陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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第九話 始まる場所は終わる場所



―――走っている。

「っは、っは、っは、っは、っは」

 ただひたすら走り続ける。

 一寸先は完全な闇。その先に光があるかどうかは分からないが、ただひたすら走り続ける。

「っは、っは、っは、っは、っは」

 走る自分の手の中には暖かい感触がする。走りながらも後ろを振り返れば自分の愛しい人の姿が見える。その愛しい人の手を引きながら二人一緒に走り続ける。ただただ光明を探して走り続ける。

 否、走り続けてるのではなく逃げ続けているのだ。

 闇に見えるのは全て巨体ゆえに遮られてしまった影。影の中に浮かぶのは口。

 歯をぎっしりと敷き詰めた口。

口。口。

 口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口口。

 前を見ても上を見ても下を見ても後ろを見ても口、口、口。見れば見るほど気が狂いそうになる光景だが、それでも彼女だけは守らないといけないという思いが自分の正気を最後の一線で保たせてくれている。手を伝わって感じれる温もりが何よりも自分の心を勇気付けてくれる。もし、この温もりが消えてしまったら、

 自分は確実に壊れるだろう。

 いや、誰かに頼らないと心が保てない時点で確実に『玖楼』と言う『地球』にいた男の人格は壊れているのだろう。始まりは……たぶん……そう、流れ着いたその時から。冥き途へ流れ着いてから。ナベリウスとであってから。リタと触れ合ってから。リッチに教わってから。マクレガーと語り合ってから。

 彼女に依存してから。

 そう、これは完全な依存。何かに依存しなければいけないほどに自分の心は弱く、壊れてしまったのだろう。だけどいい。それでいい。卑怯かもしれない。汚いかもしれない。純粋で真っ直ぐじゃないかもしれない。だけども、自分の守りたいという気持ちだけは本当だ。本当であってほしいのだ。だから守る。彼女の正体が大昔の戦争で負けた神だとしても、彼女が多くの神々から姿を隠して逃げていても関係ない。彼女は、サティアは、自分がこの世で生まれて一番愛している女性なのだ。依存も守る理由もそれだけで十分。

 十分すぎるのだ。

 サティアの手を強く握って引っ張る。

 依然、一寸先も見えない暗闇の中だが不気味に輝く白い歯だけが何故か見える。周りを囲む口のない方向へとひたすら逃げ続けるが、その方向にだけ口がないことからまるで追い込まれるような気がし、最初から最後まで誰かの掌の上で踊らされているような錯覚をする。いや、それは間違ってないのだろう。なぜならあの『女』は全知全能とは行かずとも、恐るべき力を持つ『女』は確実に神だ。神だからといって全てが許されるわけではないが、神の責務を捨て、その役割をなくしたあの『魔人』は強い。

 そしてこの時代、強者こそが全てを得、敗者が全てを失う。

 自分が18年を生きた世界とは違い、この世界には明確な法は存在しない。自分が生きた時代でも完全な人間の管理は出来ていないのに、モラルや論理観倫理観。そんなものだけで律せられるこの時代において力と暴力こそが最上の力である。

