陳情の先を行く部屋

基本的に二次創作を公開しているブログです。楽しく読んでいただければ幸いです。

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プロローグ ―――ウェルカム・リアリティ

 俺が生まれたのは―――兄が生まれてから五年後の事だ。

 母の話によると兄は幼い頃から大人しい、手のかからない子供だったらしい。必要最低限しか泣く事がなく、特に我侭を言う事もない。今ではありえないが大人しく本を読み、礼儀正しい子供だったらしい。五歳にまでなってもその態度は崩れないが幼馴染の綾瀬香純と遊ぶようになり、少しずつ活発になったらしい。そしてその頃に、俺が生まれたらしい。

 記憶している限り、小学生の頃の兄は至って普通だった。普通すぎて、特に気にすることなく普通の兄弟をやっていた。兄は香純の存在もあったおかげで少しずつ活発にはなったが、それでもクラスでちょっと話に交じったりするその程度だ。そんな兄の様子が変わり始めたのは小学校六年生の頃だ。今まで接点のなかった一人の男と出会う事で兄の様子は少しずつだが変わり始めた。


 遊佐司狼。

 初めて見た時からかなり破天荒な男だと思った。小学生なのにもうすでに髪を染めたりしていて、よく先生に怒られるって笑っていたのを思い出す。何やら司狼と兄は運命的なものを感じたのか、出会って以来二人に香純、そのトリオで行動することが多くなった。当時まだ幼かった俺はその様子を仲がいいな、とそんな程度にしか思わなかったが、もう少し慎重に見るべきだったのかもしれない。

 兄が中学校に入り、俺が小学二年生になった時、ついに兄が目覚めたと言うべきか、覚醒したと言うべきか。

 兄達の奇行が目立つようになった。

 兄達というが遊佐司狼と、そして兄の二人だけだ。香純はこの時いつもフォローとツッコミに回っていた。この頃は凄いというかなんというか、兄が参謀みたいなポジションで司狼に入れ知恵をし、それを司狼が実行するというスタンスで、

 学校のガラス粉砕。

 学校の庭で菜園を開始。

 カツラ疑惑のあった教師の髪を確かめてヅラじゃなかったのにキレてバリカンでハゲにした等と、兄と司狼は悪事に興じる日々を送っていた。司狼は完全にマークされ、兄は常にその影に隠れる形でいたためにうまく教師たちのマークから外れていた。狡賢い手段だと思う。

 この中学の頃に兄達は一つ年上の氷室玲愛と出会い、親交を持つようになった。近くの教会の神父とシスターに引き取られた孤児だったらしいが、エキセントリックすぎる発言と独特すぎるユーモアを発揮する姿からは姿からは、孤児だった事に由来する影は何も見えなかった。毎年クリスマスや大きなパーティーをやるときは教会の大部屋でやることが恒例となり始めたのもこの頃だった。

 そして兄達が高校に入ると、兄達の暴走はさらにひどくなる。兄と司狼が暴れ、香純がツッコミ、玲愛がそれを笑うという形になったが、兄達の”伝説”ともいえるべき所業は完全に学生の分を超えていた。自分も大分成長し、親から”あんな風になるなよ?”と言われ続けため、落ち着いた人間になったと思う。結果、兄達の奇行を客観的に見れるようになったが、やはり酷いとしか言いようがなかった。

 チンピラやヤクザに喧嘩を売ったり、

 童貞とか互いを罵った挙句風俗へ走って香純にガチギレされたり、

 退学確実な非合法な事に手を出していたり、

 兄も司狼も黒い噂が絶えない存在となっていた。この二人将来本当に大丈夫か、と疑っていた矢先、

 兄と司狼が殺し合った。

 喧嘩、と言うべきなのか正直今でも悩む。兄も、司狼もどちらも本気で互いを殺しにかかっていた。やることは互いの襟首を掴んで殴りあうだけだが、その殴り合いが異常だった。躊躇のない、傍目からは殺すつもりで拳を振るっていたようにしか思えなかった。殴るたびに血が飛び、少ししたら殴った指の骨が折れる音。そして、折れた骨が皮膚を突き抜ける光景。ここまで壮絶な喧嘩は映画を見ても中々ないと思う。何よりリアリティがあって、そして同時に夢のようでもあった。偶然見る事が出来たのを幸運と言うべきか不幸と言うべきか、あの壮絶な殴り合いは今でも脳裡に焼き付いている。

 退院するまでしばらくかかったが、退院する頃には司狼も兄もまた元の鞘に収まったようで仲が良かった。ついでに本城恵梨依なんて病院の持ち主の娘まで仲間に引き入れて、さらに騒がしくなった。また、破天荒な日常が続くのか。中学二年生への進級間近になりながらもそんな事を考えていると、兄達が高校を卒業し、社会に出る年齢になった。

