陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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殉教 ―――リ・スタート

推奨BGM:Bottomoless Pit


 頭が痛い。

 体を起き上がらせれば夜に聞こえていたホールのうるさい音楽はもうないが、その代わりにガンガンと頭を打ちつけるような感覚があり、音を出そうものならそれが響いて頭に激痛を生み出す。ここまで言えばもう解るかもしれないが典型的な二日酔いの症状だ。なんで未成年の身でありながらこんな事態になっているかというと、

 元凶はこの場所の主だ。

「よ、起きたか英雄さん」

「あぁ、おかげですこぶる調子がいいよ……」

「そりゃあ重畳」

 本気とも冗談とも取れる口調で言葉を放つのは遊佐司狼―――リアルでの遊佐司狼だ。都内のネットカフェでログインしていたはずの俺を拉致し、勝手に家へと連絡をつけてここ、司狼の所有するクラブの一つへと引っ張ってこられた。”ボトムレスピット”と呼ばれるこのククラブにだ。何を思ったのかログアウトして明日に備えるべきなのにいきなり酒を飲ましてきて―――それに溺れさせられ昨日は眠った。


 まぁ、仮想世界へ入れば現実での痛みや吐き気、酔いも全て遮断される為にログインしてしまえばそれまでという事でもある。しかし朝起きて、腕の中にユイがいないと言うのも中々に寂しい。

「ほれ」

 司狼が投げ渡してくる物体をキャッチする。中身がミネラルウォーターのボトルだった。

「サンキュ」

「貸し1な」

「はぁ!?」

「おいおい、世の中なんでもそう簡単に通ると思うなよ。お前はまだ学生だからその辺意識薄いかもしれねぇがよ、今のうちに貸しやコネは作っておいた方がいいぞ。将来役に立つ」

 まさかこのインテリチンピラから、将来に関するアドバイスが貰える日が来るとは全く思わなかった。これだけはあのデジャヴが来てもそうそう信じられる事ではない。

「んじゃあ人生の先輩である司狼さんは、学生時代は色々とコネを作ったのでありますか」

「あぁ、そうでありますぜ。まぁ―――その大半がチンピラの脅迫材料なんだがな。結構数集めていい感じに足場を作れたぜ」

「おまえはいったいなにをいってるんだ」

 学生時代からこんな感じに破天荒にやってたのかと思うと、色々と怖くなってくるものがある。明広はこの暴れん坊と学生時代を過ごしたのか。中々凄いものだと思う。

「ちなみに明広が指揮者な」

「駄目じゃん! ストッパーじゃなくて加担側かよ!」

「俺とアイツでこのクソつまらねぇ世界をどうにかしようと、選択肢の総当たりをやっていたからな。お前も俺達程に理解できるようになれば、その意味も解ってくるぜ。まだ日も浅いお前には解らない話だろうがよ」

 司狼は退屈そうな顔でつぶやく。

「毎回毎回最高の所でデジャヴりやがる。あぁ、クソムカツクぜ。今度こそ成功したと思った瞬間に失敗しやがる。これを仕組んだやつは相当性格ねじ曲がっているぜ」

「それに関しては同意だけど……」

 自分としては一概に悪だとも断定できない。このデジャヴる感覚には何度か命を助けられている。これがどういうものであれ、今の自分を助けてくれている一因なのだ。正直このデジャヴなしでは戦闘が始まった瞬間一瞬で殺されそうで怖い。

 と、そこでこの部屋へと続く扉が開く。

「先輩シャワーありがとうございました」

「気にするんじゃねぇよ」

 上半身裸で、首からタオルをぶら下げるアレク、いや、リアルでの最上正樹が現れる。ミネラルウォーターを飲みながら挨拶に片手をあげ、段々と昨晩の事を思い出す。

 そう、確かあの後ログアウトしたんだった。

 あのあと、何とか疲労の中ルグルーに到着すると体力の限界が来たんだ。休んだとはいえ、それでも魔人とも呼べる実力者を連続で相手にしてきた俺、そしてほぼ一般人のリーファは完全に限界だった。螢は先に進みたそうだったが、それでも俺なしでの到着が完全に無意味な事を知って、今日はログアウトし、行動はまた明日からという事で時間だけを指定して一旦解散した。

 ログアウトした俺を待っていたのは司狼の拉致、そしてこのクラブ、ボトムレスピットへの招待だった。正直初めてのクラブへの入場に戸惑いや少しワクワクもしたが、そこに正樹がいて、ここに連れてこられたのは一応のリアルでの警戒、そしてリアルでも話し合える様にするためだと理解できた。螢とリーファ以外はここにそろっているため、半数以上はそろっている事となる。が、

