陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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殉教 ―――ロング・ナイト・アウェイク

推奨BGM:Disce Libens
*1推奨BGM:Odi et Amo


 外の世界の季節が冬であるように、ALOの中の季節も冬に設定されている。だから夜空の見えるこの場所では寒い外気が肌を刺すはずなのに、その寒さは欠片も感じられない。いや、それだけではない。感じられないのは寒さだけではなく熱もそうだ。この体は体温を感じない。いや、感じられない。それを感じられる機能へと回す生命力を別の事へと回しているから。

 体の不自由はそれだけではない。多くの弊害が同時に発生している。それでも守るべき場所―――世界樹の内部、その入り口となる門の前で、軍服に身を包み不動のまま立つ。もうすでにこの姿勢のまま立ち続けて数日経過している。この場に立ってからは、ただの一度も、何人たりとも先に通していない。

 偵察に来たサラマンダーも、ケットシーも、シルフも、スプリガンも、ウンディーネも、プーカも、どの種族も通していない。絶対に通さない。ここに相応しい存在が現れるまでは絶対に通さない。ここで至高にして唯一無二をくれる存在が、俺に引導を渡してくれる存在が、ここで全てを引き継いでくれる次代の英雄が生まれるまでは、たとえ死んでもこの場から動かない。

 視界には何も映らない。

 何も見えないように顔にマスクがかけられている。それは生きる為の手段であり、唯一の方法。それをつけているため死ぬはずの肉体はかろうじて生きている。だが肉の方に生気は宿らない。それは、

 ―――既に俺が諦めているから。


 そう、俺は、最上明広は、

 死ぬことを前提に動いている。

 絶対に助からないと、そう確信している。

 だからこそ、空を見上げて冬の空を感じようとする。何も見えないし何も感じられない。だがそれでもそこにある事は解る。だから今はそれでいい。この夜空のした、枝葉が邪魔している俺の視線の先には彼女がいて、俺を待ってくれている。俺を信じて待っていてくれている。

 待っていてくれ、マリィ。

 手段は選ばないし選べもしない。マルグリットの手を取った瞬間から俺の運命は決まってしまって、あとは転がる様に運命の坂道を落ちるしかない。その先に待つのは底の見えない奈落の谷か、はたまた祝福の抱擁なのか、それも見えない。

 が、

 ”彼”は教えてくれた。

 断片であり欠片でありそれは遠い昔の残滓、完全ではないが、それでも真実の断片を手にすることは出来た。それを手に入れ、絶望して、覚悟が決まった。だから―――明日だ。また明日が来る、そしてその明日が最後だ。明日、全てに決着をつけて、俺の生に幕を下ろす。

「おや、まだ起きていましたか」

 物思いに耽っていたせいか、その人物の到来を予知する事が出来なかった。いや、この男は元々隠行に長けている。それこそそれ関してだけは、あの赤、白、黒の三人を超えるだけの実力が。だから察知が遅れるのも、しょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。だが“しょうがない”と妥協するのは―――未熟である証だ。未熟を恥じるのなら次へとつなげようとするのが正しい、のだと思う。

 声で判断できるその人物は、

「……トリファさん」

「まだ、私をトリファ”さん”と呼んでくれますか」

 仮面を被っているため解らないが、おそらく困った表情を浮かべているのだろう。それぐらいは想像できる。その困った様子はリザと玲愛に責められている時と同じで、教会へ行くたびによく見せられていたものだ。今思うとその様子を二年以上見ていない。

「……貴方は何時までも、俺にとってはトリファさんだ」

「そこはテレジアを貰ってトリファ、もしくはお義父さんなんて呼び方になると個人的には嬉しいものなのですがね。あぁ、やっぱり望みすぎなのでしょうか? 娘のアタックがこうも悉くスルーされるのは、親として見ていては中々辛いものが……いえ、冗談です。正直テレジアはまだ手放したくないです」

「だから貴方はリザさんに何時も怒られているんですよ」

「私はテレジアと一緒にお風呂に入りたいだけなんですけどねぇ……」

「……」

 変わらない。この男は変わらない。その事実に安心して、安らぎを感じている自分がいる。関係はこんな風に変わってしまって、上司と部下という形になってしまった。だけど、それでも、こうやって今、俺とトリファは昔の様に話し合えている。この瞬間が、とてつもなく美しく輝いていて楽しい。長く続かないけど、せめて邪魔はされたくない。