 権力なんて暴力の前ではクソ程の力しかないってことだ。

「―――だからじゃろう?主が力を欲したのは」

 走るっているのにその女はいつの間にか横にいた。走り過ぎると同時に言われた言葉が心に突き刺さる。

「違う。俺は力なんて求めてない」

 走りすぎたはずの女がまた横に現れる。

「違わない。お主は最初は嫌がったも途中からは楽しそうにしとったぞ。相手を倒す時も興奮したじゃろ?返り血を浴びる瞬間はよかったじゃろう?」

「楽しんでなんかいない!」

 叫びながら走りぬく。だが女は再び現れる。それも一人ではなく今度は何人でも。

「違わないさ」

「お主は楽しんでおったよ」

「女をダシに使うのはやめぬか」

「お主はただ戦いたいだけじゃよ」

「やめろ!自分に話しかけるな!!」

「所詮人も魔人も変わらぬよ」

「お主にもわしにもそう違いはないのじゃよ」

「違う!違う!黙れ!黙れぇぇぇぇええええ!!!!!!」

 そう叫んだ瞬間、しつこいほどにいた女が完全に消え、正面に一人だけ残った。息を切らしながらも目の前の女を睨み付けると女が静かに、本当に静かに言葉を漏らす。

「―――それで、守りたいものはそんなものじゃったろうか?」

 手の中の感触が冷たい。後ろを振り返る。彼女の手を握っている。そして彼女の体は―――嘘だ。

 嘘だ。嘘だ嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

「嘘だああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「玖楼!!!!目を覚まして下さい!!!」

その声で悪夢から目が覚めた。


                   ●


「ぁぁぁあああああ!!!!!!」

 悪夢から覚醒すると上半身だけ起き上がり、震える体を両手で自分の体を抱きしめる。まず、自分が『存在』すると確かめる。ここに自分はいる。消えてはいない。まだ消えてない。確かにいる、と。体が小刻みに震えるのを何とか抑える。本当に怖いのはあの女の存在ではなく―――

「玖楼!」

 体を包む温もりを感じる。少しひんやりとする感触にほのかに感じる肌の暖かさ。眼前に映るのは彼女の燃えるような赤い髪ではなく、透き通るように長い白髪。彼女の名前をゆっくりと思い出すように言う。

「リ、タ……?」

「大丈夫です。玖楼はここに、ちゃんとここにいますから。安心して下さい。消えたりなんかしませんから。ちゃんと私の腕の中で生きて、呼吸していますから。もう、怖がらなくてもいいですから、ね」

 荒い息を何とか落ち着かせようと必死に深呼吸を繰り返す。腕に抱かれたまま深呼吸を繰り返すうちに段々と落ち着き、状況が飲み込めるようになってくる。肩越しに周りを見るとそこは少し前までは見慣れていた場所、冥き途にある自分の部屋だ。小さく帰ってきたのか、と呟きながら自分の体を抱いていた腕を緩め、体の震えが止まってゆくのを感じる。ここへ来て安心している事に気がつく。

「戻、って……来たのか……? ―――そうだ! そんなことよりも!」

そんなことよりも、もっと大事なことがある!彼女だ!彼女は無事か?無事なのか?!彼女はいるのか?!

「リタ、彼女は、彼女は無事なのか?無事なんだよな?!」

 リタの両肩を抑えるとその体をがくがく揺らしながら彼女の事を聞きだそうとする。

「ぶ、ぶ、ぶ、無事ですから、ら、ら、ら、ゆ、ゆ、揺らすの、やめてください!」

 がくがく揺らすリタを解放すると同時にほ、っとため息を吐く吐く。彼女が無事だったと、その安堵感が体を包む。同時に体にまだ気だるさを感じるのを自覚してベッドへと再び倒れこむ。はぁ、と再び安堵の息を漏らすと頭だけを動かし、ベッドへと腰掛けるリタの方向へと顔を向ける。何よりも知りたい事を聞く。

「それで、サティアは何処にいるんだ? 無事なんでしょ?」

 ベッドに腰掛、背中を向けるリタへと言葉を投げかけるが返事は返ってこない。

「なぁ、一緒に連れてきたんだろ?外でナベリウスと話してるのか?仲良かったもんな」

 リタは背を向けたまま動かない。

「なぁ、リタ……?」

 背を向けたまま身じろぎもせず、リタは動かない。ただ静かにベッドに腰掛けるだけ。そして……

「サティアなら、ここにいないわよ」

 一瞬、何を言ってるのか完全に理解できなかった。彼女が……いない? それはおかしな冗談だ。助かったんだろ? 無事なんだろ? だったら、何でいないんだ? あ、分かった。少し外を歩いてるんだろ?治療の水がなくなって傷薬の材料を採取に行ったとか? もしくは……ほら、村の様子を見に行ったとか。そういうことだよな。あぁ、そうに違いない。

 だからさ、

「何とか言えよ、言ってくれよリタぁ……!」

 肯定でも否定でも、どちらでもいい。ただ、何か言葉がほしかった。だがそれすらリタからはない。背中からはまったく感情が見られず、どこか冷たい印象を受け取れもするそれからはどんな情報も見て取れない。ひたすら喚く様に仮説を立ててゆく。少し散歩に行ったと。

