陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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殉教 ―――アイデンティティー

推奨BGM:Einherjar Rubedo


 エレオノーレがベアトリスを睨み付け、ベアトリスが真剣な表情のまま得物を首につきつける。ベアトリスの目は本気だ。一歩、いや、身じろぎさえすれば刃をエレオノーレの首に突き刺す覚悟ができている。それを察してエレオノーレも動かない。が、その代わりに、

「キルヒアイゼン。釈明を聞こうか」

「戒君と大体同じ理由ですよ―――私、情には弱い女ですから」

「この犬が……!」

 エレオノーレの瞳に怒りが宿り、そして首に僅かだが刃が食い込む。

「動かないで、と言ったはずです」

「ベアトリス!」

 螢がベアトリスの名前を叫ぶ。しかしベアトリスは一瞬たりとも視線をエレオノーレから外さない。

「……申し訳ありませんけど、説得されちゃいましたので」

 目の前の女傑はそれが刹那とはいえ、隙を見せた瞬間逆に主導権を握る事をベアトリスは付き合いから知っている。だから一瞬も気が抜けず、視線すら逸らす事が出来ない。実力でいえばベアトリスがエレオノーレに勝利できる可能性はないのだ。


                           ◆


 説得されてしまいましたからね。

「さ、今のうちに進んでください。後ろの方々と一緒に。少佐には悪いですけど、後の事を考えると無傷で通らないとキツイでしょうから」

「……キルヒアイゼン、これは反逆だと理解しているのか」

「もちろんです」

 もちろん戒や螢が寝返るのは最初から見えていた。あの二人は情で動くのを良く知っている。だけど自分は少佐の件もある。この人、友達のいないぼっちだからせめて自分ぐらいは一緒にいてあげないと、横にいて笑ってくれる人がいないだろう。それは少し、悲しい。こんな歳になって、完全に婚期逃した上官がぼっちになっている姿は将来暖かい生活が約束されている身からして凄い惨めだ。

 だから、

 螢達の敵となって、なあなあでやろうと思っていた。実際乗り気ではないが、軍人としての責務がある。だから簡単に任務を放棄することはできない。戒の事も、そして螢が本気恋する乙女モードに入って若干ヤンモードになってる事も解っているから応援したいとも思っていた。しかし軍人としての身分も大事なものだと認識しているからこそ、裏切りだけはやめようと思っていたが、

 ……まさか年下に説教される日が来るとは。

 人生、何が起きるか解らないとはよく言ったものだ。

 一番無害だと思われていた少女が自分の心を動かすとは、思わなかった。

「ありがとうベアトリス! 先に進ませてもらうぜ!」

 声からして明広が待ち望んでいる少年、キリトだろう。彼はこの先世界樹へ行き、彼に逢い、そして絶望するのだろう。だが―――どうか、どうかそこで止まらないでほしい。君たちの未来はその程度で終わるものではないはずだ。それを彼は信じてこんな茶番劇を始めたのだ。君たちがここで終わってしまったら、そんな悲しい事はない。

 気配が去って行くのを感じる。

 さて、

「そう言えば長い事少佐に反抗していませんでしたね。私が前反抗したのは何時でしたっけ」

「馬鹿者。一週間前に勤務中に酒を飲みに行こうとしただろう」

「すいません、都合の悪い事は忘れるようにしているんです」

「この馬鹿娘が―――」

 そこでエレオノーレが視線だけを此方へと向けてくる。鋭いだけではなくその視線には殺気が乗っている。流石に怒らせすぎたかもしれない。殺される事はなくても、これは病院送り程度は覚悟した方がよさそうかもしれない。そう覚悟した瞬間、

「―――貴様、よもや私がこの程度で止まるとでも思ったのか?」

 エレオノーレがそう言った瞬間腕を動かし、

 反射的に首を切り落とすために得物を振るう。

 しかし―――

「ッ!」

 刃が首の半ばまで埋まった所で骨に当たり止まる。その瞬間に刃をエレオノーレの腕が掴み、

「パンツァー―――」

「逃げてッ!」

 戦雷の聖剣に力を込めながらも顔を少年少女たちへと向ける。大声で逃げるように叫び、反応される。そしてエレオノーレの背後に浮かんだ大量のパンツァーファウストを見て驚く。駄目だ。