「……横、宜しいでしょうか」

「……どうぞ」

「では……」

 足音もないため、気配だけがトリファが横に立つのを教えてくれる。そこで何をしているかは解らないが、多分……空を見ているのではないだろうか。きっと、今日はいい夜なのだ。

「最上さん」

「なんでしょうか」

「今日の出来事、全て予想通りに進みましたよ」

「そうですか」

「レオンハルトも、トバルカインも予想通りに動きました」

「ベイは?」

「魚に食べられてヨツンヘイムのどこかへ運ばれました。今頃出口も解らず放浪しているでしょう」

「……」

「……」

 確実に司狼とエリーの仕業だと解る。いや、解っていた。あの行動こそが最善で、それを可能にするために態々ベイを地底湖の上に置いたのだから。あの程度で止まってしまったら困る。この先もまだまだ戦ってもらわなくては困る。もっと強い存在と戦い、それで心身共に鍛え上げ、俺に終焉を与えられるだけの実力を得てほしい。いや、その必要はないか。

 実力なんてものは最初からいらない。

 癌細胞は宿主を殺す。魂が求める安らぎをそこに実現するために、癌細胞は生まれ、そしてその汚染は広がる。癌細胞は死なない。その宿主が死ぬまでは死ねない。そして癌細胞は―――自滅因子はその宿主が死ぬのと同時にその業から解放されて死ぬ。まさしく癌細胞だ。

 残酷で救いようのない運命だ。

 可能性があるからこそ生まれてしまう。

 残酷な真実を知ってしまったからには、そこで止まるわけにはいかない。何かをしなくてはいけない。ただ止まる事は許されない。この刹那を永遠に―――素晴らしい渇望だ。尊い願いだ。先人が抱き、そして守ろうとしたその願い、純粋に尊敬に値する。

 だが無意味だ。

 止まるだけでは前へと進めない。何も生まれない、次がない。それは解っていたのだろう。だからこうなってしまって―――世の中とはなぜこんなにも無情で汚泥を被ったかのように汚れているのだろう。いや、だからこそ見つけられる刹那の輝きが、その瞬間が美しいのだ。だから、その瞬間だけはだれにも邪魔されたくない。

 あぁ、こうやって必死に生きているこの瞬間だけは、誰にも邪魔をされたくないんだ。

「最上君」

「なんでしょうか」

「少し、お話をいいでしょうか?」

「……はい」

「ありがとうございます。最近の若者はあまり私の様な年寄りとの会話を好みませんので、こうやって今時の若者と話せる機会はないのですよ」

「俺ももう二十二ですよ。今時と言うには少し旬が過ぎています」

「まだ二十二です―――死ぬには早すぎます」

「……その話はもう終わりました」

「えぇ、理解しています。貴方の意志に揺るぎがない事。後がないのは本当の事であり、自分の願いを叶えることに今、手段を択ばないことなどは重々承知です。ですがね、最上君。いえ、明広君」

 トリファがそこで一旦言葉を区切る。口を休めているというよりは、どうやらどういう言葉を使うかを迷っているように感じられる。だが意を決したのか、

「テレジアが泣いていたのですよ」

「……」

 あぁ、それは何とも……キツイ話だな。何て言うか、凄い卑怯だ。この神父……。

「卑怯なのは承知しています。ですが私は貴方の良き隣人であり友人でいたいと思っています。それは貴方の成長を見てきた神父としての言葉です。ですが、同時に私は一人の娘の父親なんです。一人の娘の父親として―――テレジアが泣いている事は中々許しがたい事なんです」

 喋るトリファの言葉は穏やかでとてもだが怒りを堪えているようには見えないが、実際には怒り……いや、悲しみを感じているのだろう。そうだ、ヴァレリア・トリファという男は不器用な男だったな、そういえばと、思い出す。懺悔を聞くのが妙に上手く、でも色々と不器用で……何時も玲愛やリザを怒らせてしまう、そんな男だ。

「だからどうこうして欲しい、というわけでもないのです。今私が貴方に何らかのお願いをしてもそれは確実に重荷になってしまう。昔ならいざ知らず、今の貴方にそれを背負うだけの力はありません。そしてその重荷を分けてもらう事も出来そうにありません。しかしそのまま潰れてしまう貴方を見るのは非常に心苦しい」