 材料を探しに行ったと。

 誰かとおしゃべりしてると。

 村の怪我人の様子を見に行ったと。

 途中から思いつけず同じことを何度も言っていることに気がついても止められない。とにかく『ここ』にいないという事を否定したくてただただ叫ぶように仮説を投げつけてゆく。整っていた息は荒くなり、ただひたすら絶叫するかのごとくいないという事を否定してゆく。

 だが否定してゆくたびに自分が惨めに、そして彼女の存在を感じないことが明白に分かってくる。

 やがて、息も絶え絶えになってリタの背にしがみつく様になると、ゆっくりとだがしっかりと、はっきりと聞こえる声で言った。

「『隠しててごめん。さようなら』。それだけを言って去ってったわ」

 それが、黒川玖楼がサティア・セイルーンから貰った最後の言葉だった。

 そして意識は再び闇に落ちる。


                   ●


 玖楼が倒れてからの話は簡単なものであった。

 あの時、最後に聞こえた声はナベリウスのものであった。元々玖楼が野鎚との戦闘中に使った絵札、もしアレが発動された場合はそれを即座にナベリウスとリタへと伝える仕様になっており、それを感じ取った二人が転移魔法でやってきた。ただそれだけである。

 だが、そのおかげで玖楼は助かった。

 すぐさま『女』の攻撃を妨害するとナベリウスが交渉し玖楼たち三人の命を見逃させ、そして女を追い返すことにしたのだ。そう、三人……つまりはフェヴもあの惨劇から逃げ延びたのだ。

 ただ、玖楼、サティア、フェヴを除いて村は完全に消え去った。

 ただ帰るのもつまらない、そういう理由で野鎚に残りの村人と村を完全に食べさせると、これで十分暴れたといって帰る。そして残った三人のうち二人を連れて帰ろうとし、一人がそれを断り消える。

 これが、事の顛末であった。

 若き騎士に屈折を与え、

 古い神に悲しみを与え、

 そして青年の心を砕いた。

 まさに悲劇としか言いようのない終わり。だが、それでも生き残った。生き残ってしまった。その罪悪感、喪失感、無力感。玖楼の中で様々な感情やものがせめぎあいぶつかり合い、そして蝕んでいた。

 リタより事の結末を聞いて以来玖楼は無気力になり日々、何もせずに過ごすようになっていた。一日をずっと自分の部屋の中で済まし、食事も最低限のものしかとらなくなった。そのため体は段々と細くなり、筋肉も目に見えて落ちてった。健康的だった体は段々と不健康に、髪も伸ばしっぱなしになり、たった3週間と言う時間で玖楼の姿はまるで別人に、若干病的な姿へと変わっていた。

 もちろん同じ冥き途の住人も心配し、何度も話しかけるが、返事が生返事ばかりでまともな返事がない。そのためどんな風に接せばいいのか分からない結果、しばらくそのままにしてみようと、その結果が現在の状況であった。

 そしてやはり、どうにかできないかと再び話し合いが行われていた。

「そんなわけで第45回玖楼を蘇らせましょう会議~」

 どんどんぱふぱふーと、リタが口で言うがついてくるのは静かにいえーいと言うナベリウスぐらいで、リッチもマクレガーもケルベロスも何かまだやるのかという視線を向けてくる。

「もう既に1日2回のペースで会議が開かれているのだが……」

「気にしない方向でお願いします」

「既にしばたく放置するって方針で決まったのだと思うのがね……」

「忘れました」

「がう。がう…ぐるるるぅ」

「黙ってろ犬」

「クゥーン……」

「こっち…………おいで」

 犬扱いされた地獄の番犬が項垂れて丸まりながらナベリウスによしよしと頭を撫でられ慰められる。その光景に対して生ぬるい視線を向ける元人間が二名ほどいるが、それを無視してリタが話を進める。

「この3週間玖楼を見てたけどこのままではいけません!」

「3週間どころか半日しか持たなかったな。こういうのをブラコンと言うのか。……む、義姉弟モノか?」

 ザクリ。ブス。ドカ。バカ。バコーン。

「リッチィィィィィィイイイイイイイ!!!」
 
リッチ、会議本格開始前から脱落。無念。

「リッチ………………自重」

 玖楼と出会う前のリッチとナベリウスが今の自分を見ればかなり驚くほどの変化ではあるが、唯一突っ込める立場のマクレガーはわが身可愛さにツッコミなど入れはしない。リタのツッコミを喰らって散骨されたリッチの骨が冥き途の湖に落ちてどこかへと流されてゆく。