 大学に進学することを期待していた両親は兄が受験に失敗した事を悲しみ、怒っていた。ただ怒っていたと言っても怒鳴ったりするような度の過ぎたようなのではなく、入れ込みすぎているネットゲームを咎め、そして中学高校と少し遊びすぎで不勉強ではなかったのか、とそういう事に関しての咎めだった。何も言い返せない兄は困った様子だったが、家に負担をかけたくないと言って家を出て、外で生活を始めた。

 高校に入学した頃、兄は二十歳を迎えて成人していた。

 そして、

 ―――俺達家族の人生で最も忌むべき存在、≪ソードアート・オンライン≫が販売された。

 電話で兄と話した時、ベータテストの状況を楽しそうに語っていたためにゲーム開始前はそこまで悪い印象はなかった。バイトを早く上がり、最近少し付き合いが悪くなったとか司狼が愚痴っていたのを思い出す。今までが少々激しすぎたから個人的にはまた落ち着いた兄に戻ってきたようで嬉しい部分もあった。そんな事もあって社会人になりつつある兄に高校に入学してから逢いに行ったとき、

 不思議と、違和感を感じた。

 それは兄がソードアート・オンラインを遊ぶ様子がどこか、少しだけ一般的なゲームを遊ぶ様子と違っていたからだ。楽しんでいるには楽しんでいる。それは言葉からも受け取れるし様子もそうだが、もっと直感的な部分で―――惹かれている。そう、見えない引力に引っ張られている様に見えた。もしかして以前からネットゲームに没頭していたのは、ソードアート・オンラインの為ではないのか。ソードアート・オンラインで遊ぶ準備として、VR世界に慣れる。そのためにゲームをしていたのではないか。そういう考えが浮かび、少し恐怖を感じる。

 だが結局兄は何も理解してない様子だし、気づいていない様子だった。だから一人暮らしの兄の好きにさせようとした矢先に、

 茅場晶彦によるSAOのデスゲーム宣言がなされた。

 テレビをジャックして行われた茅場晶彦の演説に、母はテレビの前で崩れ落ち、父は会社を休んでタクシーで帰ってきた。

 そして俺は誰よりも早く兄の所へ向かうべく、なけなしの小遣いを使って兄の住む部屋へと直行した。SAOには兄も確実に接続している。電話しても出なかった。もし誰かが勝手にナーヴギアを兄からとってしまえばその時点で兄は―――

 ―――最悪を回避するために必死に兄の部屋へと向かった。兄の部屋に到着する頃にはスマートフォンを通して見れた茅場晶彦のデスゲーム宣言も終了し、ネットの掲示板でSAOに関する記事が荒れるように乱立している。到着した部屋の扉は大きく開け放たれていた。

 そこにいたのは司狼だった。

 悲しそうな顔も、怒りに震える様子も見せず、その時言った司狼の言葉を覚えている。

『―――俺を置いて行きやがった! 一人で楽しみやがって、俺も買っておくんだったな』

 酷く羨ましそうな声だった。

 そう言ってタバコを銜えようとした司狼の顔面を全力で殴った。もちろん避けられた。人生で一度も喧嘩した事のない高校生が、この辺りのチンピラの親玉に勝てるわけがない。カウンターに一発くらい、それだけで撃沈した。これを何発くらっても、立っていた兄は凄いなぁ……等と思っていると、じゃあな、と挨拶だけされた。

 遊佐司狼はそれから一年と半年、姿を消す。

 兄がソードアート・オンライン、剣の世界に囚われた結果、色々と終わってしまった気がする。

 司狼は失踪して、香純は兄を助ける方法を探すと言って夢だった教師の道を捨てて脳の勉強を始めて、玲愛は一日のほとんどを教会の中で過ごすようになった。香純も玲愛も逢いに行けばいつも通りあってくれるだろう―――だが、昔と一緒ではない。

 あの頃、馬鹿をやっていた兄達のつながりは儚くも脆く崩れ去ってしまった。

 政府の手によって病院に運び込まれた兄の体だが、アーガスのおかげで健康状態を維持するお金はある。が、それも永遠に続くわけではない。だが幸いだったのが政府から追加のお金をもらえた事だった。政府の話によると介入は無理だが、ある程度だったら見る事は出来るそうで、活躍するプレイヤーの内の一人が兄だと聞かされて驚いた。

 兄が生きる事を放棄しなかった事が嬉しかった。意欲的に攻略を目指す人間がいて、その一人が兄だという事が嬉しかった。ふとそこで気になったのが、兄の見ている景色だった。

 兄はあの仮想の世界でいったい何を見ているのだろうか。

 ナーヴギアがすべて回収されてしまって、もうVRMMORPGが出るのは不可能とさえ言われてしまった。だから兄の見ている風景を知る術はない。兄が戻ってくる日を祈りつつ高校生活を満喫する日々が一年と半年程続き、