「司狼、リーファは見つけられなかったのか?」

 司狼なら性別関係なしに、リーファまで連れてきそうなものなのだが……。

「あぁ、いや、ちょっとな。少し放置してた方が面白くなりそうだからな」

「え?」

「気にするな。どうせ後で解る話だ」

「先輩がそう言うと大抵ロクな話じゃないんですよね」

「うへぇ、マジかよ……」

  上半身裸のままVIPルームのソファに座る正樹の姿は、なんだかこのクラブに慣れきっている様子だ。おそらく嫌になるほど来ているのかもしれない。それが毎回拉致だとすると嫌になるのも当たり前だが、今回の件は能動的に動いているように見える。

「皆起きてるー?」

 扉からエリーが入ってくる。ALO内と同じ服装なのは彼女だけではなく司狼もそうだ。どうやら話した感じからして、ステータスまで弄っているらしい。が、今はそんな事よりも、

「朝ごはん買ってきたよ。コンビニの弁当だけど許してね」

「エリー先輩まだ料理できないんですか」

「私医者の卵だしね。そこらへんはほら、そこの極潰しに期待している?」

「おいおい、俺がそんな器用な事が出来るように見えるかよ」

「んにゃ、全く見えないね」

「だろうな」

 笑い声をあげながら近づいてきたエリーが、部屋の中央のテーブルの上に買ってきたばかりのコンビニ弁当を並べる。湯気が立っている事を見るとレンジで温めて貰ったばかりなのだろう。割りばしの一つと弁当を取り、

「ゴチになるぜ」

「あいよ。しっかり働いて返してね」

「え……?」

「駄目だよキリト君―――食べる前にしっかりお金払わなきゃ」

 そういう正樹は既にポケットから財布を取り出しお金を出している。なんだ。ここってゴチになります! って感じに食べていいところじゃないのか? お金払わなきゃ……。

「従業員ゲットか」

「ちょうど雑用が欲しかったしね」

「俺も最初の方は騙されて無給で働かされてたなぁ……簡単に人間を信用してはいけない。うん、いい社会勉強になったよ」

「そんな社会勉強を俺に強制しないでくれ!」

「なんだよ、今時の若者ってのはこの大先輩の心遣いが解らねえのかよ。これだから小物っぽい後輩の心は狭くて困るぜ。お前、あとで社会に出て裏切りに裏切られて信用を無くして誰も信じられなくなっても知らないぜ」

「俺はいったいどんな人生を送るんだ……?」

 少なくとも司狼の愉快な頭の中では、俺はものすごい波乱万丈な生活を送る事は確定しているらしい。個人的にはアスナを救い出したら一緒に居る事を親に認められて、そして静かだけど平和な日々を送れたらそれで十分なんだが……。

「おい、正樹、エリー、あの顔を見ろよ」

「うーん、なんだか死ぬときは腹上死! って感じの顔をしてるよね」

「今更だけど先輩たちってすっごい外道ですよね」

「いや、否定しろよお前」

 思わずエリーの言葉を否定しなかった正樹に対してツッコミを入れるが、正樹は笑うだけで否定してくれない。今わかった。こいつ常識人の皮被ってるけど、間違いなく同類だ。間違いなくこの悪魔二人と同じサイドの人間だ。夢も希望もありゃしない。これはノーマルを期待できるのはリーファしかいないのだろうか。

 最近ユイが変に汚染されてるし、螢なんて最初から論外だ論外。あんな楽しそうに刀振るう鬼の様な女が、普通の人間の様な感性を持っているはずがない。アレがいわゆるヤンデレ属性なんだろうと思う。明広、ストーキングタイプには結構縁があるな。

 羨ましいとは欠片とも思わないが。そこで逸れていた思考を戻すが、結局必要最低限の物しか持ち歩いていないためにお金ももちろんない。だから後で働いてお金を返す事を良しとする。暖かいけど、どこか”整えられた”感触を受けるコンビニ弁当を口に運ぶ。

 こういうのを食べているとつくづくアスナの料理を食べたいと思ってくる。

 終わったらリアルでも食べさせてくれるって約束だったし。

「まぁ、黄昏ちゃってるキリト君は置いといて」

 エリーが自分用に買ってきたカップ麺を食べながら言う。

「早めに食べた方がいいかもよ? 正直私達にはどうでもいい話かもしれないけど、キリト君とリーファちゃんには無視できない話かもしれないよ?」

 なんだか嫌な予感を胸に宿らせながら、素早く弁当の中身を食べる。


                           ◆


「―――ケットシーとシルフの同盟?」

 場所はルグルーへと変わる。そこには再び昨日のメンバーが全員そろっている。ルグルーの保護圏内ギリギリ、モンスターに襲われず、そして誰にもいない場所でその話をエリーから聞いていた。