「さぁ、反対者がいなくなった所で会議を始めます。では『どうやって玖楼をあの部屋から出すか』、もしくは『どうやって玖楼を元気付けるか』、というのをテーマに今日の会議も勧めたいと思います」

 周りを見渡し、

「はい、それではマクレガー少尉から」

「私か? 考える暇も与えないとは容赦ないな君も!」

「いいからさっさと適当に提案して下さい」

「リタ…………若干…やさぐれた?」

「玖楼分が圧倒的に足りませんから」

「ついに認めたな。っと仕方がない。ここは最終兵器を出す時が来たようだな……」

「「さ、最終兵器…………?」」


・作戦その1:マクレガーの最終兵器


 玖楼の無気力で暗いテンションとは違って冥き途の人外達は既にキャラ崩壊が大いに進み、原型が見る影もない彼らは確実に悩んでいながら状況を楽しんでいた。そんなマクレガーがラメ入りペ○シマンのような姿をしておきながら何処からともなくと、薄い本を一枚取り出す。

「男が元気を出すと言うなればこれしかない!」

 薄い本を持ったままマクレガー死者の門がある広間の隅、玖楼の家へと向かおうとする。

「では、私はこれを玖楼君へ進呈―――」

「―――はい、アウトー」

 高速で振るわれたリタの魔槍がマクレガーの腕と足を同時に斬り飛ばすと、その腕に握られていた薄い本が宙を舞い、ナベリウスの前に落ちてくる。それをナベリウスが拾い、そして開く。

「あ、待ちたまえそれは……」

 マクレガーの静止を無視してナベリウスが開いたページを見ながらページをめくり次のページを見る。リタも槍をマクレガーに突き刺して地面に縫い付けるとナベリウスの横へと回りこみ一緒に薄い本を観賞する。

「…………ぉお……」

「こ、こんな格好するんですか?」

「あ、あれ……お嬢さんたちー?」

「………………なるほど…………」

「わわ、凄い」

「おーい。私の秘蔵の本は性教育に使うものではなくて―――」


「轟雷」「凍結の渦波」


「マテマテ別に再生するからといって別に痛覚がないあばばばぶぶぶぶぶぶぶぶぶAAAAAA!!!!!」

・作戦その1:マクレガーの最終兵器。リタとナベリウスに強奪され実行前に失敗


                   ●


「元々アランが玖楼といた時間は私達ほどではないのだ。失敗しても仕方なかろう。ここは人生経験もそれなりにあって結婚経験のある私の出番だな」

「いつの間に帰ってきたリッチ。そして失敗した原因は確実に私のせいではない」

「骨が数本少し奥まで流されてしまった以外は復活は簡単だよ」

「便利な体ですね」

「…………もう少し…………強め?」

「出来たら散骨されるのはアレで最後にしてもらいたい」


                  閑話休題


「この(将来)大魔導師と呼ばれるリッチが見事に玖楼を絶望の底から引き上げて見せよう!」


作戦その2:リッチの秘策


 カタカタ骨の音を鳴らしながらチッリが骨しか存在しない胸を張って自慢げに宣言する。だがその存在自体に既に信用がないのかリタはリッチに疑いのまなざしを向ける。それを見て自分の信用のレベルの低さに気がついたのだろうか再びカタカタ笑い出す。

「は、は、は!このリッチには秘策がある!」

「「な、なんだってー(棒)」」

「いや、流石にそこまで期待されてないと思うと私でもいささか傷つくのだが。というよりも目立ったミスや失敗はしてないのに何故私がこんな扱いを受けるのだね」

 ナベリウスが一瞬考え込むような仕草を取ると頭を可愛く傾けながらリッチを見やり、

「………………若い…から?」

「まさか年齢を話しに出してくるとは私も予想できなかった」

「節穴ですね」

「目玉はないからな」

 骸骨ジョーク。

 そんなことよりも、とリッチがステッキを取り出す。とんとんと地面を叩き、魔方陣を砂地に描き始める。魔方陣を高速で砂地に描き終わると再びとんとんと叩く。一歩下がると輝く魔方陣から木材など様々な物資が現れる。それを眺めるとステッキを数振りし、木材を切り裂き細長い形へと変える。そこで三人を見渡すと、いいかね、と言葉を始める

