陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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試練 ―――バッド・コミュニケーション

推奨BGM:Jenzeits
*1推奨BGM:Nacht der langen Messer


 ―――痛い。

 意識が覚醒するのと同時に最初に感じるのは痛みだ。全身のいたるところから痛みを感じる。それを感じてまず―――これが現実だと再認識する。ありえない。そう叫んで信じるのを止めたい。それでもこれは真実で、どんなに祈っても変わることはない。

「うっ……くっ……」

 この世界には悪臭に関する設定がなくて本当に助かったと思う。女としては体が汚い事は耐えられない。それが最後の良心なのかどうかはわからないが、血が流れても数分立てば消えるし、体の汚れも数分待てば消える。そういう設定にしてあることにだけは感謝できるが、それ以外の全てには吐き気を催す。

 倒れ伏す床から顔を持ち上げて見えるのは鉄の棒―――檻だ。今、自分は檻の中に囚われている。超人的な”アスナ”のステータスは存在しない、非力なティターニアが今の自分だ。情けない。

 私、結城明日奈は今、須郷伸之に囚われている。

 電子世界、アルヴヘイム・オンラインに。

 状況は最悪と言っていい。


 SAOでヒースクリフを倒して転送が始まった直後、マリィと名乗る少女と一緒にこのアルヴヘイムの中に囚われた。最初はそこまで監視が酷くなかった。待遇も悪くなかった。須郷の視線も言葉も手も気味が悪かったけど、それでもまだ耐えられる範囲だった。

 だから、騙して逃げ出した。

 一か八かの賭けだったが、幸いマリィは”敵意を持って触れた相手の首を飛ばす”不思議な能力を持っていた。それがシステム的不備なのか、キリトの様なユニークスキルの恩寵なのかは判断できなかったが―――それが通じる事が幸いした。須郷がいなくなったタイミングを見計らい逃亡した。途中で邪魔をしてきた少数の研究者を殺して、何とかアクセス権限を手に入れて脱出しようとして―――

 ―――掴まった。

 戻ってきたときの須郷は、今までとは全く違っていた。容姿に一切の変化はない。が、その代わりに内面、人格と言える部分が別人と言えるほどに変質していた。

『―――私にお前は必要ない』

 戻ってきて開口、それが須郷が、妖精王オベイロンが放った言葉だった。そう言い放つのと同時にオベイロンは剣を召喚し、

 それを突き刺してきた。痛かった。痛みが存在した。そこに剣による痛みが存在すると主張していた。脱走に挑戦した事で、須郷が痛みを再生する研究をしていたのは知っていたが、想像していたよりも痛みはリアルに感じられた。後でその時の事を思い返せば、痛みに耐えきれず泣き叫けんだ事と、須郷が笑い続ける声しか覚えてなかった。

 いや、もう一つだけある。最後の瞬間、

 マリィの抱かれ、守られていた事を覚えている。

 それから目を覚ましたのは次の日だった。

 マリィは両手を上げるようにして吊るされ拘束されており、目を閉じたまま返事をしなかった。それはまるで静かに寝ているようだったが―――須郷に何か干渉されたのは確かだった。自分があの時意識を失ったせいでマリィを意味も解らない状態にさせてしまった。だがそれで須郷は満足するはずがなく、

『貴様は餌だ。あの薄汚い糞を―――黒の剣士を釣り上げるためのな』

『その悲鳴は絶対に届く』

『煩わしい塵共が。待っていろ、死滅するその日を』

『泣いて喚いて苦しめもがけ』

『喜べ。お前を求めて塵が来たぞ』

 須郷は元々悪魔のような男だった思うが、断じて外道ではない。人間として大事な何かを完全に須郷は欠落させていた。毎日同じ時間になったら同じ場所に剣を突き刺し悲鳴を欲する。そのためだけに鳥かごへとやってくる須郷の精神は異常だ。

「キリト君……」

 早く来て。お願い。このままじゃ心が持ちそうにないよ……。

 心が折れる前に発狂しそうになる。だが、マリィを守らなくてはいけない。そして、キリトが近くに来ている。その考えだけが今の自分を支えている。どちらかが欠落すれば危ういかもしれない。それでも、今は、