「そ、世界樹の攻略を単種族でやるのは無理だから、ケットシーとシルフで同盟しよって話が出てるの。世界樹の前では、門を守る軍服姿のNPCが全てのプレイヤーを追い返しているから、もうすぐだ、ってね」

「それ……最上君……」

「何してるんだ兄さん……」

「倒す事が出来ない理不尽NPCとして認識されてるそうね」

「何やってるんだろな……アイツ……」

 なんだか微妙な空気が流れ始めるが、

「それで単種族では勝てないのなら、同盟組んで戦力を集中して倒そうって話になってね? 倒せばルート開放だからって。まぁ、ここまでなら別に放置しても多分黒円卓無双で終わると思うんだけどさ」

 ここでエリーが一旦言葉を区切り、

「なんだかサラマンダーが軍隊編成して、このケットシーとシルフの同盟、潰そうとしてるんだよね」

「えええええええ!?」

 その言葉に驚きの声を上げたのはリーファで、すぐさま腕を組んで何かを考えるようにつぶやき始める。その後ホロウィンドウを出現させ、どこかへと連絡を取り、

「うん。ケットシーとシルフの同盟は本当みたい。あと会議は今から数十分後、ルグルー回廊を抜けた先の平原でやるみたい。領主も集まって中立地帯で同盟を組み、これをグランドクエスト攻略の足掛かりにする、って」

「リーファちゃん意外とコネ持ってるんだねー」

「でもこれって」

「そうね」

 螢が口を挟み、

「叩くチャンスよね」

 シルフとサラマンダーの不和は有名で、敵対関係にある。故にケットシーとシルフが同盟を組めば、サラマンダーの敵にケットシーまでもがリストアップされる。流石にサラマンダーでも一度にケットシーとシルフの二種族を相手にしたら苦戦は必須、だがここで領主を落とし、一気に政治中枢を奪えばまた話は変わる。

「なんだか悲しい世界ですね、ここ」

 ユイがそんな事を言う。

「せっかく空を飛べる素晴らしい世界なのに、PKが当たり前で殺したり殺されたり。せっかく楽しく空を飛べるのにもったいないですよ……」

「ユイ」

 ポケットの中に入っている娘の頭を軽く撫でる。

「仕方ないよ……それが人の業なんだから。どうしようもなく愚かだけど……そういう人ばかりでもないんだ」

 そう、そんな人間ばかりじゃないんだ。だから、

「ねぇ、皆……」

「その、少し寄り道になるかもしれないけど……」

 できる事ならこのままシルフとケットシーを見捨てたくない。力があって、手の届く範囲にあるのにそれを見捨てるのは嫌だ。それが手の届かない範囲だったらまだ諦められる。だって俺はヒーローでもスーパーマンでもなく、ただのガキでただのゲーマーだから。だけど、せっかく楽しく進めようとしている人の邪魔をするのは、たとえゲームのルールに従っているのだとしてもそれは―――

「んじゃ行くか。おらよっと」

「せ、先輩?」

「いや、運んだ方が早いだろ。俺とエリー、ステータス弄ってるし」

「ナチュラル犯罪宣言……いや、もうわかってましたよ。……うぅ……サービス開始当初から使っているキャラがあっさりと新参に負けるこの悲しさ……」

「それじゃあ」

「あ、うわ、ちょっと」

「足が遅いから我慢しなさい」

「え? え?」

 目の前ではリーファを持ち上げる螢と、正樹を持ち上げる司狼の姿がある。何事かと思っていると、

「急ぐんでしょ? 走るのが早いやつに運ばせた方が早いじゃない」

 エリーのその言葉の意味は説明されるまでもなく解る。あぁ、と頷き、

「急ごう!」

「ま、進行方向は一緒だしな」

「先輩、お姫様抱っこはどうにかならないんですか……」

「ならねぇ」

「ホモくさぁーい」

「それを言うのなら兄さんと先輩のコンビの方がよほど!」

「おいおい、酷ぇなぁ、お前ら。まぁアイツ女装にあうんじゃねェかとは思った」

「え……?」

 これから援軍に行くと言うのに、こう、気が抜けるのは何故だろう……。
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| 断頭の剣鬼 | 09:45 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

なんなんだろうか。サラマンダーに死亡フラグが立ってるような気がしてならない。
具体的に言うと、ザミエル卿が「邪魔だ。きさまらは臭い、生かしておけない」とか言って汚物は消毒だをやりそうで。

| イーヴル | 2012/09/12 18:15 | URL | ≫ EDIT

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| | 2012/09/12 21:55 | |















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