「玖楼は―――釣り馬鹿だ」

 ふたたび、いいかね、と言葉を始める。

「玖楼は食事のためといって浅い階層の魔物を皆殺しにして釣り場を確保するほどの釣り馬鹿だ。そう、釣りをこよなく愛するのだ。ルアーと言う新しい釣り餌を用意させてまで釣りをしようとするほどの釣り馬鹿である。だからこそ!必然的に!玖楼をあそこから引っ張り出す方法は……釣りであると私は言おう!」

「「「おおおお!!!」」」

 今度は先ほどまでのような棒読みの様ないい方ではなく、ちゃんと驚きと感嘆の声が混じった声を挙げていた。テンションが上がってきたのかリッチの声も上がってき、そして行動も大振りになってゆく。

「玖楼だけではない!私も日々成長……いや、進化しているのだ!最初は完全には発音できなかった、玖楼の正しい名前の言い方も練習した今ではちゃんと言えるだけではなく、料理だって覚えたぞ!」

 実を言えば玖楼の名前に関しては冥き途の住人なら誰でもいえるようになっている。

「一度美味しいものを食べると中々忘れられませんよねー」

「そう!私!(将来の)大魔導師リッチは! 日々進化しているのだ! 玖楼のアイデアで始まった竿作りも最初は粗末だった! だがそれでも私は諦めなかった! 玖楼がでて行った後でも私は自分への鍛錬を怠らなかった!」

「負けず…………嫌いなだけ?」

「コレを見るがいい!」

 リッチがステッキを振るうと魔方陣から現れた材料がドンドンと勝手に加工されて行き、その姿かたちを変えてゆくと融合して行き一つの形へと、新たな釣竿へとその姿を変貌してゆく。マクレガーがボソっと努力の無駄遣いと呟くがハイテンションに入ったリッチにはそれも聞こえず、カタカタ笑い声を上げながら完成した釣竿を掲げる。

「見よ! これこそ一級の素材を使い完成したリッチスペシャルZX!」

「名前が激しくダサイです」

 リッチのテンションはこの時点で最高潮だった。脳みそなんてもう既にとうの前に腐ってなくなったが、それでも脳内麻薬が全力分泌されている状態に近かった。そのため、リッチの思考は現在進行形でやばかった。そう、そのためリッチは自らの言動の影響を殆ど考えずに喋ってしまった。

「成長や進化をやめた年寄りとは違う! 私はまだ若いのだ! 伸び幅はまだある!」

「……………………かっちーん」

「言ってはいけないことを言いましたね」

「さよなら友よ……」

「あ」

 リッチが自分の発言の軽率さに気づいた時には既に遅く、リタもナベリウスも準備万端だった。

「は、はは、話し合おうじゃない―――」

「死角の投槍」「ルカーナの轟炎」

作戦その2:リッチの秘策。アホな発言により自爆


                   ●


「……男達……使えない」

「……私の場合どちらかと言うと邪魔されたのだが」

「……あんなもので元気になるのなら………………もう既に元気」

「ふむ、そういうのならば、もちろん何か秘策があるのだろうね?」

「リッチ……生きてたのか」

「今度ばかりは流石に死者の門をくぐりかけた」

「人を年寄り扱いする骸骨よりは……いける」

「…………結構根に持つのだな」

「ぷん………ぷん」


作戦その3:ナベリウス式テンションの上げ方


 玖楼の家の前には大小さまざまな楽器が置かれていた。古今東西その種類は問わず、いろんな文化が入り乱れ混じる、小さな万国楽器博覧会な状況が出来上がっていた。その楽器群の前でナベリウスはケルベロスから降りた状態で胸を張りながらえっへんと言い、

