……、なんだこの悲恋ヒロインズ。
そしてなんかちょくちょく気になることを……

| 柳之助 | 2012/09/29 13:40 | URL |

まさかその魂はトウカ!トウカではないか!
もしこれがトウカだったら一番最初に取り込まれておきながら今まで魂となって見守ってきたんだからその魂の強度はさすがにマリィにはおよばないけど司狼やエリィに匹敵するんじゃない?ここに軍勢変生による復活という未知が生まれるのか。次回期待してます。

| 天魔空亡 | 2012/09/29 18:50 | URL |

もう先輩と幸せになればいいんじゃないかな!

| | 2012/10/01 06:41 | URL | ≫ EDIT

はじめまして

初コメントです!断頭の剣鬼はにじファンのALOのあたりから読ませてもらってました(笑)先輩マジ天使!マリィマジ女神!バカスミマジ空気!

| 厨二病患者 | 2012/10/01 12:16 | URL | ≫ EDIT















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