陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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試練 ―――ジーク・ハイル

推奨BGM:Cathedrale


「これで今日本にいる者は全員集まりましたか」

 とある街の教会は普段見せない賑わいを見せていた。普段から参拝する人が少なく、本当に機能しているか怪しいとさえ言われている場所だが、礼拝堂には男女複数の影が存在していた。これを普段の教会の様子を知っている人間が知れば驚く事だろう。

「未だに来日していないのは、あの二人だけですか」

「マレウスとザミエルだな」

 ただ常日頃の教会を知らない者でも、礼拝堂内にいる存在達を異常だと認識するだろう。なぜならその教会に住まう者たちを抜き―――礼拝堂を賑わす存在は軍服に身を包んでいるからだ。この時代、軍服を着た軍人が教会に来るなどおかしな事態だ。ありえない事ではないかもしれないが、かなり珍しい。しかもこの場合数が揃っているのだから奇怪な状況だ。しかも軍服に身を包む軍人としては少々不揃いというべきか、アンバランスな集団がそこにはある。


 柔和な日本人の顔立ちの青年、少し鋭い目つきの日本人の女性、金髪の女、アルビノの男、軍帽を被り目に生気のない男、と、二人のシスターに神父を加えれば中々に不思議な集団が出来上がる。だがその場にいるだれもがそこにいる事に対して違和感も疑問を持たない。ベンチに座りながら、立って壁に背中を預けながら、そうやって必要な情報のやり取りを行う。

「今までドイツの方で活動していましたが……」

「こっちに来れるって訳だろうよ。代わりにシュピーネがドイツに戻るがな」

「まぁ、それも仕方がない話です」

「アイツもアイツで忙しいからな。いつまでもあっちを放っておくことはできねぇだろよ」

「そんな事を言われるとまるで僕たちが暇人の集団みたいだね」

「おいばかやめろ」

 身も蓋もない事を言った青年―――櫻井戒の言葉に軽くヴィルヘルムが動揺する。実際命令がなければ基本自由行動だ。神父やシスターとしての職務が存在するトリファ達とは違い、暇だ。

「で」

 ベアトリスが言葉を引き継ぐ。

「少佐とちっこいのがついにこっち来るわけですが、命令には納得してるんでしょうか?」

「納得も何もザミエル卿であればハイドリヒ卿には絶対服従、確実に命令に従うでしょう。そしてマレウスは―――」

「アイツはドイツの方から接続してるから既に顔見知りだろ。それなりに気に入っているようだし問題はねぇだろ。そして俺達にも問題はねぇ。多少なりとも思う事はあるがそれでも従う事に異論はねぇよ」

「ほう、思う事があると?」

 トリファがヴィルヘルムの言葉に反応する。ヴィルヘルムが命令に対して疑問を持つとは思わなかったが、

「そりゃあ俺だって人間よ。疑問の一つや二つ、不満だってある。だがよ、俺達は軍人なんだよ。それがどんなに正規の軍人の命令系統から逸脱していても軍人である事実に変わりはねぇんだよ。俺達―――少なくとも俺はハイドリヒ卿に対して恩義を感じて、忠誠を誓っている。だから何があろうともあの人の命令には逆らわねぇ」

 実にヴィルヘルムらしい回答だと誰もが思う。自身が黄金の獣に拾われ救われた事に感謝し、何時までもその恩義を忘れずに、忠誠を誓う。ラインハルトの行動に救われた人間はいるし、ヴィルヘルムも救われた人間の一人だ。だからヴィルヘルムはある意味でザミエルに、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグに似た部分がある。それは黄金に対する絶対的な忠誠であり、未来永劫その存在を裏切る事だけはありえないという事実だ。

 それは前からはっきりしている事で、此処でまたはっきりとしたに過ぎない。

「だからよ、命令には従うが疑問には思うんだよ―――馬鹿の十三位代行就任の件とかな」

 その言葉に異論を返す存在はいない。その場にいるだれもがそれは疑問に思っている。ラインハルト・ハイドリヒが直々に最上明広の十三位代行の就任を伝え、そして明広はそれを受け入れた。仮想世界の中でさえ喋る回数が極端に減り、一日に一言二言、その程度しかしゃべらなくなった明広だが、何の迷いも戸惑いもなく代行の地位を、一番不名誉な称号を得た。

 十三位代行、それはつまり副首領の地位。

 十三位代行、それはメルクリウスの代わりという事だ。

「正直に言えばクラフトの野郎には俺は一生関わりたくねぇ。やつの代替何て以ての外だ。考えただけで吐き気がするぜ。それを誰かの代わりだとかそんな事を嫌いそうなやつが文句を言うまでもなく受けたんだぞ、そりゃあ不思議に思っても仕方がねぇだろぉよ、おい」