 だから、

「今、貴方を悩ます一番の問題を解決します」

 悩ます一番の問題? この事態か? いや、それはありえない。なぜなら―――

「―――えぇ、貴方はこの作戦自体が失敗するとは思っていない。副首領閣下の予知が外れないと確信し、そして成功すると信じています。それは副首領閣下への信頼ではなく、貴方のお友達、そしてレオンハルトへの信頼の成せるものです。ですからそれが貴方を悩ます事ではありません。無条件に友の成功を信じるのは危険ですが―――それ自体は悪くありません」

 ですから、と言葉をを置いてから、トリファは口を開く。

「―――貴方が一番不安に思っているのは自分自身だ。貴方は貴方自身が信用できていない」

「……。……トリファさん……」

「すいません、黙って少々”見させて”いただきました。元々この技能を見出されて私はスカウトされましたし。少々ショッキングな光景だとは思いましたが―――やはりお悩みになっているようですね」

 あぁ、そりゃあそうだ。

 あんなものを見てしまったら疑ってしまう。自分が何なのか、そして自分を信用していいのか。自分という存在に対してここまで明確な恐怖を感じたのは初めてだ。多分、人生の中で一番の恐怖を感じている。

「あぁ……怖いよトリファさん。俺は……自分が今、信用できない」

「でしょうね。それは私がどうにかできる事ではありません。―――ですから」

 そこで、門の前のこの空間に誰かが接近する気配を感じ取る。知っている人だ。誰の気配かはすぐさま理解した。

「あ……最上君」

「あぁ、来ましたかテレジア。ちょうどいいですね。報告は私の方ではなく直接明広君の方へとよろしくお願いします。私もこう見えて結構忙しいですからね」

「あ……」

 そのまま少し早い程度の速さでトリファの気配が遠ざかって行く。つくづく道化を演じる男だと思うし、そして結構卑怯だと思う。こんな事態になってからこうやって玲愛と一対一で面と向かうのは初めてかもしれない……やはり自分には恐れている部分があるのだろうか。

 過去に拒絶されてしまう事を。

 それでも、それでも俺は―――

「最上君」*1

 優しく、頬に暖かい手が触れる感触を感じる。温度なんか感じられないはずなのに、何故かそれだけは感じられた。誰かが俺に触れている。心地よい暖かさだと思う。生命力にあふれ、こっちを労わる様な……そんな優しさを感じる。

「氷室先輩」

「もう卒業してるから先輩はいらないんだけどね」

「そうですか?」

「うん。むしろ呼び捨てで玲愛って呼んでくれると嬉しいかな。私、テレジアって呼ばれるのあまり好きじゃないから」

「トリファさんとリザさんが嘆きますよ」

「いいの。だって君たちと一緒に過ごした少女は、玲愛であってテレジアじゃないから」

「そうですか」

「そうなの」

 そのまましばし無言となる。頬に当たる暖かさは未だに感じられる。触れている、触れられている。この感触がここまで暖かく、心地よいものだという事をは忘れていたかもしれない。たった二ヶ月の話なのに、それだけの短い期間の話なのに、人のぬくもりを忘れかけていた気がする。

「ねぇ、最上君」

「なんですか先輩」

「私、最上君の事好きだよ」

 あぁ、そんな事……

「知ってましたよ。先輩が俺の事好きだって」

 結構前から。学生の頃から知っていましたよ。そんな事。だって見ていてバレバレだったし。そこまで鈍感じゃないし。

「綾瀬さんの好意も?」

「アレだけ世話を焼いてくれれば誰にでも解りますよ」

「それはそうだよね」

「えぇ。知っていて無視決め込んでいましたから」

「酷い男だね。櫻井さんにもモテてるし」

「えぇ、酷い男ですから全部無視してます」

「本当に、酷い男」

 そう言って、玲愛が微笑んだ気がした。良く、解らない。ここは怒ってもいいはずなのになぜ笑うのだろう。そのままビンタの一発でも打てばいいのに。それを俺は甘んじて受け入れるだろうに。

「仕方がないよね。最上君臆病だし。肉食系っていうよりは草食系男子だし。本当に臆病だよね、最上君って。怖かったんでしょ? 私達で馬鹿やってたあの関係が壊れるの」

「うん。凄い怖かった。あの時間が数年しか続かないって解ってたから怖かった」

 そして―――司狼の様にこの地獄の世界を感染させてしまうのが怖かった。嫌だった。香純にも玲愛にもこの地獄の世界を、既知感を分けてしまうのが。関係を壊したくなかった。このまま笑っていられれば良かった。これ以上近づいたらどうなるか解らなかった。だから安易に臆病であることを選んだ。近づかなければこれ以上自分を知られない、感染しない、臆病者の発想だ。あぁ、何て酷い考えだ。今更ながら幼稚な発想だと気づかされる。