 逃げる時間がない。

「―――放てッ!」

 五十を超えるパンツァーファウストがシステムを、そして音を超越して一斉に降り注ぐ。忘れていなかったはずだ。エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグとは”こういう”女だという事を。どんなに疑問を持っても軍人は軍人であり、望まなくても命令されれば本気で任務にあたる。それが黄金への忠誠であり、黄金への愛であるのだ。故にエレオノーレは命令された事―――即ち全力での迎撃を果たすために手段を選ばない。

「っぐ……!」

 戦雷の聖剣に力を籠め、その特性である雷を発動させる。だが発動する一瞬前にエレオノーレが動き、軽くバックステップを取る。エレオノーレの首から刃は抜け、エレオノーレの抉られた首が再生を開始する。同時に一丁の銃が手に握られている。

「P8……少しは世界観を守ってください!」

「全てにおいて任務が優先される―――手段は問わない」

 パンツァーファウストが数丁此方へと向けられる。それを避けるためにも素早く後ろへの回避を始める。パンツァーファウストが着弾した螢達の方は爆炎が巻き上がりその状況を見る事が出来ないが、あの”程度”の攻撃でも大隊長以下の団員を蒸発させるだけの破壊力はある。あれだけの数を食らって生きているはずがない。そしてエレオノーレが殺す気なのは冗談でもなんでもない。思惑など知ったことではなく、純粋に任務を遂行しているのだ。

「少佐はいいのですか!?」

「興味がない、と言えばウソだろう。クラフトの影がチラつくしな。だが―――それ以前にこれは軍務だ。私情を挟むことは許されない」

 だから、

「だから少佐は何時まで経っても、私以外に友達がいないんですよ……!」

 そう、そんな鋼の女をずっとやっているから友達がいないのだ。貴族の家に生まれたものとしての責務、軍人としての責務、陸軍学校の時代からずっとそんな事を言っていて、何時も何時も眉間に皺を寄せて、本気で子供らしいところなんて昔からの知り合いであるリザ・ブレンナーぐらいしか見た事がない。その彼女も友達というよりは張り合うライバルに近い。だから純粋に友と呼べる存在はいない。なのに恋する乙女やったりそれを否定したり、

            「―――恋愛処女何てつくづく終わってるわね!」

「なにっ!?」

「螢!?」

 声がした方向へ―――つまりはパンツァーファウストの着弾点へと視線を向ける。晴れてゆく爆炎の中から軍服姿が少しずつ見えてくる。


「かれその神避りたまひし伊耶那美は
Die dahingeschiedene Izanami wurde auf dem Berg Hiba

出雲の国と伯伎の国 その堺なる比婆の山に葬めまつりき
an der Grenze zu den Ländern Izumo und Hahaki zu Grabe getragen.

ここに伊耶那岐
Bei dieser Begebenheit zog Izanagi sein Schwert,

御佩せる十拳剣を抜きて
das er mit sich führte und die Länge von zehn nebeneinander gelegten

その子迦具土の頚を斬りたまひき
Fäusten besaß, und enthauptete ihr Kind, Kagutsuchi.

創造―――」
Briah―――


 軍服のコートの裾が焼かれてボロボロになったりしているが、中段で刀を構える姿は間違いなく螢の姿だ。その体は詠唱を始める前から創造の特性を発動させているのか髪が焔に染まり、体も焔へと変換されている。

「爾天神之命以布斗麻邇爾ト相而詔之」
Man sollte nach den Gesetzen der Gotter leben.