「昔を……参考にする……ことはよくある…………こと」

「ほう」

「昔…………一人の神が死者の門を通って…………天岩戸でヒッキーを始めた」

 なんだかとんでもない話が始まった気がするが誰もつっこまない為にナベリウスのゆっくりとした口調での、玖楼を引き出す作戦の概要が説明される。

「引きこもったせいで世界が真っ暗になって…………皆困ってヤケになって……、お祭り初めてたら………………寂しそうなヒッキーが…………出てきて捕獲」

「……私の知っている神話と何かが違う。これは深く考えてしまったらダメなのか」

「だめ」

「了解した」

 リッチのような結末を迎えたくないがために自分を無理矢理納得させる。ナベリウスのほうも準備が完了したのか、太鼓っぽい楽器の前に立つと、リッチへと視線を向ける。

「眷属………………貸して」

「ふむ、コレだけいれば大丈夫かね?」

 一つの楽器に一体という配分でリッチが何体もの眷属を召喚し始める。リッチはまだ若いながら不死王と呼ばれるだけの死霊術師。必然的に召喚される眷属はゾンビやスケルトンしか存在せず楽器に死体が群がっている、そんな楽しいからはかけ離れた地獄絵図がこの時点で出来上がっているが誰もそれに突っ込みはしない。周りを見渡して満足いったのか、ナベリウスがこくこくと頷くと、ドラムスティックを手に取り構える。

「これから…………やるから…パターン覚えて。玖楼の記憶を見た時に…………一番印象が強かったの…………やる」

 言い終わってから一呼吸をおくと、小さな手で握ったドラムスティックで太鼓っぽい楽器を叩く。本来この大きさの人間なら1回で疲れ、手が痺れるものだが魔神であるナベリウスには関係なく、リズムよくどんどんどんと音を奏でてゆく。一ループし始めたところでリッチの眷属も覚えたのか、ナベリウスの作ったリズムに合わせて他の楽器を鳴らし始める。全ての楽器が演奏に混じり始めたところで、

「皆…………合わせて……言葉を言う」

「おぉ!歌詞が付いてるとかなんか本格的ですよ!」

「私にはどうも嫌な予感しかしないのだが」

 リタが手を休める事無く太鼓を叩き続けると、言葉を発し始める。

「…………ふんぐるい…………むぐるうなふ……くとぅぐ―――」

「「「アウトォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」

作戦その3:ナベリウス式テンションの上げ方。邪神降臨の危険性があったために強制終了


                   ●


「こうなったら、もはや最終手段しかありませんね……」

「最終」

「手……段?」


作戦その4:リタの最終手段


 玖楼の家の前にはリッチ、マクレガー、ナベリウスと揃っており、その前に立ちはだかるようにリタが立っていた。何時もは付いてくる魔槍も今ばかりは死者の門近くで寂しく浮かんでいる。うんうんとリタが頷くと、人差し指を上げ、それを三人へと見せ付ける。

「そう、玖楼が何故ここまで落ち込んでいる原因を改めて考えるのです」

「原因……」

「やっぱり…………女に逃げられたことか?」

「そう! そこです!」

 ビシ、っと正解を言い当てたマクレガーへと指の先を突きつけるとマクレガーの薄い本を取り出す。

「あ、私の秘蔵」

「そんなわけで」

 シュタ、っとリタが本を持った手とは逆の手を持ち上げ、『さらば』、とバックに見えてきそうなポーズをとる。

「―――私の体で前の女を忘れさせればいいと思いました」

「少し頭を冷やそうか、リタ君」

 即座にリッチの眷属が現れたリタを羽交い絞めにして玖楼の家の前から引っ張り降ろす。それに抵抗して眷属を物理的にちぎっては投げるのを繰り返すが眷属の召喚速度の方が速く、リタが完全に開放される前に四肢を拘束され、どんどんと現れてくる眷属の山に溺れてゆく。

「リタ………………勇者……っぽ」

「はいそこ、想像して顔を赤らめない」

「は、放してください! 私には! 私には玖楼を慰める仕事があるのです!」

「現実に帰ってくるんだリタ君! そんないかがわしい仕事はここにはない!」

作戦その4:リタの最終手段。色々間違っていると判断され中止。


                   ●


 結局、玖楼を元気付ける方法が4人には思いつけなかった。こうやって囲んで考えれば考えるほど、自分達が戦うこと以外は殆ど何も出来ないことに気づき、あまり気になりはしないが少し残念には思う。結局は、本人が自らの意思で出てきてくれる事を待つしかない。そう結論づいてしまった。

