陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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Ain

「―――貴女に恋をした」

 ニューロリンカーを使ってアクセスできる梅郷中学のローカルネットワークエリア。二つの黒い影がある。一つは美少女だ。美しい黒い髪に黒の服装、そして黒い蝶の翅。目の前の少女がまだ中学生だと信じる事は中々難しい。なぜなら彼女には普通の中学生には”熟成”された美しさが秘められている。それは成長と共に現れるもので、小娘に現れるものではない。だが現実として目の前の少女にそれは現れている。俊夫超えて現出した内面の美しさはどんな汚泥の中でも溶けず、輝き続ける。だからこそ美しい。その輝きはだれにも汚せない。その魂の輝きに恋をした。


「花よ、貴女に跪く事を許してほしい」

 黒の少女の前に跪くのはこれも黒の姿だが、こっちは全身をボロボロのマントに包み全身を隠いている。髪は統一性以前に整える様子もなく、勝手に伸びきった感じのある青髪で、その体の主の顔は―――まるで影がかかったかのように見る事が出来ない。ただ影法師は本気で愛の言葉を囁いているようで、少女の前で跪く姿に迷いはない。頭を下げて、少女の言葉を待っている。

 だが少女のリアクションは実に淡白なもので、

「またか、マーキュリ」

 跪く影法師―――ローカルネットワークにおいての通常アバター―――瑞星銀二のアバターの前で足を組むように椅子に座る。

「えぇ、またです、女神」

「いい加減私はこのやり取りに飽きてきた。行内では私が専属の奴隷を持っていると思われているぞ」

「それもまた私にとっては大いなる喜び。そんな形にせよ、貴女と共に居られる事が最大の幸福なのだよ」

「っふん」

 女神と呼ばれた少女は特に気にすることなく足を組み替え、目の前で跪く影法師にスカートの中を見られる事を考慮しない。そもそも、そういった事を気にするような人間ではない。目の前のこれはある意味で最も信頼と信用のおける人物だ。そう、目の前のこの存在は絶対に自分を裏切らない。その事に関しては絶対の信用が置ける。この男の介入があったからこそあの時、レッドライダーを殺した時に、他の王たちと戦い、生きて逃げる事が出来たのだ。

「お前の眼はいったい何を見ているのだ」

「―――貴女の幸福を」

 まるでオペラを見ているような言葉遣いに動きだ。酷く嘘くさく聞こえ、見える。だがこの男は偽りは言わない。そう、それだけは絶対なのだ。この男は嘘をつかない。否、影法師の言葉を借りるとすれば盟約として真実のみ語る事を義務付けられている、そう言うだろう。だからこの男は絶対に偽りを口にしないが―――真実も口にしない。それがこの男のやり口だ。真実しか言わないからこそ騙される。上方が正しいからそれを全てだと思ってしまい、結局は見当違いの方向へ向いてしまう。そして最終的にはこの男の掌で踊らされている事無く目的を達せられる。

 恐ろしい程に未来が見えている。全ての出来事を支配し、それが自分の有利になる様に操っているような錯覚がある。そう、全能の存在を前にするような感覚だ。だが―――それはありえない。そんな存在はありえない。だからこそ”女神”はこの男を完全に信用しないし信頼もしない。そして彼女の古い仲間たちもこの男を信用する事はない。

 この男に居場所はない。

「お前は―――」

 この男は自分の為に未来を創ると言った。そのために何かをしているのだろうし、それを追う事は出来ない。それは確実に自分の利となってくるのだろうが―――完全に従うのは気に障る。簡単に言えばムカつくのだ。そして確実にそういう感情でさえ手玉に取られている。