「お願い……!」

 早く声の届く場所まで来てほしい。そうすれば最低限―――この鍵だけでも届ける事は出来るかもしれない。キリトは今、この世界に来ている。それだけは人格が豹変した須郷の言葉は意味不明だが、それだけは理解できた。キリトがこの事態、少なくともその一部に気づいてこっちへ向かってきていることは確かだ。それが今最大の心の支えとなっている。

『アスナ―――』

「マリィちゃん……」

 口を開かず、身じろぎもせず、鎖に縛られたマリィを見る。彼女の言葉は音として脳に直接響く。両手首に鎖が食い込み、そして足元には茨が生えて非常に痛ましい姿となっている。彼女がサイアスと恋仲なのはアインクラッドの最終決戦を見れば一目瞭然だ。彼女も、サイアスが来てくれている事を信じている。自分がキリトを信じているように。

『安心してアスナ、皆来ているよ』

「皆……?」

 皆、と呼ばれてもそう言えるほど知り合いが多かった気はしない。冷たい床から体を持ち上げて、痛みを訴える現実を無視して鳥かごを掴む。鳥かごの外側にいるマリィは須郷でさえ触れられない。誰かがマリィに触れた瞬間、その者の首は跳ぶ。本当にその能力がマリィについていてよかった。なければ今頃慰み者にでもされていたかもしれない。

 それだけ彼女に対する須郷の憎しみは凄かった。

『うん。私は解るよ。アキが直ぐ近くにいるよ……そして凄い怒ってる。そして待ってる』

「待っている?」

『うん―――キリトが来るのを。明日……ううん、明後日には全て終わると思う』

 ―――明後日、その日に、

「キリト君が……来る」

 キリトの到着を希望に―――今は耐えるしかない。


                           ◆

*1


 どうも。

「……」

「……」

 キリトです。

「……」

「……」

「……」

「ぱ、パパぁ……」

「……」

 パーティーの空気が死んでいる……。どうして、どうしてこうなったんだ……。

 戒に無理やり押し付けられる感じでパーティーに加入した螢。その力は先ほど身をもって知ったために歓迎すべき援軍だ。特にこの先ベイやマキナみたいな人外が立ち塞がるなら尚更歓迎する事だ。だから一時期その加入を大いに喜んだりもしたが、

 その後が問題だった。

 螢が戦闘において全く役に立たなかったリーファに言葉を放ったのだ。

『貴女邪魔よ。覚悟ができていないのに戦場に来ないで』

 直訳すると帰れと言ったのだ。もちろんそれにリーファが頷くはずがない。直後に反論し、怒りを示すが、それを螢が無駄だと言い、リーファが諦めない。そんな風に口論が続いた結果、二人の意見はまとまらずに割れたまま終了。螢はリーファの存在を完全に無視し、リーファも螢を完全に無視する。必然的に目的が同じであるため同行者である俺はこの無言の壁に挟まれ、

 現在進行形で胃を痛めている。

 無言の圧力がこれほど怖いと思ったのはアスナに睨まれた時以来だ。

 ともあれ、こうやって洞窟を歩くのはいい。目的地へと進んでいる実感がある。現れたモンスターはリーファと螢のストレスの捌け口となって無残な姿に変貌するが、それもまぁ、よしとする。実害はないしアスナへと進んでいる感覚があるのは喜ばしい事だと思う。だが、いい加減俺を挟んで睨み合うのはどうにかならないのだろうか。犬猿の仲だという事は十分にアピールできている。だからこれ以上は俺を犠牲にしないでくれ。

 頼むから。

 お願いします。

 が、そんな願いが通じる筈もなく、二人は片目だけを向けあい、牽制している。

 ……正直、

 螢はもっと落ち着きのある人物だと思っていた。クールというか、冷徹というか、そんな感じの人間―――というのが戦闘中に得た印象の話だが、先ほどの戒との会話やリーファとの口論を聞いている感じ、なんだかそれがメッキの様に思えてきた。

 年齢は……サイアス、明広ぐらいか? 大体それぐらいで間違いはないはずだ。クラインが年上だったがアレもはっちゃけていたから、年齢的にありえないわけではないのだが、こう、人物に対して持っていたイメージが崩れるのは何時だってショッキングな事態だ。

 ともあれ、このまま無言でいるのは胃と心臓に悪い。

「ユイ」

「あ、は、はい!」

 ようやく話す機会を得られたためユイは嬉しそうだ。洞窟の中ではどんな存在も飛行する事は出来ないために、胸ポケットの中で大人しくしてもらっているが、そこから身を乗り出す様にして存在をアピールする。