「それでも」

 言葉を出したのはこの場で一番年若い団員だった。正規の団員ではなく、空席がない事から準団員扱いの少女、櫻井螢が口を開く。

「私たちは従うしかないのでしょ? それが命令であり、今できる事なのだから」

「僕としては妹が知り合いの為に頑張る姿が見れそうでなかなか複雑だなぁ。螢ももう恋をする年頃なんだねぇ……」

「に、兄さん!」

「おい、カイン。テメェ今日はちょっと飛ばしすぎてねぇか」

 ヴィルヘルムが白い目で戒を見る。その視線を戒は苦笑と共に受け流す。

「ごめんごめん……なんだか少しやりきれなくてね。こんな風にふざけてでもいないと、ちょっと許せなくなりそうでね」

 戒が握り拳を作る。力強く握られるそれは次第に爪が皮膚に食い込み、手の平から血が流れ始める。ただ血が流れ始めても戒は拳を解こうとしない。そのまま強く拳を握り続け、

「今のこの状況は僕らの怠慢が招いたことなんだよ、ヴィルヘルム中尉。職務だと言い訳して結局僕らは最低限の支援しかしなかった。職務に忠実であろうとしたんだ。その結果が今の状況だよ。率先して穢れを僕が受け止めるべきだったんだ。なのに僕はそれをせず、ただ無事を祈るだけだったんだ。解っていたはずなんだ。祈るだけなら誰にだってできるって事を。僕らは力を持った責務として、友人として、彼の力になるべきだった。そうすれば―――この事態は回避できたかもしれない」

「戒……」

 血の流れる拳をベアトリスが両手で包み、抱く。そしてその話を聞き、

「でも誰のせいでもないよ」

 玲愛が口を開く。

「結局、最上君って貧乏くじ引くから。いつも矛盾してばっかりの馬鹿だけど……後悔だけはしない様に頑張っているから。だから自分を責めるのは……うん、たぶんそうやって責めるのは筋違いだって怒るよ」

「氷室さん」

「だけどそれとは別にやっぱり自分を責めたくなるよね。何で助けなかったのか。何で手を差し伸べなかったのか。正直私は君たちが、特に櫻井さんが羨ましいよ」

 玲愛の視線は螢へと向けられている。螢は正面から玲愛の視線を受け止め、

「私はこうやって無駄な努力を続ける事しかできないのに。帰ってくることを祈ることしか出来ないのに。櫻井さんは最上君の為に戦えるじゃない」

「でも」

 螢が玲愛に応える。

「私は貴女が彼と過ごした時間が羨ましいわ」

「そんな彼の心は売約済みの様ですがね」

「うぐっ」

「うっ」

 トリファの言葉に一気にたじろぐ螢と玲愛、同時にその場にいるほとんどすべての者から睨みつけられ、トリファは両手を上げながら降参のサインを見せる。

「正直今のはないんじゃないかな」

「ありえないですね」

「最低だな」

「頭を疑うわね」

「最、低ッ」

「このダメ神父はそろそろ反省した方がいい」

「えー、私こんなにバッシング受けるんですか? ただ事実を言ってるだけなのに……マキナ卿、ここは唯一参加していない貴方が何か言ってくださいよ」

 今までの会話に一度も参加していなかったミハエルに話題がふられ、視線がミハエルに集まる。そのままミハエルは沈黙し数秒、

「凄く……一撃必殺です……」

 沈黙。

「リザ、限界まであとどれぐらいだ」

「そうね」

 満場一致で今のはなかったことになった。ベイの言葉にリザが思案するような表情を浮かべ、

「手の限りを尽くして後一ヶ月って所かしら」

「一ヶ月……」

「それがアイツの”寿命”か」

 限界、寿命、それが誰を示しているのか言葉にして表す必要はない。もとよりこの中で限界を迎えている人物は一人しかおらず、そしてここでの話題もその一人に関する事のみだ。だから現状を理解して受け入れる。

「手を全て尽くして―――明広君の命はもって一ヶ月ね」

「ま、良くもったというべきか」

「正直私がいなきゃもう死んでいるわね。昔の悪行に対して感謝する日が来るとは夢にも思わなかったけど、こうやって誰かの命を救う事に使えるのだったら少しはいい事なのかもしれないわね」