 少女の中で言い返してやりたい気持ちが増える。ここで言葉を選ぶとしたら、

「お前は、なぜリアルではああなのに、此処ではこうも神経が太くいられるのだ」

 どうだ、と少しだけ期待を込めた言葉であったが、

「女神よ」

 返答は早かった。

「アレはアレで。私は私だよ」

 その答えに少女は顔を歪める。

「それはどういう事だ?」

 影法師は立ち上がり、座る少女を見る。

「アレはアレであり、私は私である。さて、加速世界で我々はいったい何年過ごしてきたか。それは五年? 十年? いいえ、我々はもっと長い時間をあのもう一つの世界で過ごしているのだよ。そう、それこそ我々の肉体年齢を超す程度にはあの世界で過ごしている」

「ならお前は現実のお前が仮初だというのか」

 その言葉は聞き捨てならない。そう言おうとして、影法師の顔が笑みに歪んでいるのが解る。今のからかわれたのだ。

「いいや、違うのだよ。現実のアレは私であり、そしてこの場に私も私である。これが同一の精神より生まれた人格であり仮面でありそして外装であることに偽りはない。そう、アレも私も決して偽りではないのだよ、女神よ。現実の貴女がここの貴女と同じように美しいように、我々は現実仮想問わずに存在している。故に―――」

 一旦区切り、注目をさせられていると気づいた時には遅く、

「アレはアレで私は私だ。言い換えれば現実と仮想の使い分けだよ。良くある話だ。元々趣味でもなんでもなくて始めたそれがいつの間にか習慣として定着する事が」

「つまりお前の場合も―――」

「然り。現実のアレはアレで私だ。だだ長年こうやって続けてきた結果、悲しい事に定着してしまったのだよ、修復のできないレベルでね。すまない女神よ、どうやら私は貴女の期待に添える事が出来なかったようだ」

「―――蛇が」

 くつくつと蛇が笑い、

「予言しよう、女神よ」

「何をだ」

「貴女が中学二年の終わりを迎える間近で―――貴女は自分の後継者と相応しき少年を見出す。自分の先へと、更に加速できる翼を見つけられると。それを私から貴女への贈り物とさせてほしい。きっとその少年は貴女の心の闇を祓う。貴女の心を救う救世主となるだろう」

 今度こそ少女は驚く。

「私が? お前がではなくてか?」

「えぇ、貴女が見つけるのだ。これは予言だ。貴女は絶対に見つけ出し―――救われる」

「……」

「ありえないと? むしろ私が貴女を救うとでも? 私は幻想しないのだよ。現実を知っている。だから私が貴女の首飾りに相応しくないのは理解しているのだよ―――だから用意しよう」

 貴女に相応しい首飾りを。

 告げた瞬間影法師は消え、授業開始前のベルがローカルネット内で響く。あわただしく動き始める学生たちの声を聴きながら少女―――黒雪姫が呟く。

「蛇め」
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| 短編 | 20:54 | comments:6 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

いや、期待以上に面白くなりそうだ。
というよりも、既に面白い。

| 羽屯十一 | 2012/08/31 00:21 | URL |

水銀の話し方や言葉遣いは尋常でない知識と雑学が必須だと思われるが、このコミュ障はどこでそんな知識を身につけたのか。
にしてもこんなん我に返ったら悶絶ものだぞ。
女性に対して女神とか、素になったらしねる。

| sasa | 2012/08/31 00:59 | URL | ≫ EDIT

私の知ってるコミュ障と違うのだが。
水銀のロールは恐ろしく至難の業といえよう。

それをこなすこの主人公。
実は「断頭」の水銀の末裔とかいいませんよね・・・?

こちらの方もとても面白いです。執筆頑張ってください。

| 断章の接合者 | 2012/08/31 06:28 | URL | ≫ EDIT

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| | 2012/08/31 08:33 | |

ででーん
豚君が人形になりました
最大の嫌われ者が主役張るとか
予想外にも程がある

| ぜんら | 2012/08/31 09:01 | URL |

なにこれおもしろい
続きはよ

| モグラ | 2012/09/07 00:57 | URL | ≫ EDIT















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