「なんでしょうか!」

 ……よほどこの空気が嫌だったんだろうなぁ。

 最近娘のキャラの方向性が不安でならない。これはアスナを救出して馬鹿を目覚めさせたら家族会議かもしれない。ともあれ、

「ユイ、此処って大体どれぐらいの長さなんだ?」

「大体二十キロはありますよ! 時間で言えば凡そ1時間、2時間ぐらいでしょうか。まっすぐ山を抜けるのならもっと短かったでしょうが、ここ、横へ曲がったりくねったりと、結構方向を見失いやすいようにできているようですよ。ただ今の二十キロというのはあくまでもモンスターに合わず、休まず、ペースを変えずに入り口から出口まで歩き続けた場合です。迷えばもちろん時間がかかりますし、モンスターと戦っているので最速で抜けるのは無理です」

 そこでユイはいったん言葉を区切り、

「もう既にパパもリーファさんも六時間ログインしています。螢さんの方に関しては解りませんけど……」

 昼食休みとしてログアウトローテーションは既に一度やっている。ログインした時間は午後の三時であり、リーファは学生だ。俺も一応学生として政府が用意してくれた学校へと行かなければならない。だからこの世界にいられる時間に限界はあるのだ。

「明日が学校だという事を考えると抜けきる前にどうしても一度、ログアウトする必要があります……」

「あー……リーファはどうだ、明日?」

「ごめん、私学校ある……」

「そっか……俺も学校あるんだよなぁ……」

 歩きながら頭を抱える。と

「そういえば螢さんは学校ないんですかー?」

 ユイが気になったのか質問を螢へと投げる。

「私は中学の時点で黒円卓への加入を決めていたわ。正規団員の椅子はなかったけど、無理にでも―――準団員としてでも兄さんとベアトリスの後を追うつもりだったから高校も結構適当だったし、大学なんていかなかったわね」

 螢がそこで今までの仏頂面を崩し、少し自嘲する様な笑いを零す。

「貴方達は自分が学生であることをちゃんと理解して、後で後悔しない様に勉強しなさい。中学生や高校生であるうちは気づかないけど、卒業してから初めてその時間が大事な時間だったと気づくものよ。社会に出てからはどんなに戻ろうとしても戻れない―――悔いのないように今ある瞬間を謳歌しなさい」

「あぁ……そうだな……」

 今の言葉を深く心に刻みつける。アインクラッドで本来得られるはずだった二年を失い剣を振り続けて、そこでしか得られない絆や経験を得ても、それは本来得るべきはずだったものを犠牲にして得るものだった。俺だって普通の学園生活を恋しく思ったのは一度や二度ではない。何度も現実世界の普通の生活に戻りたい、そんな思いを抱いたものだ。

「だからと言って日常ばかり優先しろとも言わないわ。私だったら迷わず日常を切り捨てて、この世界に居続けるわ」

「あ、あれ、それ、さっきの発言と矛盾していませんか?」

「優先順位の問題よ」

 と、螢が言う。その意味は説明がなくても大体わかる。

「つまり螢にとってはサイア……明広を救う事が最優先で、たとえそれが日常を犠牲にする事だとしても、何よりも優先して当たるべき事だと言っているんだよな?」

「そうね。概ねそんな感じよ。誰かを救いたいのにその程度の覚悟もできていないやつが来てほしくないわね」

 そう言われてしまうと俺も言い返す事が出来ない。だが今更一日二日サボったところであまり変化もない、とは思う、

「そうだな……明日は学校サボるか」

「……え?」

「パパ、私はそれ嬉しいですけど本当にいいんですか? 多分パパ、政府の方々に凄いマークされていますよ? アインクラッドの英雄”黒の剣士”なんて政府の人間からすればチェックリストのトップですよ?」

 少しだけ迷う事がある。仮想世界の為に現実を蔑ろにしていいというわけではない。だが、今アスナの現実は犠牲を強いられている。誰かが、何かがアスナの帰還を否定している。俺はそれを許せない。なにをしてでも―――