「リザ」

 だけど、とリザは言葉をつける。

「彼は後三日も持たせるつもりはなさそうよ」

「……」

「解っているのでしょ? 彼が求めている事を。そして命令の意味―――指揮系統の全てを一時的に副首領代行に預けた事。その副首領代行が唯一下した命令が何なのかを」

 誰も答えない。理解している事だが、この場にいる全ての人間が少なくない時間を過ごしたか、もしくは恋慕の情を抱いている。ラインハルトの様に破綻した人物であれば―――この最期もまた愛しいと呟き、その最期を愛を持って飾るために、

 自分の手で殺しに行く可能性だってある。

 ラインハルトは異常だ。その異常性を日常においては発揮しないが、必要とあれば迷うことなく発露するだろう。だからこそ怖い。あの男に迷いはない。何をするか想像のできない恐怖ではなく、想像できて、それがあり得るからこその恐怖だ。だがこの場にいるものたちは、其処まで破綻していない。だから、

「私たちができるのは―――」

「唯一無二を与える事だ」

 ミハエルが言葉を引き継ぐ。

「戦友に、唯一無二をくれてやることだ。奴は戦場を欲している。自分に至高の死を、全てを残しての死を。それが次につながると信じて、始まるための終わりを欲している。戦友の求めるそれを俺達は理解できる―――だからこそ友人として応える。違うか」

 教会を再び沈黙が支配する。

 ミハエルの言葉に偽りはない。もう見えているのだ、最上明広が欲しがっている事が何なのかは。

「もう無理なの?」

「駄目ね。体の中の生気が完全に消えているわ。生きる意志がないから生命力も生まれない。終わりを望んで進んでいるから次がないのよ。だから延命だけで限界。蘇生なんて無理よ」

「やっぱり、こうなるしかないのかな」

 戒が背中を完全にベンチに預け、礼拝堂の奥のステンドグラスに目を向ける。美しい芸術だ。今は夜だから本来設計された美しさを感じる事が出来ないが、ランプの光を受けて輝くステンドグラスも中々のものだ―――だが、それだけだ。所詮は定められた役目を果たしていない物、本来の美しさと比べれば歴然の差がある。日の光を浴びて輝いてこそ、それ本来の美しさが感じられる。

「世の中って理不尽だね。試練の様に辛い事をどんどん与えられる人間がいれば、生まれも育ちもよくて、死ぬまでずっと楽しく、楽をできたって人がいる。それが当たり前なのかもしれないけど、やっぱり理不尽だよね。神様ってのはとことん意地悪だと思うよ」

「そうだね」

 玲愛がステンドグラスを見上げる。

「今度その神様見かけたら私が殴っておくよ」

「兄さんも氷室さんも……」

「いいんじゃないかな? 神様を殴るってのには大賛成。平等なんて言葉は幻想だけど―――それでもちょとだけ救いがあってもいいと私は思いますよ」

「なら」

 と、トリファが纏め上げる。

「私達が救いを差し上げましょう。それが今の我らにできる唯一の事で、一番活躍できる事です。それぞれ今回の件は思う事がありましょう。しかし我らは結局首に鎖を繋がられた状態です。ですから、出来る範囲で出来る事をしましょう―――それが幸いであると信じまして。では今夜はここまでとします。各自自分の役割りを果たすために動きなさい。この先に幸いと未来があらんことを信じて―――ジーク・ハイル・ヴィクトーリア」

「ジーク・ハイル・ヴィクトーリア」

 全ての声がトリファに続き勝利と幸いを祈る。

 夜中の教会で行われている集会は終わり、魔人の集団が各自の役割を果たすために動き出す。その思惑や思いはここで別れ―――それでも目指すべきものは幸いだと。誰もが共通した意識を持ち、

 妖精郷での本当の試練が始まる。
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| 断頭の剣鬼 | 10:28 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

 未知――! 圧倒的なまでの未知――!
 主人公が死にかけだとか、副首領代行就任だとか、それ以上に――リメイク前は結婚式で爆死してた印象しかない神父がこんなにも喋る機会があるだなんて!?(ぇ

| サツキ | 2012/09/02 11:26 | URL |

アルブヘイムオンライン終了のお知らせ――
なにこの未知、終焉というか怒りの日まで一直線だよっ!(笑
ああ、でもベイの兄貴はまた出番を奪われそうなw

| 女神は至高、金髪少女は至宝 | 2012/09/02 12:36 | URL | ≫ EDIT

圧倒的なまでの未知――――!
リメイク前よりも面白い展開。
死にそうなのは女神成分が足りないからか……。

| 空 | 2012/09/02 17:02 | URL |

これは、まさに生と死の刹那にみる未知の結末…!

| 渚 | 2012/09/02 21:05 | URL |















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