 創造を完成させた螢の能力は私の創造と非常にその在り方が似通っている―――ここまで似る必要はないと思ったが、可愛い妹分だと思う。完成された創造を纏い、構える螢の背後にあったのは、

 ―――大穴だった。

「地上にいたら危なそうだったので地下へと逃げさせてもらいました」

 このALOというゲームはこの地上のフィールドとは別にもう一つ、広大な地下世界を持っている。それこそ真のALOと呼ばれるほどに高難易度のマップ、”ヨツンヘイム”だ。あらかじめヨツンヘイムの存在を知って、地上と地下を分ける岩盤をぶち抜くだけの火力を持っているのであれば―――できない事ではない。その発想へといたる事が狂気だが、それでも不可能ではない。

「そうか」

 特に興味もなさそうにエレオノーレは地面に空いた穴を確認し、

「つまりここで貴様らを倒せば問題がないという事か」

 そしてこの発言だった。負けるとは欠片さえ思っていない。敗北などあり得ない。慢心も油断もせず、最大限の力を持って一気に殲滅し―――そして残りを殺す。それが任務だから。

「それにだ。貴様、櫻井の小娘」

 エレオノーレが視線を螢へと向ける。

「貴様―――私の忠誠を愚弄したな」

 それはエレオノーレが見せる最大の殺意だった。任務という枠をはみ出し、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグという一人の女の殺意がそれには込められていた。安い挑発なのだろうが―――螢はどこを突けばいいのか解っていた。挑発としてはお見事だと言いたい。だけど、

「螢、何故残ったんですか……!」

 戦雷の聖剣を構えながらエレオノーレから目を離さず、それでも螢へと言葉を投げる。螢はこの先の事を考えれば確実に進むべきだった。戦力を割いている余裕はないはずだ。

「だって―――ベアトリス一人で勝てるわけないじゃない? 一人で戦うよりも二人で戦った方が勝てそうでしょ?」

「ほう、私に勝てる気でいるのか。随分思い上がったものだな小娘」

「小娘小娘言うの止めてくれます? 恋愛処女と一緒にされても困るんです」

「貴様どこまで私の忠誠を愚弄するか……!」

「戒、なんだか螢が最近いい空気吸ってますよ……」

 これは教育方針を間違えたか? そう一瞬疑うが、

 ……いい子ですね。

 誰かを心配して、助けに来られる子なのだ。悪い子であるはずがない。そう、何も間違えていない。これで正しいのだ。だからここは、

「―――一撃でも喰らえばアウトです」

 戦雷の聖剣の特性を一瞬で限界まで引き出す。戦雷の聖剣が青雷を纏い、そしてそれが体をも帯電させる。螢も武器を中段で構えたまま、

「なら、当たらなければ問題ないわね」

 自身を焦がす炎を更に強いものとする。渇望力こそが力である永劫破壊、そして創造の能力であるが、ここ最近螢の渇望の力は凄まじいものがある。今までであれば透過は調子のいい時ぐらいしか成功しなかったが―――あぁ、やっぱり恋する乙女はなんとやら、と言うやつだろう。

「ハイドリヒ卿に必中と呼ばれた私の炎から逃れると言うか―――面白い」

 エレオノーレの背後に巨大な魔法陣が出現し、そこから砲塔が姿をのぞかせる。メルクリウスによって用意された聖遺物の中で、このエレオノーレの物は数、そして桁が違う。戦争というカテゴリーで相手をするのであれば、これ以上恐ろしいものは存在しない。その砲塔の正体は解っている。

「その思い上がり―――叩き潰してくれるわ! ―――Yetzirah!

 砲塔から巨大な炎塊が吐き出され、螢との間に着弾する。それと同時にそっちへ追い込むように十数の機関銃が超音速の弾幕を張りながら動きを制限し、爆炎へと追い込んで行く。故に、

「行きます少佐!」

「勝たせてもらうわよ!」

「来いこの馬鹿娘共が―――教育し直してやろう!」

 アルンにほど近い草原で、戦争の開始を告げる号砲が鳴り響いた。
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| 断頭の剣鬼 | 09:28 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

世界観は犠牲になったのだ……魔砲焦女の犠牲にな……

| hunting ground | 2012/09/14 12:20 | URL | ≫ EDIT

>アルンにほど近い
これは危ない。

| 羽屯十一 | 2012/09/14 14:43 | URL |

何気にベアトリスが一番ひどい件wwww
そして蝶の谷は犠牲になったの……

| 裸エプロン閣下 | 2012/09/14 16:37 | URL |















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