「アイツを連れ戻す。今更ながら覚悟が若干足りなかったかもな。悪いな、螢」

「いいのよ。でも覚悟したとは勘違いしないでね。一瞬で出来るほど”覚悟”は安くないから」

「解ってる、解ってるさ」

 一日二日考えた程度で覚悟なんて出来やしない。悩んで、迷って、そして何かと直面して―――そして初めて覚悟ができるのだ。覚悟完了、何て事はたやすく口には出せない。おそらくそこにはまだ迷っている自分がいるから。それは戦いの事でも言える。先ほどの戦で戒と螢に羅刹の使用の危険性、持っている事の危険性を告げられたが、その誘惑を完全に跳ね除けられているわけではない。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 リーファが前に立つ。

「学校へ行かないって本気?」

 質問するリーファに応えたのは螢だった。

「これで解ったでしょ。日常感覚でズルズルと足を踏み入れているのは貴方だけなのよ。これは忠告よ。貴女は今すぐ帰りなさい。それが優しさであり最大限の配慮だと思って。私と兄さんはまだ”分別”のある方だわ。ベイは見境がない。ザミエルは容赦がない。そしてマキナは全て等しく敵として認識するわ。私たちを抜いた団員のほとんどは人格破綻者で誰を巻き込もうが知ったこっちゃないのよ」

「そ、そんなのおかしいよ!」

 リーファの言葉には全面的に同意する。こんなの現実的じゃない。ヒースクリフも、明広も、戒も、螢も、黒円卓の全てが―――どれも非現実的だ。心意からしてそもそも色々とおかしい。イメージを読み取ってそれを具現化するシステム何て聞いたこともないし再現方法すら理解できない。だけど、

「これが現実なんだよリーファ」

「キリト?」

 残酷かもしれないが、

「俺は何があっても世界樹へと向かわなければいけないんだ―――それにタイムリミットがついた。手段は選べない」

 選ばないのではなく選べない。それは似ているようで大きく違う。

「解ったかしら? 正直貴女役立たずなのよ。いても邪魔なだけ。なら―――」

「―――いいわよ! 私も学校サボるから! 元々キリトを世界樹へと連れて行く約束をしたのは私よ! フンッ!」

 リーファが怒りながら歩くペースを上げて洞窟の奥へと先に進んでしまう。その光景を見つつ、軽く額を抑える。

「この先は文字通り命の保証ができないから早めに降ろしておきたかったのだけど……」

「それにはもう少し言い方があると思うぞ」

「悪いわね。私嫌な女だから表現方法が捻くれてるのよ」

「ご愁傷様明広」

「いいのよ、私好きな人には尽くすタイプだから」

「本当にご愁傷様」

 助かったらこの先、彼女持ちなのにアピールが激しそうな人がいて、明広もこの先面白い出来事には困らなさそうだなぁ、と判断し、

「リーファにおいてかれる!」

「全く、子供ね」

「……」

 お前も同レベル等とは口が裂けても言えない。

「パパ」

 ユイがポケットの中から声を届けてくる。

「この先は地底湖があって―――複数のプレイヤーの反応が待ち構える様にあります」

 リーファも少し先で動きを止めているのが解る。

 あまりいい予感はしないが、

「行こうか」

 進むためにも前へと踏み出す。まだ世界樹へ到着するには距離があるのだ。




糞イロンが相も変わらず糞に染まってますが、まあ何時もの事です。
マリィの縛られ方はDies原作のマリィがギロチンの前で縛られているCGを参考にしています。
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| 断頭の剣鬼 | 08:35 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

リメイク前はまだ、最初の方はまともだった糞イロンがついにハナッから、糞にまみれてご登場した~~!

| 名状し難きナニカ | 2012/09/06 09:20 | URL |

人格破綻者……私達を除いた?(笑)
相も変わらず粘度の高いあほたるさんでしたとさ(爆)
この時点で大隊長が待ちかまえてるとか終末過ぎるよなぁ(^-^;

しかし、キリキリとポジションが代わったシロウサンはいずこ?

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/09/06 12:48 | URL | ≫ EDIT

にじファンよりもアスナの被害が甚大。
早くキリト世界樹に向かうんだ!

・・・あり?アクセスキーまだ持ってなくね?

あと黒円卓の面子に出番を取られた弟君のことも思い出してあげて下さい。
リメイク前の兄弟問答シーンはカットされちゃうのかな。あのシーン好きだったので出来れば残してほしいかも。

| 断章の接合者 | 2012/09/06 19:28 | URL | ≫ EDIT















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