「だから許してあげる。すくなくとも好意を利用する最低な男じゃなかったし。そこは評価してあげる」

「評価してもらえるのは嬉しいですね。内申点は最悪だったので」

「遊佐君と一緒だったのがいけないんでしょ。同じ大学に行くことを目的にして浪人したのに、最上君まで浪人したから計画が台無しだったよ」

「トリファさん泣きますよ」

「アレが泣いているのは何時もの事だからいいよ」

 トリファは報われないな、と思うと、

 胸に軽い衝撃を受ける。そこにも温かみを感じる。玲愛の体温なのだろうか。よく解らないが、多分そうだと思う。胸に頭を寄せられている、多分そんな感じだと思う。

「ねぇ、最上君」

「はい先輩」

「ダメ?」

「はい、もうダメですね……明日、全力で暴れますので。それで限界です」

「そうなんだ」

「そうなんです」

「酷い男だね」

「えぇ、酷い男なんです。ですから―――」

「―――恨まないよ」

 言葉を遮り、

「この程度で恨む様な浅い女になったつもりないし、私かなり執念深いからいつでも最上君寝取るつもりでいるし。こう見えて私最上君並に酷い女なんだよ? ほら、こんな風に……んっ―――」

「……」

 唐突に唇をふさがれる。突然の感触に驚くが、リアクションを返さずに終わるのを待つ。柔らかい唇が唇に押し付けられ数秒経過し、唇がゆっくりと離される。

 この思いに応えるわけにはいかないんだ。

「だから私、勝手にやるね? 止めるのなら今の内だよ」

「止めません。もうどうにもなりませんから」

「うん。じゃあ勝手にやって、勝手に最上君を助けるね」

「凄いですね、先輩は」

 あぁ、本当に凄い。

「そう?」

「えぇ、だって自分が成功することを疑ってないじゃないですか」

 自分を信用している。できている。その事実が素晴らしい。

「違うよ、最上君。私はね、私を信用しているんじゃなくてね―――最上君を信用しているの。最上君の願いはきっと成就するって、失敗しないって。そして全てが終わっても最上君はまだ生きようとしてくれるって。私はそう信じているから、だから頑張れるの」

「俺を……」

 トリファめ。

 これは、卑怯だ。

「じゃあね最上君。私も頑張るから最上君も頑張ってね」

 そう言って温もりは去り、気配も遠ざかる。残されたのは俺一人、何も感じられなくなった門の前で一人だけ佇む。残された時間は短いのに、こうも考える事を多く与えられると……本当に困る。このまま未練もなくバッサリ縁を切れたらどんなに楽なのだろう。浮世の縁はそう簡単に切れないという事なのだろうか。何で、何で世の中はこんなにも、

「残酷なんだ……なぁ、マリィ。君を助けたいだけなんだ。君と笑って一緒にいられたらそれで幸せなんだ。なのに、なのに神は俺達を試す試練を与えるんだろう」

 神は答えない。

 そう、神は答えない。

 答えて、くれない。

 そのまま夜は更け―――決戦の時は刻一刻と近づく。
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| 断頭の剣鬼 | 08:57 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

神父ぇ……。
しかし、もしやサイアスの自滅因子がキリト?

| 空 | 2012/09/11 17:39 | URL |

玲愛先輩いい女すぎるぜ……チクショウ。

| ろくぞー | 2012/09/11 19:45 | URL |

うん。先輩とマリィ、どうして両方取れないんだろう……
分かっているのに悶えるなぁ。
そして最後の神が水銀だとイヤ過ぎる

| 羽屯十一 | 2012/09/11 20:42 | URL |

うーん?
気がかりな点が一つ。

引用
「この刹那を永遠に―――素晴らしい渇望だ。尊い願いだ。
先人が抱き、そして守ろうとしたその願い、純粋に尊敬に値する。」

先人って・・・・・・まさかね。
この世界構造、どうなってるんだろ。

| 断章の接合者 | 2012/09/11 23:59 | URL | ≫ EDIT















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