「はぁ……。結局、できることは少ないのですね」

「そうだろうな。我々のように人をやめてしまった者には分からない傷や痛みなのだろう、それは。だからこそ我々では力にはなれない。唯一心の支えとなっていた女性が去って行ったのではやはり辛かろう。せめて玖楼のような存在があと一人でもいれば、それだけでも心の支えになっただろう……」

「歯痒くは感じるが、信じるしかないのだろう」

「……今からでも遅くはないです。私が―――」

「それはもういい」

 こうやって4人で集まりやはり何か出来ないかと話しあっている中、家のある方角から久々に新しい音が聞こえてくる。それは木で出来ている床がきぃ、と重みで軋む音。ここ1週間、ベッドからまったくといっていいほど降りなかった玖楼の家から聞こえる、本当に珍しい音である。ゆっくりと、ゆっくりときぃ、きぃ、と音が小さく鳴りながらそれが近づいてくる。

 そう、扉の方へと近づいてくるのだ。

 それが聞こえた4人全員が声を殺し、視線を家の扉の方へと向ける。

 玖楼の家。それは玖楼がやってきた最初の数日でリッチに頼み作られた玖楼の冥き途での住処。最初は岩でできていた家だが、それでは住み辛いという話で木が手に入り次第すぐさま木の家へと変わり、それからは壊さないように大切に住んでいた玖楼の家。玖楼が冥き途を出た短い間でもちゃんと手入れをされて綺麗に保たれていた家。

 その扉がゆっくりとだが、開いた。

 まず最初に見えたのは手だった。それから腕、肩、顔と、そこから見える玖楼の姿は痩せていた。全体的に体の筋力が落ちているように姿が見え、そしてその姿からは病人を連想できた。今、この瞬間も、立っているのがまるで億劫そうに扉にしがみつきながら家の外へと出ようとしていた。

「あ」

 扉から手を放し前へと進もうとする。だが扉から離れて数歩で躓き……砂地に顔から倒れこむ。リタが助け起こそうと動こうとするが、それをナベリウスが手の動きで静止する。頭を横へふるふるとふり、リタへと見ているようにと視線で促すと再び玖楼へと視線を向ける。

「っ、っはぁ、っはぁ」

 玖楼は両手で体を地面から押し上げ、何とか再び立ち上がるとナベリウス達4人へと向けて歩き始める。歩くことを覚えたことばかりの子供のような遅い速度ではあるが、それでも一歩、一歩、確実に前進していた。砂地と浅い湖、その境へと到達しても躊躇する事無く足を入れて進もうとし……そして倒れる。

 だが立ち上がる。

 再び立ち上がるとずぶ濡れの全身を気にせずともゆっくりと4人へと近づいてゆく。その姿には鬼気迫るものを感じられた。だが誰も何も言わない。何もいえない。この玖楼には、この3週間前からの玖楼にはなかったものが今、存在していた。

 それは覇気。生きることへの渇望、圧倒的な生命力。

 その行動一つ一つからは死ねない、死にたくない、やることがある。そんなことを感じさせる必死さがあった。だからこそ、ナベリウスはリタを止めた。今玖楼を助けてはならない。この行動には意味がある。ただ吹っ切れただけではなく、玖楼は何かを見ている。

 一歩一歩、歩き辛い水の中を転びながら倒れながら滑りながら水底の砂に足を囚われながら、何度も何度も倒れようともその度に立ち上がって進み……そしてたどり着く。死者の門の前、2人の常識の外側(アウター)とその雛形。将来確実に常識の範疇を超えるであろう2人の前に。

 その前で跪くように倒れると、上半身だけを持ち上げて4人を暗闇の見上げた。

「リッチ、ナベリウス、リタ、マクレガー……!」

 4人の名前を確かめるように言うと、再び言った。

「頼む、自分を―――――――――殺してくれ」

後戻りすることの出来ない言葉を。




                             第一章 ~流れ着いた先に~ 完
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| 神殺しで戦女神な物語 | 13:42 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

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