 ナーブギアの後続機、アミュスフィアが発売され、新作VRMMORPG―――≪アルヴヘイム・オンライン≫が発売された。ナーヴギアの後続機という事もあってナーヴギアにあった多くの問題を解決し、発売されたアミュスフィア、そしてアルヴヘイム・オンライン、通称ALOは爆発的なヒットを見せた。何よりも”空を飛ぶ”魅力が抗いがたかった為だ。

 そして、また俺も、兄が見ていた光景が見たくなってALOとアミュスフィアを購入した人間だった。初めはもちろん両親に止められた。兄は眠ったまま、まだ起きないのだ。それでもあの仮想世界を見たくて、足りないお金をどうにか集めようとしたところで、

 再び司狼が現れた。

 ポン、と軽くアミュスフィアの購入に必要な十数万円とALO購入に必要な数万円をだし、これで好きにやれって言った時の衝撃もやはり忘れられない。

『これが俺の攻略法だ。先行投資ってやつだ。受け取れよ』

 解らない。兄も司狼も、あの学生の頃に、必死に何かと戦っていた。そしてそれで意見が割れたから殴りあって、また、手を取り合った事は解っている。だがその“何か”がまるで理解できない。ただ司狼は一人になってもまだそれと戦っているようだった。そして俺にアミュスフィアとALOを与える事こそがそれに対する攻略法だと。だけど、

 これで兄と同じ景色を見る事ができる。

 SAOではないけれど、発展型のVRギアで、VR世界に立つ事ができる。その殊に興奮を感じていた。

 そしてALOのリリースからしばらくして、

 デスゲーム、ソードアート・オンラインはクリアされた。

 まだ時間がかかると予想されていたゲームのクリアはゲーム内にいた茅場晶彦の存在を見つけ出し、それを討った事で終了した。まさに英雄的行動だ。名前が伏せられているために誰かは解らないが、茅場晶彦を倒したプレイヤーは間違いなく救世主と呼べるだろう。これで兄が帰ってくると手放しで喜んだのも束の間の出来事だった。

 兄は帰ってきた。

 しかし兄は何にも反応しなかった。

 無気力症候群とも言うべきか、無関心、無感情、無気力。兄の様子には生気といえるものが一切存在しなかった。死んでいないだけで、生きているとも呼べない。それが兄の様子だった。食べるし、排泄もする。だがそれ以外には全く反応を示さない。デスゲームは終了したのに、なのに兄は帰ってこなかった。やっと、二年かけて帰ってきたと思って……兄は本当の意味では帰ってこなかった。その魂は未だにあのデスゲームに囚われていた。

 医者はストレスとも、精神的な傷―――つまりはトラウマがあの世界の中で出来たに違いないと言う。介護が必要必要となった兄だが、何時までも病院に置いておくことは金銭的な余裕からできない。SAOが終了し、アーガスからもらったお金も支援もなくなった今、自腹で兄の面倒を見ないといけないのは中々にキツイ話だった。

 だからこそ、教会から面倒を見ると言われた時には家族としてはありがたかった。

 玲愛が教会でなら場所も、そういうのにも慣れているから任せろと言った時は断ろうと思った―――が、妙に逆らえないトリファの言葉に丸め込まれるように了承してしまい、それ以上何も言えずに預けた。預けてしまった。

 これで良かったのか、と、問う事はあっても実際助かっているのでそれ以上は何も言えないし、預けることを了承してしまったからにはもう撤回できない。何とかして兄の目を再び現実に向けさせたい。そう願って毎日通い、毎日話しかけても一向に成果は生まれず、ただ時間が過ぎる。

 結局、そうやって新年を迎えてしまった。

 どうすれば助けられるか。そう悩んでいたところで、

 ―――初めて聞く名の人物から一通のメールが届く。

 メールの送り主の欄には、≪キリト≫と書かれていた。
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| 断頭の剣鬼 | 14:47 | comments:3 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

やっべぇキリトさんからメールとか…先が楽しみすぎる。
外伝も面白いし本編の方も先が楽しみでワクワクが止まらない。
というかマサキやっぱいい子だなぁ。

| ろくぞー | 2012/08/27 15:17 | URL |

やっぱりなろう時代とは展開が大分違うなあ……。
あっちも好きだったが、先が楽しみすぎる。

| 空 | 2012/08/27 19:52 | URL |

いよいよ、ALO編開始ですね。
しかしキリトからのメールが開始の合図ですか。

・・・あり?
そーいや、にじふぁんのときは普通に大学生やってたよな・・・?

やっぱりにじふぁんとは違う展開の世界なのですね。
これも全て第四天の、永劫回帰の法則が原因ですか・・・。

これまでとはあちこち展開が違うので続きが気になって仕方ありません。執筆頑張ってください。続きを楽しみにして待ってます。

| 断章の接合者 | 2012/08/27 23:44 | URL | ≫ EDIT















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